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10.闇の中の一筋の光

お待たせいたしました!

 フラフラと歩く私はそのまま彼らが乗っていたと思われる幌馬車に案内された。


 さっき声をかけてきた人たちは「医療箱持ってきます!」とか「毛布でも持ってくる。」、「食べ物もらってくるわ!」と見事な連携プレーで慌てて去っていった。


 なので、今は最初に声をかけてきた男性と2人だ。


「はぁ〜、あいつら......すまないな。騒がしくて。」

「......」


 何も言わない私を見ると、私がけがを痛がっていると思ったのか、今度はけがの方へと意識が向いたようだった。


「大丈夫か?......痛むんなら横になっていた方がいいぞ?......っていうかいつまでフードをかぶっているんだよ......っつ!?」


 フードに手が伸びてきた瞬間、反射的に右手でフードをつかみ、左手で手を払った。自分でもどこにそんな力があったのかと思うほどだった。


「......ごめんなさい。」


 この人たちと敵対する気はないので、素直に謝った。が、私の警戒心に怪訝な思いを抱いただろう。


 ここから出ていく方がいいかもな......


 さっきまではこの一団にくっついて逃げることも考えていた。


 私の心もだいぶ弱っているんだな......


 普段の私なら、相手に迷惑をかけるような選択はしないはずだ。それなのに今こうしてここから逃げないのは、単純に体が動かないということももちろんあるが、もうゆっくり休みたいという気持ちが大きいことを表している。 


 また黙り込んでしまった私を気まずげに見ると、


「いや、今のは俺が悪かった。こんなところに少年一人でいる時点で訳アリって感じだもんな。......でも気にすんな。命の恩人に危害を加えたりはしないからよ!」


 そういってくれたことに、私は少しだけ安堵し、細い笑みを浮かべた。相手は私の口元あたりしか見えていないが、私のゆるんだ口元を見て、相手も安堵したようだ。

 そして、ふと何かを思い出したかのように訪ねてきた。


「そういや、名前きいてなかったな......俺はサイラス。ヘルメーシア商会の商人だ。よろしく!」


 急に自己紹介をされ、私も自己紹介をする流れに、戸惑った。


 本名は絶対に言えないから.......

 もう覚悟を決めていうしかない!


 心の中で静かに決意を固めてこういった。


「僕は......セシル。よろしく。」


 もう少年ということを貫くことにして、名前もそれらしくした。


 言ってしまったからには後戻りできない。もし、少女だとばれてしまえば最悪正体がばれることになるだろうし、そうでなくともだましたことに怒って仲は壊れてしまうに違いない。


 これからは少年として......『セシル』として、生きていこうーーー




 さっき去っていった3人の内の1人が戻ってきた。


「薬や毛布持ってきましたよ!2人は傭兵さんたちの方へ行きました。」

「ああ、わかった......セシル、こいつはウェズだ。あと仲間が二人いるがまたあとで紹介しよう。」


 ウェズはオレンジ色の髪に水色の目をした少年だ。おそらく私よりも年下なのではないだろうか?

 影の下にいる私のような存在には太陽のような容姿の彼は私にはまぶしい存在だと思った。


 ウェズは私を興味深そうに見てきて、


「へえ~、君、セシルっていうんだ......改めて僕はウェズ、よろしくね。」

「......よろしく。」

「フードとらないの?」


 同じくだりになり、びくっとしたがサイラスがフォローしてくれた。


「脱ぎたくないんだと。まあ、あまり突っ込んでやんな。」


 ウェズは、ふーん、と大して興味のなさそうに持ってきたものを広げ始めた。


「え~と、毛布はここに敷くから、治療が終わったらここで横になるといいよ。っと、じゃあ薬塗るよ?じゃあ、足から塗るからね?」


 ちなみに今は王都で買ったスカートは履いていない。というのも剣をふるうのにスカートは邪魔だったので激しく動いても大丈夫なようにはいていたズボンだけとなっていた(決して下着ではありません)。トップスはさすがにそのままだが、リボンはとってあるし、男性が着ていてもおかしくないものなので、服から女だとばれることはない。


 ウェズが私の足を持って、マントで隠れていた私の足を見ると、「ええっ!」と急に声を上げた。ウェズの視線の先にある自分の足を私も見ると納得傷が無数にあった。


 そういえば、全然傷を見ていなかったな......なんか見たら痛みがひどくなってきた気がする......


 ジンジンと痛みがひどくなってきた傷に顔をしかめていると、「これはひどいな......」という声がサイラスから降ってきた。


「傷がたくさんあるとは思っていたがこれはさすがに......」


 と、ショックで言葉に表現できないのか口ごもってしまった。


「......とにかく今は治療が最優先だ。事情は後で聞くことにしよう。」


 しばらく無言だったウェズは、細かいことは後に回すことに決めたようだ。


 さっと慣れた手つきで塗り薬をつけた。


「っつつ!」


 覚悟はしていたが、とてつもなく痛む。塩を塗られているように痛い。


「でも、ほとんど浅い傷でよかったよ。深かったら死んでいてもおかしくない。」


 そんな言葉をウェズは言っているが、私には何を言っているのかわからないくらい痛みと戦っていた。ようやく両足が終わった時には、はぁ、はぁと息絶え絶えという感じだった。


「やっと両足が終わったよ......どんだけ傷があるんだろ?この分じゃ足だけじゃないんでしょ?」


 その通りだ。腕や胴にも同じような傷があるのだ。終わったという達成感があったのに、まだ終わらないという絶望感に埋め尽くされた。


「腕も塗るよ?」


 短くそう言って腕も塗り始める。


「はあ、ちょっと疲れた......」


 腕を塗り終えたときには私だけでなくウェズまでもが少し疲れた表情になっていた。


「次は、背中とおなかのあたりだけかな......」


 つぶやくように言うとブラウスに手を伸ばしたが、私は痛みに悶えながらも抵抗した。


「い、いや。自分で、やるから、薬だけ、もらえますか?」

「はあ?」

「み、見られたく、ないんです。その......昔の、ふ、古傷が、おなかにあって。」


 必死に言葉を紡ぐと、二人とも納得したようだった。


「まあ、そういう人もいるよな。」

「そうだね、でもそれなら、背中はいいでしょ?要は前を見なければいいんだから。背中は一人じゃ塗りずらいし。」


 ......確かにそうだ。

 だけど、何かの拍子で胸が見えてしまったら......と考えてしまう。


 う~んと悩むが結局、


「......お願いします。」


 すごく不本意ながらも頼むことにした。


 背中があらわになると、急に羞恥心が出てきてしまった。


 よく考えたら、ほとんど体を見られてしまっているという状況にいまさらながら気づいてしまった。


 これ、緊急事態じゃなければ、不敬罪で捕らえられても仕方がないんじゃない?とか考えて、必死に羞恥心を忘れようとした(......が無理だった)。


「はい、これで一応終了。あとでこれ塗ってね。」


 瓶に入った薬と包帯を受け取ると、ようやく何も起こらなかったことに安堵できた。


 治療が終了したところで、2人の人物がやってきた。


「治療は済んだみたいだな。」

「これで一安心ね。」

「ああ、とりあえずは大丈夫そうだ。そっちはどうだ?」

「傭兵さんたちは怪我をしている人はほとんどいないわ。あってもかすり傷くらいかな。」

「それで?そっちの子を紹介してくれないか?」

「ああ......セシルこっちの無愛想な男はガイアで、隣にいるのがステラさん。二人は夫婦だ......で、この少年はセシル。まあ、仲良くしようぜ。」


 サイラスが大雑把に紹介してくれた。私は無表情で聞いていたが、ガイアは不満そうに、ステラはクスクスと笑っている。


「無愛想は余計だ......はじめまして、ガイアだ。さっきは助かった。礼を言う。」

「ステラよ。さっきは本当にありがとう。けがは大丈夫?」

「はい......」


 ガイアは黒の髪に紺色の目をした、サイラスのいうように不愛想にも見える男性だ。

 ステラはそんな彼を明るく照らすような金髪に、黄緑色の目をした女性だ。


 次から次へとやってくる人に、失礼だとは思うが、疲れのせいか満足に思考が働かなかった。それを鋭く察知したのか、ガイアが言った。


「今日はもうゆっくり休んだ方がいいだろう。話はまた明日だ。」


 まだ昼頃だったが、休まなければいけないことは自分がよくわかっていたので、休ませてもらうことにした。


 ゆっくり休んでね~、と去っていく彼らを見送ると急に静かになった気がした。


 さてっと、無防備ではあるが休まなければ。


 貸してもらった毛布の一つを床に敷き、もう一つを自分にかける。


 すうーっと意識が遠のいていった。途中まではうとうとしながらも万一に添えてあたりを警戒していようとしたが、お嬢様育ちの私にそんな器用な芸当ができるはずもなく、なすすべもなく沈んでいった。




ありがとうございました!


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