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9.ゼロの私

お待たせいたしました!

予告通り本日から2章に入ります!


ブックマーク登録が2件とあり、すごくうれしかったです!登録してくださった方、ありがとうございます。



それではどうぞ!


改)サイラスの容姿の描写を追加しました。

 木々は青々と生い茂り、ふさふさと揺れる木の葉の隙間からきらきらと光が地面を照らしている。ちゅんちゅんと小鳥たちの元気な鳴き声も聞こえてくる。


 そんな森の生き物たちはまるで、倒れている少女に「早く起きて」というように聞こえるーーー




 んん、ここは......

 そうか、私、国から逃げてきたんだった。


 私が目覚めたところはフォルトゥーナ王国王都イスティール近くの森だった。


 とにかく体を起こすべく身体を動かしてみる。


「ぐぅっ!」


 昨夜は意識ていなかった無数の切り傷が鋭い痛みを発する。

 しかし、体を起こさないことには何も始まらないので我慢して無理やり立った。


 逃げられた......といってもいつ追手が来るかわからないんだから。早く身を隠さないと......


 だがその前にまずは食料を探さないと。


 言わずもがなであるが食べるものはおろか水すら持っていない状況だ。

 敵にやられる前に飢えでやられるなんて笑い話にもならない。


 足場の悪い道を歩き、水を求めてさまようと、僅かながらに水の流れる音が聞こえた。

 見失わないように耳を澄ましてさらに進むと、小さな小川にたどり着いた。


 もう我慢できず、誰も見ていないことをいいことに普段からは考えられないほど、下品に飲んでしまったが、もうそんなことはどうでもよかった。


 ......だってもう、私は王女では、ないのだから。

 私らしくないな……そんな自虐的なことを考えるなんて。


 水を飲んで一息つくと、いろいろなことが頭に浮かんでくる。


 あの日の夜のことは鮮明に覚えている。この先一生忘れることはないだろう。


 三国会議へと旅立ったお父様、お母様......

 王都は遊びに行く私を笑顔で送り出してくれたお兄様......

 王女とは知らず、一人の女の子として接してくれるジョゼフやミラさん......

 身分社会の中で唯一安心して話せるロザリアとエリーナ......


 そして......

 私を庇って矢を受けたアリアナ......

 私を逃がすために自分の身を犠牲にしたルイス......


 私にはもう、何もない......


 みんな......会いたいよぉ......


 この時初めて大声をあげて泣き崩れたーーー




 キーン! ガシャーン!

 ああ、またこの音だ。私は幻聴を聞いているのだろうか......?

 けれど、なかなか音はやまない。


 いつまで続くんだろう?そう思っていると、今度は「ぐああっ!」と悲鳴のような声が聞こえ、反射的にパッとその方向へと足を向けた。

 本当はおとなしくこの場でじっとしているのが正解なのだろう。だが、この時の私はじっとしてはいられなかった。


 重い体を必死に動かしていくと小川からそれほど遠くないところにたどり着いた。そこは馬車などが通る道だった。


 こんな人がよく通るようなところのそばにいたとは......歩き回るうちに近づいてしまったのだろう。もし敵と遭遇していたらと思うとゾッとする。


 木の陰に隠れて様子をうかがうと、そこには商人の一行であろう一団と、それを襲う盗賊の姿だがあった。


 すぐに駆け出したい気持ちを抑えて、一旦冷静になろう......さっき思いっきり泣いたせいか、思ったより気持ちは安定している。


 流石にここは考えなしには突っ込めない。問題が多すぎる。まず、王女だとすぐにばれるだろう。白菫色の髪で、赤い目を持ち、森を傷だらけの体で歩いている少女など、あまりにも目立ちすぎる。


 それに武器がない。体術も多少は学んでいるが、それではこの傷だらけの体で戦うのは無理がありすぎる。


 あまり時間はない、早く助けないと......


 どうしても人が倒れている姿を見ると、アリアナやルイスの姿に重ねてしまうのだ。

 見て見ぬふり、という選択肢は私の中にはなかった......




「オラオラアァー!さっさと出せ!命が惜しかったらな!」

「そんなに怒鳴ってやんなよ~、ビビッてちびっちまうんじゃねえか~」

「そうっすね~兄貴!」

「ギャハハハーーーっギャアー!」


 おしゃべりに夢中で全然あたりを気にしていない様子盗賊の頭をめがけて先程拾った木の枝で思いっきり殴った。


 盗賊の一人から奪うことも考えたが、拾う間に襲われたり、真剣の重さに体がついていかない可能性を考慮して諦めた。

 代わりといってはお粗末かもしれないが、それでも訓練もろくに受けていない盗賊には十分だ。


「テ、テメェ!どこから来やがっっっアガァ!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!金ならいく......グハッ!」

「ひいっ!助け......っっ!」


 化け物、悪魔、死神......などと聞こえるが、私にはどの声も響かなかった。


 ......はじめて人を殺した昨日、その時も躊躇いなく殺れた私は可笑しいのだと自分でも思う。

 それに比べて盗賊たちは、剣で人を傷つけてはいるものの殺してまではいないのだから。


 さぞかし盗賊たちには恐ろしく見えただろう。それに今の私はイスリールで買ったフード付きマントで顔を隠している。

 それがさらに不気味さを引き立たせていた。


 っと、余計なことを考えている暇はないわね。


 やらなければやられるということを理解したのか、最初は突っ立ていただけだった盗賊たちが次々と手に武器を持った。


「う、うわああぁぁーーー!」


 木の枝で真剣を受けられるわけがないので、今までかわしてきたが、体も限界に近づいており、思わず受けてしまった。


 ヤバい!......そう思った時には遅かった。


 バキッ!と音と共に枝は真っ二つになり、全身に痺れが走る。


 思わず手を離しそうになるが、必死に手に力を入れる。


 枝を切った盗賊が、勝てるとでも思ったのか、ニヤッと笑った......が、それは間違いだ。


 二本になった枝をそれぞれ両手に持ち、油断しているところに潜り込む。

 脇腹のあたりに狙いを定めてぐっと力を込めると、何の抵抗もなく倒れてくれた。


 あともうひと踏ん張り、と思ったところで盗賊たちはまだ人数的には大きく差があるにも関わらず、恐怖がピークに達したのか撤退していった。ほんとうなら追いかけべきだが、そんな余裕は明らかにないので諦めた。


 一息つきたくなったがそうもいかない。逃げなければ.......盗賊からでなく、商人の一団から。命の恩人だからと言って、私の正体を知って必ず黙っていてくれるという保証はどこにもない。最悪捕らえられてしまう可能性だってあるのだから。


 盗賊たちと戦った時につけられたであろう剣で切られて血を流している人がいるのは気がかりだが、立つことができているので問題ないだろう。そう結論付けてさっと立ち去ろうとしたが、それよりさきに一人が我に返ってしまった。


「ちょ、ちょっと、少年!」


 ......少年?突然意味不明な言葉を投げかけられて、思わず相手の方を見てしまった。


「君、誰だ!?いや、それよりも助けてくれてありがとう、助かった。」


 相手の文脈から『少年』とはどうやら私のことを指しているらしい。


 まあ無理もないかな......


 今の私はフードを深くかぶっているため顔は見えていないはずであり、盗賊を撃退する剣のうでの持ち主など女ではなく男と考えるのが自然だろう。


 少し複雑な心境になるが、今は好都合だ。少年と思われているなら、あえて否定しない方がいいだろう。男のほうが何かと都合がいい。


「いや、気にしないでください。では、わた……僕はもう行きます。」


 お礼を言われているのに何も言わずに去るのは失礼かと思い、簡素に返事をして、早く立ち去ろうとしたが、ふらっとよろめいてしまう。

 まずいな......やはり激しく動きすぎたのかな。


「大丈夫か!?........ってその傷......早く手当しないと!」


 駆け寄ってきた商人と思われる、茶色の髪に黒緑色の目をした男性が、遠目からでは気づかれなかった昨夜の傷による出血をみて、悲鳴のような声を上げる。

 そして、私の手をつかんで馬車の方へと連れていく。


 私に構うな!とか大した傷じゃない!と言いたかったが、そんな気力すら私にはなかった。


 結局仲間の元へと連れていかれ、「さっきは助かったよ!」とか「ありがとう!」、「傷は痛むか!?」など声をかけてくれるが、頭にはいってこなかった。




 このときはただ単に、彼らが本当の私を知った時の私の未来に戦々恐々としていたーーー




ありがとうございました!

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