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裏舞台2 王子として sideルウェリンレイ

予告通り今回はルウェリンレイ王子視点でお送りいたします!

今回も少し長めです。


どうぞお楽しみください!

 大きな部屋の中に書類があちらこちらに積み重なり、インクのにおいが充満する部屋で、私は一人必死に手を動かしていた。


 カリカリというペンの音がかれこれ五時間近く続いて響いている。


 コンコンとドアを叩く音がして、顔をあげる。


「王子、トリスタンです。」

「入れ。」


 扉から現れたのは私の従者であるトリスタンだ。


「まだやっていたんですか。そろそろ休憩にしたらどうです?体壊しますよ。」

「あと少しで終わらせる......ああ、これはもう終わったから片付けておいてくれ。」


 今は少しでも早く片付けておいてしまいたい。父上や母上に王宮を任されたのだから、しっかりと代理を務めなければ......

 そのためにも、休憩する時間も惜しい。もくもくと腕を動かし続けていると、はあ~とため息が聞こえてペンを取り上げられた。


「おい......」

「いったん休憩にしますよ。昼食にほとんど手をつけなかったのですから、少しぐらい休憩しないと倒れますよ。そうなったら、私が叱られてしまいます。」

「だが......」

「それにしても、どうしてこんなに急いで終わらせる必要があるんですか?」


 私が口をはさむ間もなく、言葉を畳みかけらた。出会った頃はもっと私を尊重していてくれたのに、いつの間にか口うるさい家臣に成長してしまったな......これではどちらが主かわからないではないか。


「セレネのためだ。せっかく友人たちと出かけているのだから、今日ぐらいは仕事のことは忘れもらいたいんだ......帰ってきたら仕事なんてかわいそうだろう?」

「......ほんとに王女のことを気にかけておいでですね。」

「妹なのだから当然だろう?」


 妹のことをかわいがらない兄は果たしているのだろうか?そんなろくでなしがいるのなら、ぜひとも教えてほしいぐらいだな。


「王子の場合は『気に掛ける』という言葉の域では収まらない気がいたしますが.....」


 と。その時、扉を叩く音がまた聞こえた。だが、トリスタンが来た時のようにコンコンという軽い音ではなく、ドンドン!とまるで扉を壊さんとするばかりに叩いた音だった。

 それを聞いた私たちには緊張が走る。


 こんなに慌てて......何か非常事態が起こったのか?


 入るように指示を出すと、現れたのは制服からして医師とみられる少年のような青年だった。

 なぜここへ?と訝しげにみていると、慌てた様子で話し始めた。


「し、失礼いたします!俺は......私は医師見習いをしてます、ミリウスです!王子殿下におかれましてはご機嫌麗しく......」

「挨拶はいい。医師見習いのお前が来ることになるほどの緊急事態なのだろう?要件を話せ。」


 普段は医師......ましてや見習いが王族の部屋に来ることはこちらが呼ばない限りなったにないことなのだ。


「は、はい!実は......」


 昼頃から急に体調を崩す人が出始めたらしい。最初は食あたりにでもあったのかと大事には考えていなかったらしい。だが......


「ですが、時間がたつごとに増えていく患者にさすがにおかしいと思い始めたのです。」


 それも、貴族から使用人まで、関係なく、だ。

 原因が食物ならそれぞれ食事がばらばらな人たちが一緒に倒れるなど、普通に考えてあり得ない。


「くそっ!原因や治療法は分かったのか!?」

「申し訳ありません!現在医師たち総出で調べていますが、人手が足りず、難航しています。」


 こんなときに......最悪だ。


「ならば、私も出向こう!少しは力になれるかもしれない......」

「危険です!万が一殿下に移ったら......殿下!?」


 部屋を出ようと一歩踏み出したとき、一瞬めまいがして、机にバンッと手をついた。その拍子に机に置いてあった書類がパラパラと落ちた。


「大丈夫ですか!?」


 すぐに二人が駆け寄ってくる。


「ああ、大丈夫だ.....なんともない。」


 一瞬ふらっとしたが、もう収まった。が、いつもより体調がすぐれない気がする......


「す、すぐに医師を呼んできます!」


 と、ミリウスが出ていったと思ったら、騎士が一人部屋に入ってきた。ノックもせずに。


「大変です!!アガートラームが攻めてきました!もう王都外壁に来ています!」

「なんだと!?」


 突然の患者増加に、アガートラーム王国の侵攻......

 この二つが同じタイミングで偶然に起こるはずがない。だとすれば......


「王宮の守りを薄くしてでも、騎士を外壁門へ向かわせろ!」

「それが、騎士団のほとんどが倒れてしまい、壊滅状態です!」


 考えていた最悪の展開だ......

 こうなれば、私が出るしかないか......セレネに王宮を任せて......


「そうだ!セレネは無事か!?今どこにいる!?」

「......王女殿下は、目撃情報によると、外壁門へと向かわれたそうです......」


 .......セレネらしい行動だな。

 となればセレネは......もう敵の手に......


 思わず沈黙してしまった私をみて、意を決したように騎士が言った。


「殿下......お逃げください。もうここも陥落してしまうでしょう。」

「っ!」

「殿下もすでにおわかりのはずです......この国の未来を......」


 だが、そう簡単に王宮を、国を置いて逃げられる立場にいない。父上と母上......国王夫妻に王宮を任されたのだから。例え敵に捕まったとしても、はいどうぞ、なんて口が裂けてもできないのだ。


「......殿下、逃げましょう。ここは危険です......」

「トリスタン!?お前まで何を言っている!」


 今まで黙っていたトリスタンも逃げることに賛同した。

 今私がすべきことはここに残り、最後まで戦うことのはず。それは今まで私の進む道を正してきたトリスタンが一番よくわかっているはず。


「彼のいうことが本当ならば、王女が無事に帰還することは望めません......あなただけでも生き残り、この国を、フォルトゥーナ王国を復興するのです。それが今できる最善の行動だと、私は判断しました......言い争っている時間はありません。さあ、急ぎましょう。」


 そう言って、暖炉の隠し扉を開けた。

 私はセレネのように戦うことはおろか、国のために身を捧げることもできないのか......


 わかっている、自分が生き残らなければならないことは。それでも自分が何もできないなんて......王子失格だ......


 だが、こうして葛藤する時間はない。自分の感情に蓋をし、この国の未来のために今私ができることを自分でも今一度考える......


「......わかった。行くぞ。」


 短くそう言い捨ててトリスタンが開けた隠し扉へ向かう。


「私はここへ残り、少しでも時間を稼ぎます。殿下はトリスタン様と先に行ってください。」


 ......すまない。お前を見捨てることになってしまって。そう心の中でつぶやいた。あの騎士のためにも今余計なことを考えるな.......そう自分に言い聞かせながら、真っ暗な闇の中へと足を踏み入れた。




 長年使われていなかったためか、汚れがたまり、とても王宮の中とは思えない通路をひたすら進んでいた。タンッタンッと二人の足音と、白い息がこの場を支配していた。


 こうして考える時間が生まれるとどっと疲れが押し寄せて来るのに加え、おそらく毒により体調が悪化してきている。もう歩いているだけで精一杯で、剣は持っているものの敵が来たら満足に戦えないだろう。


 だが、なんとしても生き延びねば......

 もはや頭の中にはこれしかなかった。


 と、突然足音以外の音が聞こえ、ふと顔をあげると......


「トリスタン!?」


 私の前を歩いていたトリスタンが倒れてしまった。

 慌てて駆け寄ると、額にすごい量の汗をにじませていた。

 こんな状態になるまで気づかないとは......ってさっきから後悔ばかりしているな私は......いや、今はそんな場合じゃない。


「おい!大丈夫か?」

「殿下......申し訳、ありません。どうやら、動け、そうにありません......先に、行ってくだ、さい......」


 まさか、トリスタンまで倒れるなんて......


「おいていけるわけないだろう!?さあ、いくぞっ!追手が来る前に。」


 お前まで置いて行けるほど私は非情な人間になるつもりはない。ずっと一緒に過ごしてきたのだから。


 ぐったりとしたトリスタンを無理やり立たせ、自分の肩に腕を回すようにして再び歩き出す。


「殿下......」


 そんな私をトリスタンは何か言いたげであるが、どこか嬉しそうな様子で私を見ていた。

 重くなった足を必死に動かしづづけていると突如光が見えた。出口だ。必然と足の進みが早くなり、光を追いかけるとそこは城外だった。


「無事に、出られ、た、ようだ、な。」


 そのころには私は息も絶え絶えで、トリスタンはもはや返事すら返せない有様であった。


 が、まだ油断はできない。むしろ、ここからが危険というべきだろう。こちらから敵の方へ向かっているような形になっているのだから。


 だがとにかく進むしかない。そう思ってまた一歩、すっかり月灯りを頼りに足を踏み出していく。


 しかし、限界は訪れる。

 いくら私がまだ意識を保っていられるといっても、それも気力だけで耐えているようなもの。そんな状態でトリスタンまで支えていれば、私への負担はさらに大きい。


 できる限り人影のない路地を通っているが、もう限界だ。


 意識が......切れ.......る......

 バタンッ

 商業街をもうすぐ抜けるというところで意識が途切れ、二人とも倒れてしまった。


 2人の周りには暗い闇が広がっているーーー




「みんな......どこいったんだ?......ん?人?」


 男は急いで駆け寄り二人の様子を見る。


「これはまずいぞ......早く運ばねえと。」


 そして、二人を抱えて去っていった。




 彼らを取り巻く闇にはたして光は届くのだろうか......?





お読みいただきありがとうございました!

次は二章に入ります!


5月2日更新予定です。

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