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主人公育成論  作者: 白井熊
第1章
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06話 通常試練概要

 コントロールデバイスの説明の次は通常試練と特別試練とは何かについてで、これは概ね神室理事長の話通りの内容だった。

 特別試練に関する詳細な説明はなく、内容は続いて通常試練の詳細に移った。



・最初の通常試練はサバイバルゲームである。


・舞台は中央に位置する山を中心に半径30kmの円状の島。周囲に他の島のない完全なる孤島には雄大な自然が広がり、独自の生態系が形成されている。


・島は大きな川によって5つの地域に分割されており、それぞれを北部、南部、東部、西武、中央エリアと呼ぶ。


・島周縁部は比較的安全な地域であり、中心に向かうほど危険度は増す。すなわち中央エリアが最も危険度が高い。


・ただし危険度が高いエリアほど希少資源が多く存在する。


・島全域が温暖な気候で過ごしやすい。


・四季の変化がある。


・日付は現実世界に準拠し、1日の周期は仮想世界利用可能時間内で一周する。すなわち利用可能時間の異なる平日と土曜日では仮想世界内での時間の経過速度が異なる。


・利用禁止日である水曜日と日曜日でも仮想世界内では1日が経過したものとする。ただし食料の腐敗やキャラクターの〈食料値〉〈水分量〉は進まない。



・今回の通常試練における課題は1つのみで、それは『島を脱出すること』


・この試練はあくまで個人戦であり、自身が脱出しなければクリアとはならない。


・クリア人数に制限はない。


・期限は今年度の修了式の日まで。それまでに達成できなかった者は即退学とする。


・〈体力〉がゼロになった場合は即退学となる。


・スタート位置は各クラスごとに異なり、Aクラスが島北端の周縁部で、そこからB, C, ……, Jクラスと順に島を時計回りに一周するように等間隔で周縁部に配置される。


・スタート地点の場所は《安全地帯》であり、そこにいる限り〈体力〉は絶対に減らない。


・島内での活動は基本的に自由。禁則行為については後述する。


・常時空中から地上を俯瞰的に捉えた映像が録画され、地上でも不可視の撮影ユニットが飛び回っている。映像は教員であれば確認することができるため、禁則行為が観測され次第重いペナルティが課せられる。また後日異議申し立てがあった場合でも確認を行うことが可能で、確認され次第同様にペナルティを課す。



・プレイヤーは仮想世界内のあらゆる物体に作用することができ、石を取る、木を倒す、地面を掘るなど地形を変更することも可能である。


・あらゆるモノに名称、耐久度、重量が設定してあり、それぞれのモノごとに決められたある一定のサイズになったそのモノはデータ化し、〔持ち物〕内にアイテムとして実体のない状態で所持することができる。


・実体のあるモノに対してデータ化したものはアイテムと呼ぶ。


・アイテムは実体はないが重さは残り、自身の体重にアイテムの重量分プラスされる。


・それによって自身の〈重量〉値を超えた場合は動けなくなる。


・アイテム一覧とアイテム化条件については後掲する表を確認すること。


・厳密に正確でなくともアイテム化は可能であるが、一度アイテムとなったものを再び実体化した場合はアイテムとして設定してある情報を元に実体化するため、アイテム化する以前とは形状が異なる場合がある。


・同一アイテム名であれば実体化されるモノの形状は同一になる。


・例としては〈木の枝〉というアイテムが存在するが、これの規定は長さ30cm、太さは直径1cmである。アイテム化の条件は長さ+-5cm、太さ0.6cm以上3.0cm以下であり、この条件を満たしている木であればアイテム化できる。

 この際長過ぎる場合はアイテム化できず、たとえ長さが60cmでちょうど〈木の枝〉2個分に相当していても、自動で分割されてアイテム化はされない。ただし枝をきれいに2つに折れば〈木の枝〉2個分としてそれぞれをアイテム化することができる。

 また、自然に取った木の枝がきれいに真っ直ぐなことはまずありえないが、その木の枝をアイテム化したのち実体化した場合、必ず長さ30cm、直径1cmの真っ直ぐな木の枝が現れる。たとえ長さ35cm、太さ3.0cmの木の枝を得たとしても、アイテム化してしまうと実体化するのは〈木の枝〉の規定サイズに小さくなる。


・アイテム化は、条件を満たしたモノの表面をダブルタップすることでアイテムとして〔持ち物〕に入る。


・耐久値がゼロになったモノは霧散する。



・プレイヤーはアイテムを組み合わせて、デバイスの〔作成〕画面にて新たなアイテムを作成することができる。


・作成できるモノは備品や武器、服、建築材料など多岐にわたるが、あくまで作成リスト内に存在するものだけである。


・ただし、システムのアシストなしに実体化したモノを組み合わせて手動で一から作り上げる場合は、リスト内にないものも作ることができる。


・最初から全てのアイテムを作成できるわけではなく、【作成ツリー】に従って徐々に作成できるアイテムの種類を増やしていくことになる。


・作成ツリーは系統ごとに分類されており、最初は単純な作りのアイテムから始まり、次第に複雑で希少な素材アイテムを使用したアイテムを作成できるようになる。


・作成ツリーの表は後掲してあるため確認すること。


・新しいアイテムの解放にはその1つ前のアイテムを一定数作成する必要がある。


・作成ツリーの解放に必ずしもステータスの1つである〈制作効率〉の強化は必要ないが、強化してあると新アイテム解放までの必要作成数が減少する。


・自身で作成したアイテムであれば修理することもでき、〔持ち物〕画面で修理したいアイテムをタップし詳細を開くと修理項目が表示される。


・修理に必要な素材アイテムはアイテムの耐久値によって増減するが、少なくとも新たに作成するよりは少ない素材数で済む。


・アイテム作成時間は大きさ、複雑さによって変化する。


・自身の画面でのアイテム作成中は移動することができない。



・この島には多くの宝箱が各所に点在しており、中にはこの島の秘密や過去の人間の日記、アイテムの設計図、特別なアイテムなどが入っている。


・宝箱の中身が島を脱出するための鍵となる。



 資料はそう締めくくられて細かな説明は終わりとなり、その後は通常試練の舞台となる島のマップにアイテム一覧表や作成ツリー一覧表、用語説明、体力テストや実力考査の結果などが続いていた。


 最初はそれらも一通り目を通そうと思っていた柿谷だったが、あまりの多さに流石に序盤で関係してきそうな部分だけを見るに留めた。


 結局実力考査の結果が掲載されている意味についての説明はなかったが、ステータス強化の上昇率に定期考査の結果も影響するとの文言があったため、〈製作効率〉あたりに関係してくるかもしれないと柿谷はひとまず思っておくことに。

 具体的に体力テストのなんの結果がどのステータスに反映されているのかの説明もなかったが、これは複数人のステータスを見せ合えば分かることではあった。


 しばらく1人頭の中で読んだ内容を整理していると、増渕が「がぁーー」と変な唸り声と共に思いっきり伸びをし、柿谷の方を振り返る。


「疲れたー、ったく資料多過ぎだろ。どんだけ読ませんだよ。俺普通のゲームのルールとかガイドでもこんなに読んだことねーぞ」


「それには僕も同感かな。少なくとも始まる数時間前に渡す量ではないよね」


 疲れを滲ませながら柿谷も苦笑を浮かべた。


「増渕くん的にはこのルール読んでどう感じた? あ、今度はちゃんと読んだか試してるとかじゃなくて、純粋にゲームをよくやる人から見たこのサバイバルゲームのシステムに対する印象が知りたいなって」


 増渕はうーんと唸りながら顎に手をやり、視線を宙に向ける。


「たぶん相当めんどくさい部類に入るんじゃねーか? まだ実際にやってないからはっきりとは言えねーけど、考えなきゃいけなそうなことが多過ぎる気がするな。特にステ振り、これはマジで考えながらやんねーと後になって後悔しそうだぜ」


「自分がどういうスタイルを目指すかによってどのステータスを強化すればいいか変わってくるもんね。しかも効果を最大化させるにはどのタイミングで強化するかも考えなきゃだし」


「てかステータスのことで俺気になってたんだけどよ、念波保有量って何だ? それの詳しい説明って書いてあったか?」


「それは僕も思った、ステータス説明のところのやつだけだったよね。このサバイバルゲーム独自の魔法システムの用語ってことなんだろうけど、僕達はそもそも魔法がどうすれば使えるのかを知らないからね。この資料は結構細かく書かれているようでいて、あくまで最低限のことを丁寧に説明してるだけだし」


 柿谷もお手上げだよと肩を竦めてみせる。


「ゲームのクリア条件すら曖昧だもんな」


「島からの脱出なんて簡単に考えるならそのまま海に出ればいいだけだもんね。それなのにスタート位置が海沿いとくるし」


「そういう疑問は全部宝箱見つけて自分で解決しろってことなんかね?」


「必ずしも僕達が見つける必要もないんじゃないかな。学校じゃ普通に皆と会えるわけだし、そこで情報交換は可能だと思うよ。学校で通常試練の話をすることを禁ずるなんて文はどこにもなかったからね」


 増渕は「そういやそうだったわ」と恥ずかしそうに頭を掻き、


「とりま始まってみなきゃ分かんねーことだらけってことだな」


「うん、出たとこ勝負はあんまり好きじゃないけどこればっかりは手探りでやっていくしかなさそうだね」


「んじゃこんな頭使うのは一旦止めにしてメシでも食って気分転換しようぜ、もう12時だしよ」


 柿谷が同意するや否や増渕はそう言った。どうやら真面目に資料を読み続けるのが相当なストレスだったようだ。


 気付けば時刻は12時を過ぎており、1時間以上ずっと資料を読んでいたことになる。

 確か今日の昼食は学校側が弁当を用意してくれてるんだっけ、と柿谷がオリエンテーション合宿の日程を思い出していると、


「皆お待たせー、昼食の時間ですよー」


 ちょうど担任の沢北先生が弁当を台車に乗せて教室に入ってきた。


「応援の気持ちを込めてちょっとお高い弁当を用意したからちゃんと味わって食べてね。それから通常試練の開始は13時半からだから各自遅れずに技術棟に行って入ってね」


 先生は弁当が全員に行き渡ったのを確認するとまたもそそくさと教室を出ていってしまった。


「日曜だっていうのにわざわざ学校に来てるんだからちょっとは豪華なもんがくるんじゃないかと思ってたけど正解だったな」


「容器の作りからして凝ってるし本当にいいものっぽいね。量も多そうなのも結構ポイント高いかも」


 柿谷は特段舌が肥えているわけではないし、なんなら安さが売りのファミレスでも普通に美味しいと思うぐらいなのだが、増渕につられたというのも合わさってテンションが上がっていた。


「これがこの学校での最後の思い出にならないことを祈らなきゃだね」


「不吉なこと言うなよな。創栄高校での一番の思い出が弁当とか切なすぎるだろ」


 増渕のツッコミに柿谷は笑い、それから両手を合わせた。

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