第一話 高校最後の一学期の朝
「眠い…。」
四月。多くの学生が新たな季節やクラスに胸を躍らせる時期ではあるが高校三年生ともなればあまり関係なく、それはあくびを噛み殺しながら廊下を歩く彼にとっても同じことだった。
「はざーす…。」
誰にともなく挨拶のようなものをしながら教室に入り自分の席へと向かう。しかしそこには前に座る少年のリュックが置いてあった。
「明日人、のけろ。」
「ん?ああ、悪い。てか、司、今日は遅かったな?眠そうだし…、寝坊したか?」
「くはは。よくわかったな。」
そういいながら苦笑するのは青葉司。その対面でニヤニヤしているのは風間明日人。二人は幼稚園からの幼馴染で司が親の都合で引っ越していて一年を除いても十年を優に超える付き合いをしている。
「にしてもお疲れだな」
「あー、まあ、結実に蹴り起されたし…。さっさと起きて!お弁当お願い!って。文句言ったら明日人さんだったら優しく起こすけど、遅くまで映画見てる自堕落兄さんはキックで十分とかいうしな…。」
それを聞くと明日人は再度ニヤニヤしはじめた。
「お疲れ様です。お義兄様。」
「黙れ愚弟。昼、デザートやらねえぞ。」
「弟云々は許容すんのね…。」
「結実が良いって言うなら俺は文句ねえし。まあ、親父と母さんは……大丈夫だろ。」
どこか疲れたような表情で笑う司。彼の両親は重度のオタクかつ、イチャラブ系夫婦なのだ。そんな表情になるのも必然だろう。まあ、司もそのオタク気質をしっかり受けついでいるわけだが。
「今どこにいるっけ?」
「アメリカだったな、たしか。ハリウッドスターの誰々と仕事してる~ってわざわざエアメールで言ってきた。」
「映司おじさんと美優おばさん二人とも?」
「むしろ離れてるの見たことねえだろ…。」
「確かに…。」
二人から同時に苦笑がこぼれる。仕方のないことだろう。
しかし、次の瞬間、明日人の苦笑は凍り付いた。
「風間ああああああ!!」
「げぇ!?」
司は叫び声の主から明日人が何をやったか悟り、明日人の右腕をホールド。
明日人が逃げようとするも、叫び声の主が到着するほうが早かった。ドアがガラッと開き、超絶イケメンが入ってくる。彼は神楽坂光琉。高校三年生となり、数日のうちに引き継ぎがあるのでいろいろと忙しい生徒会長である。
「まあ、待て。神楽坂。こういうのは外交ルートを通してだな。」
「お前はゴーンかよ。明日人。」
「そう!俺はゴーン!I've gone!さらばだ!!二人とも!!」
「逃がすか!!」
逃げようとしたが、あっさり捕まり、説教が始まる。明日人は文化委員長なのだがどうにも前年度の文化祭の引継ぎに不備があったらしい。明日人は時々やらかすので、司はまーた始まったくらいに思いながらリュックからタッパーを取り出しふたを開け、中に入っていたサンドイッチを食べ始める。朝が遅いときにはこうして学校に来てから朝食をとるのだ。
「あらら、また?あの二人も大変ね。」
もぐもぐタイムに突入した司に苦笑しながら声をかけてきたのはポニテ美少女、そしてこの学校の副会長、神楽坂愛葉だ。彼女は光琉の双子の姉でもある。超絶美少女である愛葉に話しかけられた司に一部の男子から嫉妬の視線が刺さるがどこ吹く風で彼女との会話を始める
「ん?ああ、神楽坂か。仕事ねえの?」
「副会長はそんなにないわ。むしろ真のほうが多いくらいよ。」
「へえ。体育はそうなのか。まあ、体育祭関連でいろいろあるか。」
「そうね。まあ、真の場合パソコンが苦手なのも仕事の多さに一役買ってるけど。」
「確かに。あいつはそういう作業苦手だな。」
二人同時に苦笑する。話に出てきた真というのは、本名上野真。愛葉が言及している通り体育委員長であり、何よりの特徴が図体がかなりでかいこと。ドアをかがまずに通っているとこなど見たことがない。
ガンッ!
噂をすればなんとやら。例の真が派手に頭をドアレールにぶつけ入ってきたようだ。彼はけろっとしながら明日人と光琉のほうを見て、あきれたように言った。
「なんだ、またやってんのかあ?あいつら。」
これには司、愛葉、光琉、明日人、はたまた司に嫉妬の視線を向けていた男子生徒、それをゴミでも見るような目で見ていた女子生徒…端的に言うとクラス全員の心が一つになった。
『まず痛がれよッ!!』
真は長年の空手経験で打撃系の痛みになれているので何分無理な話なのだが。
こうしてにぎやかに高校最後の一学期が始まっていくように見えた。
大学生になったので満を持して書いてみました。
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佳乃はそのうち登場すると思う。うん。多分。