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勇者を譲った僕の異世界生活。  作者: 紅花翁草
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世も情けですね。 1

 部屋に戻った僕はベットで下着姿で寝ているアイザにシーツを掛け直す。

 もう一回、お風呂入ろうかな。


「ハルトぉ?」

「今戻ったよ。もう一回お風呂行って来るよ。」

「んっぅ。わかたぁ…わたしも入るぅ」

「じゃあ、出たら起こすから、寝てていいよ。」

 部屋に干してあったシャツとブラウスは、ほとんど乾いていた。

 二人の下着はまだ湿っていたけど、朝には乾きそうだ。

 汚れを取った僕の服と、アイザのメイド服も、良い感じに綺麗になっていた。


 僕って家事力、こんなにあったのか。我ながら関心するよ。

 2度目のお風呂は、湯船にのんびりと浸かり、明日からの段取りを考えていた。

 よし! 明日からも、がんばるかぁー


「アイザ、お風呂あいたよ。」

 もそもそと起き出すアイザが、ふらふらと脱衣所に向かった。

 大丈夫か?…


 ちょっと時間が立って、アイザが大丈夫なのかと、心配になってきた時、ふらふらと戻ってくるアイザはタオルを巻いた状態で、また髪の毛がベタベタだった。

「ちょっと、待ってろ。まだベットにダイブするんじゃないぞ。」

 僕は急いで脱衣所のタオルを持ってきて、アイザの髪の毛を拭く。

「よし! いいぞ。寝てよし。」

「はぁあいいぃ。」


 よくこんな状態で、戻ってこれたな。

 ここは凄いと思うところだけど…

 脱衣所に戻ってアイザの脱ぎ捨てた下着を拾ってベットまで持っていく。

 こういうところは雑なんだよなぁ~

 まあ、あの下着みたいな服装しか着てなかったとしたら、そうなるのかも。


 さて、寝るか。

 自分のベットに横になると、すぐに眠気が襲い、考える暇も無く僕は眠りについた。


 『モーザン』の朝は早い。

 次の『ソラン』までの移動時間が9時間もかかるため。朝の8時出発になっているから。

 昨日の疲れは思った以上にあったらしく、危なく寝過ごすところだった。

 僕はアイザを起こしながら、着替えを済ませ、乾かしてあった衣類をカバンに詰める。

 アイザもやっと下着まで着ることが出来たので、そこからは僕も着替えを手伝ってあげた。

「ほら、腕入れて。背中閉めるよ。」

「んぁ。お腹空いたぁ~」

 今7時20分。今日は、朝食も馬車の中になりそうだ。

「時間ないから、お弁当買って行くよ。」

「はぁあ~い。」


 宿のロビーに降りると王妃さん達とマイジュさん、が居た。

 お姫様と女の子も元気になったみたいで、笑顔を見せていた。

「おはようございます。僕たちは朝食がまだなので、朝食もお弁当にするので、馬車乗り場に先に向かいます。」


 サラティーア王妃とルシャーラさん、その子供達は、宿まで迎えに来た自家用の馬車に乗って、馬車乗り場まで来る段取りになっている。


「私も今から行くところでした。」

 そう言ったマイジュさんと、徒歩で数分の馬車乗り場まで一緒に歩いた。

 僕とアイザは、朝食用とお昼用のお弁当を買って、デバルドさんが待っている馬車に向かう。

「よろしく頼む。」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。」

 車内にはイザルさんと、世話係の二人が既に乗っていた。

 ここからの道中は、身代わり作戦じゃなく、普通に帰る事になったので、乗り合い馬車ではなく、貸切の6人乗りの箱型馬車と、騎馬3頭で、王妃の乗る馬車を護衛することになった。

 なので、賃金は無料になった。

 たまたま、乗り合わせるって話じゃなくなっているけど、隠す必要のない護衛を見せることで、抑制になるらしい。

 そして、昨日の盗賊撃退の話も広がっているので、追加の効果にもなっていると。 

 その功績者のマイジュさんは騎馬隊にいる。


 一番前を騎馬3頭、真ん中に王妃達の馬車、そして後ろに僕達の馬車。

 周囲の目を引きながら、一行は次の町『ソラン』に向かった。



 大河の隣にある町『ソラン』までは、何も無く無事に着く。


 山頂の『コルトン』に向かう山道も、何も無く無事に着く。


 麦畑が広がる大平原の『タサル』まで、野獣1匹すら会わずに無事に着く。


 明日は国境手前の『ラメール』へ向かう。


 「つまぁんなぁあいいいいい。つまぁんなあぁああいぃのぉおおお。」

 とうとう、アイザが口に出してしまった。

 いつものように宿に入り、ベットにダイブするアイザ。

 護衛の旅で、何も起きない事は、嬉しい事なんだけど、アイザも僕も馬車旅がこんなにキツイとは思ってもみなかった。

 馬車の乗り心地は、快適とは程遠く、長時間乗っていると、体が痛くなる。

 それでも数年前より、乗り心地は良くなっている。

 異世界から来た勇者が、スプリングを説明し、さらに左右の車輪が車軸から離れている独立型のサスペンションを図解付きで教えたらしい。

 これは費用がかかるため、王妃さんが乗っている高級馬車の仕様で、僕達が乗っているレンタルの馬車は、車軸と一体型の車輪にスプリングを付けただけの方。

 それでも、格段に良くなったと聞いた時は、スプリングの無い馬車には、絶対に乗りたくないと思った。

 他にも、知識を持っていた勇者達が、色々と技術などをこの世界に広めている。

 でも僕には、教えるほどの知識は無いのです。


「次で国境前の町。その次で『リビエート王国』だから、あと2日の我慢だよ。」

「その後も、ずっと同じなんでしょ。」

 アイザの言う通りだ。

 護衛は終わるけど、僕達の旅はまだまだ続くのです。

「そうだよ! 旅行してないじゃないか!」

「何言ってるのよ?」

 僕は何故、ここまで辛い理由に気付いたのです。

「これは、旅行じゃない。旅だし、そもそも今は護衛任務なんだよ。」

「で?」

 アイザの呆れた返事に、

「旅は生活の一部なんだよ。そこに娯楽は入ってない。娯楽を入れて初めて旅行になるんだよ。」

「で?」

 あれ? 僕、結構いいこと言ったよね?

 なんかカッコいいセリフ言ったような気がするんだけどな…


「いや、ほら、観光とかしてなかったじゃない? 寝て起きて馬車で移動。で1日終わってたからさ、護衛が終わったら、2泊とか3泊とかして、観光しながら魔王島目指すのはどうかなって。」

 アイザがムクっと起きる。

「出来るの?」

「もちろん! アイザが急いで帰りたいってなら、無理だけど。」

「じゃあ、それでいい。」

 アイザの機嫌も良くなったみたいなので、いつものように、お風呂の準備に僕は向かった。


 

 タライアス王国の国境の町『ラメール』に向かっている。

 ここまでの道中の車内では、ずっと、この世界の歴史や、魔王の噂話などを沢山聞いた。


 やっぱり、魔物って野生の動物程度の認識で合っていた。

 魔王も人前に出た事は、この前の『アイザお迎え事件』が初めてだったらしく、魔王が直接、人間に危害を加えたとの話は一つも無かった。

 タライアス王国が召喚した勇者と、その一行が毎年、魔王島に乗り込んでは、負けて帰ってくる。を繰り返しているだけのようです。

 ただ、魔王島を海で挟んだ領土には、知能がある人型の魔物が住み着いたり、ドラゴンクラスの魔獣が暴れているらしい。

 魔王や魔物に関しては、アイザが教えてくれた事と同じだった。


 宿の部屋でのアイザの話は、もっと内容が濃かったけどね。

「20年くらい前に、魔王島とこっちの大陸の間にあった真っ黒い積乱雲が消えて、人間がやってきてから、パパ(魔王)が遊び程度に相手して追い払ったけど、勇者を連れて毎年侵攻に来るようになったの。パパはそれから暇潰しになると言って、勇者が来るのを楽しみにしてたんだけど…」

「だけど、どうしたの?」

「わたしと遊んでくれなくなったのよ!」

 ん?

「もしかして、それが勇者を殺害に来た理由なの?」

 拗ねた顔のまま、アイザが「うん。」と頷く。

 いやいや…いやいやいやいや!

「一年の内の数日の話じゃないの?」

「そうよ。毎年決まって、同じ時期に来るから腹が立つのよ! 私の誕生日なのよ!! 私の誕生日にいつもいつも、やって来るの。パパは私よりも勇者と遊んでるのよ!」


 あぁ…また、よりによって…

 これは不運と言うしかないのだろうか…

 そもそも、誕生日って100回越えてるでしょ。もうどうでも良くない?

 なんて事は、口が裂けても言えないな。


「ん? それじゃあ、アイザの誕生日ってそろそろなの?」


 この世界の1年は360日。12日を1週間とし、10日間が平日で2日間が休日。10日払いの給料は休日前に払う事になっている。

 一ヶ月は3週間。なので一年は10ヶ月になる。


「んっ~ぅん。2ヶ月後よ。」

 そっか、勇者も移動は馬車なんだろう。残りは準備とかの時間なのかな。

 でも、なんで同じ日に侵攻するんだろう。

 当然、アイザに判るはずはなかった。


 部屋での疑問は、車内でのデバルドさんが答えてくれた。

「魔王遠征隊の日程が毎年同じ理由か…それはだな、色々あるが、大きな所だと、各国の支援や傭兵の募集期限に集合、道中の宿の確保。」

 納得。これは、分かりやすい答えだ。

 毎年恒例のイベントですかっ!

 これを聞いた後で再認識しました。

 アイザが不憫です。(心で泣きました。)


「じゃあ、今年はどうなるんでしょうね?」

 勇者ソウジは瀕死の重傷だと噂だった。

「募集日程に変更は無いし、治癒魔法師が数人いれば数日で直るしな。千切れた腕も、再生するらしいぞ。」

「それは凄いですね。」

 腕を再生するほどの治癒魔法師は、この世界に10人ほどしか居なく、その内の3人はタライアスの神官だと教えてもらう。

 もしかしたら、ラニューラさんも、その一人だったりするのだろうか。

 そして、今年もアイザの誕生日に、勇者が行く事は確定らしいです。

 不機嫌になっているアイザを横目に、僕の心は号泣です。


 『モーザン」から『タサル』までの、それぞれの移動時間は、7時間以上の長旅だったけど、今回は5時間と短くなっていたから、昼休憩に、デバルドさんからの武術指導を受ける事になっている。

 半分は僕からの提案で、半分は僕の実力を知りたいと思っていたデバルドさんの提案だった。

「それでは、始めようか。」

 アイザに、王妃達までが見守る中、僕は斧を持って立ち位置に着く。


 まずは、デバルドさんの相方のイザルさんと一騎打ち。

 盾と鞘に収まったままの幅広の片手剣を構えたイザルさんに、斧を軽く撃ち込む。

「ガッシィッ!」

 っと盾に弾かれる斧から、衝撃が結構伝わってくる。

 返す斬り込みを僕は斧で受ける。  

 武器の振りは寸止め。体の手前で止めるルールの中、数度の応戦で感覚を掴んで行く。

 僕も手加減しているけど、イザルさんも手を緩めているのが判った。

「少し、上げます。」

 僕はそう言って、踏込みを軽くから、ちょっと力強くに変え、速度を上げた。

 イザルさんは、変わらずに僕の斧を受け止めるが、衝撃で少し後ろに下がる。

 返すイザルさんの剣も速度を上げていた。

 それを斧で弾き返しながら、死角になりそうな背後に回り込む。

 だけど、僕の動きに合わせた体捌きで常に盾があり、剣が僕に襲いかかる。

 僕は一度、距離を取った。

「一度、本気の踏込みをしてもいいですか?」

「来い!」

 イザルさんの笑みが僕を誘う。

「行きます!」

 全力の踏込みからの、斧を振り抜く!

 勿論、構えた盾に向かって。

 その力はイザルさんごと浮かせ、数メートル吹き飛ばした。

 しりもちを着いて、呻き声を少し出している。

「そこまで!」

 デバルドさんの終了の合図があがる。

「大丈夫ですか?」

 立ち上がったイザルさんが手を差し出す。

 立ち合い稽古の最後は、握手で締めるのが礼儀だと、この時知った。


「話に聞いてた通りのバカ力だな。」

 デバルドさんの笑い声も付いてくる。

「力だけなら、Aランクだが、捌きや立ち回りは、まだまだか。」

「そうですね。そういう武術も僕の世界にもありましたが、習ってなかったので。」

 周りの観客から、小さな拍手を受けながら僕は、アイザから水筒を受け取った。

「ハルトもまあまあね。」

 誰と比較しているのか想像できるけど、まあまあという評価はこの場合、褒め言葉じゃないのか?

 素直に喜ぶ事なのか、僕は悩んでしまった。

 それから、空手の形を習うように、基本的な足捌きや連撃を教えてもらい、午後からの道中も何事もなく、無事に『ラメール』に着く。


「やっと、明日で護衛も終わりだね。」

 お風呂の準備を済ませた僕は、ベットにうつ伏せで待っているアイザの背中のファスナーを下ろす。

「んぅーんんっん。」

 埋めた顔ぐらい上げなさい。

「ほら、お風呂いっといで。」

「はぁあい。」

 脱ぎ捨てたメイド服をハンガーに掛けて干す。

 ブラウスは僕のシャツと一緒にお風呂で手洗いするので、手元に置く。

 新しい換えの下着などを取り出し、ベットの横に置く。

 もう、手馴れた動作に迷いは無い!

「準備よし!」

 考えたら負けです。疑問すら抱いては、ダメです。


 夕食は、マイジュさんと一緒に食べている。

 文字の読めるマイジュさんに、注文して貰ったり、、注文の裏技的な事を教わったりと、この数日で食事の注文に関しても、余裕すら出てきた。

 アイザと僕のお風呂を、いつも待ってくれているマイジュさんに感謝しています。


 いつものようにロビーに降りると、珍しくデバルドさんが居た。

「どうかしたのですか?」

「ああ、少し厄介な事が出来た。部屋まできてくれるか?」

 アイザの「お腹が空いたぁあのぉおお。」って顔が僕を責める。

「アイザごめん。少しだけ待ってくれ。」

「しょうがないわね。」


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