旅は道連れですよ。 2
斧を拾い、林をもう一度見渡しながら、貴族の馬車がいる街道に戻ると、止めを刺している兵士と、マイジュさんがいた。
「最後に投げたのが主犯の男だと思います。」
兵士達が僕に向かって敬礼をしている。
「皆さん、ご無事ですか? 馬車の中に親子が居たと思ったのですが。」
「はい。貴殿のおかげで、車内の親子もご無事です。」
敬礼の型をまだ続けていたので、
「礼はもういいですよ。生きている盗賊もまだ居ますし、あとはそちらに任せてもいいですか?」
「はい、直ぐに終わらせます。」
マイジュさんが困った顔で僕を見ている。
「マイジュさん、どうかしましたか?」
「いや、私は必要なかったかとね…」
「いえいえ、マイジュさんが居てくれたので、アイザを少しの間だけでも、気にしなくてよかったので、こっちに集中出来ました。」
「そういって貰えると、少しは気が楽になる。」
馬車の扉が開いて、母親と女の子が安堵の顔で出てきた。
母親の女性が僕に頭を下げる。
「ありがとうございます。是非、お礼をさせてください。」
ごく自然の流れだったので、僕は考えていたセリフをいってみる。
「僕の連れがこの先で待っていますので、『モーザン』まで一緒に乗せてください。もちろん、このマイジュさんも入れて3人になるのですが、良いですか?」
当然、呆気に取られた顔になる女性に、
「それじゃ、連れが心配しているので、先に戻ってます。そこで、拾ってくださいね。」
「あっ、はい。」
彼女の返事を聞いた僕は、アイザの待っている所まで、全力で戻った。
トランクケースを椅子代わりに座っているアイザに僕は大きく手を振る。
「終わったよぉ~。」
「そうみたいね。随分嬉しそうだけど…」
アイザが差し出した水筒の水をゴクゴクと飲み、
「そりゃ、初めての人助けが成功したからね。誰も死なせなかったよ。」
「わたしは、ちょっと心配だったんだから。でも、おめでとう。良かったわね。」
不機嫌な顔から笑顔になったアイザに、
「そうだよね。心配かけてごめん。それと、ありがとう。」
「まあ、いいわ。で、これからどうするの?」
僕とアイザを拾った馬車の車内には、親子の二人と、兵士一人、僕とアイザの5人だった。
残りの兵士は騎手席に詰めて座って、溢れた人は馬車に後ろに摑まっている。
屋根の上でも僕は良かったけど、さすがにそれはさせて貰えないだろう。
恩人として、ここは素直に受け取るところ。
「あらためて、ほんとうにありがとうございます。経緯はマイジュさんから、お伺いしています。」
「僕も、マイジュさんも、自分が後悔したくない行動をしただけです。結果的に救えましたけど、自分の身が危険になってたら、逃げてましたから。」
そう笑いかけて、少女と母親の笑顔を見た時、また同じような身代わりとして生きていくのかと、息苦しい感情が溢れ出す。
そして、なんでマイジュさんはドアの外にしがみ付いている?
窓から顔だけを入れているマイジュさんに違和感しかなかった。
「マイジュさん?」
「ああ、私の事は、気にしないでくれ。密室に居るのが駄目なんだ。」
なるほど、だから最後尾に座ってたのか。
「そうだ、ハルトさん。君が倒した盗賊の主犯者、懸賞金がかかっていた人物だった。『残虐の魔道師ミルジア』戦争時代は数々の功績を残した英雄だったが、真実は人を殺すのが趣味なだけの悪党だったんだ。戦争が終わると、その性格から、沢山の人を無慈悲に殺していたんだ。なんと、懸賞金は金貨300枚。凄いじゃないか!」
マイジュさんが意気揚々と僕に語る。
「だからかぁ~。どうりで希少価値の魔術を使える人だった訳ですね。」
デバルドさん達との会話で、魔術を使えるのはごく一部の適正を生まれ持った人間だけで、少しでも魔法が使えると、国の優遇とかあったり、実用レベルの魔法を扱える者は、待遇もよくなるって聞いていた。
だから、盗賊の中に魔法使いは居ないだろうと高を括っていたのだ。
もし、魔法使いが居ると知っていたら、魔法使いとの戦闘は、未知すぎて救助を躊躇っていたかもしれない。
「金300枚かぁ~凄いですね。あっでも、僕は止めさしてないし、連れても来てなかったですよね? 証明する事、出来ないんじゃ?」
「それは大丈夫だ。盗賊はその場で討ち取るのが当たり前だし、ミルジアの頭部だけ持ってくれば証明になる。」
なんか怖い発言きた。
僕は車内の座席や足元を見渡す。
同じようにアイザも怯えるような目で辺りを見ていた。
「ちょっと、今ここに乗せてるの?」
アイザの声は震えている。
「いや、外にある。血の匂いがするし、馬車の後ろにある。」
胸を撫で下ろす、僕とアイザ。
「懸賞金…それって、傭兵組合に報告ってことですか?」
「ああ、もちろんだ。功績としても残るから、傭兵ランクも上がるとおもう。」
よくあるランク制度も、この世界にもあったのです。
僕は初登録でFランク。最高はAランクまである。
「それは、僕的には、遠慮したい事なんですよね。」
マイジュさん含め、アイザ以外の人達が僕の発言に疑問を投げかける。
「目立ちたくないってのが、一番の理由で、今はアイザと一緒に旅を楽しみたいって思ってます。だから最低でも、旅が終わるまではクエストを受けないつもりなんですよ。ランクが上がるって事は、それ相応の依頼がきたりするんですよね?」
マイジュさんが頷く。
「なるほど。なら、今回の懸賞金はどうしたらいいのか…」
捨てるのはもったいないし、出来れば、欲しいのは本音。
「マイジュさんって、主犯の人と戦ったとしたら、勝てますか?」
「一対一なら、負けない自信はある。」
おお~! すごい人だった。
「なら、マイジュさんが倒した事にしてくれませんか?」
「なぁっ! なにを言っているか判っているのか? 金300枚だぞ! もぉっ! もっらららあってもいいっつのか!? …いや、受け取れない。それはぁ。」
判りやすい反応ありがとうございます!
もう一押し。
「じゃあ、僕のランク保持の為に、代わりに報奨金の受け取り人になってれませんか? 報酬は金貨200枚で。」
マイジュさんは、黙って考え込んでいた。
「金貨150枚で、その依頼をうけよう。」
「はい。金貨150枚で交渉成立ってことですね。ありがとうございます。」
上手くいったぁ~!
「と、いう段取りですので皆さん、口あわせお願いできますか?」
命の恩人の頼みに、異を唱える者は当然いない。
馬車がゆっくりと停まる。
まだ景色は街道の途中だった。
「デバルドさんが馬に乗って戻ってきました。」
扉の外にいたマイジュさんが車内に伝える。
馬車はゆっくりと走り出し、馬に乗ったデバルドさんが並走しているのが見えた。
すでに『モーザン』手前だったらしく、10分ほどで、馬車は街に入る。
入ってすぐに、馬車は停まり、僕とアイザは促されるように馬車から降りた。
目の前に待っていたのは、僕達が乗り合わせた人達。
たぶんどこかの、王妃と姫様とその一行だろう。
王妃たちが深く頭を下げている横で、小さな姫様が大粒の涙を落としている。
ずっと泣いていたんだろうな…息をするのも、やっとって感じだった。
馬車から、身代わり役だった親子が降りるのを見たお姫様は、今にも駆け出しそうになっている。
「我慢しなくていいよ。」
僕の合図に姫様は駆け出し、二人の女の子は、互いに抱きしめ合い、涙を流していた。
「ありがとうございました。何にも変えられない大切な者を失わずに済みました。本当にありがとうございます。」
王妃の言葉には、それが本心なのだと判るほどの重みが伝わってくる。
納得いかないのは、僕がこの人達の現状を知らないからだ。
小さな姫の身代わりを立てなければならない、理由があるのだけは判る。
だけど、僕は、納得できない。
この人達の苦悩と痛みを、僕は知らないから。
「僕の方こそ、あの時、怒鳴ってしまってすみません。苦渋の選択をされていたことは判っていましたが、自分の納得の出来ない感情だけで、動いてしまいました。」
僕はデハルドさんに頭を下げる。
「デハルドさんにも、任務を守るために動けなかったと、冷静になれば判ることでした。すみませんでした。」
「いや、いい。君があの馬車に乗り合わせてくれた事の幸運を、今は素直に喜んでいる。ありがとう、心から感謝している。出来れば、この後、君の武勇を聞きたいのだが、どうかな?」
正直、風呂入って、ご飯食べて寝たいです。
「今から、マイジュさんと傭兵組合に行って、懸賞金を貰いにいこうと思ってましたので、その後…宿とって汗を流してからでもいいですか?」
デバルドさんの眉が動いた。
「なに?! 盗賊に指名手配者がいたのか!」
「えっと、だれでしたっけ? マイジュさん。」
僕は、マイジュさんに話を振る。
「『残虐の魔道師ミルジア』です。盗賊の主犯だと思われます。」
「二人で倒したのか?」
僕は直ぐに、
「いえ、マイジュさんが倒しました。」
デバルドさんの眉がまた動いた。
「そうなのか。凄いじゃないか。やつの魔法をどうやって防いだ。その話も聞かせてくれないか。」
「えっ…あっ。はい。えっと…あとでもいいですよね。早く、頭部持って手続きを済ませたいので…」
へたです!嘘つくの下手だよ、この人。
目が泳いでるよ。
デバルドさんが、めっちゃこっち見てるよ。
布袋を手に取ったマイジュさんが、慌てるように歩き出す。
「アイザ、僕たちもいこっか。デバルドさん達も今日はここで泊まりですよね?」
「ああ、皆ここで一泊する。」
「じゃあ、今から…いや、20時に傭兵組合に集合で、良いですか?」
「了解した。」
僕はアイザと一緒に早足でマイジュさんの後を追った。
傭兵組合で、『残虐の魔道師ミルジア』の頭部を差し出し、懸賞金を貰ったマイジュさんは、周囲からの視線と声をかけられたりしている。
僕とアイザは、入り口から離れて見ていた。
「マイジュさんって、結構人気あるね。」
「まあ、あの顔で実力あるなら、当然じゃない。」
「アイザの好みも、あんな感じ?」
「わたしはもっと逞しくて、男らしい人が好き。パパみたいな人ね。」
ハードル高そうだな。
でも、魔族って大抵そういう感じのばかりが居そうな気もする。
賞金袋を持ったマイジュさんが入り口に戻ってきた。
「おまたせ。それじゃあ、宿探しにいこうか。」
「はい。マイジュさん、浴槽のある宿って判りますか?」
僕は、情報誌の『モーザン』のページをめくって見せる。
「僕とアイザは文字が読めないので、地図マークはそれなりに覚えたましたが、詳細な文章はまったくだめで。」
「ああ、なるほど。私は何度か立寄った街だから、実際にある宿を知っている。数軒あるが浴槽以外で求めるものは、あるのかな?」
「そうですね。もちろんお湯が出る浴槽と、寝心地がいいベットで。ついでに景色がいい部屋だと嬉しいですね。」
「なら、一軒心当たりがある、ここだ。」
地図の右上にある宿を指していた。
「結構、遠いですね。」
「徒歩20分くらいってところかな。」
「もう、歩きたくない。」
アイザの拗ねた言葉が返ってくる。
同意、歩きたくないです。
「ここまで来るのにも、10分くらい歩いたからな~」
バスとかタクシーとか、この世界もあるのかな?
「街中を走る馬車とかってないですか?僕のいた世界には、街を周るそういう乗り物があったんですよ。」
「あるよ。周ってはいないけど、外で白い馬車を結構見かけてたよね。あれに頼んで目的地まで乗せて貰うんだ。乗り賃は1回、銀板1枚。人数は関係なく、馬車1台の値段だ。」
なるほど、タクシーと同じ感じか。
「それ乗るわよ。絶対、乗るわよ。」
顔が魔王の娘になっていた。
ここで、乗らないって言ったら、広範囲魔法とかいうの使いそうだよ。
「乗る乗る。僕も疲れてるし、乗るから。」
マイジュさんが歩き出し、僕たちも組合から出ると、マイジュさんが指を刺している。
「大体、組合から宿に向かう傭兵達相手に、待っている馬車がいるから。」
なるほど、探す手間も無くてほんと良かった。
「私も同じ宿に泊まるから、私が払うよ。」
ここは素直に受け取るのが、ベストな選択。
「ありがとうございます。」
「私の取り分は組合に預けてきたから、残りの懸賞金、金貨150枚です。」
馬車の中で、マイジュさんから金貨が入った袋を受け取る。
ずっしりと重みが伝わる。
うん。旅費を気にしなくても良くなった。豪華な旅行にしよう。
王都で泊まった部屋よりも豪華な部屋は、寝室とリビングに分かれていた。
「銀貨1枚は同じだったのに、広いね。」
リビングを素通りして、速攻ベットにダイブするアイザ。
「おふぅろぉおお。」
はいはい。
僕は、浴室を確認しに行き、お湯を浴槽に入れ始めて部屋に戻る。
「アイザ。今、お湯入れてきたから、入っておいで。」
「んぅ~。んっんっ」
うつ伏せに寝ているアイザは背中のファスナーを指差している。
はいはい。
ファスナーを外すと、ベットからもそもそと起き上がり、その場で服を脱ぐ。
「これも取って。」
ブラウス姿になったアイザが、ボタンを外せと言っている。
はいはい。ってそれはどうなの?
躊躇していると、催促の唸り声が聞こえてくる。
「わかった。わかった。」
下着姿になったアイザが浴室に向かった。
脱ぎっぱなしのメイド服をハンガーに通し、風通しのいい窓際に掛ける。
ブラウスは、あとでシャツと一緒に洗うか。
ブレザーとズボンも濡れタオルで汚れ取らないとな。
17時か…
「アイザぁ~。今日は早めに出てくれよ。20時に組合に行かないとだから。」
「えぇ~…わかったぁあ。」
ちゃんと、僕に合わせてくれるアイザは、ほんと良い子。
ミニスカートのメイド服に着替えたアイザと宿のレストランに来ていた。
僕は白のジャージ上下姿。
換えの服を買っとくべきだったと後悔中です。
「アイザはどうする?部屋で待ってる?」
「そうするわ。」
早々に食事を済ませた僕は、部屋に戻ってリュックを背負う。
「鍵閉めてくから、部屋から出ないように。」
「わあぁかってるぅ。」
部屋に入るなり、またベットにダイブしているアイザが背中を指差している。
僕はさっきと同じ要領で服を脱がせて、
「それじゃ、行って来る。」
「はぁ~い。」
走ったほうが速いと思った僕は、軽いジョギング程度の力で道路を走っていく。
商店街の服屋が目に付いたので慌てて僕は足を止めた。
時刻は19時半。速攻買えば間に合うな。
学生服とほぼ同じ色の執事服が合ったので僕はそれを選ぶ。
汚れた方だけ換える着回しが、出来ると思ったから。
時刻は19時55分。ギリギリだった。
この街の傭兵組合の建物は2階建て、周りの建物と同じような木の建物だった。
傭兵組合に着くと、デバルドさんと、マイジュさんが座って待っていた。
すぐに席に着かずに、一礼をして僕は受付に向かったのは、金貨10枚を財布に入れた残りの140枚を預ける為に。
「お待たせしました。」
デバルドさん達のいるテーブルに僕は座る。
「今回の事、二人には世話になった。俺の雇い主が改めて挨拶をしたいと言っているのだが、宿まできてくれないか。」
「そうですね。僕も聞きたい事があったし、お願いします。」
「私も時間はあるので、いいですよ。」
マイジュさんも同意したので、王妃様の泊まっている宿に白馬車で向かった。
って、僕達も泊まっている宿だった。
「そりゃそうですよね。質のいい宿って選んだら、ここになった訳だし。」
「なんだ、お前たちもここに泊まっていたのか。」
宿の最上階を貸切にして、食事も部屋で取っていると教えて貰う。
まあ安全面的に、貸し切るのは当然な事です。よくある話です。
扉の前には、囮役だった馬車にいた兵士が立っている。
部屋に通されると、紳士と淑女のカップルが立っていた。二人は世話係としての同行だったのかな?
王妃と呼ばれた女性と、身代わり役だった女性が並んで僕達を待っていた。
「来てくださいまして、ありがとうございます。私は『リビエート国』の王妃 サラティーア。」
「私は、サラティーアの妹のルシャーラです。」
身代わり役が妹?
「じゃあ、姫様の身代わりの子って?」
「私の娘です。」
身代わりの親子が、家族だったことに僕は驚き、そして思った。
「どうして、そこまでする必要があったのですか?」
胸が苦しく、痛みで、苦痛の顔を僕は見せていた。
「姫様と、女の子は?」
王妃様が答えてくれた。
「泣きつかれて、今は寝室で一緒に寝ています。」
「身代わりを立ててまで、王都に行かなければならなくなった理由をお話ししてもいいですか?」
王妃の言葉に僕は頷き、席に着いた。
「リビエート国はこの街道を西に進むとあります。王都と隣国になるのですが、以前は対立国として戦争をしていました。魔王島の存在が明らかになった後、人類が領土争いしている場合じゃないと、世界国すべての平和協定で戦争は終わりました。それから20年は、勇者の魔王討伐遠征隊の支援をしているのです。資金的な提供だけで、実質的には被害は今まで無かったのですが、リビエート領土内に『火の竜』が現れました。私達は、魔物の知識がほとんどなかったので、使徒をタライアス国王に送って、勇者様に退治をお願いしました。ですが、帰ってきた答えが、『人に物を頼む時は、直に頭を下げるものだろ。王妃自ら出向いて来い。それと、勇者は少女の願いは必ず聞くと聞いている。王妃の娘が頼めば、聞き入れてくれるだろう。』でした。」
僕は色々と推理をしてみた。
「戦争が終わったといえ、身の安全は保障出来ない。身代わりを誰かにさせる事はしたくない。でも、魔物退治は国にとって大事な事、行くしかない。だから…こうなった。ってことですか?」
僕の言葉に王妃は、「はい。」と一言。
「なら、国の軍隊引き連れて…は、王都が黙っていないか…それじゃ、傭兵を沢山雇えばよかったんじゃ。」
「それは、考えてみれば判ることだ。要人の護衛ほど、割の合わない仕事はないぞ。自分の命の値段が報酬だからな。」
デバルドさんの言葉に、僕は納得する。
「愛国心のある俺とイザルぐらいしか、同行するやつが居なかった。」
「そうですよね。…それにしても、あの国王は見た目通りの性格だったか。大金くれたのは気まぐれだったんだろうか…」
「大金?」
デバルドさんは、僕の小さく呟いた独り言を聞き逃さなかった。
「いや、こっちの話です。」
はぁ…20年間毎年、召喚された勇者って日本人なのか?!
なんだよ、少女の願いって!
断るやつなんて居ないだろ、日本男子として!
いやっ! 外国人でも、少女の願いは聞くよな! 絶対聞くに決まっている!
っと、僕は頭の中の意識が道を外れていたので、話を戻す。
「それで、勇者様は、願いを聞いてくれたのですか?」
王妃が首を横に振る。
はい? なぜだ、勇者ソウジ。お前は日本男子だろ!
「先日の魔王との戦いで、会うことも出来ないまま、謁見も当分無理だという事で…」
あぁああああああ、そうだったぁああああ。
え? ちょっと、まて?
魔王はアイザを探しにきてたんだよね…で、アイザ寝てたから待ってる間に、勇者がちょっかい出しにきたんだよな…
アイザが寝てしまったのは、僕がワインを頼んだからで…
俺かぁああー!
「どうしました? 気分でも悪いのですか?」
はい。精神的ダメージを少々…
「いえ、大丈夫です。」
「じゃあ、また、今回のような頼みに行くための旅行をするのですか?」
少しの沈黙のあと、
「はい。たぶんそうなると思います。」
「勇者が遠征で立ち寄る時じゃダメなんですか? いや、ダメだから行ったんですよね。」
沈黙の返事で僕は理解する。
「明日からの帰路だけでもいいのですが、私達親子と妹達の護衛を、頼めないでしょうか? 国の境界までで結構です。身代わりとしてじゃなく、皆が無事帰れる為に、なにとぞ、お願いいたします。」
「護衛ですか?」
僕はさっきのデバルドさんの話を思い出す。
「それは、出来ません。」
部屋がざわついたのは言うまでもない。僕は続けて、
「僕の今の最優先は、アイザと旅をする事なんです。彼女との約束です。だから、僕は自分の命を捨ててまで、貴方達を守る覚悟がありません。なので、護衛はできませんが、今日みたいに、たまたま、一緒の馬車に乗って、自分の出来る事を勝手にするだけです。それではダメですか?」
「はぁっ! はっはっ! 上手いこと言うじゃないか。」
笑いながら僕の意図を一番先に理解したのはデバルドさんだった。
「ああ、それでいい。頼めるか?」
「はい。」
僕とデバルドさんとの会話のあと、王妃や妹のルシャーラさんから、感謝の言葉を受ける。
「で、『残念マイジュ』さんにも護衛を頼みたかったんだが。」
デバルドさんの笑みがマイジュさんに向けられる。
「年下の彼に、カッコいい事言われた後に、その質問は愚問ですよ。私も彼と同じで、ただの同乗者として、付いていっていいですか?」
「ああ、もちろん、是非頼む。」