魔王の娘です。 2
「ドンドン!」
壁を叩く音が、隣の宿泊者からの文句なのは、すぐに判った。
時計を見ると、4時前だった。
僕は睡魔を思い出したように、眠気が襲ってきた。
「ごめん、ちょっと寝ていいかな? 朝7時に起きないと…もう、いっか。明日、出発に変更で。」
「私も眠い。」
二人で寝るには狭いベッド。
「今日は、僕が床で寝るから、アイザはそこで寝ていいよ。」
「うん。ありがとう。」
ベッドに横になったアイザにシーツを掛けた僕は、ブレザーの上着だけ脱いで、体を拭く用に置いてあったタオルを床に置いて、寝転んだ。
アイザの寝息が聞こえてくる。
「おやすみ。」
部屋の気温が高くなった11時前に目を覚ました僕は、少し汗をかいている。
ベッドの上には、掛けてあったシーツを蹴飛ばしたアイザがまだ寝ている。
さてと…段取りを決めないとな。
水樽から桶に水を汲み、顔を洗った僕は今日1日の予定を考える。
僕は、予定を決めて動くのが好きなんです。そして、予定通りに1日が終わると、達成感で満足します。
もっと好きなのが、突発の出来事を、最善だと思う段取りでクリアした時。
やり切った達成感は、最高に楽しい。
そして、毎朝欠かせないのが、異能力の発動テスト。
使えなくなっていないかを、必ず確認する。
よし、今日も問題なく使えた。
僕は、アイザを起こさないように、静かにベッドに座る。
まずは、アイザの服からだな。その後に、傭兵組合に行って、道具を揃えてと。
傭兵組合には、傭兵を支援する道具屋があり、大抵の物なら揃うと聞いていた。
っと、服の前に、ご飯が先か。あぁ~服買うにはお金が足りないかも。
ご飯、組合、服の順かな。
よし! それで行こう。最後は、もう少し大きなホテルで泊まりたいな。せっかくだし。
「アイザ、起きてよ。出発の準備に行くよ。」
声だけでは起きなかったので、軽く揺すってアイザの目を覚まさせる。
「んぅ~おはよう、ハルト。」
アイザの身支度を手伝いながら、僕は今日の段取りを話す。
「ねぇ、これ? どうやってするの?」
ジャージのチャックの閉め方が判らないアイザのチャックを閉めてあげた。
なんだろ? 妹ってこんな感じなのかな。
世話が全然苦痛じゃない。むしろ嬉しい。
「準備おけ。アイザもいける?」
「うん。いけるよ。」
宿を出た僕達は、商店街にあるカフェテリアみたいな店で、昼食を取ることにした。
ガラスケースに入っている具材を指定して、サンドイッチにする店だったので、すべて口答で済み、文字が読めなくても、簡単で楽だった。
そして、アイザは予想通りの肉のみだった。
「すみません。野菜ジュースってありますか?」
「ありますよ。」
「じゃ、それひとつと、アップルジュースもひとつ、お願いします。」
お金を払って、商品を受け取り、入り口近くのテーブルに座る。
サンドイッチを美味しそうにかぶりつくアイザに、アップルジュースを渡し、僕は野菜ジュースを一口飲む。
うん。これは美味しい。これなら、
「アイザ、これ一口飲んでみない?」
「いやよ。」
「美味しいよ。試しに一口だけでいいから。」
不機嫌な顔でガラスコップを見つめるアイザ。
「一口だけだからね。」
「ああ、それだけでいいよ。」
アイザは、勢いに任せる感じで、野菜ジュースを一口流し入れ、ゴクンと飲んだ。
「ん? ほんとだ。不味くない。」
「でしょ。」
僕は野菜ジュースを自分の場所に戻し、サンドイッチに手を伸ばす。
「どうして、私に野菜勧めるのよ? ママに頼まれた訳でもないのに。」
「可愛い子には野菜を食べさせろ。って誰かに教えてもらったからかな。誰だったかな~思い出せないんだけど、なんか、大事らしい。」
「なにそれ? 判んない。」
「まあ、僕もうろ覚えだからね。でも、野菜は健康にも、美容にも良いってことは知ってるから。」
「ふぅ~ん…まあ、ママもそんな事言ってた気がする。」
「さて、次は傭兵組合だね。」
食事の時間を手短に済ませる段取りは予定通りの1時間以内。時刻は12時少し回った頃。
僕はアイザを連れて次の目的地に進んだ。
組合の建物に入ると、なぜか視線が集まる。
まあ、僕は執事風の服、アイザは白いジャージ(下は穿いていない)姿。
視線があるのは、当然だと思う。
僕は気にせず、受付嬢に身分証明カードを提示して金貨10枚を引き出す。
「道具屋って、あっちでしたよね?」
「はい、そうです。」
受付嬢は怪訝な視線を僕に向け、そして、後ろのアイザを見ていた。
うん。これは、完全に別の事で視線を集めてそうだな…
気にするな、俺!
「アイザ、お待たせ。」
傭兵組合の道具屋は、想像以上の品数と規模があった。
僕はまず、地図を女性の店員さんに聞く。
「世界地図ってありますか?」
昨日、受付嬢とのやり取りで、僕が勇者召還に巻き込まれた異世界人っていうのは傭兵組合の人達にはすでに周知されていたので、店員さんの対応は優しかった。
「はい。えっと、ご案内します。」
案内された書籍コーナーで、折り畳まれた紙を渡される。
「これが、一枚に収められた世界地図です。あとはそちらに、書籍タイプや、各町や村の情報まで載っている情報誌タイプもあります。」
文字の読めない僕に情報誌タイプは意味がないと思ったけど、一応パラパラとめくって確認したら、町のマップも掲載されていて、それなりに使えそうかなって思った。
「この地図開いてみてもいいですか?」
「はい。どうぞ。」
一枚物の地図をゆっくりと広げていく。
広げ終わると、伸ばした両手で持てる丁度いい大きさだった。
僕はそっと本が積まれているテーブルの上に置いて、
「えっと、ここに魔王がいる場所って載っていますか?」
「はい。ここです。」
店員さんが、地図の一番左の島みたいなところを指差す。
一緒に見ていたアイザが、
「こんな端っこなの? ここから遠いの?」
「ちょっと待って、えっと、ここのタライアスの王都はどこですか?」
店員さんは、真ん中よりすこし右の地名を差している。
「結構遠いなぁ~長旅になりそうかな。」
「そうですね。馬車での旅で30日くらいはかかると思います。」
「えぇ! そんなにかかるの?」
アイザの驚きと不満がこもった言葉を僕は抑えるように頭を撫でる。
「そんなにですか? じゃあ、長旅用の必需品とか、持っていた方がいい物とか、教えてもらえますか?」
「はい、いいですよ。」
「それじゃ、地図はこれと、この情報誌のやつを買います。」
「魔王島には、討伐隊で参加するのですか?」
魔王島? なんか安直なネーミングだな。
アイザが目を丸くしている。
「いえ、一度見てみたくて、見える所まで行ってみようかと。」
「そうですか。では、旅行者と同等の装備で良さそうですね。」
丈夫な鉄の水筒2個。 計、銀貨2枚
防水で頑丈な腕時計 銀貨2枚
傭兵者向けの下着。(僕のだけ) 銀板1枚
タオル4枚セット。 銀板1枚
救急医療セット。 銀板4枚
裁縫セット。 銀板2枚
雨具用のコート。(アイザは持っているのを使うので自分用だけ) 銀板5枚
店員さんに勧められた品は以上。
「カバンはリュックを使いたいけど、教科書とかどうしようかな。捨てるしかないかぁ…」
「不要な物がありましたら、こちらで処分も、させてもらいます。色々と買い替えられる方がほとんどなので。」
もう、使う事は無いと判っていても、心苦しい気持ちにはなる。でも、仕方がない。
「じゃあ、これを処分してください。」
僕は、教科書とノートをまとめてレジの上に置いた。
「異界の書籍ですよね?」
「はい。勉学用の教科書と、こっちがノートになります。」
まあ、興味が出るのは当然です。
「もう僕には使う事は無いので、好きにしてもらって構いません。」
「あっはい。判りました。では、商品の代金をお願いします。全部で、銀貨5枚と銀版3枚です。」
買った商品をリュックに詰めても、まだまだ余裕で、断然軽くなる。
「あぁ~やっぱり軽いや。ほんと教科書ってなんで持ち歩く必要性があるのか、国に問いたいよ。電子書籍にして、タブレットの時代だろ。ってほんと、もう僕には関係ないんだけどね。」
アイザが、きょとんとした顔で僕を待っている。
「よし! 次行くか。」
「護身用の剣などは、宜しいのですか?」
レジから離れようとした僕に、店員さんが声をかける。
「やっぱり、必要ですか?」
「馬車の旅ですので、大丈夫だと思いますが、稀に盗賊に襲われたりします。あと、野獣や魔獣も出ることがあります。それに、剣を着けているだけでも、窃盗などの抑制にはなると思いますよ。」
なるほど、治安的に自己防衛は大事ってことですね。
「判りました。あとでまた、見に来ます。」
次の予定は、アイザの服屋。
武器や防具も、となりの店で扱っているのは見えていたけど、こっちは夜でもやってるので、後回しだ。
「やっと私の服ね。」
僕は組合に来る前、商店街でよさそうな店を見つけていたので、その店の前にいる。
「でも、何でここ?」
目の前の、ガラス窓から見える展示服は、メイド服と執事服。
そう、傭兵組合の道具屋でも、衣類は売っていたが、傭兵相手の作業着ばかり。
そんな物をアイザに着せるなんて、僕は許さない!
ってことで、問いに答える事無く、アイザを連れて店に入る。
「彼女に合う、メイド服を選んで下さい。」
店内には、熟練の執事だと感じさせる、50代くらいの男性と、30代くらいのメイド姿のお姉さんが僕の来店に気付いていた。
お姉さんが僕達のところにやってきて、一礼をする。
「ご来店ありがとうございます。そちらの方の服で宜しいですか?」
僕は「はい。」と頷き、アイザを前に出す。
こういう所は、オドオドしたら負ける。勢いつけないと、僕には無理!
「アイザ、ちゃんと好みも言って選んで貰ってね。」
「うん。わかった…でも、なんでここなの?」
「僕の服装がこれだし、隣に居て違和感ないでしょ。」
僕の完全な趣味だとは、言えない。
「まあ、私も嫌いじゃないから良いけど。判ったわ、選んで来る。」
僕は適当に飾ってあるメイド服の値段札を探す。
金貨1・銀貨5と表示してあった。
やっぱり結構な値段はしている。でも、ここは譲れない。
楽しそうに服を選び始めたアイザを眺めながら、僕は執事服を着た男性に声をかけた。
「すみません。男性用のシャツはありますか?」
「こちらにあります。採寸しても宜しいですか?」
僕は換え用のシャツを1枚選び、試着の終わったアイザを見に行く。
紺色をベースに白いレースが少し入った可愛い系の服は当然似合っている。
「それが好みだった?」
「うん。でも、そっちのも気になってて…」
店員さんが持っていた服を、僕に見せてくれる。
アイザが着ているのは、ロングスカートタイプでクラシック風の清楚なやつ。
店員さんが持っているのは、黒のミニスカートタイプ。
うん。どっちも可愛い。
「えっと、それぞれの値段はいくらですか?」
「今、試着されているのが、金貨1枚と銀貨2枚です。私が持っているのが金貨1枚と銀貨6枚です。」
「じゃあ、両方買います。」
「え? いいの?」
「換えは、あったほうがいいからね。それと、手袋と、ソックス、ブラウスに下着も、2着と、靴をお願いします。」
「畏まりました。」
どう、この余裕っぷり。
一度は言ってみたかったセリフ「両方買います。」
いいな俺! そして、この自己満足感、楽し過ぎる。
「ありがとうございました。」
紺のメイド服を着たアイザと店を出た僕は、達成感でご機嫌だった。
「いい買い物したね。これなら二人並んでも違和感ないし。」
「そうね。でも、視線はさっきと同じくらいあるんだけど…」
「それは、アイザが可愛いからに決まってるからだよ。視線の種類が違うでしょ。」
僕はテンションが上がっていたので、恥ずかしい本音を漏らしていた。
「なら、いいわ。…ありがと。」
換えのメイド服や、アイザの荷物を入れる旅行カバンを買うために、僕は服屋で聞いた店に来ていた。
「あった、これだ。」
僕は、厚手の革で出来た四角いトランクケースを見つける。
「ちょっとこれ、持ってみて。」
ちょっと、大きいかな。でも、思ったとおり似合う。
メイド服と濃い茶色の革のトランクケース。
定番の組み合わせです。
「ちょっと、重い。」
アイザの、持ち難そうに両手で持っている姿も定番の構図で良かった。
でも、不便なのはだめか…
僕は一回り小さいのを渡す。
「これは、丁度いいかも。」
トランクケースを持って動いて見せるアイザ。
可愛い。
「じゃ、それでいいね。」
時刻は4時前になっていた。
最後の宿探しも、商店街から見えていた大きな宿に泊まることが出来た。
少しお金が高い宿なので、施設もよく、部屋までの案内人もいた。
「では、なにか御座いましたら、お手数ですが、受付までお越しください。」
案内人が部屋から出るのを確認した僕は、ベッドに抱きつくようにダイブする。
「はぁあ、緊張した。思った以上に高級感ありすぎ。」
2つ並んだベッドのもう片方に、アイザもダイブしていた。
「ほんとよ。この息苦しさは何なのよ!」
でも、ちゃんと空気を読んでいたアイザだった。
「汗かいたから、水で流してくる。」
部屋には、専用の洗い部屋があるって言ってたな。
「ああ、じゃあ、その後で僕も、汗流すよ。」
僕はリュックから下着の換えの準備を始めると、洗い部屋からアイザの驚いた声が聞こえてきた。
「ハルトぉおー!」
ここで、部屋の扉を開けて裸を見てしまう。
なんて詰らないイベントは僕はしない。
「どうした?」
「お湯が出るよぉ~」
「おおぉー!」
素直に歓喜の声を上げる。
さすが一泊銀貨1枚の高級宿は違う。
「浴槽もあるよぉ~」
「まじかぁ~」
さらに声を上げる。
「まじめよ。」
この『マジ』って言葉に『まじめよ』って返すアイザは、マジ可愛い。
「じゃあ、浴槽にお湯溜めて、ゆっくり入るといいよ。」
「うん、そうする。あっでも、ハルトが遅くなるよ?」
正直、ツライ。早く入りたいです。でも、ここは待つのが正解だよね。
「大丈夫。地図の確認とかしてるから。」
「わかったぁ。」
ベッドに戻った僕はリュックから地図と情報誌を取り出す。
そして、日本語で、『魔王島』と『タライアス王都』とそれそれの場所に書く。
次は情報誌を開いて、道具屋の店員さんに教えてもらった、町の地図に書いてある地図記号を日本語に書いていく。
よし、合ってる。
実際に、今日行った傭兵組合と、ホテルの場所と地図記号を見比べて、合っているのを確認した。
次は、地図の町の名前と、情報誌の町の名前の文字が同じのを見つけて、情報誌のページ数を記入していく作業に入る。
これが中々、しんどい。
地図の文字を、情報誌の目次の中から探す作業なんだけど、見慣れない文字に、悪戦苦闘。
僕はいつのまにか、時間を忘れて没頭していた。
「ハルトぉ、出たよぉ~。」
お風呂を満喫したのが判るほどのヘロヘロの言葉使いになっているアイザ。
バスローブ姿のアイザは頬が赤く、顔の緊張感が全く無くなっていた。
時間を確認すると、18時を回っていた。
うん。1時間以上も入っていたら、そうなるよね。
「大丈夫か? のぼせてるんじゃないの?」
「だぁいじょぉぶぅ~。」
と言って、ベッドに倒れるように寝そべっていた。
ほんとに大丈夫なのか?
って、濡れた長い黒髪が無造作になっているし。
「アイザ、髪ちゃんと拭かないと。」
「んぅ~」
だめだ、今にも寝そうだ。
浴室からバスタオルを持ってきて、アイザを少し起こしてタオルを髪に適当に巻きつける。
「まあ、こんなものかな。」
アイザをゆっくりと寝かしつけて、僕は自分のお風呂の準備をする。
もう、アイザは完全に寝てる。
よし! やっと風呂だ。やっぱり日本人なら風呂だよね。
「おお~。蛇口もある。シャワーもある。すごいな。」
洗い室は、ちゃんとしたバスルームだった。
さすがに温度設定はなく、少しぬるめの温水が蛇口から出てくる。
もう少し熱めが好きだけど、お湯と湯船があるだけで今は十分過ぎる。
今日みたいに、お湯と湯船のある宿に泊まれる保障はないと思った僕は、念入りに体を洗い、湯船に浸かる。
あぁ~これは、長風呂になるのは判る。
温度が下がらないように、少し流し入れながらの湯船はぬるい温度もあって、心地よかった。
お風呂を堪能した僕は、下着とシャツを洗って干して置いた。
そういや、アイザの下着って…
入るときは気が付かなかった黒い塊が脱衣所の床に落ちているのを見つける。
これか?
さすがに触るのは、ダメだ。
僕は、部屋に戻って寝ているアイザを起こす。
「アイザ、起きてくれ。今日付けてた下着みたいな服ってどうした?」
「ん? 脱いで…どこだろ?」
あぁ…普段から、脱ぎ散らかす子か。
「洗い室の床に落ちてたから、洗っておいで。換えの下着は買ったけど、あれもまた使うよね?」
「換え? あぁ、服着てないよ、今。」
なに! もしかして、バスローブ一枚ってことなのか?!
「わっ、わかったよ。じゃあ、ついでに換えの下着持って、着替えておいで。ご飯食べに行くから。」
「はぁーい。」
僕はアイザを見ないように視線をずらしながら、
「それと、今日付けてた服も、ちゃんと洗って干しておいてよ。」
「わかったぁあ。」
僕は洗い室にアイザが行っている間に、ブレザーに着替えた。
「着替えたし、洗って干してきたよ。」
紺のメイド服を着直したアイザが戻ってくる。
「それじゃあ、晩ご飯に行こう!」
「はいー!」
お風呂で気分がすっきりした僕達は、テンションが上がり始めていた。
財布と部屋の鍵だけ持って、1階の飲食店に入る。
見た目は高級レストラン。宿と同じで、堅苦しそうな店だったけど、外の飲食店に行くのが面倒になっていたのと、気分が上がっていたので、僕達は席に着く。
メニュー表を見ると、コース料理らしいページがあったので、店員に確認すると、品数と料理名を教えてくれた。
うん。頼みやすいし、これでいいかな。
「アイザも、これでいい?」
「私も、それでいいわよ。」
頷く店員が、
「飲み物は、どうされますか?」
ああ~こういう時って、ワインとか飲むんだよなぁ…飲めるかな…
「アイザは、お酒飲んだことある?」
「あるわよ。」
「飲んでも平気?」
「もちろん、なんともないわよ。」
なら、僕も少し試してみるか。部屋も近いし、アイザもいるしな。
「じゃあ、ワインを1本お願いします。」
まさか、この歳で、この台詞を言うとは、思いもしなった。
僕は、ご機嫌で足がふらついているアイザを、レストランから部屋まで支えながら連れてくる。
「ほら、部屋着いたよ。」
アイザを、そっとベッドに転がす。
「お酒、弱いじゃないか…っとに。」
「ハルトォがぁ、飲まなぁあいからじゃないのよぉお。」
初めて飲んだワインの感想は、「美味しくない。すっぱ苦い。」だった。
「それは、ほんとごめん。ワインって僕の口に合わなかったようです。」
別に残しても良かったのに、アイザが、残すのは勿体無いからと、ほとんど1本飲んでいた。
ほんと、良い子。
「あぁつぅいー! 服、脱がせて。」
「はいはい。ちょっとまってね。」
僕は、アイザを起こして、背中のファスナーを下げて、丁寧に脱がせていく。
ブラウスだけの姿になったアイザはベッドに戻り、機嫌が良くなっていた。
「眠いから、もう寝るぅう。」
少し肌蹴た格好のアイザは枕に抱きついている。
そして、確信する。
僕はロリコンじゃない!
アイザは可愛いと思うし、一緒に居て楽しいとも思うけど、異性としての感情よりは、たぶん妹みたいな感情だと確信した。
「もうすぐ、21時か。僕も寝るよ。明かり小さくするね。」
アイザにシーツを掛けて、部屋の岩壁の窪みに備え付けられているランプの火を小さくして、僕は自分のベッドに横になる。
「おやすみ。」