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勇者を譲った僕の異世界生活。  作者: 紅花翁草


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結婚しました。 3

 僕達は夕食の席に座っている。

 長方形のテーブルの片面に、僕とアイザにマイジュさんとエイルさん。

 そして対面の席にユイナさんと魔王。

 

 もの凄く緊張しながらの食事になりそうだった。

 マイジュさんとエイルさんも、僕が一度も見た事のない硬い表情になっていました。


「まあ、そんなに緊張しないでくれ。二人はアイザの友人なのだからな。遠慮せずに食事を楽しんでくれ。美味いワインも用意してあるからな。」


 あっ! そうだった。


「すみません。僕はワインが苦手で、それで、『カシュラ』ってお酒が美味しかったので土産に沢山買ってきてたのですが、どこかに出す場所ありますか?」


 箱買いして、箱で収納していたので、この部屋では邪魔になるのでした。


「そうか、ならホネット。調理室に案内してやってくれ。」

 部屋の隅に立っていた執事に、隣の部屋に僕は案内された。

 調理場の端に広いスペースがあったので、お土産として買ってきたお酒を全部置いた。

 全部で10箱。1箱12本入りです。

「これが、カシュラってお酒なのですが、箱毎に少し種類が違いますのでよろしくお願いします。」

 ホネットさんが興味深そうに確認して、「畏まりました。」と言ったので、僕は5年物のカシュラを1本取り出して「僕にはこれを、今日はお願いします。」と手渡した。



 夕食はすぐに打ち解けて、楽しい食事に変わりました。

 『カシュラ』をユイナさんが気に入った事や、魔王がマイジュさんとエイルさんを、もてなす気遣いが場を和ませたからでした。

 魔王は『アイザのお父さん。』になっていたのです。

 なので、僕に対しては『娘を奪った男』って、目で見られているけどね。

 まあ、認めて貰えただけで僕は満足です。


 殺されない安心感! です。



 マイジュさんとエイルさんの飲みっぷりに、機嫌が良い魔王ことレイグリッドさん。

 話は、勇者の事とエイルさんの事になりました。


「ユイナから、勇者の薬の事は聞いた。そなたの父は残念だったな。人間の王は惨い事をするのだな。最初の勇者は、今でも記憶に残る男だった。」

 レイグリッドさんは寂しそうな表情で、ワインを飲み干していた。


「父はどんな人でしたか?」

「真っ直ぐな剣筋と剣捌きが美しかったな。あとは、潔かった。ユイナは、サムライだったと言っていたな。」

「サムライですか?」

「ああ、異世界の騎士の名らしい。剣だけの勝負だったら、互角だった。そして、それからの勇者は、そなたの父に到底及ばない者ばかりだったぞ。」


 エイルさんが、嬉しそうな笑みを浮かべている。

「そっか、お母様は優しい人ってしか教えてくれなかったけど、強かったんだ。」


「女性は強さよりも、人柄を重視しますからね。レイグリッドを選んだのもそうですし、アイザがハルトさんを選んだのも、もちろんね。」

 ユイナさんも『カシュラ』で少し酔いが回っているのか、上機嫌だった。


「そういえば、エイルさんは何故、人の寿命なのでしょうか? 半分は異世界人の血なのだから、成長が遅くなると思うけど…身体能力だけが遺伝しているのって、薬の作用なのかしら?」

 ユイナさんの疑問に同調するように、みんなが首を傾げている。


 そうだよな。可能性としは一番それがシックリくるんだけど…


「いや、魔族としての身体能力が現れるのは160歳から徐々にだから、寿命がその系統で受け継がれていたとすれば、そなたは16歳くらいから、成長が遅くなっている可能性もあるぞ。」

 レイグリッドさんの発言に、僕達は各々で小さな驚きの声を出していた。


「そんな…」

「まあ、あと20年もすれば判ることだろう。もし寿命が延びていたら、うちに来れば良い。」

 落胆するエイルさんにレイグリッドさんが慰めの言葉をかける。


「そうですよ。僕もアイザも居ますし、大丈夫ですよ。」

「なにが大丈夫なのか判らないけど、そうね、今悩んでも仕方がない事ね。」

 機嫌を直すように、グラスに入ったワインを飲み干したエイルさんだった。



「マイジュさんとエイルさんは、結婚式が終われば翌日には戻りますか? 僕はアイザの誕生日までは、ここに居ようと思っています。」


 魔王討伐隊の真意とか色々気になってるし、今年は僕と誕生日を過ごせばいいからね。


「そうですね。私は長居する理由も無いですし、戻ります。」

 マイジュさんはほぼ即答で答えたけど、エイルさんは少し悩んでいます。

「私は…アイザさんの魔法の事を、知りたいとは思っているのよね。」

 エイルさんの視線がユイナさんを見ていたので、僕もユイナさんの返事が気になった。


「アイザの魔法っていうと、神星魔法の事よね。人には扱えない魔法ですが、エイルさんなら、可能性はありますね。」


 僕達の驚きの後、ユイナさんの話で知った事は、聞けば簡単なことでした。

 この世界の神が転移者に与えた加護で、その血族なら『神に感謝し信仰する。』 『神星魔法を扱える魔力を持っている。』

 の二つが揃えば、使えるとの事でした。

 だけど、神との相性もあるので、全ての属性が使える事はないそうです。

 アイザは闇と炎の二つだけ。


「魔力量を測ってみてはどう?」

「いや、それなら1回か2回分程度の魔力を感じるから大丈夫だぞ。」

「えっ! ほんとうですか?」

 ユイナさんの発言に、レイグリッドさんが答えたので、エイルさんが大喜びしています。


「あと、マイジュさんだったか。そなたも魔力が高いな。剣士だと聞いていたが、魔法は使わないのか?」

「私も魔力が? それは魔気と言われているものでしょうか? 内なる魔力で身体能力を上げる事が出来るのですが…」

「人族には、そういう者もいるのか。興味深いな。」


 魔王が意味深な笑みを浮かべている。


「連れが神星魔法を会得のために滞在することだし、そなたも、剣の腕を鍛えてみたらどうかな。良い経験になると思うぞ。」


 面白い事を思いついた! って感じの笑みをさらに見せて、マイジュさんの返事を待っている魔王。 

 断れる訳がないですよね…



 夕食が終わって、僕はアイザのベットにアイザと一緒に横になっている。

 アイザのベットはダブルベットよりも一回り大きいベットだったので全然余裕です。

「夕食、楽しかったね。」

「うん。楽しかった。」


 夕食は、思っていた堅苦しさが無い普通の食事になりました。

 これもひとえにマイジュさんとエイルさんのおかげです。

 二人が居なかったら、『彼女の家に、結婚の承諾を貰いに行くイベント』という、重いイベントになっていたわけで…

 ほんと、良かったぁああ。


 明日、アイザと結婚する。

 だけど、普段と変わらない腕枕の中のアイザはいつも通りに見えた。

 だから僕も、いつもと同じように「おやすみ」と言って眠りについた。




 緊張の中で始まった僕とアイザの結婚式も、最後の儀式になりました。

 別の宮殿に隠居していた魔王の両親や、この城の幹部達。

 そして、マイジュさんとエイルさんが見守る中、僕は神父の言葉に応える。


「はい。誓います!」

 

 そして、神父の言葉はアイザに向けられた。

 アイザは静かに聴いている。

 純白のウェディングドレスとベールを着けたアイザの横顔を、僕は静かに見つめる。

 綺麗だと思った。だけど、やっぱり可愛いと思うことのほうが強かった。

 人で言ったら、16歳くらいで結婚するって事になるのだけど、「僕で良かったのか?」と聞く事は、アイザの想いと決断を軽率にみていることになるので、僕はアイザの幸せを一番にすると心に誓っていた。


「はい。誓います。」

 アイザの笑顔と共に誓われた言葉は、純粋無垢の少女のように、濁りも迷いもない声だった。


 そして指輪の交換を済ませ、誓いのキスになりました。

 あの時のキスは非常事態だったので、これが本当の最初の接吻になる。

 僕はアイザと向き合い、見つめ合った。


「アイザ、愛しています。」


 アイザに初めて言った「愛しています。」は僕の決意の言葉で、プロポーズの言葉。

 軽はずみな行動だった。だけど、アイザと結婚することは軽い気持ちでもないし、間違いでもない。

 これは、僕がアイザを幸せにすると決めた誓いの言葉だった。


 静かに目を閉じて待っているアイザの頬が少し赤くなっているように見えた。

 僕はゆっくりと唇を合わせる。

 


 静粛に執り行われた僕とアイザの結婚式は無事に終わり、夜の宴会までのんびりと過ごす事になっていたけど、アイザの祖父母と対談をすることになった。


 孫娘がイキナリ結婚したからね…

 初顔合わせが、結婚式なのだから仕方がないです。

 そして祖父母の希望で、マイジュさんとエイルさんも同席しています。

 人族に興味があるとのことでした。


「オイゲンヴェール・ベルフォーランドだ。オイゲンと呼んでくれ。こっちが妻のクリーストラ。」

 応接室のような部屋に集まった僕達は、アイザの祖父の挨拶を聞いていた。


 髪も顎鬚もほとんどが白髪で、皺も沢山あって見た目は老人なのだけど、身長は180cm近くあり、背筋もしっかりしていたので、「おじい様。」と呼ぶべきか迷っていたので、助かりました。

 お祖母さんになるクリーストラさんも、皺が多い白髪の女性だけど、背筋を伸ばしてオイゲンさんの隣にしっかりと立っている。

 二人とも800歳を超えていると聞いていたけど、信じられないです。


 祖父のオイゲンさんには二人の息子がいました。

 ベルフォーランド家は、魔族領の大陸を治めている三大魔族の一つで、アイザの父のレイグリッドさんは次男で、62歳上の長男が『ベルフォーランド城』の当主になっている。

 アイザの伯父さんになるベルフォーランドの現当主は、レイグリッドさんとは不仲で、城を空ける理由にはならないということで結婚式に来ない。って話はアイザから聞いていました。


 その長男の非礼を詫びる祖父母に気にしてないと伝えると、話はユイナさんとレイグリッドさんの出会いから結婚までの話になりました。


 ユイナさんが、ベルフォーランド家の領地にある森の神殿に、突如現れたところから始まり、そしてレイグリッドさんと出会い、城で一緒に生活する中で恋愛になって、結婚に至るまでの話。


 僕と違って、その当時はユイナさんは人族と同類だと思われていたので、ユイナさんとレイグリッドさんの行動を好ましく思わない人達からの妨害や嫌がらせが二人を苦しめ、追い詰めてしまった時があって、その人達の中に、オイゲンさんも入っていた事。

 そして駆け落ちした二人にアイザが生まれ、ユイナさんの寿命が魔族と同じだと知れた時、償いを込めた思いでオイゲンさんがこの城を建てて与えた事。

 ユイナさんとレイグリッドさんの結婚式をこの城で祝った事。


 アイザも知らなかった話に、僕とアイザは時間を忘れて一緒に聞き入っていた。

 同じように聞き入っていたマイジュさんとエイルさんは、魔族の世界が自分達と同じような家族や領地があり、同じように生きている事に驚いていたようです。


 貴重な話を思いがけず聞けた祖父母との対談の後は、城の全ての人達との宴会です。


 舞踏会場になっている大きな広間には50人ほどの人達が集まっていた。

 アイザは、僕と一緒に買った赤いドレスを着て、僕の隣をお嬢様のような振る舞いで一緒に歩いています。

 ユイナさんとレイグリッドさんに案内された場所はその舞踏会場を上から見下ろすような場所で、一度そこで顔見世をしてから、階段を下りて壇上でもう一度お披露目。そこからやっと広間に下りて、立食パーティー形式の宴会になる。


 僕はアイザに連れられて、集まった人達に挨拶をする度、沢山の祝福を受けた。

 アイザが、城の人達すべてに愛されていたのが凄く伝わった。

 この城に働く人達は、異世界人のユイナさんを守り愛したレイグリッドさんに感銘を受けた人達なので、同じような結婚に感無量なほどの嬉しさがあるのだと、オイゲンさんが教えてくれた。


 そんな人達なので、マイジュさんとエイルさんに対しても親しく接していて、お酒の席なこともあり、物凄く盛り上がっています。

 エイルさんは神聖魔法を習うので、その関係の人達と。

 マイジュさんは、魔王直属の騎士と剣術の稽古が決まったので、その人達と。


 僕とアイザをほったらかしで、盛り上がってます!

 びっくりするくらい馴染んでいます。



 僕はアイザと二人で静かなテラスに出ていた。

「ここの人達ってみんな良い人だね。」

「もちろんよ。」

 誇らしげに笑顔を見せるアイザは出会った時から変わらない笑顔を見せている。

 

 思えば、この笑顔にずっと救われていたんだな。

 女性として意識はしてなかったけど、僕にとって一番の存在になっていたのは、あの時言った言葉以上の事だったんだ。

 全然思い通りの人生になってないけど、後悔なんて微塵も無いし、むしろ自分が思っていた以上の幸せを得たと思う。


 もしアイザに出会わなかったら、僕は人の領地で、人と違う寿命だと知らないまま過ごし、そして気付いた時には、化け物扱いで孤独になっていたかもしれない。

 

「アイザ…」

「ん? なに?」

「異世界に来て、どうなるか不安だったけど、アイザに出会って、一緒に旅行して、そして結婚した事。本当に幸せだと思う。僕を選んでくれてありがとう。」


 いつものように笑みを見せるとおもっていたアイザは静かに俯いていた。

「それは私も一緒よ。ハルトに出会えた事、私を守ってくれた事。人の領地で不安にならなかったのはハルトが居たから。だからね、これからも私を守ってね。」


 顔を上げたアイザは、いつもの笑顔を僕に見せていた。



 そして僕達の結婚を祝う宴は、深夜まで続いたのでした。





 僕がこの世界に来てから30日目の朝。

 その短い間に、色々な事がありました。

 魔王の娘に殺されそうになり、リビエート王国の人達を助けて、ファルザ公国の元公爵の家族を助けて、温泉宿で巨大海老食べて、綺麗な花に感動して、宿で殺されそうになって、ドラゴンの背中に乗って、魔王の娘と結婚ですよ。

 ほんと、凄い体験してるよな。


 色々な人とも、出会いました。

 僕を召喚したラニューラさん。

 彼女の優しさは今でも忘れません。元気にしてるかな?

 魔王討伐の遠征隊には参加しないって言ってたから、城で過ごしていると思うけど、港町『ファルザン』に里帰りとかするのかな? 僕も数年くらいは住んでみたいな。


 傭兵の事を色々と教えてくれたデバルドさんとイザルさん。

 まさかデバルドさんの家族とも会う事になるとは思わなかったな。


 リビエート王国のサラティーアさんと王国の皆さん。

 サーリアちゃんの事はまだこれからの話だけど、僕の寿命を伝えたらどう思うのかな?

 あの国の人達はみんな良くしてくれたし、僕に出来る事なら、またなにか手伝いたいな。

 ライエさんとの約束は…うん、謝ろう。


 ファルザ公国のアラガル伯爵家の人達。

 お父さんが心配だし、あの国の事で何か出来ないかな。

 モーリストさんだったかな、あの人は悪人には見えなったし、色々とありそうなんだよな…


 露天風呂の『イストエトリア』の皆さん。

 また、泊まりたいなぁ~ ご飯も美味しかったし。


 またアイザと行こうかな。

 

 僕は3人の顔を順番に思い出していく。

 アイザから始まった出会いで、マイジュさんが一緒になって、エイルさんも加わって、楽しい旅行になっていた。

 まさか一緒に魔王城まで来ることになるなんて思いもしなかった。

 しかもエイルさんは神星魔法を習う事になるし、マイジュさんも剣術を鍛えることになったし、ほんと、この世界はなにが起こるか判らない。


 改めて人生プランの練り直しです。

 …もう自分の常識外の世界で、人生プランを決めるのは無理じゃないか?

 そうだな…大雑把な事だけ決めよう。

 そしていつも通り、一日の予定を決めて過ごすことにしよう。

 うん、そうしよう。

 

 そして僕は、腕の中で寝息を立たてているアイザの頭をそっと撫でて、もう一度目を閉じたのでした。



最後まで読んでくれてた方々、ありがとうございました。




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