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勇者を譲った僕の異世界生活。  作者: 紅花翁草


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結婚しました。 1

 突然現れた巨大なドラゴン。

 日の光で照らされたドラゴンは、黄金のような輝きを放っている。


「ハルトさん! 馬車を捨てて逃げるしかないです。 ハルトさんの足なら、アイザさんを連れて街に戻れるでしょう。」

 マイジュさんが騎手席から飛び降り、馬車の扉を開ける。

「アイザさん、エイルさん。ハルトさんと一緒に街に逃げてください。私があれを引き付けます。その間に早く!」

 エイルさんがすぐさま飛び出す。


「どうしたの? 賊がでたの?」

 その後にアイザが普段どおりに馬車から降りてくる。


 マイジュさんが騎士としての行動を迅速にしていた間、僕は馬車から数メートル先に歩き、巨大なドラゴンを見ていた。

 僕達を襲うのではなく、僕達の前に降りたという事実に僕は心当たりがあったから。


「アイザぁ~。あれって知ってる?」

「あぁあああ! こがねだぁ~! ママだ! ママが来てくれたぁ~!」

 僕の呼び掛けに、嬉しそうに答え、はしゃぎながら僕に抱き付いてきた。


 やっぱり、アイザの家族だったようです。

 丁度、アイザが嬉しそうにしがみ付いた時、ドラゴンの背から人が飛び降りるのが見えました。


「ハルトさん…どういうことですか?」

 毅然とした剣士の行動をしていたマイジュさんが、ゆっくりと僕とアイザのところに歩いてくる。


「ママって、どういうこと?」

 エイルさんは、恐る恐るって感じで、ドラゴンから目が離せないようでした。


「アイザのお母さんが迎えに来てくれました。」

「そんなのは見れば判るわよ!」

 エイルさんが僕を叱るように声を荒げる。


 アイザが魔王の娘という事を隠したままって訳には、やっぱり無理があるよな…

「アイザのお父さんは、魔王です。」

「なっ! なんですってぇー!」

 

 僕とエイルさんのやりとりをしている間にアイザは走り出し、歩いて来ていた母親に抱きしめられていた。


 ちょっと早くなったけど、アイザとの旅行は終わってしまったか…


 アイザのお母さんは、アイザがサラティーア王妃のような品格と優雅さを備えた大人になった感じで、親子だな~って納得する黒髪ロングの綺麗な女性でした。


 僕はマイジュさんとエイルさんを連れて、母親と抱き合っているアイザのところに歩いていく。

「ハルトさん、どうしてアイザさんを守っていたのですか?」

 マイジュさんの質問は、この世界の人なら当然の疑問だと思う。

「アイザは良識ある素直な子ですからね。それに…魔王も無差別に人を襲っていないって聞きましたから。」

「ですが、魔獣が人々を襲っているのですよ?」

 マイジュさんは、苦悩の顔を浮かべていた。

 僕は、その表情は納得のいく答えが足りないのだろうと思った。

「人々を襲っている魔獣って、ただの獣と同じだと思うんですよね。魔王が命令してるとかじゃないでしょう。獣の本能で、人を襲って生きているだけだと思います。」

「そうだとしても…」


 僕はこの世界の住人じゃないから、この世界の価値観を知らない。

 だから、マイジュさんが苦しんでいる事は嬉しい事だった。

 アイザと過ごした事実を、真実だと思ってくれてるって事だから。


「あのアイザが、善良な人間を殺すと思いますか? アイザは良い子です。そして、そう教育した家族が、悪な訳がないじゃないですか。」


「そうね。私のお母様も、そんな事を言っていたわ。」

 エイルさんが、遠くを見る目で僕の言葉に反応していた。


「そうなんですか?」

 今度は僕がエイルさんに尋ねる。


「ええ、魔王に挑んだ勇者は負けたけど、致命傷にならない程度で見逃してもらったって。そして、戦意を無くした者には、それ以上の傷を与えなかったって聞いてる。」


 魔王にとっては、遊びだしな…。アイザが言ってたのと同じです。


「そうですね。アイザさんはアイザさんですよね。」


 マイジュさんの表情は、いつもの冷静で暖かい笑みに変わっていた。



 僕達がアイザのお母さんに頭を下げて挨拶をすると、抱き付いたままだったアイザがやっとお母さんから離れた。

「アイザ、皆さんを紹介してくれない。」

「ハルトに、マイジュさんとエイルさんよ。」

 満面の笑みのまま、僕達を紹介したアイザは満足気に、僕の腕に手を回す。


「私はユイナ・ベルフォーランド。アイザの母です。娘が大変お世話になりました。よろしければ是非、家に来ませんか?」


 え? 家って…魔王城じゃ…

 いやいや、流石に無理でしょ。


「いえ、僕はアイザさんを家に届けるだけの予定だったし、マイジュさんとエイルさんは事情を知らずに旅行として同行して貰ってたので…また後日って事でどうでしょうか?」


 きっぱりと断るのはあれだし、日数空ければマイジュさんとエイルさんの気持ちも落ち着くと思うし、

今はこれが最善の答えだと思います。

 アイザとは、また会いたいし。でも魔王とは、今は会いたくないです!


「なにを言ってるの? 貴方はアイザの婚約者なのよ。これから結婚式を挙げるんだから。その参列者として、お二人を招待しているのよ。」


「!!!!!?」


 言葉が出ない驚きって、実際にあったんだな。

 なんて、思いながら僕は口を開けたまま、固まっていた…


 なにがどうなったら、そんな話になるの?

 俺何したの? ねぇ? …どうしてこうなったぁー!


 落ち着け俺! 今ここで取り乱したら、命に係わる気がする。

 僕の腕にしがみ付いているアイザに、気付かれたら駄目だ。

 これはもう、決定事項だ。覆す事は出来ない!

 ここはいつも通りに素直に受け入れて、平常心で対応するのが最善。

 よし! ゆっくりと呼吸をして、落ち着こう…


 無理だぁー! さすがに結婚とか、いきなり過ぎる。

  

 僕はなんとか意識を取り戻し、視界を現実に向ける。

 そう、この状況から逃げたい思いで、マイジュさんとエイルさんに救いを求めていたのです。

 

「ハルト、結婚おめでとう。」

 エイルさんが、震える体を抑えながら、笑うの堪えているのが判る笑みを浮かべている。


「友人として、出席させてもらいますね。」

 僕を助ける事は出来ないという、マイジュさんからの最終宣告だった。


「はい。是非お願いします…」


 唯一の救いは、アイザが可愛くて良い子って事だな。

 でも…結婚かぁ~。

 魔族と結婚って…ん? 寿命的に無理じゃない?

 まあ、魔族的には問題ないのかな…


 僕は開き直って、今からの事を考える事にした。

「それで、僕達はどうやって家に向かえばいいですか? 馬車が借り物なので、ここに捨てていくのは出来ないのですが。」


「大丈夫ですよ。従者の一人に、貸してくれた王族の城まで届けさせますので、安心してください。」


 ん? リビエート国王から借りたってなんで知ってるんだろう…


「リーナ、ご苦労様でした。ですが、今から馬車の返却をお願いします。」

 突如、僕の後ろに人の気配を感じて振り向くと、黒いショートヘアーに赤い目、僕より少し背が低い女性が立っていた。

 狩人か盗賊っぽいショートパンツ姿で、強調された胸の膨らみが無かったら、男性と思ったかもしれない。

 アイザも驚いているから、彼女の存在は知らなかったみたいだ。


「えっと? どこから?」

「ずっと、貴方の影の中に居ました。」


 リーナと呼ばれた女性が、とんでもない事を言ったのですが!

 影の中に潜むって、よくある話だけど、まさか自分がされてるなんて!

 これ、精神的ダメージ、想像以上の大きさです。


 僕は、確認しなければならない質問を恐る恐る尋ねる。

「えっと、いつからですか?」

「リビエートの王都に入った時です。馬車からアイザ様が降りるのを見つけた後、宿で就寝している時からです。」

 リーナさんの含み笑いが、僕の羞恥心を煽ってます。そして、全身が熱くなる。


 このまま燃えてもいいから…消えたいです。


「ほら、ハルト行くわよ。」

 ゾンビのように無気力に立っていた僕をアイザが引っ張ります。

「あ…うん。行く…」


 そして、まだ立ち直れない僕は、なんとかアイザを抱き寄せるように一緒に黄金のドラゴンの背に乗って、アイザの家に向かうのでした。

 マイジュさんとエイルさんも、もちろん僕の後ろに座っています。



 あっという間、とはさすがに無理でしたが、1時間ちょっとの空の旅で、眼下には真っ白な城が見えています。

 僕の心もなんとか持ち直し、魔王島の景色を見る余裕がありました。


 島じゃないし!

 まあ、アイザから聞いていた話から予想はしていたけど、人間側の大陸と同等、いやそれ以上の面積かもしれない。


 魔族側の大地の東側に位置する『魔王城』の正式名称は『レイグリッドゲルン城』でした。

 タライアスの城とリビエートの城はどちらも、いわゆる西洋城の造りだったけど、『レイグリッドゲルン城』は西洋城に宮殿の要素が入った感じの造りで、大きさも2倍ちかく大きい感じだった。


 巨大なドラゴンが降りる事ができる城上部のバルコニーでドラゴンから降りた僕達は、アイザのお母さんと出迎えの執事達に連れられて、部屋に案内された。


 部屋の真ん中に大きな円卓があるだけの部屋だったけど、壁を飾る装飾品が重厚で威圧的な空気を作っている。

 僕はアイザに勧められた席に座り、隣にアイザが座る。

 マイジュさんとエイルさんは執事さんに勧められた席に着いてます。

 丁度、僕達とテーブルを挟んだ場所でした。


「ちょっと待っててね。もうすぐ、パパが飛んでくると思うから。」


 アイザのママ。ユイナさんの言葉に、僕は嫌な悪寒を感じた時、文字通り、扉を壊す勢いで魔王が入って来ました。

「アイザー! やっと帰ってきたか。どれほど心配したとおもって…ん? その男は何だ?」


 あれ? パパには僕の存在、伝わってないの?


 完全に、『娘の彼氏を全力で拒否する』の睨み目になっている魔王に、僕は笑って誤魔化すという、定番返しをするのでした。


「パパ、私の婚約者のハルトよ。」

「婚約者だとぉー!」


 アイザ…もうちょっと、段階的に説明して欲しかったな。

 魔王、激怒してるんですが…


「人間の婚約者なんて、認められるか! 70年そこらの命で、アイザを幸せに出来るはずがないだろ! あぁ、そうか。俺があまり遊んでやらなくなったから、拗ねてしまったんだな。大丈夫だぞ、これからはアイザを一番に考える事にしたんだ。そんな人間と遊ばなくて良いぞ。」


「あなた! ちょっと静かにして!」

 怒っていた口調から、アイザを嗜める言葉に変わった魔王を一喝したのは、もちろん魔王の妻でした。


 魔族の世界でも、女性が強いんだろうか…

 というか、お母さんが強いのかな?

 うちもそうだったし…


「ハルトさんは日本から来た異世界人です。だから、寿命は魔族と同じはずです。」

「「「え?!」」」

 その場で聞いていた、僕にマイジュさんにエイルさん。魔王も一緒にハモリました。


「それと、今は婚約者ですけど、明日にでも結婚式を開いて夫婦になるのですよ。アイザが選んだハルトさんは、アイザが魔王の娘と知っていて、それでも助けて家まで送ってくれた優しい人なの。アイザを一番に考えて、アイザの為に行動して、アイザに指輪を贈って、アイザの心を救ったのよ。アイザの幸せを考えているなら、祝ってあげるのが父親でしょ!」


 アイザのママが、畳み掛ける言葉で魔王を討ちのめしました。

 って、どうしてそういう話を、夫婦で話し合ってないのですかぁ?

 魔王様が、膝を落としているんですが…


「そうか…アイザの一番はもう、俺じゃ無くなったのか…」


 空気が重い…

 僕が何を言っても、この重さを消すことは出来ないと思います。

 ここはアイザに頼るしかありません。


 僕は隣に座っているアイザの手を指でつつき、アイコンタクトでパパを慰めてと頼んだ。


「パパの事嫌いになってないからね。パパはパパ。ハルトはハルトで好きなの。二人とも一番だから。」


 アイザの言葉に納得したのか、魔王は立ち上がり、魔王らしい威圧感を出していた。

「そうだな。アイザの選んだ男を、信じて祝うのが親というものだったな。俺の名はレイグリッドゲルン。レイグリッドと呼んでくれて構わない。それじゃあ、俺は式の準備に取り掛かる。」


 僕は椅子から立ち上がり、頭を深く下げていた。

 今、そうするのが礼儀だと、本能的に感じたのだろう。

 部屋から出て行く魔王が居なくなるまで、僕は無言で頭を下げ続けた。


「それじゃあ、式の段取りとか色々と話し合いましょうか。」

 アイザのお母さんの嬉しそうな笑みが、部屋の空気を軽くしたので、僕とマイジュさんとエイルさんは息苦しさから開放され安堵の笑みを見せ合っていた。


 緊張感が和らいだので、僕は色々と疑問が浮かんでいたことを聞くことにした。

「あの~お母様、その前に質問いいですか?」

「あら? お母様って、嬉しい。なにかしら?」

「えっと、魔王様に僕の事を伝えてなかったのはどうしてですか? あと、迎えがこのタイミングだったのは、アイザが狙われたからですか?」

 アイザのお母さんは、少し含み笑いを見せて答えてくれた。

「だって、アイザの彼氏を見定めないとでしょ? 黙っていたのは、あの人には心配させておかないと反省しませんからね。」

 そう言って、悪戯が成功した時のような笑みを見せる。

「あと、迎えに行ったのはその通りですね。」

 

 そうだよな~。魔王が探しに来てから、音沙汰ないって今考えるとおかしい話だった。

 リーナって人が連絡係していたってことだよね。

 …お風呂一緒に入ってたこととか、筒抜けなんだよなぁああああ


 僕は、色々と頭が痛くなった。

 まあ、それはもう諦めるとして…

   

「ありがとうございます。凄く助かりました。」

 僕は深く頭を下げた。


「お母様、それでさっきの話なんですが、異世界人は寿命が違うとか、それに日本人って言いませんでした?」

「そうですね。まずそれから、話しましょうか。」



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