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勇者を譲った僕の異世界生活。  作者: 紅花翁草


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襲撃者 2

「ハルトさん!」 「ハルト!」

 マイジュさんとエイルさんが部屋の扉を開けて入ってきました。

「これは?!」 「え? 火事?」

「エイルさん、これは毒系の香煙です。窓を開けて外に出さないと。」

 マイジュさんが煙の正体に逸早く気付き、リビングの窓を開けていた。

 マイジュさんの行動を見て、僕も寝室の窓を開けに行く。


「ハルトー。風を起こすからー。」

 僕が窓を開けると、送風機のような風がリビングから入ってきて、一気に部屋の靄が晴れました。

 リビングのエイルさんが風魔法を使ったみたいです。 


「アイザ、もう大丈夫だから。」

 脱衣部屋から出てきたアイザを、僕は両手で包むように抱擁する。

 少し震えていたように見えたから。


「うん。よかった。ハルトが無事でほんとうによかった。」

 抱きしめたアイザの、硬くなっていた肩の力が抜けていくのを感じて、僕は「アイザのおかげだよ。」と、感謝の笑みを見せた。

 

 僕はアイザとリビングに戻って、起きた事をマイジュさんとエイルさんに話した。



「何が目的ですか?」

 マイジュさんが剣を抜いて、四肢を砕かれて動けない男の一人の顔に剣を突きつける。

 当然、簡単に口を割る事はないです。

 痛みを堪えながら男は黙っていた。


「あなた達は、『ノワロ』から私達の馬車を追跡していた人達ですね。」

 マイジュさんの言葉に僕は、昨日のマイジュさんの言葉を思い出す。


「もしかして、アイザさん目当てって事?」

 エイルさんの言葉で、僕は一つの出来事を思い出す。

 水の女神が祭られていた遺跡での、神官との会話だった。


「あの遺跡の神官が…」

「どういう事ですか?」

 マイジュさんに、『フォロニア遺跡』の神殿での出来事を話した。


 僕が神殿の事を話し終えた時、騒ぎに気付いた宿の執事が部屋に来たので、不法侵入された事を伝え、死体2つと生きている二人を、駆け付けた街の治安兵に渡す。

「本部に連行後、自白剤で真相を聞き出しますので、明日の朝に本部まで来て貰えますか。」

 マイジュさんが即答で「判りました。」と答えていた。



 僕は宿の執事に宿泊部屋を換えて貰い、マイジュさんとエイルさんに部屋に来て貰った。

「自白剤ってあるのですね。」

「はい。今回のように、犯罪を犯した者を処罰するのに使います。それと、私達の正当性を確認する為もありますね。」


 なるほど。だから、マイジュさんは即答してたのか。

 

「それにしても、よく催眠香煙に気付きましたね。もし、気付かずに眠りってしまっていたらと思うと…」

 マイジュさんが、辛く息苦しそうな顔を見せている。

 僕は、アイザが気付いて起こしてくれた事を話した。


「香煙の中で、どうやって我慢してたの?」

 僕は、エイルさんの言葉に「えっ?」と返事を返してしまい、考えて無かった事に、冷や汗を背中に感じていた。


 やばいです…


「えっとぉ~…気合?」

 僕は硬くなった顔を、強引に笑顔に変えてエイルさんに見せる。

「そう、耐性があるのかもね。異世界人だからなのかな?」


 なんとか誤魔化せたぁ…『異世界人』設定便利だな。


「なんにしても、明日の治安本部に行ってからですね。」

 マイジュさんの締めの言葉で、僕とアイザは寝室で寝る事にしました。

「念のため、私はここで護衛しますね。」

「じゃあ、私も一緒に。」

 マイジュさんがリビングのソファに座って朝まで居ると言ったので、エイルさんも残る事になった。


 まあ、誰を襲ったのか判らない状態だし、エイルさんだけ独りにするのも怖いからね。



 僕はベットに横になる。

 マイジュさん達がリビングにいるので、アイザは隣のベットで横になっている。

 やっぱり、気の高ぶりが収まらない。

 判っていた事で、僕は明日からの事を考えるつもりだった。


 アイザが狙われてる。たぶん、神星魔法絡みなんだろうな。

 もっと、観光とか色々したかったなぁ…

 マイジュさんとエイルさんを、これ以上巻き込む訳にもいかない。

 エイルさんと約束したし、魔王島までの観光は、アイザを送ってからやり直すしかないか…

 

 魔王島まで、残りの日数は馬車旅で20日ほど。

 ここから、南下しながら大陸の最南西の海岸を目指し、そこから海岸線に沿って北上するルート。

 大きな山脈が邪魔をして、迂回しないとならないのです。

 だけど、ここからの直線距離だけ見ると、100kmほどしかない。

 そう、たった100kmなのです。

 時速100kmで走れば、1時間で着く距離です。

 旅の途中から、僕がアイザを抱っこして走れば、数日あれば魔王島まで行けるのは、すぐに気付きました。

 馬車おっそいからね…

 だけど、アイザと旅行したいからその事は黙っていた。

 ここから100kmほど。

 さすがに、アイザを抱っこして全速力で走って、万が一にコケたら大惨事なので、時速50キロくらいで走るけど、それでも2時間。

 山脈を越えるから2時間余分に見ても、4時間ほど。

 もう、日帰りコースです。


 アイザが狙われてるって判れば、僕はそれを実行しなければならない。

 僕は不意に、さっきの事を思い出し、仰向けになって両手を伸ばす。


 軽かったな…

 魔獣の方が、もっと重たかったな…


 二人の人間の心臓を、僕は握りつぶした。

 心臓が動いてる鼓動は伝わっていたけど、その時の躊躇いも、今も罪悪感は無い。

 『守るために相手の命を奪う。』

 僕はその行動理念は、人間の本能なのかも知れないと感じた。


「ごめん、アイザ。僕の所に来てくれる。」

 隣のベットから、何も言わずに僕の腕の中に収まったアイザを抱き寄せる。

 アイザの温もりを感じ、守れた実感と安堵で、僕の心が安らいでいくのが判る。


 ああ…良かった。

 たとえ本能だとしても、命を消した重みは、ちゃんとあったよ。



 翌朝、日が出た早々に朝食を済ませ、僕達は馬車で治安本部に向かった。

 話を聞いて、直ぐに次の街に向かう為だった。

 石で出来た強固な砦が、戦争後の今は治安本部となっている。

 馬車に乗ったまま、砦門から少し進むと石壁が張り出したような建物があって、その木の扉の前に立っている兵士に止められる。

「何用だ。」

「昨晩の1時過ぎ、宿に泊まっていた部屋に襲撃された者です。賊の目的を聞きに来ました。」

 マイジュさんの返事に、兵士が怪訝な顔を作る。

「なんの話だ? 昨晩は、酒を飲んで暴れた傭兵らを連行しただけだったぞ。」


 騎手席に座っていた僕とマイジュさんは顔を見合わせる。

「あの治安兵も仲間だったって事でしょうか?」

 僕の言葉にマイジュさんが同意の頷きを見せる。

「その可能性が大きいですね。ですが、ここの隊長から確認だけはしておきましょう。」

「そうですね。 連絡ミスとかかも、しれませんしね。」

 マイジュさんが隊長クラスの人物と話をしたい事を兵士に伝えると、承諾してもらえました。


 馬車の中にいたエイルさんとアイザに説明した後、馬車を端に寄せ、僕達4人は木の扉を開けて詰め所に入る。

 詰め所には、10人ほどの鎧姿の兵士が雑談など、緊張感が感じられない姿で寛いでいた。


「用件は何だ?」

 受付台のような場所に居た兵士が、マイジュさんに雑な言葉を投げる。

 マイジュさんは横柄な態度に気にしない様子で傭兵カードを見せて、昨晩の事を話した。

「知らないな。」


 予想通りの兵士の返答から始まったやり取りは、この砦の最高責任者だという騎士まで話を通したけど、やっぱり答えは変わらなかった。


 これ以上は無駄だと判断した僕達は馬車に戻り、砦を出た。

「マイジュさん。取り合えず、次の街を目指しましょうか。」


 疑い始めたら、切りがなかった。

 治安兵が嘘をついている可能性…

 部屋に来た治安兵が襲撃犯の仲間の可能性から、宿の執事も関与している可能性…

 そして、治安悪さから、この街全ての人間を疑いだしていた。


「この街に居ること自体が、危険な気分になってきました。」

「そうですね。相手が判らない以上、この街にいるべきではないですね。」

 マイジュさんも同じような危機感を感じていました。

 なので昼食用のお弁当を買って、僕達はすぐに街を出て、次の街『ラング』を目指した。



 僕は4人での馬車旅が最後になる寂しさを、嚙み締めながら馬車に揺られていた。

 街道を2時間ほど走ると、荒地だった周囲は大樹が並ぶ森の中になる。

 前後に馬車は無く、襲撃される心配は無かったけど、魔獣が頻繁に出始め、感傷に浸る事が出来なくなっていた。

「これで、5匹目。ここの森は単体行動が多いのかな?」

 森に入ってからの魔獣遭遇は、全てが1匹ずつだった。


「そうかもしれませんね。出会う魔獣もトカゲ系の大型のものばかりですし、群れで行動しないのかもしれません。」

 マイジュさんもトカゲ系は初めて見るのが多いらしく、馬車の運転に、いつもより緊張感が伝わってきます。


「なっ! まさか!」

 マイジュさんが声を発しながら、車輪に繋がっているブレーキレバーを突然引き、嘶きを上げる馬を手綱で押さえて馬車を急停止させた。


 マイジュさんが馬車を止めた理由は、一目瞭然でした。  

 僕達が進む前方の街道の上に、巨大なドラゴンが空から降りたのだった。



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