晩餐会 2
神殿の白い石と同じ物を使っているのだろうか? 広い真っ白な玄関ロビーからエントランスまで、沢山のランプで淡く照らされていた。
年配の、執事長らしい男性に案内されて入った部屋には、すでに伯爵家の人達が居ました。
それと、パナティアさんの友人達も十数名ほど居ました。
皆さんは立って僕達を迎えています。
椅子はテラスと、部屋の壁際にあるくらいで、壁際に並んだテーブルには沢山の料理が置かれています。
今日の晩餐会は立食パーティー形式だとすぐに判りました。
「今日はお招きいただき、ありがとうございます。」
マイジュさんとエイルさんから教わった挨拶をイデリアス・サイズン伯爵にしました。
礼儀として、ちゃんと覚えていかないとな。
いつまでも、『異世界人だから』は通用しないからね。
「よく来てくれた。ここに集まった者達は、君達に会いたいと願った者ばかりだ。堅苦しい挨拶はこれで終わりにして、今からは食事を存分に楽しんでいってくれ。」
僕達の紹介を、伯爵自身からしてくれて立食パーティーが始まりました。
僕とアイザは、礼儀的に一番に挨拶をすべきデバルドさん夫妻のところに行きます。
「今日はありがとうございました。明日に出発する予定ですので、こうやって挨拶に来れて良かったです。」
「そうか、またこの街に寄る時は屋敷を訪ねてくれ。俺が居なくても妻や娘、それに親父が喜ぶだろうからな。」
「その時は必ず行きます。」
デバルドさん夫妻との挨拶を終えた僕達は、料理の並んでいるテーブルに向かった。
僕もそうだけど、アイザが食べたそうにしてるからね。
お酒は『カシュラ』を取って、テーブルの料理を口に運ぶ。
スプーンの中に盛り付けられた料理に、金属の爪楊枝を刺したお肉や、フォークに刺さっている果物など、一口で食べれれるようになっている料理をアイザと感想を言い合いながら楽しく食べていく。
マイジュさんとエイルさんも、ワインを飲みながら楽しんでいるようです。
デバルドさんの一人娘のパナティアさんが、友人だと思われる女性二人を連れて来ました。
「ハルトさん、アイザさん。少しよろしいですか?」
僕は「はい。」と挨拶を返す。
パナティアさんが連れて来た女性は、学院の親友でした。
「まさか本人に会えるとは思っていませんでした。」
「ん? ラッツからの時に会っていませんでした?」
あの貴族の女性達ではなかったけど、確か別の馬車の乗客だった覚えがあった。
「いえ、あの時は噂の方だと知らなかったのです。」
「え? うわさ? なんだろ…」
巨大海老? 落選勇者? ファルザ公国の騒動?
思い当たる事が多くてどれか判りません…
「サラティーア王妃様とアクセサリー店に買い物をしていた人物です。」
あぁー! それかぁああああ!
そりゃ、大事件ですよね!
二人の女性は、リビエート王都で暮らしているとの事で、その噂を聞いていたのでした。
結構な事件として広まっていたようです。
リビエート親子の勇者訪問の事は機密事項なので、僕とリビエート王妃達との関係も、公に出来ない話になっていたから『誰なんだ?』ってことでした。
もちろん、親友二人もその辺りの事は知らないけど『僕がその人物』という事だけをパナティアさんから教えて貰ったそうです。
パナティアさんの小声の謝罪がありました。
ちょっと口を滑らしてしまったのだと…
で、あの貴族達の遠巻きに見る態度にちょっと納得です。
リビエート王妃直々に、相手する人物ですからね!
「もし、よろしければ友人としてお付き合いさせてくれませんか?」
二人の女性から、突然の言葉でした。
「ん? 友人ですか?」
僕は友人になるという意味が良くわからなかった。
一緒に旅行に行く訳でもないし、次会う事もなさそうなんだけど…
僕はどう返事をすれば判らなかった。
「ハルトさん、彼女達のいう友人とは、結婚相手の候補として指名しても良いですか? って事ですよ。」
少し笑っているパナティアさんに、僕は「は?」っと間抜けな声を出していた。
咄嗟に僕は、アイザを見る。
その表情は変わらずで、不機嫌な様子は無かった。
「えっと、結婚相手の候補の指名って、どういうものなんですか?」
「そうですね、彼女達は貴方と会う為の許可を下さい。ってことです。そして品定めさせてくださいってことですよ。」
パナティアさんの説明でなんとなく理解は出来たので、僕は承諾しました。
「「ありがとうございます。」」
二人は嬉しそうに喜び合っていました。
そして僕とアイザは、彼女達の自己紹介を聞きながら、一緒に食事をしました。
パナティアさん達と入れ替わりに来たのは、ホネットさんとあの貴族でした。
「俺の親友のオルセントです。少し失礼な態度を見せていたようで私からも謝罪します。」
身分的に上な二人の男性が頭を下げています。
「判りましたから、頭を上げてください。」
僕は話をする前に、頭を下げるのを止めて貰った。
「僕の見た目や、僕の言った事に対する態度なので全然気にしてませんから。」
実際に思っていた事だったので頭を下げられる方が辛い。
「ありがとう。彼は良いやつなんだけど、感情を隠すのが下手なのですよ。」
初対面の僕ですら気付く程なんだから、直らない性格なのだろう。
僕の思い出し笑いを、承諾の笑顔と受け取った二人は笑みを浮かべていた。
それから、オルセントさんの恋人達の紹介になって、魔物になった男性の話になる。
元恋人だったその男性は、同じ学院にも通っていて、皆さんとの面識もあったけど…
剣術は上位10位前後。学力は中の上。性格も温厚で真面目な青年で、数日前のような言動をする人では無かったとのことです。
結婚式に乱入した理由は、ホネットさんを倒して強さを見せようとしたらしく、実際に以前とは比べられないほど強くなっていて、均衡した強さを見せてはいたけど、不満を叫んで、小瓶の液体を飲んだら魔物になってしまった。
話を聞いて僕が思い付いた事は、『ドーピング的な薬物を追加で服用して、許容範囲を超えて魔物化した。」だった。
「その男性って、薬物とかの研究とかしてたりしますか? 家族とかでも。」
僕の質問に答えたのは恋人だった女性でした。
「いえ、幼馴染だったから判りますが、彼も彼の家族も、そういう研究などに係わっていませんでした。」
「第三者が係わっている。という事ですね。」
「まあ、その話は俺達が調べている。何か判ればリビエート王に報告するから、今は楽しい話をしてくれ。主賓がそんな難しい顔してると、親父や妻が心配するからな。」
背後から来たデバルドさんの指摘に、僕は謝罪の為に頭を下げてから、笑みを作って見せた。
「そうですね。楽しい話をしましょう。」
「マイジュと彼女は、結構出来上がってるぞ。」
デバルドさんが笑いそうになっていた。
「マイジュの気が抜けた姿は、見たこと無かったからな、彼女の影響なのだろう。」
マイジュさんとエイルさんは、パナティアさん達と食事を楽しんでいました。
「やっぱりエイルさんの影響だったのですね。お似合いですよね。」
「あぁ、…そうだな。気心が知れた仲ってのは、大事にしないとな。」
僕とアイザはマイジュさん達と合流して、イデリアス伯爵やリープラさんから、歴代の勇者の噂話や逸話とか、デバルドさんの若い頃の話とか、色々な話題で楽しい晩餐会を過ごしました。
時刻は21時を回っていた。
2時間くらいだと思っていた晩餐会は3時間近くになっていた。
「名残惜しいが、夜も遅くなってしまった。今日は久しぶりに楽しい時間だった。」
イデリアス伯爵の挨拶で晩餐際はお開きになり、僕の最後の挨拶は、改めて伯爵に明日発つ事と部屋の感謝を述べました。
宿に戻ると22時前になっていた。
「明日は9時くらいに出発ですからね。」
僕は、ほろ酔い状態のエイルさんに念を押します。
国境を守る砦の街『カロライ』を越えて、バラージュ国に入って最初の街『シュラブ』まで6時間。
久しぶりの長時間移動です。
「判ってるから大丈夫よ。なので、私は今から寝ます。おやすみハルト。」
そう言いながらエイルさんは僕を捕まえて、頬と頬を合わせる挨拶をしました。
エイルさんの挨拶に戸惑いながらも、「おやすみなさい。」と返事を返し、部屋に入っていくエイルさんを見送る。
もう完全に弟扱いじゃないか?
「僕たちも寝ますね。」
ちょっと笑っていたマイジュさんに照れ笑いを返し、僕とアイザも部屋に戻って寝たのでした。
もちろんアイザを腕枕して、その暖かさを感じながら。




