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勇者を譲った僕の異世界生活。  作者: 紅花翁草


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晩餐会 1

 僕はアイザの温もりと重みで、今日も目を覚ます。

 初日は、アイザが先に寝ていたから隣で寝ていただけだったけど、次の日から一緒に寝る時に腕枕して寝る事になった。

 そして寝相が良いのか、今日も朝になっても寝た時の状態です。


 家族が恋しいのかな?

 添い寝をしたとき、凄く喜んでいたし直ぐに寝たし、今も幸せそうな顔してるし…

 もう少し寝かせてあげたいけど…

 僕は、アイザの小さな寝息を聞いていた。


 でも、そろそろ時間なので意を決して、僕はアイザの頭を撫でる。

「アイザ朝だよ。一緒に起きる?」

 もそもそと、胸の上にある頭が動きだす。

「ん…起きる…」

 アイザが横に移動したので僕は体を起こすと、軽い筋肉痛のような感覚が全身にあった。


 これは、添い寝でなったのかな…

 でも昨日は無かったし…そうか、昨晩のエイルさんとのダンスレッスンだ。


 夕食の後、またエイルさんとダンスの練習をしたのです。

 お酒の入ったエイルさんとのダンスは、30分くらいずっと踊っていたので、それかもしれない。

 全身の筋肉痛だしね。

 

 僕はその時のことを思い出して、体が熱くなる。

 手を背中に回してのダンスを教わり、密着するほどの距離でエイルさんと踊った。

 というか、胸だけはもう密着していると言ってもいいほどでした。

 エイルさんからはお酒で体温が上がっていたのせいなのだろうか…甘い匂いがしていた。

 僕には刺激が強すぎです。

 エイルさんは楽しそうに踊って指導していたけど、胸と匂いで僕はそれどころではありませんでした。


 はあ…エイルさんって僕をからかっているのだろうなぁ~

 マイジュさんもアイザも何も言わないし、僕も嫌じゃないから嬉しいのは嬉しいけど…

 平静を装うのが辛いです。

 それにしても、アイザに対しては、逆になんで緊張とか胸の高鳴りとか無いのだろう…


 僕は、隣の下着姿で横になったままのアイザを見る。

 うん。可愛いです。


「ハルトぉ~、どうしたの?」

 僕の視線に気付いたアイザが体を起こした。


「ん? アイザは可愛いなって見てただけ。」

 と、僕がそう言ったらアイザが僕の太もも辺りを枕にして抱きついた。

「そんなの、当たり前でしょ。」


 顔は見えないけど、喜んでいるのは判る。

 こういうところとか、本当に可愛いんだよなぁ~


「あ、もうそろそろ朝食の時間になる。アイザ着替えてリビングに行くよ。」

「はぁ~い。」


 『着替えさせて』と、いつもの格好になったので僕は今日もメイド服を着せる。

 今日は、アイザのドレスや下着を買いにいく約束なので、アイザもいつもより浮かれているようだった。


 リビングにはマイジュさんが既にソファに座っていました。

 エイルさんはまだ来てません。そして昨日と同じで、朝食の準備が終わった頃に部屋から出てきました。


 ここ数日で判った事。

 エイルさんはお酒は強いけど、朝は弱いのでした。



 朝食も終わって、僕とアイザで買い物に出かけようとした時、扉を叩く音がしました。

「失礼します。」

 従業員の制服(メイド服)を着た人が扉から入って来て、鉢合わせの形になった僕とアイザに深々とお辞儀をしています。

 それに釣られて僕も頭を下げる。


「すみません、ハルト様宛に手紙が届きました。」

 ほぼ同時に頭をあげたメイドさんの言葉に僕は、「はい、僕です。」と小さく手をあげる。


「しっ失礼しました! こちら、イデリアス・サイズン伯爵様よりお預かりしました。」

 メイドさんから手紙を受け取る時、少し息が荒いことに気付いた。


 走ってきたのかな?

 

「ありがとうございます。これって、急ぎの返信が必要だったりします?」

「はい。いえ、急ぎでないですがロビーで使いの者がお待ちしています。」


 気を使って言い直したみたいだけど、急ぎだなこれ。


 僕は封がされている手紙を、テーブルでまだ食後のお茶を飲んでいるマイジュさんに掲げて見せる。

「伯爵から返事待ちの手紙が来たみたいです。」

 僕はアイザを連れて、さっきまで座っていたテーブルに戻りました。


「そうだ、執事さん。手紙を持ってきてくれた彼女に飲み物をお願いします。」

 僕は席を立ち、当然遠慮しているメイドさんをソファに座らせます。

「僕達が手紙を確認している間、ここで休憩していてください。遠慮は駄目ですから。」


 僕はテーブルに戻って、マイジュさんが読み上げる内容を聞きました。

 今日の夜、伯爵家での晩餐会のお誘いでした。


「どうします?」と、一応僕は聞いてはみる。


 伯爵からの誘いを断るのは、それ以上の重要な用件がなければ断れないのは判っています。

 だけど僕は最後の夜だから、この部屋でのんびり過ごしたいのです。

 明日には出発する予定だったので、部屋を手配してくれた伯爵に、昼から挨拶に行くつもりだったのが、晩餐会でお礼を言う。

 って事に変わるだけなんだけど…


「伯爵家、だけとの会食ならなぁ~。あの貴族達も居るんだよなぁ~。」

「どうしてそこまで毛嫌いするの?」

 エイルさんの問いに、僕は脱力のまま答えました。

「いえ、毛嫌いは無いのですが、気を使うじゃないですか。伯爵家の人達にはもう、気取ったりする必要ないですし…寛げないじゃないですかぁ~」


「伯爵家に対して、それもどうかと思いますけどね。」

 マイジュさんがツッコミを入れてくれました。


「ハルトなんだから、いいんじゃないの?」

 アイザのフォローでエイルさんとマイジュさんが笑っています。


 アイザは僕の事を判ってくれてるから好きです。

 やっぱアイザは可愛いなぁ~

 って、いつまでも拗ねてても始まらないのは判ってます。


 僕はテーブルにうつ伏せ気味だった背筋を戻す。

「まあ、部屋のお礼を言いに行くつもりだったし、晩餐会行きますか。」


 

 僕とアイザは、手紙を持ってきてくれたメイドさんと一緒にロビーに向かいました。

 出かけるところだったので、直接返事を言う事にしたのです。

 もちろん、返信の手紙をマイジュさんに書いて貰って、それも渡します。


 伯爵家からの使いの人に手紙を渡して、僕は参加の意思を伝えた。 

「では、ハルト様。夕刻18時に、お部屋までお迎えに参りますので宜しくお願いします。」


 使いの人を見送った後、僕はアイザと商店街に向かって歩きだす。

 ちょっと憂鬱な気分になったけど、アイザの買い物を楽しみにしている笑顔を見て、僕は気分を戻すことが出来ました。

「それじゃあ、色々買いにいこうぉー!」


 女性服専門の店を見つけたので、ドレスと下着をじっくり選んで買った後、僕は家具屋で椅子とテーブル買いました。

 それから、商店街を色々と探索しながら、大きめの水筒とカップも揃えました。

 そうです。馬車の外でお弁当を食べる為のアイテムです。

 あとは医療品関係も多めに持っていた方が良いとマイジュさんが言っていたので薬屋に寄りました。


 この世界には薬という物は1つしかないのでした。

 所謂、万能薬。

 液体で瓶に入った、見た目はゲームに出てくるポーションそのままです。

 病気系はこれで治るそうで、僕が最初に買った医療セットの中にも入っています。

 だけど1種類といっても、性能で5段階あって、医療セットに入っていたのは一般的なDランク品で、食中毒や軽い感染症までならすぐ治る物でした。

 で、今回買うのは最高のAランク品で1個が金貨1枚します。猛毒などのほとんどの病気を即効で治すそうです。


 僕はアイザと一緒に、小さな店構えの扉を開けました。

「いらっしゃいませ。」

 売り場に一人だけの店員さんは僕と同じくらいか、アイザくらいの女の子でした。


 店も店員さんも小さいけど商店街唯一の薬屋で、もちろん国が認めた公認店です。

 薬が万能薬5種しかないから、この広さで十分なのは見て判ります。

 薬以外は、包帯系や傷薬系の外傷用があるだけでした。


「Aランクの薬を20個とBランクの薬を20個貰えますか。」

「20個ですか?! 少々お待ちください。」


 驚く店員さんを眺めながら、僕は気恥ずかしい気分になってます。

 自分でも、買い過ぎの自覚はあるのでした。


 店員さんが座っていたカウンターの後ろの戸棚から、数を確かめながらカウンターに並べていく。

「もし差し支えなければ、どのようなご利用か教えてくれませんか? 重大な流行病とか、猛毒系の災害とかなのでしょうか?」


 ああ~そういう話になるよね…最初に理由を話しておくべきだった。


 僕は、気恥ずかしさを更に上乗せして、小さな店員さんに説明しました。

「それは、懸命な判断だと思います。ここまで多く買う人は居ませんでしたけど。」

「それについては、僕も思っていました。でも、何があるか判りませんからね。」

 僕は笑って答え、恥ずかしさを笑い話に変えた。


「そうですね。バラージュ国は、薬を薄めて売ったりすると聞いています。道中で買い求めるのは正直お勧めしません。」


 流石にその情報まではマイジュさんも知らなかったみたいで、初めて聞きました。


 それから、傷薬と包帯も多めに買って店を出ました。


「丁度いい感じで、お昼ご飯だね。」

 僕はアイザと手を繋いで歩きながら、飲食店探し始める。

「ハルト、あれがいい。」

 アイザが指を指したのは大きなグラスに2本のストローが刺さったカップル用のジュースです。


 まさか…あれも勇者の誰かが伝えたのか?


 その店は『幻夜蝶』目当てのカップル観光客を集客しているだけあって、店の造りや雰囲気が良い店だった。

 独りで入るには勇気がいる店です。

 

「ご注文は何にしますか?」

 注文を聞きに来たウエイトレスに、僕はカップル用のグラスを指差す。

「あの二人用の飲み物ってどれですか?」

 メニュー表を開いて訊ねる。

「えっとですね、単品だとこちらになります。あと、こちらの二人用コース料理にも入っています。」

「じゃあ、二人用コース料理をお願いします。」

「はい、承知いたしました。」


 もう、聞くことに慣れました。

 日本に居た時は、聞く事が恥ずかしいと思っていた自分がいて、無難で知っている物だけを注文していた。

 所変わればなんとやら…だな。



 宿に戻ってダラダラと18時まで過ごし、時間どおりに朝と同じ使いの人がやってきました。

 そして、用意された馬車に乗って伯爵家に向かいます。


 アイザは早速、今日買ったドレスを着ています。

 真っ赤のドレスに、黒い薔薇と黒のフリルで、大人感があるけど可愛いらしさもあるドレスです。

 

 だけど、エイルさんはいつものドレス姿です。

 どうして着ないのか聞いたら、親しい友人用だと言っていました。

 まあ、なんとなくその理由には納得です。

 男性の視線を集めすぎるからね…

 

 馬車に揺られて、10分ほどで伯爵邸に着きました。

 大きな屋敷の前には数人の使用人達が待っています。

「出迎えまである…」

 僕は重すぎる待遇に、早くも挫けそうになっていた。


「ハルトさん、伯爵にとっては普段から行われている日常的な接客ですから、気にしないでいいですよ。」

 マイジュさんが僕の落ち込んでいる理由に気付いて励ましてくれました。


「ご飯食べるだけでしょ。気を使う方が失礼になるわよ。」

 アイザがもっともらしい事を言ってます。


「そうだよな。アイザありがと。マイジュさんもありがとうです。」


 馬車は邸宅の正面で止まり、使用人の一人が馬車の扉を開ける。

「皆様、お待ちしておりました。」


 馬車から降りた僕たちは、開かれた大きな扉を通ってサイズン伯爵邸の屋敷に入りました。


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