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勇者を譲った僕の異世界生活。  作者: 紅花翁草


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古都『ノワロ』 3

「デバルドさんは、ハルトと、その人の旦那さんと、どっちが強いと思ってるの?」

 アイザが爆弾を投下しました。

 その質問は駄目なやつです…


「ん? そうだな、剣術に関してはホネットだが、身体能力でハルト君の圧勝だろう。」


 アイザがご機嫌な笑みを浮かべています。

 アイザが喜んでくれるのは嬉しいけど…今はそうじゃないと思います。


「お父様! ホネットは騎士団の中でも上位の実力だと仰ってたじゃないですか。それを圧勝だなんて、信じませんわ。」

 ほら…こうなりました。


「デバルドさん、わざと言いましたよね。」

 デバルドさんの笑い声が返ってきました。


「ハルトはどうして、頑なに断るの?」

 エイルさんの質問にアイザも頷いています。


「いやほら、僕の力って異世界人特有の反則みたいなものだから、比べるものじゃないと思うのですよね。それにあれですよ、結婚したばかりの人を倒すのって気が引けるじゃないですか。」


「ハルトさんそれ、『まったく相手にならないから戦う意味が無い』と言っているのと同じですよ。」

 マイジュさんのツッコミに僕は「あっ!」と、声を上げていた。


 ここまで、傍観者だった伯爵の、大きな笑い声がテラスに響きました。

「さすが、デバルドが認めた男だ。もう、パナティアも判っただろう。」

「はい。お父様が言っていた通りの人でした。」


 僕は理解出来ない状況に、唖然となる。

 そして、そんな僕に伯爵様が事の経緯を教えてくれました。


 僕の話をデバルドさんがした時から、パナティアさんが婚約者と試合をしたいと頼んでいた。

 だけど、僕の性格を知っていたデバルドさんが、受けないから無理だとずっと言っていたとのことでした。

 で、実際に街に来たから直接確かめるって話だったみたいです。


 でも、それだけで、ここまで笑われるのはなんでなのだろう?

 どうも腑に落ちないです。


「ええ、判りましたわ。では、お父様と試合をしてみて下さい。お父様でしたら、ハルトさんに負けないですよね。」

「ああ、負けはしないだろうな。だが、ハルト君はどうする?」

「そうですね。2刀流の斧を試したいとは思ってましたし、デバルドさんなら良し悪しを見てくれると思うので、僕からお願いしたいくらいです。」

 デバルドさんに、僕は席に座ったまま、頭を下げた。


「ああ、できる限りの事はしよう!」

 パナティアさんの含み笑いが目に入り、僕はこの時、誘導されたことに気付いたのでした。



 翌日に、この街にある騎士団施設で試合をすることになりました。

 そして部屋に戻って僕は、パナティアさんの策略に嵌ったのかと、マイジュさんに尋ねてみました。


「たぶん、最初から目的はそれだったようですね。しかも、パナティアさんだけじゃなく、イデリアス伯爵の思惑が最初かも知れないですよ。」

「え? どういうことですか?」


 マイジュさんが少し困った顔をしてます。

「イデリアス伯爵がハルトさんの実力を見たいって、話からだと思いますよ。 なので、孫婿との試合を仮に受けたとしても、そのあとでデバルドさんとの試合をさせるつもりだったのでしょう。ハルトさんの性格なら、デバルドさんからの誘いは断らないと見込んでいたのでしょう。まあ、私はそんな気はしていました。」


 たぶん、マイジュさんも同じような事があったのかも知れない…


「ハルト、お風呂入るわよ。」

 アイザに促された僕は、話を切り上げてアイザの後を追って部屋に入る。


「今日は、一緒に入るから後で来てよね。」

「ん? 判った。10分後くらいでいい?」

 「うん。」と返事をしたアイザが、バスルームに入って行く。


 まあ、ここの浴槽が二人入っても余裕あるほど大きい浴槽だったけど…

 判らない! まったく判らない…

 拒否するのは間違いだと判っている。家族としての常識なのだと判っている。

 だから僕は、多少の疑問はあるけど断らないのです。


 二人分の着替えの準備を済ませた僕が浴室に入ると、嬉しそうに湯船で待っていたアイザがいました。

「おまたせ、アイザ。」

「今日は私が背中を洗ってあげる。」


 そういや試合をする話辺りから、ずっと嬉しそうにしてたかも。


「ありがとう。じゃお願いします。」

 背中を洗っているアイザから、微かに鼻歌が聞こえてきます。

 

 これは明日は、ちょっと頑張らないとだなぁ~

 僕はなんとなく、そう思ったのでした。

 


 リビエート王国の西の国境を守る街『カロライ』はここから2時間ほどの場所にある。

 なので、『戦王』が滞在するこの地は兵士育成の拠点として、充実した施設と騎士団がありました。

 ってことで、僕とデバルトさんの試合は大勢の兵士達が見守る闘技場で行われています。


 ここまで、大事になるとは予想していません。

 

「完全に見世物になってますよ、デバルドさん。」

「まあ、それについてはすまない。親父がハルト君の事を、ここの騎士達に話していたからな。当の親父も特等席で見ているしな。」


 伯爵様は、僕とデバルドさんのすぐ隣で、試合の審判役をしています。

「こんな面白い事を観覧席で見るのは勿体無いだろう。」


 アイザ達やパナティアさん達は普通に観覧席から見ています。


「それでは、ルールを確認するぞ。」

 伯爵の言葉に僕は、「お願いします。」と返事をする。


「一撃でも、武器が体に当たった時点で終了とする。尚、頭と胴体への攻撃は禁止だ。手か足の四肢だけとする。」


 腕や足なら、騎士団にいる治癒魔法士がすぐに直してくれるとの事で、さすがに致命傷になる可能性がある頭と胴体は危ないから禁止って事です。


 まあ、普通に考えたら僕の全力の攻撃や、デバルドさんの攻撃を一般の人が受けたら、足や腕に攻撃したとしても致命傷なのだけど、傭兵ランク『A』の実力には、身体強化が必須事項になっているのです。


 以前、僕の防御力についてマイジュさんとエイルさんとで話した時でした。

 岩を砕くほどの素手の殴りで、僕の手が潰れなことに疑問を持っていたので、エイルさんやマイジュさんはどうなのかと聞きました。

 その答えは、エイルさんは魔法での身体強化(魔法士としての話)で、マイジュさんは魔気で身体強化をしていると教えてくれました。

 で、その時にエイルさんが驚きと興味津々で話が脱線してしまい、僕の話に戻るのに少し時間がかかったのだけどね。


 僕のは、発動条件や状態から、マイジュさんの魔気と同じようなものだと結論付けはしたけど、似て非なるものってことを付け加えてました。


 魔気を感じる事が出来なったからね。


 マイジュさんは体の中にある魔気を気のように張り巡らせる事で、身体強化を得ると言っていました。だけど僕はそんな感覚もないし、そんな風にしなくても同じように強化出来るからです。


 マイジュさんも僕も、もちろんエイルさんも、針で皮膚を突けば血が出ます。もちろん痛いです。

 で、マイジュさんは魔気を使うと、針は刺さらず、針の方が折れました。

 

 じゃあ僕はというと、気合を入れたりとか、緊張したりとか、力を込めた時とか、恐怖を感じた時とか、検証の結果、アドレナリン的な気持ちが昂ぶっている時ほど、防御力が高くなることが判りました。

 まあ、そうじゃないと、身体能力が上がった筋力に、体が耐えられないからね。

 異世界人の基本特性ってことなのだろう。

 ちなみに、コソコソと話をした結果、エイルさんも僕と同じ体質だったので、遺伝するみたいです。


 そして、こっちの世界の身体強化と違う点がひとつ。

 物理耐性と筋力アップは同じなのだけど、その上限が段違いな事と、僕のように人の運動能力を超えた動きは出来ないということです。

 もの凄く早く走ったりとか、高く飛んだりとか。


 ということで、僕は防具が無くても、デバルドさんの攻撃を最悪、骨折程度に済ませる事が出来て、全身鎧装備のデバルドさんも僕の攻撃を受けても、骨折程度で済みそうなのです。



「では、構え!」

 伯爵の合図で、僕とデバルドさんは互いの距離を取る為に少し離れる。

 僕は2本の斧を『インベントリ』から取り出し構えると、白銀に光る斧に観客者達から、どよめきのような声が聞こえました。


 対するデバルドさんは、いつもの黄褐色の鎧に銀色の片手剣と長方形型の小型の盾を構えています。


「始め!」

 先手必勝! 僕は合図と同時に踏み込み、一瞬で斧が届く距離まで詰める。

 そして、攻撃すると見せかけて、左に回りこむ。

 僕に追尾するように体を捻り、盾を突き出すデバルドさんの盾を左の斧で叩き、右の斧で盾を握っている腕を狙いにいった。

 だけど、右の斧は、初撃の衝撃に耐えた盾をずらして受け止められる。

 刹那。

 デバルドさんの剣の突きが僕の肩を狙ってきたので、それを左の斧で受け止める。

 そこから始まったデバルドさんの連撃を僕は2本の斧で受け止めながら、返す剣に合わせて斧で攻撃を試みるが、盾がそれをことごとく遮る。



 僕は一度距離を取って、仕切り直すことにしようと後方に跳躍したけど、デバルドさんの突進のような追撃に、一呼吸ほどの時間しか取れなかった。


「なら、これはどうですか!」

 僕は緊張感と集中力を1段階上げてオルザさんの連撃を繰り出した。


 体を捻りながら左右の斧を回すように高速で撃ち振るい、デバルドさんを盾ごと押し戻す。

 そして、前に残った太ももを狙い斧を振りぬく。

 が、その攻撃を剣の刀身で阻まれる。

 僕は横にステップし、背後から横からと、攻撃を試みるが剣と盾で全て受け止められていた。

 でも、デバルドさんからの反撃が殆ど無い。

 もう少し速度を上げれば勝てると判断した僕は、深く呼吸を吸い込み、意識をさらに集中して、連撃を加速させる。


 僕が今出来る最高速度の動きだった。

 息を止め、肉体を最速で動かす為だけに全神経を使える時間は、7か8秒程度しか続かない。


 相手を翻弄するように体を振り、加速した僕の動きにデバルドさんの盾が間に合わなくなる。

 そして、僕はデバルドさんの盾を斧で撃ち飛ばした。


「そこまで!」

  伯爵の言葉で、僕とデバルドさんは動きを止めると、ずっと静かだった観覧席から拍手が沸きあがった。


「二刀流の斧はどうでしたか?」

「ああ、まったく問題なかった。いい動きになっていたぞ。」

「オルザさんの動きを真似てみました。」

「なるほどな。接近戦の連撃はあいつの得意技だったからな。なら、あとはハルト君らしい、立ち回りでの技を考えてみるといい。」


「ありがとうございました。」

 僕はデバルドさんに一礼をして、デバルドさんから差し出された手を握る。



 アイザ達と合流した僕は、デバルドさんに案内された騎士団の応接室に入った。

 応接室には、伯爵家の人達がすでに待っていて、テーブルには色々なお菓子が並べてありました。もちろん、イチゴのケーキもあります。


「今日は、素晴らしい試合を見れて嬉しいです。これは感謝と、少しの雑談に華を添えるようにと準備しましたので、遠慮せずにお召し上がりください。」

 デバルドさんの妻のリープラさんの言葉に、僕達は席に着く。

「ありがとうございます。お言葉に甘えて、頂きます。」

 僕は出されたお茶に口をつけて、目の前に並んでいたクッキーをひとつ食べる。

 

「まさか、お父様に勝つなんて凄いですね。」

 パナティアさんが向かい席に座って、僕に熱い視線を向けています。

 隣の旦那さんをほったらかしですが…


「ハルトさん、直接話すのは初めてですね。パナティアの夫のホネットです。先ほどの試合は大変勉強になりました。」


「手数で押し切っただけなので、純粋な武術で勝ったとは言えないですけどね。」

 パナティアさんとホネットさんからの褒め言葉に、僕は謙遜ではなく本当に思っていた事を伝えた。


「それでも、強いことには変わりないです。」

 パナティアさんの言葉に「当然です。」とアイザがお菓子を食べながら答えている。


 すごく嬉しそうにしています。


「ハルト君は、本当の強さとは何か、判るかな?」

 伯爵からの質問に、僕は漫画やアニメで定番になっている言葉を使う事にしました。

 僕自身も、そう思っていたからね。


「大切な物を守る為に命をかける勇気。あとは、引く勇気とかかな? 実際、剣術が優れていても、エイルさんの魔法には敵わないと思うし、暗殺とかで、あっけなく倒されたりもするので、物理的な強さは本当の強さじゃないと思います。」

 僕の答えに、伯爵家の皆さんが頷いています。


 良かった。間違ってなかったようです。


「素晴らしい。ゴライズが孫の婚約相手として認めたのも頷ける。だからこそ、うちにもう一人、年頃の娘がいたらと…心底悔やむ。」


 ん? あぁー。先代リビエート国王のことか。

 『戦王』で、同じくらいの歳だから知り合いなのは当然か。


「ハルトの一番は私だから。」

「ああ、そうなのか。それは失礼した。」

 アイザの断固とした言葉に、伯爵が頭を下げています。


 まあ、間違ってはないけど、今言うことなのか?


 美味しそうにお菓子を食べているアイザのご機嫌は良さそうだったので、僕はスルーすることにしました。


 それからパナティアさんとホネットさんが通っていたリビエート学院の話を聞いたり、騎士団の話になったり、伯爵の武勇伝を聞いたりと、1時間くらい雑談していました。


 僕から話を切り上げるとか無理です!


 まあ、アイザはずっとお菓子食べてたから、機嫌良かったし、エイルさんは外の世界の話で興味はあったみたいだし、僕もそれなりに知識が増えたので良かったけどね。

 

 マイジュさんが多少…暇そうにしてました…

 気にはなってたけど、僕に打開策は打てません。無理です。

 「ごめんなさい。」と、心の中で謝罪しました。



 騎士団を出ると、僕とアイザはホテルに戻って、マイジュさんとエイルさんは買い物に行く事になりました。

 エイルさんの買い物にマイジュさんが付き添う話だったので、僕とアイザは部屋で寛ぐことにしたのです。


 買い物デートかな?

 僕はそんな事を考えながら、マイジュさんとエイルさんを見送りました。


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