古都『ノワロ』 2
「ほんと、ハルトは首を突っ込むのに躊躇しないわよね。」
「うん。ごめん」
否定できない自分に反省しました。
塀の中は大聖堂に続く広場になっていて、僕とアイザが到着する頃には静かになっていました。
エイルさんが僕達に気付いて手を振っています。
隣にはマイジュさんがいて、デバルドさんとイザルさんも居ます。
他にも強そうな兵士達が沢山いたので、エイルさんの言うとおりだった。
「やあ、ハルト君。久しぶりですね。」
イザルさんはデバルドさんの相方で筋肉隆々なのだけど、美形の顔と紳士的な振る舞いで、良いお兄さん的な雰囲気なのです。
「お久しぶりです。それで、何があったのですか?」
「ああ、一人の人間が、魔物化? したようなのです。」
イザルさんが示した方をみると、地面に倒れている人型の魔物がいた。
「死んでいるのですか?」
「はい。魔族まがい? よく判らないですが、変貌して自制が出来なくなって襲ってきたので、デバルドさんが倒しました。」
デバルドさんが不服そうな顔で、
「ほんと判らない事だらけだ。元人間だったあれは、招待者の元恋人だとか言っていたな。なんでも、この力で魔王を倒して見せる。とかなんとか言ってたらしい。」
倒されてますが…
「マイジュさん、元人間って昨晩の人でしたか?」
「はい。顔までは覚えていませんが、背格好からそうだと思います。」
「その人って、魔族まがいになる前に何かしてました?」
「何か飲んでましたね。小瓶の中身は何か判らないですが、たぶんそれでしょう。みなさんも同じ見解で、少量残った液体を調べると言っていました。」
勇者になる為の薬と同じような物なのかな? いや、同じ可能性もあるってことか…
でも、あれは一年に1本しか作れない物って言っていたし、タライアスの秘薬的な事も言ってたから違うか…
「ハルト! ねぇ、ハルト!」
考え事に集中していた僕は、アイザの揺れ動かす振動と声で意識を戻した。
「あっ、ごめん。観光の続きに戻ろうか。」
今、考える事じゃないし、事件は終わってるんだしな。
僕は騒然としてはいないけど、後処理で観光出来そうな雰囲気がない大聖堂を見渡す。
「と、言っても教会の見学とかって今出来るのかな?」
「それなら、わしに案内させてくれないか?」
よく見たら、いつの間にか70歳くらいの知らない男性が目の前にいた。
赤毛の髪には白髪がだいぶ混じっているけど、精悍な顔立ちと、凛とした姿勢で歳を感じさせない威厳が溢れています。
「イデリアス・サイズンだ。君達には色々を世話になった、感謝している。」
あぁ~そりゃそうか、デバルドさんにマイジュさんがまだ居るってことは結婚式の途中だ。
「ハルト・カワノハラです。えっと…目の前で起きた事に頑張ってただけです。あっ、宿の予約ありがとうございました。僕らもいい旅行になっています。」
「ハルトさん。緊張しすぎでは? 会話が変になってますよ。」
マイジュさんにツッコミを入れて貰った僕は、自然に言い訳を口に出せる。
「まだ、慣れませんよ。凄く上の人から、感謝された事ないですから、どう受けていいのか判らないのですし、そりゃ結果的に凄い事したのは判りますけど、僕的には、感謝の量が多すぎて逆に遠慮してしまったりで、処理しきれないのですよ。」
「聞いていた通りだな。あと1年、いや半年あれば孫の婿になってたかもしれないな。実に惜しい
事をした。」
伯爵様が、なんかおかしな事を言っていますが!?
「え? あっ。結婚おめでとうございます。そういえば式の途中だったのではないですか?」
「大丈夫だ。式は終わって、披露宴が終わる頃だったから招待者達と孫は奥の部屋に避難させた。今は茶会の準備を進めている。このまま帰す訳にはいかないからな。」
祝いの日を仕切り直すって事なのだろう。さすがです。
「しかし、デバルド。本当に残念だな。あいつなら絶対、一目惚れだったろうに。」
「同感です。」
デバルドさんが、少し笑っています。
いやいや、どうしてそういう話になるのですか?
娘さんの結婚した日に、何言ってるのですか?
魔物? の処理で、観光客が僕達以外誰も居ない大聖堂を、伯爵様とデバルドさんに案内されながら見学しています。
正直、落ち着かないです。
沢山の窓は全てステンドグラスで、色鮮やかに光っている礼拝堂。
天井には、遺跡でみた女神アリシュの絵が書かれていました。
リビエート王国の三大聖堂の一つで、女神アリシュは生命の神としても崇められているとの事です。
礼拝堂の次は、同じ宮殿内にある舞踏会場と、オペラなどの演劇などを観る劇場を回り、最後に模様のような水路と、木と花で造られた庭園に出ました。
「ここは、お茶を楽しむテラスになっている。なので席に座って寛いでくれ。お茶を準備させるからな。」
伯爵の勧めで、僕達は庭園の少し端の、静かな場所に座った。
というのも、広い庭園には、数百人は座れそうなテーブル席が扇状に並んでいるけど、デバルドさんの娘さん達がお茶の最中だったからです。
「って、デバルドさんは娘さん達の所に行かなくて良いのですか?」
僕達が選んだ4人用の席の隣に、デバルドさんが座りました。
「ああ、今はもう、友人達との雑談だしな。親が出る場じゃない。それに、娘がハルト君を見に来るかも知れないからな。」
ん~ずっと気になってるのだけど、娘さんってどういう人なのだろう…
「そう、怪訝そうな顔をするな。うちの家系というか、親父の性格なのだろうな。『戦王』と呼ばれた武人で、強いやつに興味があるのだが、俺の妻となった娘のリープラもその性格から、俺との結婚に至った訳なんだ。そして、孫のパナティアもそんな性格でな、結婚相手も学院一の剣術使いだから、惚れたらしい。」
「そうなんですか。納得しました。…でも、それならマイジュさんってどうだったんですか?」
強さ・見た目・性格。非のない理想的な人になりそうだけど。
デバルドさんなら、絶対紹介していそうだし、断ったのかな?
「あぁ…マイジュは色々と問題があってだな。逢わせても無かった。」
ん? 問題ってなんだろ…
「まあ、私は自分の事で精一杯でしたからね。それに、当時は人に構っていられる余裕が無かったですからね。」
伯爵様がメイドさん数人とドレス姿の婦人を連れて戻ってきました。
「初めまして。デバルド・サイズンの妻のリープラです。」
艶のある綺麗な赤毛の女性でした。
「ハルト・カワノハラです。娘さんのご結婚、おめでとうございます。」
伯爵とこっちに来てる時点で、そんな気はしてました。
「ありがとう。でもほんと、残念ね・・・あなたが言ってた以上の可愛らしさじゃない。」
デバルドさん? 何を言ったのでですか!
僕の視線に咳払い一つと、苦笑いで誤魔化したデバルドさんでした。
「特産のイチゴを使ったケーキです。是非食べてみて下さい。」
立ち話になりそうだったけど、リープラさんの発言でメイドさん達がティータイムの準備を始めました。
「苺ってこっちの世界にもあったのですか?」
僕は席に座って、目の前にある、苺が一杯載ったホールケーキに感動していた。
15年ほど前に来た勇者が苺を持っていて、栽培方法と料理方法を伝えたとの事でした。
で、その栽培地に選んだのが『ノワロ』だったそうです。
その話を聞いて更に感動です。
僕が仮に苺を持っていたとしても、そんな発想出来なっただろうし、絶対に食べて終わりです。
物流が馬車のみなので当然、アイザにエイルさん、それにマイジュさんも初めてで、苺の美味しさに感動しています。
もちろん僕も、生クリームたっぷりのイチゴのケーキの美味しさと懐かしさに感無量でした。
まさかの、2ホール目を注文するほどです。
「お父様、お母様。それにお爺様。いつになったら紹介してくれるのですか?」
ケーキに夢中になっていたら、娘さんがやってきました。
少しオレンジよりの赤いストレートロングの髪が印象的な女性が、デバルドさん達が座っているテーブルから僕を見ています。
「今日は、婿だけを見るべきだろ。」
「そうよ、パナティア。ホネットさんが嫉妬しますわよ。」
デバルドさんと奥さんが娘さんを嗜めてますが、引き下がったりはしませんでした。
「夫になったのだから、私の愛は変わらないのだし、嫉妬するほど器が小さい彼じゃないですよ。それに、私を束縛させたりはさせませんから。」
怖いです。
「ハルト、なんて顔してるのよ。」
エイルさんが笑いそうになっていました。
「え? いや…なんでもないですから。」
ちょっと身震いをしてしまった。
男としての心情からなので、他意は無いです。
この世界の結婚って、女性主導なのは聞いてたけど、やっぱり生活もそうなのかな。
リビエート王様のところも、そうだったし。
「なんてことなの! 貴方がハルトさん。いえ、ハルト様と呼ばないと駄目かしら。」
両親を振り払ったパナティアさんが僕を見つけての第一声でした。
もう、どう答えて良いのか判りません。
僕がオドオドしていたのを見かねたのか、アイザが言葉を挟んでくれた。
「そうね。ハルト様でお願いします。」
ちょ! え? 何言ってるの?
アイザの顔は真面目そのもので、マイジュさんとエイルさんは…どう見ても、笑いを堪えてます。
「いや、『様』はさすがに恥ずかしいです。普通に呼んでください。」
「ハルトは尊敬される事をしているのだから、素直に受け取ればいいのに。まあ、それがハルトの良いところなのだけどね。」
アイザの、なぜか嬉しそうな笑顔に、僕は照れ笑いを返していた。
それから僕達と隣接するテーブルに座って、少しの雑談を交えてから、話は僕の強さにの信憑性になりました。
疑問を投げ掛けたのはパナティアさん。
僕の見た目と、『残虐の魔道師ミルジア』の討伐者はマイジュさんになっているし、先日のオルザさんとの戦いは魔法士の不意打ち魔法で倒されてたからね。
それなりに強い事は、信じてくれてますがデバルドさんが認めるほどなのかと。
「私の夫より強いのですか? もしよろしければ、試合をお願いできませんか?」
そんな挑発に僕は乗りません!
別に信じて貰わなくても良いのです。
そんな、面倒なフラグは断固拒否します。
本気を出して勝ってしまったら旦那さんの立場なくなるし、手加減したら認めてくれているデバルドさんを裏切るような事になるし、僕に何もメリットがないのだから!
「いえ、お断りさせて下さい。 僕は旅行中ですし、試合でどちらかが怪我でもしたらとか、ありますから。」
「そうですか、それもそうですね。ハルトさんに怪我をさせてしまうと、大変ですね。」
「ええ、そうですね。アイザを護衛する事が出来なくなりますから。」
まあ、ここまで挑発に乗らない男なら、興味も無くすだろう。
「やっぱり、同年代の中なら、ホネットが一番ってことよね。」
まだ、挑発を諦めてないようです…
「僕と同じ18歳なのですか?」
「はい。」
「お早い結婚だったのですね。 こちらの世界って、この歳に結婚って普通なのですか?」
「そうね。いい男は、一番に取らないと駄目でしょ。」
多妻一夫制の考えだとそうなるのかぁ~納得です。
「そうなんですね。じゃあ、僕達はそろそろ行きますね。」
「え? まだお話が終わってませけど。」
さすがに無理でした。
僕を哀れむように見る、マイジュさんとエイルさんの視線が痛いです。




