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勇者を譲った僕の異世界生活。  作者: 紅花翁草


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再出発です。 2

 あれ? たしかお風呂に入ってたよな…

 ここは…ベッド? っ!


 僕は慌てて起き上がる。

「大丈夫ですか?」

 ベッドの横にはライエさんがいつもの姿で立っていた。

 そして、自分が素っ裸な事に気がつく…


「はい。湯船で寝てしまったのですね。ありがとうございます。」

 僕の心は平静では無かったけど、湯船から助けてくれたライエさんに感謝するのが大事だし、礼儀なのだと理性がちゃんと応えました。

「いえ、凄くお疲れだったのですね。ご気分の方はどうですか?」

 僕は、ゆっくりと深呼吸をして、状況を整理する。


 髪も体もベットも濡れていない。

 かろうじてかかっている、下半身のシーツも濡れていない。

 どうやって体拭いたんだろう? そもそも一人で持ち上げたのかな?

 意識はシッカリしてるし、のぼせてもない。

 

「はい。大丈夫みたいです。ちなみに、僕をベッドに運んだのってライエさん一人?」

 すこしうつむいたライエさんが「はい。」と答えた。

「重たかったでしょ? それに体も拭いてくれたみたいだし、色々と面倒かけてすみませんでした。」


 もう、ここで恥ずかしがるのは男として間違いだと思うから、自分の事は忘れる事にします。


「いえ。魔法で多少の身体強化が出来ますので、問題ないですよ。」


 僕は、その魔法を少し実演してもらった。

 かるがるとソファを持ち上げたライエさんの姿に、感嘆の声を上げる。


「あと、体を拭いた時の事は恥ずかしいので聞かないで下さいね。」

 そういったライエさんの頬が赤くなっていました。


「…」

 僕、なにされたの? なにされたのぉおお!


 少し遅くなってしまったけど、気分を入れ直して僕はアイザの部屋の扉を叩く。

 メイドさんに扉を開けて貰って部屋に入ると、アイザはベットで寛いでいた。

「遅かったじゃない。」

 ベッドから起き上がったアイザは下着だけの姿だった。

 そして胸には、さっき渡したペンダントが綺麗に輝いているのが見えた。


「気に入ってくれて良かった。」

「まあね。宝石も綺麗だし、デザインも好みだったわよ。」

 指で確かめるように触っているアイザの顔が嬉しそうにしているのが判って、僕も嬉しくなっていた。

「うん。凄く似合ってる。」

 僕はソファに座って一息つく。


「それじゃ、予定通りに明日の朝に出発でいいのかな?」

 王都から南の『エルコン』に戻ってから、西にある『タラス』までに向かうとなると、朝の馬車に乗らないとならない。

「ええ、私はそれでいいわよ。」

 ベッドに座って僕の方を向いているので、胸のペンダントが良く見えている。

 素っ気無い態度だったけど、そんなアイザの姿が可愛かった。


「あと、これは相談なんだけど…」


 唾を一度飲み込んだ僕は、エイルさんの同行の話を切り出した。


「別にいいわよ。私達の行動に合わせてくれるなら。あと、泊まる部屋が別ならね。」

 僕の悩みは杞憂だったようで、アイザの言葉も態度も普段見せているままだった。

 あとは、エイルさんがアイザの条件を受け入れるかどうかなので、僕の心配事が無くなってホッとした。

「ありがとう。明日からまた、楽しい観光しよう。」


 リュックから情報誌を取り出して、明日からの進むルートの観光スポットなどを調べたりして、夕食の時間まで、アイザの部屋で過ごした。



 アラガル家も一緒の夕食事の時に、アイザとの旅の再開を明日の朝に出発する事を伝えました。

 エイルさんの同行の話もこの時にしたら、マイジュさんも同行することになった。

 目的のアクセサリーを手に入れたマイジュさんは傭兵業の休息と、同じく魔王島を見てみたいという気持ちもあっての同行の希望でした。


「ハルトさん、マイジュさん、この後に少し時間いいですか?」

 食事の終わり頃にエーシャル婦人の言葉に、僕とマイジュさんは顔を見合わせて「はい。」と答えた。


 エーシャル婦人達が宿泊している部屋は、この日の為に用意された家族用の部屋で、4LDKの大きな部屋だった。

 僕とマイジュさんはリビングのソファに案内されて、腰を下ろす。


「お二人共、ありがとうございました。改めて感謝を示したいと思います。ですが、私達からお礼を渡すことが出来ません。なので、アクセサリーを買ってくれませんか?」


「え? ん? よくわからないですけど、買いたい物があれば買います。」

 僕は『お礼の代わりに買って欲しい』って事は、だいたい格安にする話だろうと思い、取りあえず返事をした。

 マイジュさんも、僕の発言に同調するように返事をしたので、同じことを思ったのだろう。


 僕達の返事を聞いたエーシャル婦人の手にはいつの間にかアタッシュケースのような革のカバンを持っていた。

 それを、テーブルの上に置いて開けると、中には僕がファルザ公国のアクセサリー店でみたSランクアクセサリーが並んでいた。

「これって、あの店の商品ですよね?」

「はい。国外避難の生活資金に持ってきました。」

「生活資金?」

 僕はその言葉でこの流れの意味は理解出来たけど、そもそも生活資金が必要なのかが疑問になった。

「この城での生活になるんですよね? 生活資金っているのですか?」

 エーシャル婦人が笑みを浮かべていた。

「子供達のお小遣いですね。とくに、プレゼントを贈りたい人が出来た時に、この国の税金を使わせて貰うのは気が引けますし、物を頼む事も遠慮してしまうでしょうから。」


 正に正論。僕は大きく頷いて納得した。


「僕は、これが欲しいです。」

 選んだのはもちろん『インベントリ』の腕輪です。店の売値は金貨250枚でした。


 僕は、一度ほとんどの商品の効果を聞いていたので、即決めだったけど、マイジュさんは判らない物ばかりなので、エーシャル婦人が丁寧に教えている。

「今、手持ちが無いので、今から下ろしてきます。えっと、買取値段を教えて貰えますか?」

「そうですね。金貨150枚でどうですか?」


 僕は店の売値で本当は良かったんだけど、それを言うと『お礼』にならないだろうし、定価で買うって僕が通せば、マイジュさんも定価買いになってしまうから、今回は何も言わずに「はい。それでいいです。」と答えて、席を立った。


「あっそうだ。この『テレパシー』の値段も一応教えて貰えますか? アイザが欲しいって言えば買うかも判らないので。」


 『テレパシー』の値段は金貨50枚。定価が120枚だったのでこっちも格安になっていた。


「それじゃ、行ってきます。」

 僕は部屋を出て、王宮の外に出る為の許可を貰うために詰め所に向かった。


「ハルトさん、どちらに向かわれるのですか?」

 少し早足で廊下を歩いていた僕を呼び止めたのはサラティーア王妃だった。

「えっと、今から傭兵組合に用事が出来たので、ちょっと外出しようとしてました。」

「差し支えなければ、その用事の内容を教えて貰えますか?」


 エーシャル婦人は、リビエート家の人達に必要以上の支援を無くす為に僕とマイジュさんを呼んだと思うし…残った品はこの街の店に売るとかするだろうし…

 黙っていた方がいいのかな?


「どうかしましたか? エーシャルさんの事で何かありましたか?」

 僕が悩んでいるとサラティーアさんが真剣な面持ちで僕を見ている。

「あっいえ、エーシャル婦人から、魔法付与アクセサリーを格安で売って貰えたので、そのお金を下ろしにいくだけです。」

 心配しているサラティーアさんに嘘なんてつけません。

「そうでしたか、それなら丁度いいですね。今から私に付き合ってください。」

 ほぼ強制のような言葉に僕は「はい。」と頷いた。


 向かったのは、アラガル家の部屋。戻ってきました。

「失礼します。」

 サラティーアさんが扉を叩いて部屋に入ると、僕が居ることにエーシャル婦人とマイジュさんが驚いていた。


「さっき通路で、ハルトさんから話を少し伺いました。それで、そのハルトさんとマイジュさんが購入予定の品を私が買い取らせて貰えませんか? 」


 一同驚きの声をあげました。


「いや、僕は、アクセサリーを買うからお金を下ろしに行くとしか行ってないですよ!」


 どういう経緯でサラティーアさんの発言になったのか疑いの目を僕に向ける二人に言い訳をする。

 実際、サラティーアさんがお金を出したら、エーシャルさんの目論見がずれる事になってしまうような気がして、強く言い訳をしてしまっていた。


「サラティーアさん、なぜそのような事を?」

 エーシャル婦人の問いにサラティーアさんが答える。

「ハルトさんはですね。今回の国外避難の働きも、お人よし行為で済ませているのですよ。」


 え?! なんか怒られ始めた…


「この依頼の経緯が、そういう話の流れで始まったのは仕方がありません。ですが、依頼した私達の立場もあります。そして、感謝の気持ちを受け取って欲しいのですよ。」

 僕は、なにも言えずに聞いていました。

「そう思っていた時に、ハルトさんが買い物をすると聞きましたので、それを褒章として受け取って貰いたいのです。私の家族を救ってくれたお礼も含めて。」


 僕は、サラティーアさんの考えと想いを、知って頭を下げた。

「すみませんでした。サラティーアさん、ありがとうございます。」

「と、いう事なので宜しいですか?」

 僕は「はい。」と返事を返す。


 それから、僕は『インベントリ』の腕輪を示し、『テレパシー』はアイザに確認を取ってから決めると説明して、アイザの部屋に向かった。

 アイザは、また下着姿で寛いでいた。

 もう、完全に自室になってないか? そんな事を考えながら僕は話をした。


「ピアスかぁ~、お母様に聞かないとダメかも。」

「じゃあ仮に、お母様が良いって言ったら欲しい?」

「そうね。離れていても、いつでも話が出来るのだし、欲しいわね。」

「じゃあ、取り敢えず買っておくね。」

「うん。わかった。」


 アイザの素っ気無い返事だったけど、ちょっと嬉しさが混じっているのが判って、僕は頬が緩んでいた。


 次の朝、朝食を済ませた僕は、サラティーア王妃から腕輪とピアスを受け取った。

 マイジュさんも同じ腕輪を受け取っていた。


 魔法付与アクセサリーは同時に5個までしか装着出来ない。

 そして、最初に着けた者を使用者として登録するので他の人にはただのアクセサリー品になる。

 なので、『インベントリ』の中身は本人しか出すことが出来ず、そして死んでしまったりしたら、二度と出すことは出来ない。


「使い方は以上です。」

 サラティーアさんとエーシャル婦人の二人からの説明で僕はすぐに扱い方を覚えました。

 『インベントリ』と呟く程度の発言で頭の中に入れた物が浮かぶので欲しいのを選べば手元に現れる。なのでRPGゲームのイメージに似ていたから、理解するのも早かったのです。


 部屋に戻って、ピアスをリュックに入れる。

 生活品や小物などは、カバンに詰めたり箱に詰めてから収納するほうが良い事も教えて貰っていたので、服などもリュックに入れて『インベントリ』に収納した。


「お気をつけて、いってらっしゃいませ。」

 メイドのライエさんが僕を見送る言葉を言ってくれた。

「はい。ありがとうございます。」

 僕はライエさんに笑みを返して一礼する。

「約束、待ってますから。」

 ライエさんの恥じらう笑みが僕の心を刺激する。

「…はい。」

 僕はそれ以上の言葉を思いつかなかった。


 本当に良いのか?

 いや…望んでいる自分も確かに居る。

 …あぁあ! これ以上考えても無理!!

 間違った事をしなければ良いんだから、あとは戻ってきたときに考えよう!そうしよう!


 僕はライエさんに「行って来ます。」と言って、アイザの部屋に向かった。


 リビエート王家の皆さんと、アラガル家の皆さんに見送られながら僕とアイザを乗せた馬車は王宮の門を出る。

 馬車の騎手はもちろんマイジュさんです。

 結局、馬車1台も借りることになりました。

 馬車はそのままエイルさんが泊まっている宿の前に止めてもらった。

「それじゃ、アイザと一緒にエイルさんと話をしてきます。」

「はい、いってきてください。」

 マイジュさんを残して、僕はアイザを連れて宿のロビーに向かった。


 宿に入ると、エイルさんが駆けつけるように現れた。

 ロビーで待っていたようです。

「エイルさん、おはようございます。」

 アイザを紹介し、アイザの条件を伝えると、少し困ったような顔になったけど、承諾して同行する事になった。

 僕はその顔が気になって聞くことにした。

「なにか不都合でもありましたか?」

 少し小さな声で恥ずかしそうに答えるエイルさん。

「えっと、あまりお金の余裕がなくて…」

「じゃあ、宿代と食事代などの旅費は僕が出します。」

 そう言った瞬間、エイルさんが僕を抱き締める。

「ほんと! ありがとう、ハルト。」

「ちょっ!少し痛いです。」

「あっ、ごめんなさい。時々、力加減を間違えてしまうのよ。」

 僕は、息苦しさから解放されてから、深呼吸をした。

「それじゃあ、マイジュさんを待たせているので、馬車に戻りましょう。」


 リビエート王から借りた馬車は、4人乗りの少し小さな馬車。

 見た目は普通だったけど、客車に独立スプリングが付いている最高級馬車だった。

「マイジュさんお待たせしました。エイルさんも同行する事になりました。」


 客室に、僕とアイザとエイルさんの3人を乗せた馬車は、ゆっくりと市内を抜けて『タラス』に向かって走り出す。


「タラスは温泉が有名な観光地みたいですよ。」

 僕は会話の話題に、今日泊まる街の情報をエイルさん振りました。

「温泉って、地面からお湯が出ているやつだよね?」

 興味を示したエイルさんに、『インベントリ』からリュックを取り出し、旅の情報誌を渡した。

 

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