ファルザ公国 3
「えっとですね。それは異世界の娯楽映像というか…子供向けの…なんて説明したらいいのか…まあ、魔法の力で悪をぶん殴る少女達の事です。」
「はぁ? 異世界だと? なんでお前がそれを知っている。」
「どうして、貴方がそれを?」
二人の視線が僕に向けられた。
「今年の勇者召喚で呼ばれた異世界人なので。あっ、だけど勇者じゃないですよ。手違いで2名呼んでしまった為にハズレた方が僕なので、普通の異世界人です。」
「普通の異世界人ってなんだそれ。」
「え! それじゃあ、お父様の世界の事を知っているのよね! 私に教えてくれない。」
グイグイくる魔法少女。
「いや、僕は今、傭兵として依頼を受けているので、今は無理です。」
「おい、勝手に話を進めるな! おい女、お前に魔獣と戦わせる事にした。勝てるのだろ?」
王子の無茶振りが僕から魔法少女に移る。
まあ、僕なら倒せそうな気はしてるから無茶振りじゃないけどね。
プリキュア系を名乗るってことは、やっぱり打撃系で戦うってことなのかな?
「ええ。もちろんよ。」
俄然やる気を見せる魔法少女『キュアエイル』。
「キュアエイルさんがもし危なくなったら、僕が加勢に入っても良いですか?」
「ああ、構わん。なんなら二人がかりでも良いぞ。」
「それには及ばないわ。私の実力を見せてあげるから!」
これ完全にフラグだよなぁ…
そして、僕達はファルザ公国の商業区の広場に戻ることになった。
さすがに『イズリ』の街中だと後々面倒になると王子も反省したので、出国ゲートを逆走して戻ったのでした。
広場には、待ち惚けを食らっていた民衆達が『???』という表情を見せながら、王子の帰還を眺めている。
「えっと、待たせたな。(咳払い一回)…我が国が開発した魔獣を使役する魔動機。その試作品が出来た。でだ、その余興として、そこの女性が戦うことになった。隣の男はその補佐的な事をする。…それでは見ていってくれ。」
もうね、グダグダです。王子も余興だと断言してしまうほどのグダグダです。
どうも王子は、最初ここでデモンストレーション的な魔獣操作を見せるだけだったみたいでしたが、さっきの騒動でちょっと頭に血が昇った行動だったようです。
そして民衆も、どうリアクションとっていいのか困惑してます。
さて、ここは民衆は無視してさっさと終わらせます。
ん?
魔法少女さんがなにかポーズを決めています…
「全てを救済する慈悲深き女神! キュアァ」
「ちょっ!待ってぇえ!」
僕は彼女の両肩を掴み、行動を阻止した。
まさか、登場シーンからするなんて…ほんと勘弁してください。
「ちょっと、なんで止めるのよ。」
「それ、しなくていいから。それは人助けで悪に立ち向かう時だけだから!」
僕は、それらしい言い訳で彼女を納得させる。
「そうでしたね。…判りました。」
なにやってるんだろ俺…
「おい! そろそろ始めたいんだが。こっちから始めてもいいよな。」
王子がイライライしています。
魔法少女さんが普通に身構えました。
「いいですよ。来て下さい。」
「そいつを攻撃しろ。バルドラ!」
王子の命令を受けた魔獣が威嚇の咆哮を上げ、魔法少女に突進する。
そして、魔法少女は魔獣に向かって跳びかかっていった。
あ、やっぱり『プリキュア系』だ。
キュアエイルの攻撃を受けた魔獣が怯む。
そのまま連撃を繰り出し、明らかな優勢を見せ、魔獣を翻弄していた。
僕は、その強さを凄いと思いながら気分良く見ていたけど、民衆はそうでもなさそうだった。
試作とはいえ、国家一押しの魔獣兵器が、女の子にボコボコにされているんだからね。
そりゃ、王子の立場もあるし、歓声とか上げれないですよね。
「なぜだ! 動きが鈍い。もっと早くて強いはずなのに、なぜ動かない!」
王子の不満を僕が聞いた時、魔獣から湯気のようなものが溢れているのが見えた。
異変に気付いたキュアエイルが少し距離を取った。
「なによこれ? ちょっと変じゃない? 」
そう言った瞬間、魔獣から魔力の波みたいなのが圧となって広場に伝わった。
だめだ。これはやばい!
僕は身構え、『ミラージュ・ハンド』を両手に合わせる。
『ミラージュ・ハンド』は僕の手より一回り大きいので、丁度グローブを付けている感じになる。
そして、この状態だと打撃力や手の力が2倍になるのです。
完全に興奮状態になっているようで、王子の停止命令を聞いていない。
そしてキュアエイルを無視して、暴れだしていた。
「くそ! 魔動機が効かなくなっている。誰でもいいバルドラを止めろ。」
王子の言葉で、一緒に来ていた騎士が魔法の盾で取り囲み、魔法士が攻撃を始める。
キュアエイルも魔法攻撃に切り替えていた。
魔法の盾に体当たりを繰り返す魔獣が身構え、跳躍する。
魔法の砲弾を物ともせず囲いを突破した魔獣が、キュアエイルに向かって牙を向ける。
キュアエイルの防御魔法なのだろうか、光の玉みたいなものが全身を包んで魔獣の攻撃を受け止めようとしていた。
だけど、魔獣の攻撃は彼女には届かなかった。
魔獣が跳躍し、キュアエイルと対峙した時に、僕が跳びだしていたのです。
僕は、全力の踏み込みから、魔獣の脇腹辺りに渾身の力で殴りました。
衝撃で、魔獣が十数メートル吹っ飛び、地面に倒れこむ。
僕は、追撃するためにもう一度強く踏み込み、跳躍する。
今度は角の上の額辺りを、握った両手をハンマーのようにして思いっきり振り下ろす。
大きな衝撃音を響かせ顎を地面に強打した魔獣が動かなくなる。
そして、静かになった魔獣の代わりに、人々からの歓喜の声が広場に広がっていた。
「お前の強さはなんだ? 異世界人ってのはそれが普通なのか?」
王子が魔獣の前で立っている僕のところに来る。
「そうみたいですよ。勇者の力は無いですが、異世界人はこっちの世界に召喚されると、身体能力が上がると言っていました。異世界では、周りにいる一般人と大差ない力なんですけどね。」
「あなたって凄いのね。」
キュアエイルさんも来ました。
「お前も、相当強かったぞ。勇者の娘ってのは、本当かもしれないな。」
「当然です。では、私はこれで。モーリストさん、国民を不安にさせる事をこれからはしないでください。」
そう言ったキュアエイルさんが、跳躍し街の中に消えていきました。
そうです、魔法少女が市民を救った後の行動そのままでした。
徹底しているなぁ…
王子が呼んだのだろうか、回収する人達が集まって魔獣を鎖で拘束し、荷台に乗せて始める。
「完全に失敗作だったな。制御中は、行動が鈍足になるし、怒りで暴走するし、虎や熊とは違うって事なんだろうな。」
強い生き物を洗脳すると、負荷がかかって動きが鈍くなる。
感情が激しくなると、洗脳が解ける。
ってことなのかな…
なんにしても、実用段階にはなっていないみたいだ。
「魔獣を使役するのは、いい案だと思いますけどまだまだ現実的では無いですね。」
「ああ、そうだな。だけど戦力増強としては、やめるわけにはいかない。」
「だったら、魔法が使えない兵士や傭兵達を強化する魔動機を開発してみたらどうですか?」
「なに? それはどういうことだ?」
僕は魔動機の魔力を補充して効果を維持している冷蔵庫などを見て思っていたことだった。
疑問に思って、マイジュさんに聞いてみたけど、そういう物は知らないと言っていた。
「魔法付与できる合金で武器や防具を作ってみてはどうですか? そのままだと唯の金属ですが、
魔法の盾のような効果で強度を上げれば、武器ももっと鋭利な刃にできると思いますし、属性も付けれそうかな。鎧は単純に強度が上がりますし、なんなら、魔法耐性の盾とかも作れるのでは?
全部を合金で作らなくても、埋め込み式でいけるならそれの方が安く作れそうかな。」
王子の目から鱗が落ちていました。
「そうか! 戦闘前に魔力注入すれば、魔力のない傭兵も戦力になるな。我等の魔法騎士達ならさらに強くなる可能性もあるわけだな。」
王子の目が輝いています。
「実際に出来るかどうかは、僕には判らないですが、そんなのがあったら、傭兵以外にも、各国の兵士用に買い手が押し寄せて来ると思いますよ。で、発案者の貴方の功績にもなりますし。」
「おお! そうだな。って良いのか? 発案したのはお前だろ。いや、名前を教えろ。俺はモーリストだ。」
「僕はハルトです。助言しただけなので、発案者はモーリストさんで良いです。」
「よしハルト、ならこうしよう。魔法付与の武器や防具が完成したら、望む付与品をタダで作ってやる。」
「本当ですか?! それは凄く嬉しい提案です。是非それでお願いします。」
「ああ、約束する。完成したら傭兵組合にも情報が流れるだろう。そしたら、俺に会いにくればいい。」
「ありがとうございます。じゃ、僕は依頼の途中なので、戻ります。」
「そうだな。俺も色々と後始末をしないとだからな。じゃあ、またな。」
僕は王子さんと別れの挨拶を済ませた後、出国ゲートの検閲を優先免除してもらって抜けようとした時に、女性が走ってきて僕の隣に並ぶ。
「私を置いていくなんて、ダメでしょ。」
旅行カバンを持った、清楚なお姉さんって感じの、長い銀髪をなびかせている女性に僕は心当たりがあった。
キュアエイルさんだよね…
良いところのお嬢さんっぽい姿だけど、声も同じように聞こえたし、背丈も同じだった。
「えっと、キュアエイルさん?」
僕の小声に「そうです。」と答えた彼女は、検閲兵に身分証明書を見せていた。
「エーイル・ラミナスさん。出国の理由は何ですか?」
「魔王討伐隊に参加する為です。」
「そうですか、まだ募集時期には早いですが?」
「彼とパーティーを組むことになりましたので。」
「そうですか。ではお二人ともご武運を。」
「はい。」と言った彼女に腕をまわされて、僕はなすすべもなく連れられて『イズリ』の街に戻った。
まずどこから聞けばいいのだろう…
エーイルさんだっけ、異世界の話を聞きたいからこの状況になったんだろうけど…
僕は、マイジュさんやアラガル家の人達のところに戻らないとダメなのに…
はあぁ…心配してるだろうなぁ…彼女を連れては戻れないし。
僕は、腕を組んだまま、街を歩いている彼女に、やっと声をかける。
「すみません。僕は依頼途中なので、戻らないとなんです。異世界の話はその後でも良いですか?」
「判っています。ですから、その約束だけでも決めに来たのです。」
「僕は宿に人を待たせているので、今晩なんてどうですか? 夜なら時間取れるので。」
「それじゃあ、私もその宿に泊まる事にします。」
しまったぁあ!
もっと別の言い訳考えるべきだったぁああ!
いまさらもう遅いです。
「そうですね。では、宿まで一緒に行きましょう。そうだ、そのカバン持ちましょうか?」
「ありがと。」
僕は彼女からカバンを受け取り、組んでいた腕を外そうとしたけど外す事が出来なかった。
僕は彼女と視線を合わす。
「離れないようにしてるのよ。」
そういった彼女の笑みは、どこか怖さも混じっているように見えていた。
カバンを思いっきり投げて、ダッシュで逃げる。
なぁ~んて事でもすると思っているのだろうか?
うん。ちょっとは考えましたけどね。でも、そんな卑劣な事はしません。
自分の価値を下げるような事はしたくはないからね。
まあ逃げたところで、傭兵組合とかで待ち伏せとかされそうだしな。
「逃げませんって。そうだ、これ僕の傭兵カードです。」
彼女に身分をちゃんと見せる。これで少しは信用してくれるだろう。
だけど、結局彼女は宿のロビーまでずっと腕を放さなかったのでした。
「なにがどうしたら、そうなるのですか?」
ロビーで待っていたマイジュさんが、魚の死んだような目で僕を見ていました…
僕にも判りません。
マイジュさんが僕のパーティーメンバー的な人だと知った彼女はやっと手を離して、宿の受付に向かった。
「アラガルさん達は部屋ですか?」
「はい。4人部屋に家族で泊まってもらいました。身分は偽造したものを使ってましたから、家族旅行って事になっています。」
「そうですか。今から部屋に行けるかな? 彼女の事もそうですが、王子との出来事をアラガルさん達にも話した方が良いと思うので。」
「もちろん。ずっと気にしてましたしロビーで待ちたいと言っていましたが、アラガルさんの顔を知っている人がいるかもしれないので、部屋で待ってもらってます。」
僕は受付を済ませた彼女に夜の食事を約束して、アラガル家の泊まっている部屋にマイジュさんと向かった。
部屋のリビングで明日の日程を話合ったあと、僕は王子とのやりとりを一から順に説明した。
もちろん、魔法少女は外しての修正版です。
「魔法付与の防具と武器は、いい方向に行くかもしれませんね。」
エーシャル婦人も、僕の提案が実現出来ると思ってくれました。
「はい。魔獣兵器は、実用レベルには程遠いって感じでしたし、モーリストさんも乗り気でしたから。」
「魔法付与の防具と武器ですよね。是非造って欲しいですね。」
マイジュさんも期待の目をしていた。
「で…エーイルさんって人なのですが、皆さんで知っている人はいますか?」
僕は最後に『異世界に興味がある女性が付いて来た』と説明した彼女の事を聞いた。
さすがに、勇者の娘とか魔法少女とかは秘密だろうと思ったので、伏せました。
エーシャル婦人と長女のアルーシャさんが、僕の問いに答えてくれた。
初代勇者のパーティーに参加した、イリーシャさんの娘で、魔法学院を今年卒業した有名人。
母親のイリーシャさんはエーシャル婦人と同級生だった事まで教えてくれました。
その人で確定です。
だけど、勇者の娘という事は知らないみたいだし、モーリストさんも初耳だったみたいだし、やっぱり隠してたのは間違いなさそうです。
「そうですか、だから異世界に興味があるのかも知れないですね。」
あとで、話を合わして貰って…はぁ…また隠し事が増えそうです…




