ファルザ公国 2
着替えを済ませた家族が応接室に戻ってきた。
カバン一つもない姿に僕は「ああ、国外避難ってそういうものなんだよね。思い出の品とか大切な物を置いていかないとだめなんだよね。」と心の中で想い、寂しくなった。
「やっぱり、荷物は邪魔になりますよね…」
「いえ、ここにまとめて収納していますよ。」
そう言ったアムドさんの奥さんが腕輪を見せていた。
「ああ!『インベントリ』 それ便利ですよね。僕はさっき、その存在を知ったのですが、凄く欲しくなりました。今度お金用意して買いに来ようかと思っていたんですよ。」
「はっはっは! 良い笑顔だ。ハルト君、あまり背負うなよ。そして、妻と子供達を頼んだぞ。」
僕は少し恥ずかしくなったけど、アムドさんの「頼んだ」の言葉に笑顔で「はい。」と答えた。
家族4人と僕を乗せた馬車は、商業区のアクセサリー店の前に止まり店に入る。
アルデアさんが待ち詫びていたようで、すぐに奥の部屋に案内された。
部屋にはマイジュさんが待っていた。
「マイジュさん、お待たせしました。」
僕はアラガル家の人達にマイジュさんを紹介する。
それぞれに挨拶を済ませると、急かすように裏庭に待機してあった、馬車に向かう。
「少し遅れます。直ぐに追いかけますから、馬車で待っていてください。」
そう言ったのはエーシャル婦人だった。
「はい。判りました。」
僕とマイジュさんは、子供達を先に連れて裏庭に出る。
僕とマイジュさんで床板と座席の椅子を外していると、エーシャル婦人とアルデアさんが戻ってきた。
「お待たせしました。」
「いえ、こっちも今準備が出来たところですので。」
床下に空いた空間にアラガル家の人達に入って貰った。
全員が入り終わると、身動きの取れない狭さ、しかもほとんど隙間がなかったので、まさに寿司詰め状態だった。
「息苦しいと思いますが、すぐに出国しますので、少しだけ我慢していてください。」
不安を一杯に表している末っ子のサイラ君に僕は笑みを見せる。
「大丈夫ですよ。お母さんにぎゅっと抱きついていればいいからね。何があってもこの国の門は越えられるますので、何も心配しなくていいですよ。」
「うん、頑張る。」と、母親にしがみ付いたサイラ君を抱き寄せたエーシャル婦人に頭を下げて、僕は床板と座席を元に戻した。
「マイジュさんお願いします。」
車内の小窓から、騎手のマイジュさんに出発の合図を出し、馬車は少し駆ける程度の速度で、リビエートに繋がる出国ゲートに向かった。
高さ10メートルほどの城壁のような国の境界壁に2つ並んでいる門が見えてきた。
その並んでいる門が入国ゲートと出国ゲートになっている。
出国ゲート側の列は、まだ昼を少し過ぎた時間なので混雑もほとんど無く、10分ほどで抜けれそうな感じだった。
僕は少し座席を持ち上げる。
「今から、出国ゲートに並びます。10分くらいで抜けれそうです。頑張ってくださいね。」
そう言って座席を戻すと、出国待ちの馬車2台の後ろに停止した。
馬車一台が抜け少し進んだ時、人のざわめき声が大きく聞こえてきた。
僕は窓から顔を出して外を見る。
入国ゲートを抜けたすぐの大広場。
来客者を迎えるその場所に、荷車と鎖に繋がれた魔獣、それを引き連れてきたと思われる騎馬隊が、民衆の視線を集めていた。
「やあ! 国民達と、この国に訪れた来客者達よ。今この場に居合わせた事を喜ぶが良い!」
拡声器のような物を使っているのだろう、馬に騎乗した男の声が僕の所まで聞こえくる。
「私はモーリスト・オリテシア。オリテシア公爵家の者だ。我が国が研究している、魔獣を操る奇跡を今から、見せてやろう!」
なんでこのタイミングで!
僕は当然の苛立ちを浮かべる。
前の馬車が進み、僕達の番になる。
僕とマイジュさんは傭兵カードを見せて、車内を見せる。
「馬車で来る必要あったのか?」
検閲兵が疑問を口にする。
「魔動機を買う依頼で馬車で来たのですが、売り切れでした。」
「ああ、魔動機は高価だから数が少ないからな。ほとんどが受注生産だろう。」
「はい。前金を払って頼んで来ました。」
僕は打ち合わせしていた台詞を言った。
「残念だったな。」
「まあ、依頼は半分済ませた感じですし、自分の買い物は出来ましたから。」
そう言って、僕は胸ポケットから包装された箱を見せる。
「それは良かったな。じゃ、またのお越しをってやつだな。」
「はい。」と笑顔で答えて、僕は扉を閉めた。
「よし! 行っていいぞ。」
検閲兵の掛け声で、マイジュさんが馬に鞭を入れた。
検閲の場所から境界壁まで100メートル。左右を2メートルの壁に挟まれた直線道。
僕達の馬車は進み出す。
前方の馬車が抜けてた時、広場から怒鳴り声が届く。
「おい! なに出国させている。俺が見せると言ってるのに、帰すやつがあるか!」
100メートル先の門番が魔法の盾を出しているのが見えた。
ああ! もう!
「マイジュさん、止まらずに進んで下さい。」
小窓からマイジュさんに声をかけた。
「だけど、魔法の盾がありますよ。」
「あれって、後ろにいる魔法士が発動しているのですよね。」
「そうです。」
「なら、無力化しますので、少しスピードを上げて馬を走らせて下さい。」
「わかりました。」
僕は扉を開けて、マイジュさんの隣の席に飛び移る。
「おい! 止まれ!」
門から駆け寄る4名の兵士達を『ミラージュ・ハンド』で転ばせる。
周りから見れば、慌てて転倒したように見える。
その横をすり抜けると、後は魔法の盾を出している魔法士のみ。
僕は馬車の横に飛び降り、前方の魔法の盾に向かって一気に加速した。
「すみません。僕達は急ぎの用がありますので、下らない余興に付き合えないです。今すぐにどいて貰えますか。」
「王子の命令だ。引くことは出来ない。」
まあ、仕事だしね。王子が見ている前で、職務放棄できないですよね。
「仕方が無いですね。」
僕は魔法の盾を少し手加減して殴る。
「うっ! あぁあああ!」
魔法士が後ろに吹き飛びました。
少年の殴り攻撃が、魔法の盾をすり抜けて、魔法士に当たった。
と、見ていた人は思ったでしょうが、実際には、『ミラージュ・ハンド』で魔法士を殴ったのでした。
魔法の盾が消えたのを確認した僕は、地面で悶えている魔法士を壁に向けて投げる。
そして後方から駆けて来た馬車に掴まり、門を越える。
(ミッション! コンプリートォー!)
僕は心の中で叫び、腕を掲げた。
出国ゲートを駆け抜けた馬車に『イズリ』の警備兵が駆け寄る。
「おい、何があった。」
僕は馬車から降りて答えた。
「公爵の息子の余興に付き合いたく無かったので、逃げてきました。」
「逃げて来たって、お前…」
境界壁の向こう側の騒動音に気付いた警備兵達が、二つのゲート門から覗き込むように見ている。
「まあ、今の公爵家のやつらとは係わりたくないのは判るが、面倒事だけは避けたいからな、って言ってるそばから、起きてるじゃないか。」
馬に騎乗した男が魔獣を引き連れて『イズリ』に入って来た。
「マイジュさん、先に宿に向かってください。皆さんを早く出して上げてください。」
「そうですね。ハルトさんも気を付けて下さいね。」
「はい。適当に付き合って逃げますから、大丈夫です。」
まさか、こっちの国まで追い駆けてくるなんて、そんなに余興見せたいのか?
「おい! そこの下民。俺の命令を無視しやがって、覚悟は出来ているのだろうな。」
テンプレ台詞がきましたよ。
無視して逃げたいけど、マイジュさん達にちょっかい掛けられないようにしないだから。
「覚悟も何も、僕は急ぎの用で余興に付き合う時間なんてないのです。」
僕は、ゆっくりと歩みより、意識を僕だけに向けさせる。
「それがうちの魔法士を吹き飛ばした理由になるのか?」
僕は少し小バカにした口調で答える。
「なります。検閲を済ませたのに止められる理由は無いですよね。それに、下らなさそうな余興に興味はまったくないですから。」
「なんだと! この俺を侮辱するのも大概にしろよ。下らない余興かどうか、お前の身で確認してみろ!」
僕は、長い溜息を見せる。
「自国じゃない場所で、兵器を使っても良いのですか? 王子様。」
「ここは同盟国で、今も友好国だ。別に戦争をしにきたのではないからな。お前が言う、ただの余興だ!」
「そこまでにしなさい!」
声を挙げたのは、銀髪のツインテールに可愛いフリフリの衣装、仮面舞踏会で見る仮面を付けた女性がなんかポーズを決めて立っていた。
「………」
「………」
僕と王子が顔を見合わせている。
「えっと、あれって余興の流れ的なやつですか?」
「ふざけるな。あんなのは知らん。」
「じゃあ、なんですかあれ? どこの魔法少女です?」
「だから、知らんと言ってるだろ。なに? 魔法少女? どう見ても大人だろあれ。」
「ですよね。どうします? 聞こえなかった振りします?」
「名案だな。俺もそれに賛成したいが、あっちは構って欲しいみたいだぞ。」
「ちょっと! なにコソコソ話してるのよ! あなた達は敵同士なのでしょ!」
ツカツカと歩いて来る女性に僕と王子が観念する。
「その予定だったが、気が抜けた。」
「まあ、敵だとはおもいますが、僕も今はそんな気分じゃなくなりました。」
「え! ちょっと、どういうことよ! 私が勇気を出して来たっていうのに。」
目の前まで来た魔法少女? に僕は頭を下げる。
「まあ、結果的に騒動が治まったことですし、その勇気は無駄じゃないとおもいますよ。」
「そうだな。その勇気に免じて、俺も大人しくしてやる。」
「いや、そういうのじゃなくて、その魔獣に襲われそうになる君を助けて、魔獣をやっつける。って予定だったんだけど…」
モジモジしだす魔法少女?
「ああ~。だったら、もう少し遅く声を掛けるか、戦闘が始まった時に僕を庇うとかの方が良かったですね。」
「そうだな。俺もそのタイミングだと思うぞ。」
僕と王子が頷く。
「ん? お前はこの魔獣を倒すつもりだったのか? AランクのPTが苦労して捕獲した魔獣だぞ?」
王子が2頭引きの馬車ほどの大きさを、誇示するように身構えている魔獣を指差す。
見た目はトラやライオン系の姿にサイのような角がある魔獣だった。
「もちろんよ。だって私は勇者の娘『キュアエイル』なのだから。」
僕は言葉を発言することが出来ず、開いた口が塞がらない状態になっていた。
「勇者の娘だと? きゅあえいる? なんだそれは?」
王子が聞き直すのは判ります。
知らなければ、その反応で合っています。
だけど、僕はその名前と彼女の姿、そして勇者の娘と言った全てを繋ぎ合わせた事実に叫びたくなった。
誰だぁあああ! そんな文化を伝えたのわぁあああ!




