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勇者を譲った僕の異世界生活。  作者: 紅花翁草


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ファルザ公国 1

 ハルトは緊張のせいなのか、朝6時に目を覚ましていた。

 ファルザ公国に入って、アラガル家の家族を亡命させる。

 その決行日なのだから、当然のことだった。


 僕は備え付け冷蔵庫から果実ジュースを取り出す。

 この街の宿には、ファルザ公国独自の発明品の数々が備え付けられている。


 そう、家電です。

 初代勇者が伝えたそうです。

 電気で機械を動かすという事は規模的にも無理があったから実現しなかったようですが。

 それはそうですよね。発電施設に電線やコンセントの設置、暖めるから冷やす為の機械の構造など、言葉で説明しても伝わりにくいし、実際に作れる人では無かったようです。

 で、その発想と魔法付与技術を組み合わせた家電を『魔動機』と呼んでいます。

 冷気をゆっくりと出す石(アクセサリーに使われているのと同じ合金の塊)を使った冷蔵庫に、光を持続的に出す石を使った照明器具など。

 1日に1度から数度の魔力注入がいるので魔術師が必要なのと、『魔動機』自体がまだ高価な為、世界に広まるまでにはなっていないとのことです。


 僕はそれなりに冷えているジュースを飲む。

 ライエさんの作ってくれた冷たいお茶が恋しい…

 おもむろに、バスローブ姿のライゼさんが浮かぶ。

 いや! それは違うから!


「おはよう、ハルトさん。」

 リビングに居た僕に、マイジュさんが声をかける。


「おはようございます。いよいよですね。」

 僕は、ビンに入ったジュースを飲み干した。


 入国は朝の9時からだけど8時くらいから並ぶため、僕達はすぐに朝食を取り、冒険者組合で資金を下ろす。

 そして、ファルザ公国に入るには武器の所持は禁止されているので、組合に武器を預けていく。


 時刻は8時半。

 人の行列とは別の、荷馬車などが並ぶ列に馬車で並ぶ。

 そして、僕達の入国の番になる。


「客車で来るなんて珍しいな。」

 貴族などが従者を連れて来る事はあるので、光景的には普通なのだけど、傭兵二名というのが引き止める理由だった。

 当然、僕達も判っていた。

 マイジュさんは対応する言葉を返す。

「アクセサリーを買いにきたのですが、魔動機を買ってきてほしいと依頼も受けたので、依頼者から荷物置きとしてこの客車を借りました。」

「なるほどな。いい買い物できるといいな。」

 疑いも無く、僕達は門番に頭を下げて入国を無事にクリアした。


「マイジュさん、第一関門突破ですね。」

 僕は馬車から降りて、マイジュさんに笑みを送る。

「それじゃあ、僕は先に行っています。」

 手を振って少し駆け足で僕は目的のアクセサリー店に向かった。


 ファルザ公国の商業地は『魔動機』の普及のおかげなのだろうか、リビエート王国のような中世ヨーロッパの景色から、近代ヨーロッパのような町並みになっている。

 目的の店は商業地の西端、大通り面しているけど、住宅地のすぐ近くにある。

 僕は店の扉を開けて店内に入る。


「いらっしゃいませ。」

 店の店主の事も聞いていたので僕は、目の前の白髪の男性に用件を伝える。

「この店の店主アルデアさんですか?」

「はい。私がアルデアでございます。どなたかのご紹介でしょうか?」

「えっと、マルトさんの代理で来ました。」

 マルトさんは密書の受け渡しをしていた人物です。

 少し驚きを見せたアルデアさんが奥の部屋に続く扉を開ける。

「こちらにどうぞ。」

 部屋に入った僕は、リビエート国王からの密書を渡す。


「そうでしたか。申し訳ございません。マルトさんの行方を私には判らないのです。いつも通りに、私共の手紙を受け取って出て行かれましたので。」


 僕は今からアラガル邸に行って国外避難させる事を告げる。


「判りました。気をつけて下さい。」

 明らかに不安な顔を僕に見せている。


 そりゃそうですよね。僕みたいな子供に伯爵の運命を預ける事なのだから。

 傭兵カードとリビエート王国の紋章が入った指輪を見せたから信用はされたけど、それはまた別の話なのだから。


「その前に、ここの店にあるSランクのアクセサリーを見せてくれませんか? 良いのがあれば何か買っていこうかと思ってますので。」

 突然の僕の注文に、アルデアさんの顔は困惑顔に変わっていた。


 このタイミングで言えばそうなることは判っていたけど、アイザとの約束なので仕方がないです。

 この後、アクセサリーを買う時間があるとは保障出来ないからね。


「あっはい。 品数は少ないですが宜しいですか?」

 僕は「はい、構いません。」と答えて、店に戻った。


「あれ? 貴方はマイジュ様のお連れの方? 」

 店に戻ると、宿のロビーで出会った女性と執事とメイドさんがいた。

 僕は頭を下げる。

「はい。ハルトと言います。マイジュさんと同じ傭兵です。」


「私はマイジュさんの従兄妹のミリティーラです。あなたも買い物ですか? 」

「はい、友人の女性になにか良い物を贈ろうと思いまして。」

「偶然ですね。私も贈り物としてこの店に来たのです。」


 ミリティーラさんの接客にはアルデアさんの奥さんが付いていたので、僕は足を止める事なくアルデアさんの後を追いかける。

「ハルト様、ここで少しお待ちください。」


 商談用のソファーに座った僕の前に15個のアクセサリーが並ぶ。

「こちらが私共が扱っているSランク品になります。」

 戦闘用がこちらの11点。あと、こちらは生活用になります。


 生活用? そんなのもあるのか。

 僕は気になった生活用の効果から聞いた。


 『オール・クリエイター』 指輪 アクティブ発動

  適正の無い属性魔法を使う事が出来る。ただし初期魔法のみ。


 『インベントリ』 腕輪 バッシブ発動。

  亜空間に物を収納出来る。 総重量1トンまで、種類制限は無し。

  だけど、生き物は入れられない。


 『テレパシー』 ピアス バッシブ発動。

  片方を一人づつが付ける事で、付けた相手と会話ができる。指を当てた状態のみ通話可能。

  その間、心の中での発言も相手に聞こえる。


 『ナイトアイ』 眼鏡 バッシブ発動。

  暗闇でも昼と同じように見ることが出来る。


 全部欲しいと思いました。

 特に『インベントリ』は今すぐにでも欲しいです。

 もうちょっと貯金下ろしてくればよかったと、後悔。

 そして、この中なら『テレパシー』をアイザに贈りたいと思いました。

 でも、耳に穴あけないとなんだよね。痛そうだなぁ…アイザの耳も傷つける事になるし、僕一人では決めれないです。

 『オールクリエイター』で氷造ったり、水出したり、風起こしたり、火はあるか。アイザには必要ないのかな…あれば便利程度かな。


 僕は戦闘系のアクセサリーの説明を聞くことにした。

 ほとんどの効果は、特定の攻撃魔法を使えたり、魔法の効果を高めたり、身を守る魔法など、Aランク品との差はその性能だけの所謂、上位版です。

 アイザが付けている『エイラの盾』の上位版もあった。


 その戦闘系の中で、Sランクしか存在しない効果で気になったのが、無音詠唱。

 これはアイザにピッタリの効果かもしれない。

 アイザの神の名を必要とする魔法は、声を届かせる為に大声になるから不意打ちのように使えないと聞いていたので、これなら、その不意打ちが出来るかもしれない。


 『サイレントリア』  ペンダント バッシブ発動。

 魔法詠唱を心の中で唱えても発動させる事が出来る。


「これにします。」

 僕は、金色の台座に、深い紫の宝石で宇宙の星雲を閉じ込めたようなペンダントを選んだ。

 金貨180枚を渡して、僕は落とさないようにブレザーの内ポケットに入れる。


 僕の買い物が終わるまで待っていたみたいで、振り向くとミリティーラさんが僕の後ろに立っていた。

「ハルトさんもお目当ての物が買えたみたいですね。」

「はい。友人に合いそうな良い物が買えました。ミリティーラさんも買えたみたいですね。」

 彼女の顔も僕と同じで嬉しさで溢れていた。

「ええ、思っていたのと少し効果が違いましたけど、これはこれで喜ばれると確信してます。」

「そうですか、僕も喜んで貰えるといいな。」

「女性は男性が真剣に選んだ贈り物というだけで、嬉しいものですよ。」

 ミリティーラさんの言葉に、僕は「ありがとうございます。」と、照れた笑顔を返していた。

 

「僕はこれから別の用事に向かいますので、お先に失礼します。」

 少し恥ずかしくなってしまった僕はその場から逃げるように店を出る。


 よし。ここからが本番なんだから、しっかりしないと。


 頭に入っているアラガル邸に向かって、僕は大通りを進んで行く。

 商業区と住宅区とは国境の壁と同じ高い壁で区切られていてる。

 なので、同じように大通りにある通行門を通るしかない。

 もちろん、傭兵カードでは入る事が出来ないから、リビエート国王が用意してくれた、身分証明書を使います。


 僕は読めないけど、職業『執事見習い』って書いてある。 


 第二関門もすんなり突破!


 そこからは、目立たないように道を歩き、目的の家の前まで来ました。

 家を確認すると、教えられていた通り、アラガル邸の周りには警備兵が巡回しています。


 僕は自然さを表す為に、研修先を地図で確かめるような素振りをしながら、アラガル邸の正面入り口に常駐している警備兵に『執事見習い』のカードを見せる。

 少し警戒されましたが、程なく許可が下りたので、頭を下げて僕はアラガル邸の門を通った。


 第三関門も無事に通過です。


 屋敷の玄関だと思う場所に着いたので、呼び鈴らしき物を鳴らしてみる。

 扉の向こうから微かに鐘の音みたいなのが聞こえた。


 良かった、合ってたみたいだ。


 扉を開けたのは執事服を着た40代くらいの凛々しい男性だった。

「どちら様でしょうか?」

「えっと、この封書をアムドさんに渡して貰えますか? 急ぎの手紙なのです。」

 リビエート王国の刻印で封された手紙を渡す。


「これは! はい、只今届けさせて頂ます。」

 

数分後、戻ってきた執事さんに僕は応接室に案内される。


 部屋に入ると50代くらいの誠実そうな顔立ちの男性が僕を待っていた。

 輝く銀髪と青い瞳は、この国の民の、純潔の特徴だと聞いている。

「私はここの主で、アムド・アラガルという者だ。君の名前は?」

 僕は立ち上がり答えた。

「ハルトです。」

 僕を見たアラガルさんが少し笑みを溢している。

「手紙の内容通りの人物だな。」


 え? 一体なんて書いてあるのだろう…

 それを聞く勇気は僕にはありません。


「君が来たという事は、今から亡命をするという事で間違いないか?」

「はい。今までの連絡係をしていたマルトさんの所在が確認出来なくなりましたので、早急に行動する事になりました。宜しいでしょうか?」

「私達に拒否を述べる事などない。今すぐに準備にかかるから、よろしく頼む。」

 僕は頭を下げて「はい。」と返事をした。


 国外避難するのは、エーシャル婦人と子供3人。

 長女17歳のアルーシャさん。長男15歳のオルイズ君。 次男8歳のサイラ君。

 皆さんも、この国の特徴の綺麗で透き通るような銀髪と青い瞳だった。

 そして、顔付きも年齢以上に大人びていて美男美女という言葉が当てはまる。


 幸いに、誰も出かけていなかったので、国外避難の段取りを話し合いながら、持ち物などを準備してもらっていた。

 亡命自体の話は既に子供達に伝えていたらしく、慌てる事も驚く事もなかった。


 僕はアムドさんと応接室に二人だけになっていた。

「アムドさんも一緒じゃなくて大丈夫なのですか?」


 ずっと疑問に思っていた事だった。

 家族が国外避難したと知られたら、アムドさんは罰を受けるのではないかと…

 最悪殺される可能性もあるのではないのかと。


「私は、私を信じてくれている国民と一緒に、この国を正しい道に導かなければならないと思っている。だから、私はここに残らなければならない。」


 重い言葉だった。

 国外避難後の立場を一番理解しているのは明白だった。

 僕が聞く事じゃなかった。

 そんな事はリビエート国王も、ここの家族も判って決めた事だった。


「すみません。そうですよね。」

 僕は頭を下げて、謝ることしか出来なかった。

「いや、君の気持ちを私は嬉しく受け止めている。謝まらなくていい。」

 頭を上げて僕は気遣ってくれたアムドさんに笑みで応えた。


「えっと、別の質問をしてもいいでしょうか?」

 僕は失脚させられた経緯。これからどう復帰するのか聞きたかった。

「ああ、気になる事があるなら聞いてくれ。」



 アムドさんから聞けた話。

 公爵だったアムドさんの、補佐をしていたオリテシア伯爵が隣国のバラージュ国と密約をしていた。

 内容は魔物を強制的に支配し兵器化するアクセサリーの開発し、成功すればそれを安く売ってもらう事だった。

 『精神支配』という禁止魔法を使うアクセサリーなんてものは国際問題になる。

 しかも、魔物を兵器に変えるとならば尚更だった。

 当然、それに気付いたアムドさん達が取り押さえようと準備をしていたが、それを逆手に取って、アムドさんが魔法付与の製造方法を横流した首謀者に仕立て上げられた。

 今はオリテシア公爵になったマカラドが公国の公然事業として魔物の兵器化の研究を進めている。

 『魔王討伐の新たな戦力として!』を掲げて各国の王達の言葉を押さえ込んでいた。


「今の公爵から国を取り返すために何をすれば…」

 他の国が何も言えなくなっている状態で、できるのか?

 僕にはまったく判らなかった。


「公にしているのは、魔物を支配するアクセサリーだが、秘密裏に人間を洗脳するアクセサリーを作っている。なのでそれを抑えれば取り押さえる事が出来る。」


 『精神支配』系の能力が禁止魔法の理由はやっぱりそれだよね。

 

「それって、どこなのか調べはついているですか?」

「ああ偽装はしているが、それらしい工房を見つけている。常に警備兵がいるのと、マカラドの側近が数度入っていくのを確認している。たぶんそこだろう。魔物の兵器化している工房は別のところにあるからな。」


 僕は少し覗いてみたいと思った。

 もしかしたら、マルトさんが連れ去られているかもしれないし、なにか証拠を手に入れられるかもしれない。


「僕が今日、ちょっとだけ潜入してきてもいいですか?」

「なにを言っている。そんな事をすれば、工房を別の場所に移すかもしれないだろう。そうなれば、また最初からだ。」

「すみません、軽率でした。」


 また、やってしまった。深く考えないと駄目なのに、自分の気持ちだけを優先している。

 それに、僕はアイザが一番なのだから、危険な行動は駄目に決まっている。

 ああ、ほんと…駄目駄目だ。


 頭を下げた僕にアムドさんが言葉をかけてくれた。

「まあ、そう落ち込むな。若さってやつだ。自分には出来る事でも、その行動が回りをどう巻き込んでいくなんて事は、大人にならないと判らないものだ。君は行動して良いかを大人に聞いた。今はそれでいい。」


 先生のような人だなって思った。

 アムドさんを信頼している人達が沢山いるのも納得しました。


「はい、ありがとうございます。」


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