リビエート王国 1
リビエート王国の王都は、広大な丘を開拓して出来た街で、一番高い場所に城があり、そこから広がるように沢山の家が建っている。
街の中を大きな川も流れていて、テレビで見たことがあるロンドンの風景とよく似ていた。
夕刻に着いた僕たちは、いつものように宿で一泊し、朝起きたら拉致されました。
実行犯は、兵士と、つい最近まで一緒に旅をした、ラミナ姫の教育係をしている『ソランテ』さん。
旅では、父親役をしていた男性です。
部屋まで押し掛ける形で、僕とアイザは朝食も取れないまま、王宮に連れてこられました。
マイジュさんも何故か一緒です。
そして、通された部屋には、『誰がこんなに食べるんだ?』ってくらいの沢山の料理が並んでいます。
アイザは、大喜びしています。
拉致られる時に、『城で朝食のご用意も済んでいますので、是非に。』のセリフで、アイザは素直に付いてきたからね。
「さすがに、この量は作り過ぎですよ。もったいなくないですか?」
食べ物を粗末しては駄目だと教わっていた僕には、少し引くほどの光景だった。
「大丈夫です。残りは業務員が食べる事になっていますので。」
『残りはスタッフが美味しく頂きました。』ってテロップが僕の頭に浮かぶ。
「そうですか、なら遠慮なく頂きます。」
完全にビッフェ形式だと判り、僕はアイザと一緒に、沢山の料理を皿に乗せ、見晴らしの良い窓際のテーブルに座った。
マイジュさんは気を利かせているのか、少し離れた席に座っている。
かと思ったけど、よくみたらドリンクと小さなサンドイッチを数個だけだったので、僕達の朝食と合わないから、離れたかもしれない。
コッチはガッツリ盛ってます。
朝食に満足した僕達はソランテさんに伝え、次の部屋に向かった。
「ようこそ、お越しくださいました。」
部屋に入って、声をかけてくれたのはサラティーア王妃だった。
そこは大きな部屋で、応接室なのだろうか? 高級な家具やソファがあり、絵や陶器などの美術品が飾られている。
部屋には、4つのソファが四角を作るようにあり、右に王妃と男性と姫さんが座っている。
左にはルシャーラさんがいて同じように男性と娘さんがいる。
そして、奥に、白髪の男性と女性が座っていた。
先代の王だと、僕は直ぐに理解した。
「私は、この者達の親になる『ゴライズ・リビエート』だ。娘と孫を救ってくれた、そなた達に感謝を言いたくてな。このような形で呼びつけてしまって申し訳ない。」
立ち上がり、僕達に一礼をする先代の王様に僕は返すように頭を下げる。
「いえ、結果的にアイザも僕も、美味しい朝食を頂きましたので問題ないです。」
発言してから僕は気付く。何言ってるんだ俺?
もう口に出してしまったし、取り繕う事も出来ない。
「そうか、それは良かった。昼食は是非一緒にと思っているのだが、どうかね。」
「いえ、そこまでお世話になるのは、」
と、言いいかけて、また間違った事に気付く。
「じゃなくて、はい、こちらこそお願いします。」
駄目だ、あまりの目上の人との会話のルールが判りません。
嫌な汗が出ています。
そんな僕の姿を、アイザもマイジュさんも笑ってみている。
「いつものハルトはどこいったのよ。」
アイザの呆れた声に、
「こんなの経験ないから、仕方がないだろ。自分でもテンパッてるの判ってるから。」
だから、来たくなかったんだよね。
こうなるって判っていたから。
「君達は大切な客人だ。気を張らずに過ごしてくれた方が、私としても嬉しい。まずは座ってくれたまえ。」
先代の王の言葉に、僕は少し救われる。
「はい、すみません。ありがとうございます。」
ソファに3人並んで座る。
「あっそうだった。『火の竜』の話をしてもいいですか?」
なんとか、自分のペースを取り戻したいと、思い付いた機転だった。
そこから、『火トカゲ』の生態を説明し、村の村長と話合って、放置する事になった事まで話した。
もちろん、喜んでくれた。
勇者に頼まなくてよくなったし、討伐する危険も無くなったからね。
「ハルトさん達には、本当にお世話になりました。」
サラティーア王妃の安堵の笑顔が僕に向けられる。
「ついでみたいな物ですから。娘さん達に、また辛い旅をしてほしくないですからね。」
「重ねて礼を言う。ありがとう。」
そう言ったのは、今の国王『トーラス・リビエート』だった。
「俺からも、礼を言わせてくれ。妻と娘を救ってくれて、ありがとう。」
国王の弟の『イデス・リビエート』
先代の王『ゴライズ』さんの子供は、長男のトーラスさんと、次男のイデスさん。
二人の王子達の話はデバルドさんから聞いていた。
サラティーアさんとルシャーラさんも実の姉妹で、王子二人との同時結婚を発表した時は、国中が大騒ぎになったと。
「それは、それなんだが…」
来ました。本題です。
イデスさんの真剣な視線が突き刺さる。
「はい。助ける時に言ったセリフは勢いで言っただけの言葉ですので、貰うつもりなんて思ってもいないです。はい、ほんとうにただのセリフですので。」
「そうなのか、ならそれで俺は良いのだが…」
何故か、イデスさんはルシャーラさんと娘のサーリアちゃんを見ている。
僕も視線を移すと、サーリアちゃんが何故か泣きそうになっている。
「え? え?!」
僕は意味が分からず、2度も声に出していた。
「サーリアは、ハルトさんと結婚したいと思ってるのよ。」
サーリアのお母さんのルシャーラさんが答えてくれた。
「いやいやいや、まだ早いですし。」
「なら、16歳になったら、貰って下さるのですか?」
「え?! いえいえ、そうじゃなくて、もっと良い人やサーリアちゃんに相応しい人がいるはずですよ。」
「ハルトさんに、サーリアは不釣合いだと言う事ですか?」
血の気が引いていくのが自身でも分かる…
「そうじゃなくて、僕18歳ですよ? 年も離れていますし、それに助けてから、そんなに親しくしていた訳でもないですし、生涯を共に生きる人を決める大事な話ですから…」
ルシャーラさんの目が、僕を攻めている。
「こら、ルシャーラ。あまり意地悪な事はしないでやれ。困っているではないか。」
先代の王の嗜めが入る。
「ですが、サーリアの気持ちを考えてしまうと…」
「そうよ、ハルト。サーリアちゃんに謝りなさい。」
アイザの追撃が来た。
え? どゆこと?
たぶん、アホ面になっていたんだろう。僕の方を見たアイザがため息をつく。
「いい? 女の子が軽はずみに結婚したいなんて、口には出さないのよ。『パパ大好き結婚して』と同じだと思わないでよ。10歳なら、彼女も一人前のレディとして扱いなさい。」
アイザはいつも、僕の間違いをちゃんと正してくれる。
「そうですね。すみませんでした。」
僕は立ち上がり、サーリアちゃんに謝り、ルシャーラさんにも頭を下げる。
「僕はただの冒険者です。この先どう生きていくのかも、自分でもまだ分かりません。あの時、命を貰うと言ったのは、生きて幸せになってほしいと思ったからです。だから…」
僕は次の言葉が浮かばなかった。
自分の為に生きてほしい。君を幸せにする人を探して欲しい。僕に縛られないで欲しい。
全部、僕が彼女を受け止めれない言い訳だった。
いっその事、好きじゃないと断った方が良いのだろうか?…
無言の時間が過ぎて行く。
「そうだな、冒険者か。いい呼び名だ。これから進む彼に、娘が足枷になっては、サーリアも幸せには成れないだろう。」
父親のイデスさんが僕の気持ちを察してくれた。
「ハルト君は、サーリアの事を知らないし、サーリアもハルト君と幸せに成れるかどうかも、まだ分からない。だから、これから時間を掛けて知り合って、その後で決めてはどうだろうか?」
「具体的に、どうすればいいのです?」
ルシャーラさんが、今度は旦那さんを攻める。
イデス家の上下関係は、判りました。
「冒険者なのだから、一緒に暮らすというのは、難しいか。たまに会いに来てくれるという事で、どうかな?」
「たまにですか?」
イデスさんの目が僕を見る。僕のターンですね。
「アイザとの旅行はあと2ヶ月以内には終わると思います。その後は、タライアス国の『港町ファルザン』で仮住まいしてみようかと思っていましたので、その前に会いに来ます。その後は、サーリアちゃんの都合に合わせて、3ヶ月に1回くらいのペースでお邪魔させてもらう…っていうのは駄目ですか?」
「3ヶ月ですか?」
あっ、ルシャーラさんの目が怖いです。
「滞在は一週間って考えてまして、往復に10日ほどかかりそうなので、頻繁には来れないと思いまして…ずっとここにいるのだと、サーリアちゃんの交友関係に影響されますし…」
「滞在期間を2週間してくだ、いえ、2週間じゃ、ダメですか?」
今、命令しようとしましたよね? はい、僕に拒否権はないです。言い直してくれただけでも嬉しいです。
「いえ。はい、2週間にします。」
ルシャーラさんの視線が柔らかくなっていく。
「じゃ、そういうことで、サーリアも我慢してね。」
「はい、お母様。」
僕は、サーリアちゃんの笑みに応えた。
「お疲れ様。」
アイザの言葉に僕は小さく「うん。」と答える。
ほんと、疲れました。生きた心地がしないってこういう事なのかも知れない。
「皆さん、今日から数日を、ここで過ごしてみませんか?」
サラティーア王妃の言葉だった。
僕はアイザとマイジュさんを見る。
「アイザは、どうしたい?」
「2・3日くらいなら、居ても良いわよ。」
「じゃあ、僕とアイザは、そうさせて頂きます。マイジュさんは?」
「私は、ファルザ公国で買い物するだけなので、ハルトさん達が居る間だけ、一緒に過ごさせてください。」
「なら、決まりですね。皆さんを客室に、ご案内をお願いします。昼食まで部屋で寛いでくださいね。」
えっと、なんだろう…王様達の意見って無いのかな?…
僕達はそれぞれの並んだ部屋に一人ずつ案内された。
…アイザ大丈夫かな?
部屋には、ホテルと同じように浴槽付きのお風呂があり、メイドさん一人が、壁で区切られただけの待機場と言っていた場所で、常に待機している。
落ち着かないです。どう寛いでいいのか、さっぱりです。
さっきのこともあり、喉がカラカラです。
「ライエさん、すみません。何か冷たい飲み物ありますか?」
僕の担当のメイドさんの名前は『ライエ』さん。
世話になる人の名前は、すぐに聞きました。同じ失敗は駄目です。
「はい。今からご用意いたします。なにかご希望は、おありでしょうか?」
「お茶でいいです。」
この世界のお茶と言えば、紅茶でした。僕が知っているのとは少し味が違ってはいるけど、ほぼ紅茶でした。
「少し、冷たくなってますので、お気をつけてください。」
ソファで2分くらい待っていると、ライエさんがガラスコップに入ったお茶をテーブルの上に置いた。
冷たくなりすぎ?
「うわ! ほんとだ。」
コップを触ると、キンキンに冷えていた。
中に氷は入っていないから、コップ自体を冷やしてたってことなのかな?
僕は、一口飲んだ後に、一気に飲む。こんなに冷えた物なんて、久しぶりだった。
「凄く冷たくて、美味しかったです。これってコップを凍らせてたのですか?」
「いえ、私が直接冷やしました。」
おお~! さすがは王宮のメイドさん。
魔法で物を冷やす事が出来る人は、氷店や大きなレストランなどで働いていると聞いていたけど、メイドさんとして雇っているのは初めて見ました。
僕は、ライエさんに、もう一杯頼んで、今度は味わうようにゆっくりと飲んだ。
時刻はまだ11時前…なにしよう…
アイザはどうしてるのかな? ちょっと様子見に行こうかな。
僕は隣のアイザの部屋に行くと、ライエさんに伝えた。
アイザの入った扉を叩く。
扉が少しだけ開く。
「はい。ご用件はなんでしょうか?」
知らない声だった。メイドさんだろうか?
「ハルトです。アイザは今何していますか?」
「ベットで、寛いでいらっしゃいます。」
「アイザ様、ハルト様がお見えになられました。」
「はい。お通しします。」
アイザの許可が出たみたいです。
こういう、やり取りが入ると、ちょっと距離感が離れた気がするのは何故だろう…
「どうしたのよ?」
ベットから降りないアイザが寝そべったまま、僕を迎える。
「いや、一人でいると、落ち着かなくて…」
「仕方がないわね。」
アイザの私生活には使用人が居たと聞いているから、慣れているんだろうけど、今は完全に敗北しています。
僕はソファに座って、アイザのダラけている姿を見る。
うん。落ち着く。
それから、ほとんど言葉を交わす事は無かったけど、昼ご飯の呼び出しまでずっとアイザの部屋にいた。
昼食も朝と同じ部屋で、今度は長テーブルでのコース料理になっていた。
先代の王から二人の孫娘まで、全員が揃っての食事だった。
静かに食事は終わり、ティータイムに変わると、僕に質問攻めが始まった。
異世界の事や、今年の勇者の事。どうしてアイザと旅行しているのかとか。『ファルザン』に住む理由まで。
アイザのとの旅行は、
「ずっと屋敷で過ごしていたアイザが家出したのに出会い、一緒に魔王島を見に行こうって話になりました。あ、もちろん親の了解は得ています。僕が護衛すると約束して、ゴールが魔王島の手前の村で、期限も2ヶ月なので。」
アイザの事だけは、作り話になったけど、他は言える事は正直に話した。
「世界を知るのは、大事な事だ。良き旅になると願おう。」
先代の王の言葉は優しさと激励がこもっていた。
「だとしても、娘の願いを聞きいれ、旅に出すなんて私には出来ない。」
現国王のゴライズさんの言葉はもっともです。
「護衛役がハルトさんだから、認めたのでしょうね。」
サラティーアさんの言葉に、ルシャーラさんと、先代の王夫妻も頷いている。
「マイジュさんはファルザ公国に買い物ってことは、魔法付与品ですか?」
「はい。最近知りました、アクセサリーを買いに行きます。」
あれですね。消臭剤ですね。
たぶん、あの汗の臭いを消すための物なのだろうと思う。
アクセサリーの話題になったので僕も気になっていた事を聞いてみた。
「この街に、魔法付与されたアクセサリーが売ってる店とかありますか?」
「ハルトさんも、何か欲しい物があるのですか?」
サラティーアさんの質問に、
「いえ、何でもいいのですが、魔法付与された物を見てみたくて、良いのがあれば買ってみようかとも、思ってはいますが。」
この場で、アイザにプレゼントするつもりなんて事は、言えないです。
「そうですね。数軒あったと思います。」
「じゃあ、この後に見に行ってもいいですか? アイザも一緒にどう? 観光ついでに。」
サラティーアさんの承諾を得たので、僕とアイザはリビエート王都の街に出かけた。
やっぱり、二人だけで観光は出来なくて、馬車付き、ガイド付きの、豪華な観光になりました。
そして、観光ガイド役はサラティーア王妃!
ハッキリいって、思考がパンクしています。想定外どころの話ではないです。
「えっと…これは、どういう状況なのでしょうか…」
アイザと並んで座っている馬車の対面には、王妃様がガイド役で座っています。
「この街を熟知していますし、ハルトさんとアイザさんに、お礼をする機会だと思いまして。」
いやいや、おかしいでしょ!
「それと、姪の事も少し聞きたいのもありますからね。」
王妃様の心配する表情に僕は気付く。
「はい。なんでしょうか?」
「サーリアを、妻に迎えるという可能性を、ハルトさんは持っていますか?」
直球きました。
「正直、判らないです。サーリアちゃんの心変わりが無くて、僕が彼女を女性として見れるようになれば、可能性はあります。ですが、それまでに僕が誰かを好きなってしまったら…」
「そうですね。でも安心しました。サーリアの事をちゃんと考えてくれていて。」
…何が安心なんだろう?
「ハルトさん。」
「はい。」
「ハルトさんの世界とこっちの世界の結婚は少し違うようですね。」
「え?」
もしかして、王道テンプレの一夫多妻制とか?
いやそれなら、王様とかに第二婦人とかいるはずだし、そういう話は聞いてないし…
「結婚相手は、女性が決めるのです。」
ん? 決定権が女性って事なのかな?
「もしかして、男性に拒否権はないのですか?」
「いえ、ちゃんと拒否権はありますよ。あと、妻の許可も要ります。」
ん? 妻?
「つまりですね、未婚女性は結婚している男性に求婚出来るという話です。その場合は、すべての妻の同意が要りますが。ちなみに、男性から結婚している女性には求婚出来ません。あくまで、女性だけの権利なのです。」
「はぁい? …えっ? それって結局、一夫多妻制って事ですよね?」
「いえ、多妻一夫制です。女性が男性を独り占めしない制度です。」
ああぁ、なるほど。
それと、サーリアちゃんの話を合わせると…
どうなるんだ?
僕が首を傾げていると、
「将来、サーリアからの求婚をハルトさんが受けてくれるのなら、結婚していても何も問題ないってことです。」
「あぁ~そういう事ですか。でも、その時の妻が許可しなかったら?」
「大丈夫です。」
そう言い放った王妃様の笑顔で、僕の背筋が一瞬、ゾアァってなりました。
「よかったじゃない、ハルト。」
アイザの視線は、どうみても称えるような感じには、見えなかった。
まだ、何もしていないんですが…




