召使いの目玉焼きな一日~擲弾筒を添えて~
執筆時のBGM
https://youtu.be/oGfxnAuRfEQ
これを聞きながら読むことを強く推奨する
スワード家の坊ちゃまに使える専属の召使、ユルゲン・シュマイザーの朝は早い。坊ちゃまの好物である目玉焼きを坊ちゃまが起きてくる前に完成させ、かつ適切な温度で提供せねばならないからである。今日も日が昇るより相当に早く目を覚まし服装を整える。召使とはいえ外から見れば仕えている家の一員であり表に出ればその家を代表してすらあるのだ、一分の乱れも許されない。最期に純白の手套をつけて仕上げるそれは一分の隙もない召使の姿である。
ユルゲンは買い出しに出た。新鮮な卵を得るためだ。バイクにも似た半装軌式の車両が朝の静けさを切り裂いて走り出す。
卵はいつもの信頼できる指定の農家で手に入れた。帰りはここまでくるよりも速度を落とさざるを得ない。卵を守るためである。そういった状況でやむを得ずに貧民街を通る。そうでない道は大回りで間に合わないのだ。
身なりを整えた男の乗る速度の出ていない半装軌式バイクはこの貧民街に来たばかりのチンピラたちにとって魅力的な標的に見えた。他に誰かがついて守っているなんてことも無い。だからチンピラたちはあり合わせの、それこそ安っぽい手作りかそれよりはましかといったような拳銃や、槍もどきを持って距離を詰めていった。
「ふむ、不届き者がいるようですね。全く、これだから根無し草のチンピラどもは。」
そう言って、ユルゲンは荷台から得物をとりだした。それは第二次大戦時の独軍が装備していたMP40である。そうして、彼は無警告に無慈悲な射撃を始めた。9㎜パラベラム弾がチンピラを一人、また一人と撃ち貫きこの世から解き放って行く。パラベラムの意味合いにふさわしい使い方ともいえる。「Si Vis Pacem, Para Bellum」汝平和を欲さば戦に備えよ。これほど守りにふさわしい名はない。真鍮の撃ち殻薬莢が空を舞う。チンピラたちは算を乱して逃げてゆく。それを軽蔑の眼で見送るユルゲン。そうして、MP40を片付けると今度は大日本帝国陸軍の八九式擲弾筒を取り出した。これは一昨日手に入れたばかりの新兵器であり、今回の「目玉」である。筒の下部にあるダイヤルを回し、射程を調定。490m。八九式榴弾を装填し、仰角をおおむね45度する。そして数呼吸整え、撃った。12秒後、チンピラたちのねぐらで八九式榴弾が炸裂し鋭利な破片を飛び散らして這う這うの体で帰り着いた彼らの息の根を止めた。一方ユルゲンの服装にはしわ一つ増えることもなく汚れはわずかな灰すらない。相変わらず一分の隙もない召使の姿である。
屋敷に帰り着いたユルゲンが目玉焼きを作り終えたころ、坊ちゃまが起き出した。ここからいつもの平凡な一日が始まる。




