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アーレイスシフター  作者: ケースヶ
1章:4月
9/11

8話:仲間との模擬戦(5)

 次の対戦は遠木サキと平峰シュウの2人。特に会話することも無く、シュウは椅子に座って目を閉じた。一方のサキだが……、

「へい、ぱっしん」

 コウヤの右に座っていたミズキを無理やり立たせてから、椅子を横取りするかのように着席した。

「何故わざわざ私の席に」

「と、見せかけてフェイント」

 そして直ぐに立ち上がり、一つ後ろの席に座った。位置的にはコウヤの右後ろである。

「…………」

「その子の相手、疲れない?」

「疲れます。本当に疲れている時にしてこないのが救いでしょうか……」

 サキがコネクタの起動を始めコウヤの方を向いて、不敵な笑みを見せた。

(何だ……?)

 少ししてからサキはコウヤへの視線を外して目を閉じ、コウヤは画面の方に視点を戻した。

 電脳世界の中を映していたモニターには既に水色のアーレイス〈アマルツ〉が表示されていた。遅れて表示された薄い紫色のアーレイスを見て、コウヤは驚いた。

「クゥエルっ!?」

「知ってんのか?」

「前回レート2位だ……!」

「えっ、マジで?」

 カズキを含めた一部の者達がコネクタを取り出して、検索を始めた。

 レート式バトルは1ヶ月ごとにルールが変わっていく。3月ルールの2位が彼女の操作するクゥエルということである。

 先程言われた『手加減なんていらない』の意味を強く理解したコウヤだった。

「あー……、あれにあの子が」

 ユイも戦ったことがあるかのようなことを呟いた。

「高末君、キミもトップ5に居るじゃないか!」

 コノハがランキングの中にコウヤを見つけたようだった。

「ああ……、まぁ……」

 コウヤにとってレートランキング上位の事に関して伝える気は無かったのだが必然的にそうなってしまった。

「よく、こんなにトップランカーを連れてこれましたね」

「その代わり、使えない子多いわよ。ココ」

「ああ、そういう……」

 ユイはミズキの方を向いて、少ししてから再び画面の方を向き直した。 

『バトルまえに誰かしつもんある?』

 サキが皆に訊いた。対戦相手である平峰シュウに対してではないということは、レート2位という順位での質問ということなのだろう。

「強い理由は?」

『ずっと戦ってきたから』

 コノハの質問に対してすぐ答えた。この理由に関してはコウヤ自身も同意である。戦ってきたからこそ強くなったとしか言いようが無いだろう。ただし、中には例外が存在すると思うが……。

 先程からの不敵な笑みの意味……、それはおそらく「私がコウヤを倒したクゥエルのパイロット」だからということだろう。であればそのような質問は不要であり、コウヤが先程から気になっていたことを直に質問をすることにして疑問を解消することにした。

「遠木さん。……キミ、何世代?」

『ろく』

 その答えも即答であった。

「第6世代!?」

 声に出したのはサーシャだが、言葉には出さなかった者達や、コウヤ自身も驚いていた。

 この時代の人類は生き残るために様々な事をしてきた。その内の一つが人類の強化である。世代強化は数値が高い程に強化量が高くなっており、強化内容は身体能力や知能の強化が主な内容である。この世代強化に関しては、産まれる前の遺伝子改良によって実現されているものであり、産まれた後は世代強化は出来ないとされている。

 簡単に強力な人間を生み出す事が出きるものの、失敗事例も多いので手を出す事に反対の人も当然居る。

『こーや君は?』

「……第3世代だ」

 コウヤ自身にはそれなりの世代強化が行われている。主に疲れにくい体質などである。

「……えーと、世代って何だっけ?」

 カズキが場の空気を変える質問をした。

「一般常識なんだけど、劇薬で脳細胞逝ったの?」

「逝ってませんよ!?」

 去年習ったことだが、実際のところ覚えていなくとも生きる上での知識としてはほとんど不要なので、忘れる者も居るだろう。

「……イーリス」

(簡潔でいい)

 コウヤは呆れながらもコネクタを取り出して、イーリスを呼び出した。

『世代強化は20%区切りで分かれており、0%が第1世代。20%までが第2世代となっております。遠木さんが第6世代であれば、約100%の強化。内容は筋力や思考能力、動体視力などの強化です。お分かりになりましたか?』

「おう、いつもありがとな」

 伝わったようだ。

(『強化のデメリットは伝えなくてもいいのですか?』)

(あまり長いと返って伝わらなくなる)

 限界まで強化しているのであれば、その分何らかの問題が発生していてもおかしくはないだろう。

(やっぱり、感情の欠損か……)

 サキがわざとフラフラしたり、よく分からないことをする行為、髪色が水色になっている点が、おそらく強化によって生じたデメリットだろう。

『ひらみー君はびびった?』

『別に何も』

『ふーん……』

 シュウは冷静に返答していた。世代強化次第によっては、最低限のコミュニケーションしか出来ない場合もある。それこそ、人間を戦いの道具としか認識されていないようなものだ。

『それじゃ、始めよっか』

 サキはそこで質問を打ち切った。やはり、コウヤ自身に対しての問いかけだったのだろう。

『ああ』

 お互いの準備が完了したようで、バトル開始までのカウントダウンが始まり──バトルが始まった。

 ──5秒経ったが、お互いは動くことなくその場で待機していた。

「ファーストアタックしないのか……?」

「武器が無いんだろ」

 確実に当てるのなら弾速が速いスナイパーライフル等であったり、追尾する機能を持っているミサイル等でなければ、確実に回避されてしまう。ましてや、威力も高くなければ当てても意味がない。

 クゥエルとアマルツは双方ともに両腰に小銃を装着しているが、一撃必殺となる銃器には見えない。であれば、ファーストアタックはせずに弾を温存するなりした方が良い。

 最初に動いたのは平峰シュウの機体であるアマルツ。アマルツは背中の大剣を右手で持ってから右肩に乗せ、左手を前に出してての4本の指を同時に何度か曲げて伸ばしていた。こちらへ来いという挑発をしているのだろう。

『ふーん……。それでいいんだ』

 クゥエルは腰からビームを放出するトゲのような武器を片手に2本ずつ、合計4本取り出してアマルツに向けて右手の2本、遅れて左手の2本を投げ飛ばした。しかし距離があった為、アマルツに難なく回避されてしまう。続いて両腰のハンドガン型の銃を取り出して、左から大きく弧を描くように走りつつアマルツに向けて射撃を開始した。

 アマルツはダッシュでその弾丸を回避するだけでクゥエルの方へ向かうことは無かった。

「アイツ近接武器持ってないのか?」

「いや、あのハンドガンが近接武器だ。マルチウェポンだな」

 マルチウェポンとは近接武器にもなり、射撃武器にもなる万能型の武器である。基本的にビーム型のものが多い。コウヤは過去の戦いで使用されたことがあるので覚えていた。

『ネタバレはよくないよっ』

 会話を聞いていたサキが愚痴りながら、急にクゥエルをアマルツへ直進させる。両手に持っていたハンドガンのような武器を持ち換えて剣状のビームを放出させ、アマルツを縦に斬りかかった。

 アマルツは大剣で難なくクゥエルの縦斬りの攻撃を受け止め、大剣を大きく振ってクゥエルを後方へ大きく打ち飛ばした。

(何か仕込んでるな……)

 大剣という大きい武器でありながらも、振る速度は異常に速かった。であれば、おそらく加速装置……いわゆるジェットブースター系の装置を仕込んでいるのだろうと予測した。

『ジェットブースター大剣……かっこいいねぇ』

 クゥエルが左右に小刻みにステップを始めた。音も流れているので、機械の動く音が部屋に響いた。

「何あの子、気持ち悪いんだけど」

 さらりとユイが皆の思っていることを口にした。

「酷いこと言わないで上げてください」

『気持ちわるいことしてるよ?』

「サキさん!」

 ミズキがサキに対してカバーをしたが、サキはそのまま受け入れてしまった。

『だってこっちに来ないもの』

 先程からアマルツは待つだけで、攻めようとはしていない。

(大剣の射程に入ったところに強襲でズドンか)

 数秒間クゥエルはその場で左右ステップを繰り返していたが急に止まった。

『あきた』

「だろうな……」

 だが、有効な射撃武器は無し。近接型の相手に近付くのは危険となると、クゥエル側が攻めるのは不利である。──ように見える。

(さぁ……、どう出る)

『これの名前、トライスレインって言って、銃にも剣にもなる。そしてもう1つブーメラン機能があってね』

 クゥエルが左右の武器を剣モードにし、アマルツに向けて弧を描くように投げ飛ばした。

「これ、リアリティルールよ!?そんなことできる訳……」

 後ろの腰に収納していたもう2丁のトライスレインを取り出し、アマルツに向けて射撃を開始した。アマルツはそのビーム弾を大剣で弾き飛ばし、飛んできたトライスレインに関しては後方へ下がって回避。その後トライスレインは地面へ落下。

「ブーメランじゃねぇじゃん」

 声に出して皆を騙したのか、それともリアリティルールだということを忘れていたのか。

 別のルールではゲームらしい動きや武器の設定が可能となり、先ほどクゥエルが行おうとした武器を投げて戻ってこさせる手段──いわゆる、ブーメランのように投げることも設定すれば可能である。今回はその設定が適応されないルールであるため、投げた勢いが無くなって地面に落ちたということだ。

『ねえ、そこ、何が落ちてると思う?』

 この発言に全員が反応した。戦闘開始して最初に投げたトゲ型の武器がビーム放出面を上にして地面に落ちている──、そう思っていた。だが、そこにあったのはビーム放出状態でもない武器が横たわっており、戦闘では役に立たない状態で落ちていた。

 クゥエルはその間に全速力で近づいて右手のトライスレインをアマルツの胴体に向けて斬りかかろうとしたが──

『そんな手には乗らん』

 アマルツの大剣がトライスレインを弾き飛ばし、そのままクゥエルの胴体へ追撃を入れようとしたが空振り。クゥエルは一旦全速で反転して直進。アマルツから離れるように近接攻撃を回避した。

『おー、こわいこわい』

「アイツ、背中向けてんぞ」

 この時、クゥエルは全速力で距離を引き離す背中を向けてしまっていた。

「これまでのようですわね」

 背中は視界範囲外であり、戦闘中に背を向ける行為は非常に危険である。射撃攻撃を避けようにも反応が遅れやすく、近接攻撃を受け止めようにも、反転するための間が発生する。

 その隙を突いてアマルツが先ほどまで見せる事が無かった全速力で突進。ほんの数秒でクゥエルの近接攻撃圏内へと入った。

(恐ろしいのはここからだ)

『終わりだ』

 アマルツが大剣を横に振り、クゥエルの胴体をを両断──しようとしたが、寸前で止まった。いや、止められたのだ。

『砂糖コップ一杯ぐらい、あまい』

 その直後、アマルツの後方地面からビームが発射されてアマルツの左肩から先が破壊された。正確にはクゥエルが最初に投げ飛ばしたトゲ型の武器からであった。先ほどまでは横たわっていたが、現在は斜め上を向いて地面に刺さっている。

「なっ、なん……!?」

 あまりの急な出来事により、レナとコウヤ以外の全員が言葉を失っていた。

「やっぱそう来たか……!」

「あの子優秀ね」

 クゥエルの腰に付属していたのはただの飾りパーツなどではなく、折り曲げて収納されていた補助腕であった。その腕の内の左腕がアマルツの大剣を止め、もう片方の右腕がアマルツの右腕を掴んでいた。

(やっぱりアレ……、AI補助無いよな?)

『(そう思っている時点でそうなのでは?)』

 過去に使用されたことを思い出し、彼女の異様なアーレイスの操縦技術を再び感じていた。

『手を抜いていたな?』

『どーだろうね』

 再び地面からビームが発射され、次はアマルツの右肩が破壊された。そしてアマルツが回避する余裕を与える間の無く、クゥエルの補助腕が持っていた大剣をアマルツの胴体に一刺しした。

 ──クゥエル本体は無傷のまま戦闘が終了。勝者は遠木サキに決定した。

 数秒した後、アマルツだけ表示が消えていった。シュウがログアウトして椅子から起き上がり、レナから劇薬青汁を受け取って再び同じ席に座った。

「なんだよあの戦い方……。というか武器がどうなってんだよ」

 クゥエルは投擲した武器を律儀に拾い集めてから、装備品を全て丁寧に地面へ置き、皆に見えるように示した。

『わたしの武器はこれだよ。今の内に考えるといいかもね』

 おそらく彼女にとっては挑発。手の内を全て明かしたことは、それだけ自信があるのだろう。

 クゥエルが置いた武器は投擲したトゲ型の武器が6本。銃器型の武器トライスレインが4本。そして後ろの腰に2本の腕。

 これら全て、過去にコウヤと戦った時と同じである。

 なお、先ほど行ったトライスレインのブーメラン投擲攻撃も異なるルール環境であった際は、ちゃんとクゥエルの手元に戻っていた。彼女の言動から察するに、リアリティルールであえて嘘のことを言ったのかは定かではない。

「勝てそう?」

「さぁ……、やるまで分かりませんよ」

 前回戦った時とはルールが違う。勝てるかどうかなんてその時になってみなければ分からないだろう。

「その発言は気に入りませんね先輩。そして高末君」

 椅子から立ち上がった篠原コノハが、コウヤの右隣りに移動しながら発言した。

「私が決勝戦に勝ち上がれないと言っているように聞こえますが?」

「そう言ってるのよ」

「確かにレートではガチ勢かもしれませんが、こちらはルールが異なります。一撃必殺があり得る事を忘れないように」

(それはこちらに言うべきことなのでは……?)

 コウヤは内心そう思っていた。

「……なぁ。俺が決勝に行くかもしれないのに、その会話は無いんじゃないのか?」

 会話にカズキが割り込んできた。1回戦の最後に音山兄弟の戦いがあることをコウヤは忘れていた。

「それはきっとないよ」

 いつの間にかログアウトしていたサキがコノハの隣をわざわざ通り、椅子に座っているミズキの上に座った。

「邪魔なのですが」

「わたしはじゃまじゃない」

「私にとって邪魔なんです!」

 ミズキを無視するかのようにサキは話を続けた。

「もしも運よく次に勝てても──、わたしが絶望の底に叩き落とすから」

 サキが先程とは違う冷たさを感じる鋭い視線でそう言った。だが、すぐに先程通りの表情と声質を戻した。

「ま、あなたはトップ4に来ることすらムリだとおもうよ」

「なっ……。ほう……。俺が兄貴に勝てない、と」

 どうやらカズキがやる気を出したようだ。

「いいぜ。ガチ勢とほぼ毎日戦ってた俺の実力を見せてやるぜ!」

 カズキがサキに指を差して宣言した。

「雑談は十分か?」

 カズキの兄──音山タクトはコウヤ達から1番離れた右後ろの席にすでに座っており、待機していた。

「おっと悪いな」

 カズキは急いで空いている席に座り、コネクタを起動した。

(ガチ勢と……ね)

(『本当のことを言わなくて宜しいのですか?』)

(フルボッコにされて言い訳してたら言ってやってくれ。……さて、どれ程の技量だろうな)

 1年間戦ってきた人間がどれほどの技量を持っているのか、それを知れることに期待していたコウヤだった。

1週間やすんだ分、文量を多めにして1戦消化しました。

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