7話:仲間との模擬戦(4)
フローリアが槍を薙ぎ払う構えを取り、ベリアルに全速で直進していった。ベリアルの方は剣型の武器を構えたままで、背面の射撃武器を使用する素振りは一切見せなかった。おそらく現在持っている近接武器だけで決着をつけるつもりなのだろう。
(保持か……。面倒だな)
『(コウヤさんも手札を隠しているのに何を思っているのですか)』
コウヤ自身も射撃武器については1回戦で未使用である。次の対戦相手として戦う際、武器の詳細が判明していない点では双方同じ立場ともいえる。……もっとも、この戦闘でコノハが勝てばの話だが。
(それもそうか)
フローリアは槍の攻撃範囲に入るほどに近付いた時、再びビーム槍の出力を上げて刃を大きくした。攻撃範囲が伸びることは、攻撃を回避するために要する距離も伸びるという事である。先程と同様にフローリアは力強く横に凪ぎ払うが、べリアルによるA型の武器によって難なく止められる。その直後、フローリアは逆方向に急速回転して反対方向から凪ぎ払ったものの、それも反対側のA型の武器で止まる。
「重量機にはしんどい戦いだな」
「パイロットが強ければ、だな……」
カズキは気付いていないようだったが、コウヤはこの戦いを見ていて彼女ら2人の実力差というものを大きく感じていた。
「サーシャさんが押してるんじゃないのか?」
確かにサーシャの操るフローリアが連続攻撃で押しているように見えるが、攻撃を受け止めているだけのべリアルの方にはほとんど変化がない。ベリアルは攻撃をギリギリ受け止めているのではなく、余裕で受け止めているのである。つまり、攻めているフローリアに勝ち目は薄い。
フローリアの動作はベリアルの体勢を崩すために強く打ち続けている。その大振りの動作が返ってフローリアにマイナスの動作となっている。
「相手が重すぎるんだよ。遠心力使おうがあれじゃ吹っ飛ばん」
フローリアは軽量機で、べリアルは重量機である。背中の2丁銃もまだ残っているので重量としてはさらに追加されている。コウヤ自身が操縦をして近接武器でベリアルの体勢を崩すのはほぼ不可能だろう。
「じゃあコウヤ君はどう攻める?」
ユイはいたずら気味の笑みをしながらコウヤに質問をした。窮地に陥った状態で勝ってこそ面白いのが対戦である。コウヤは特に考える素振りも無く答え始めた。
「そりゃもちろん、後ろに回って──」
「「脚ちょんぱ」」
後半部はコウヤとサキの声が重なった。
「どやぁ」
コウヤがサキの方を向くと、私を誉めてくれと言わんばかりの表情──いわゆる、ドヤ顔というのをした。
(何だ……?)
少しだけ違和感を感じた。このような言い方は殆ど被る事のない表現である。だが、先程の会話では普通の思考をしているような人ではないことを思い出し、今回感じた違和感を無視することにした。
──戦闘中のサーシャは外野の声を聞き逃さなかった。
(後ろに回って……脚?脚破壊?)
「ちょんぱ」という単語について理解は出来ていなかったが、破壊という意味だということ伝わってた。
サーシャはもう1度強く槍を叩きつけた後、その反動を利用してベリアルの背後に回った。だが──、重量機とは思えないほどの高速半回転で正面を向かれた。急な出来事に、彼女は咄嗟に距離を取った。
「クイックターンっ!?」
「あるだろうな」
右足を支点とした急速回転というやつだろう。クイックターンが出来る事を予測しているのなら発言すればいいのに、とサーシャは不満を感じていた。
(……聞いてる?)
『(外野音声をオンにしているのでしょう)』
コウヤはフローリアが急に動きの変わったことに違和感を感じていた。
電脳世界へ接続している際は外側からの音を完全に遮断できるが、接続時のの状態は身体が一時的な催眠状態という事もあり、緊急事態を考慮して現実世界からの音声を聞き取れるようにする機能も付いている。
(少しだけアドバイスしてやるか)
『(篠原さんに賭けているのでは?)』
(どうせ勝てないさ)
フローリアはまだ一度も大きなダメージを与えられておらず、逆にダメージを受けていた離、武器は1本以外破壊されたという状態である。ベリアル側の操作ミスなどがなければ勝つことは無理だろう。であれば、彼女にアドバイスして少しでも足掻かせてやった方が視聴者側的にも楽しめるというものだ。
(さて……、どう立ち回らせるか)
案の定、ベリアルはクイックターンを持っていた。先程の咄嗟の回避行動的に、彼女自身の反応速度も悪くは無さそうだが……。そこまで期待せずに、コウヤ自身が戦う際の方法を言うだけで問題ないだろうと判断した。
重装型のベリアルに、軽量で格闘武器1本。この極限状態でどう立ち回るかをコウヤは考え始めた。
「まずは横に叩きつけ。押し付けたまま後ろにターン」
ビーム放出型の槍──サイネリスをベリアルに横へ大きくなぎ払うが再度A型の武器で止められる。次はすぐに離さず、押し付けたまま大きく円を動くように背後へ回る。ベリアルもクイックターンを発動したが、先程と違い──
「きゃあっ!」
──サイネリスと接触していたことにより、フローリア自身も急速で移動した。
「おっ、コウヤ君の得意技」
「ただの背面回りですよ……」
クイックターンが終了した次点で、ベリアルの背後を取る事が出来た。
「今度こそ、チェックメイトですわ!」
フローリアを全速全身させ、サイネリスを背中に向けて横に薙ぎ払いを入れた。それをベリアルはクイックターンしつつしゃがんで回避しようとしたようだが、頭部パーツを切り飛ばすことが出来た。
「ヘッド、頂きましたわッ!」
フローリアは1撃与える事が出来たが、アーレイスの本体は基本的に胴体である。動きの止まらないベリアルは、そのままフローリアの胴体を両手の武器でそれぞれ1回──、合計2回突き刺した。
『えっ、ど……、どうして……』
胴体が破損したことにより、フローリアの機能が停止。ベリアルを操縦していた篠原コノハの勝利が決定した。
「……あの子、ルール間違えてない?」
ユイが疑問点を口にした。アーレイスの頭も飛ばせば勝利するルールは存在する。だが、サーシャがそのルールをやっていたとは思えない。となれば答えは1つである。
「えーと……、サーシャさん。これはアーレイス同士のバトルだ。ノールのように頭を飛ばしても終わらないんだよ」
コウヤがルールについて指摘した。
『そん、な……』
「ふう……」
篠原コノハが起き上がり、少ししてからサーシャも起き上がった。これで2戦目が終了。コウヤの次の相手は篠原コノハに決定した。そしてもう1つ、決定したものがある。
「劇薬1本いっとくか」
「お、おおおう……」
カズキのテンションが朝の状態のように限界まで下がっていき、昼食に栄養満点のドリンクが追加されることとな
った。……筈だった。
「ほい」
レナがカズキに近付いて1本のドリンクを手渡した。
「えっ……、これ何すか?」
「劇薬青汁だけど?」
「何であるんすか」
呆然としながらだが、カズキは即座に再度質問した。
「そりゃ飲ませるためにあるもの。それ以外に何か?」
「ちょっ、それ聞いてないですよ!?」
「聞かせてないし、あんた殆ど無関係でしょうに」
1戦しか行わないであろうユイには確かに無関係そうに思えるのだが……。
「1回戦敗退者全員1本。後で飲ませるつもりだったんだけど今からでも問題ないわね」
どうやら、昼食ではなく今から飲ませられるようだ。
「観戦の休憩ドリンクとして飲んでね」
「飲めるかッ!」
カズキはそうツッコミを入れたが、残念ながら飲まないという選択肢はほぼ無いので飲まなければならない。同様に既に2名が確定していた。
「っ…………」
「ほらえがおえがおー」
「出来る訳ないじゃないですか……」
「わ、ワタクシに……、そ、それを飲めと……?」
ミズキとサーシャの2人は絶望な表情をしており、サキはミズキに対してからかっていた。慣れている人がほとんど居ない程度には劇薬青汁というものは嫌われているのである。
レナが対象者にそれぞれ1本ずつのドリンクを手渡して行った。
「キミ達、私の勝負に賭け事をしていたのか?」
コノハが椅子から立ち上がり、コウヤ達に質問をした
「そうね」
「その返事は、風紀を守るために取り締まっても問題は無い、という事で宜しいでしょうか?」
コノハが腕組をして返答した。
「わぁ、きびしいー」
それにユイは半ば棒読みで返答。反省はしていないといった表情と発言であった。
技術差のあるバトルだとどうしても上手く書きあげられませんね。
今年も遅くとも週1間隔で投稿予定