6話:仲間との模擬戦(3)
電脳世界に出現したサーシャの機体名は〈フローリア〉と言う。色は白で、脚部は鉄のスカートとも言えるようなパーツが付けられていた。機体上半身を見る限りでは、軽装型でも重装型でもない通常型のように感じた。
一方のコノハの機体名は〈ベリアル〉で、赤色がベースとなっており、移動スピードを犠牲にした重装型だった。両肩後ろ、両腰、腰の後ろにそれぞれ2丁ずつ、合計で6丁の射撃武器を確認できた。いわゆるフル装備である。
『風紀委員だか何だか知りませんが、ワタクシに勝つためのステータスには不要ですわよ!』
「煽るわねぇ……」
「あれは負けた時ヤバイやつですよ」
ユイがコウヤの左隣の椅子に座って、観戦し始めた。
「どっちが勝つと思う?」
「……赤い方で」
「私も赤い子なんだけど、賭けにならないわね」
2人の勝利予想は同じ篠原コノハだった。
「サーシャさんは成績上位で、同じクラスだったのに応援しないのか?」
カズキが二人の間に入り込んだ。当然だが、間に椅子は無いので立ち見となる。
「煽るのがなぁ……、フラグにしか思えなくてな」
いわゆる負けフラグと言うものである。そのような発言をした者は負ける可能性が高い、というやつだ。
「じゃあ俺はサーシャさんに賭けるぜ!それなら成立するだろ?」
予想外の方向から賭けが成立してしまった。
「ほほう。それで何賭けるの?」
「昼飯のドリンクが劇薬青汁になります」
「えっ」
劇薬青汁とは、コウヤ的には非常に美味しくない青汁である。そのような飲み物は売れないと思われがちだが、罰ゲームや興味本意で買われ続けている影響でそこそこ売れている飲料水である。なお、栄養面としては他のどの飲料水よりも圧倒的に優れている。
「アレ飲むの……」
ユイが悩み始めたが、すぐに決断をした。
「いいわ。乗った」
3人の賭けが成立した。残りは結果を待つだけである。
篠原コノハは機体のチェックを行っていた。先程の戦いでは機体のスピードが重要な軽装型同士の戦いであった。そんな相手が次に戦うとなれば、重装型の装備では返り討ちに遭いやすい。
「相手に合わせられないとはな……」
ただの1対1であれば、相手に合わせるだけで済むのだが、以降の戦闘でも同一装備となればそうはいかない。
「好きそうなユーザーが好むルールという訳か」
ちなみに、1度セットした機体で戦い続けるルールは実際に存在する。コノハはそのルールではほとんどやった事がないので、何が適切なのか理解できていなかった。
(いつもの装備で試してみるとしよう)
コノハはセッティングを完了すると、戦闘開始までのカウントが始まった。サーシャは先に準備完了していたようだ。
(3、2、1……)
『バトルスタート』
戦闘開始と同時に、篠原コノハのアーレイス──べリアルの方で動きがあった。両腰に装着していた射撃武器が90度回転して敵の方を向き、即座に実体の弾丸を放った。
「速いっ!」
発射された物は少し長めのトゲで、弾速も速かった。その内1本は外れたが、もう1本はフローリアのスカート右側に刺さった。
『えっ──?』
その直後、そのトゲが起爆した。爆破によって発生した煙が晴れると、スカート部位が破損したフローリアが現れた。
「運が良かったわね。脚飛んでないし」
行動不能による敗北は免れたが、足元には破損した武器なども落ちていたため、バトルにおける致命的なダメージとも言えるだろう。
『どうした?成績上位だったのでは?』
『マ……、マニュアルにありませんもの……!』
コノハが使用した開始直後の攻撃──俗称ファーストアタックは、壁が一切無いエリアでのバトルでは、熟練ユーザーには当たり前とも言える戦術で、初手射撃と初手回避はほぼ確実に行われる。
なお、先程のコウヤ達のバトルでは射撃武器が使用されなかったので、ファーストアタックは発生しなかった。
「貫通に爆破属性と。中々に厄介な武器ね」
電脳世界のアーレイスは、プレイヤーが自由に発射する弾丸のタイプを設定することが出来る。そういった自由性が高いので人気のあるコンテンツとも言える。
「リアルであんな武器作られたらコストヤバイんだけど」
「作ってないでしょ……」
現実世界のアーレイス技術も中々のもので、ビーム弾を発射したり、ビーム型の剣といったビーム兵器も開発されている。主な理由が実弾のコスト問題である。
フローリアはスカートパーツを外し、破壊を免れた武器を取り出した。左手にショットガンタイプの武器を。右手に棒状の武器を持った。
『仕留めきれなかったことに後悔なさい!』
棒状の武器の先端からビームが放出され、ビーム槍型の武器になった。
対するベリアルは、後ろの腰に装着されていたA型の銃器のような武器を2つ取り出し、両手に持った。その持ち方はグローブやジャマダハルのように、Aの先端が拳の前に来るような持ち方であった。この状態では近接武器か射撃武器かは判断できない。
『ゲームは長く楽しむものじゃないか。数秒で終わってはつまらないだろう!』
ベリアルが地を蹴って、フローリアに全速で突撃。それに対しフローリアは、右手のビーム槍の出力を上げて刃を大きくし、右から左へ大きく薙ぎ払った。
ベリアルはその薙ぎ払い攻撃を、左手のA型の武器からビームを放出させて止めた。遠心力も加わった大きな衝撃がベリアルを襲うも、これを堪える。
『お見事。ですが、これでチェックメイトですわ!』
フローリアが左手のショットガンをべリアルの胴体へ向けた。──と同時に、発射音が鳴り、そのショットガンに2本のトゲが刺さった。
『詰みなのは、果たしてどちらかな?』
その後、フローリアのショットガンが爆発。正確にはベリアルの両腰にある銃が撃ったトゲが爆発したのである。
急な出来事に対応が遅れ、フローリアは爆風により少しだけ後方に飛ばされたが、即座に体勢を立て直した。
「おいおいウソだろ……。4位の実力どこにいった……」
サーシャに勝利を掛けたカズキが敗北の心配をしていた。ここまで圧倒的な差だと、もはや勝敗はほぼ決まったも同然である。だが……、
「あんな状態でも最後までどうなるか分からないのが、リアリティルールの醍醐味よ。諦めるのは早いわよ」
胴体を破壊すれば勝つ。そんな単純なルール故に、逆転は十分あり得るのである。ただし、武器があればの話だが。
『武器はもう無いのかな?』
『まっ……、まだありますわ!』
コノハ達の会話の途中で、ベリアルの両腰の銃を切り離した。これで残ったのは両肩後ろに背負っている大型2丁と、A型の手持ち小型武器2本の合計4つ。
(腰は2発か)
『(だと良いですね)』
次に対戦することを考慮して、コウヤは色々な部分を観察していた。特にベリアルは、コノハの自己紹介で射撃武器が得意と発言していたこともあり、何の射撃武器かに気を付けていた。
一方フローリアは射撃武器が全部破壊されたのか、持っている武器は右手の槍のみとなっていた。
『次の一撃で終わらせますわ!』
キリのいいポイントまで書こうとすると4000字オーバーが確定したので、いったん区切りました…。
すでに次話用に1000字ストックがあります。