5話:仲間との模擬戦(2)
コウヤは太刀のムラサメを背中の鞘に納刀し、両腕部に装着していたビーム型の短刀を取り出して、両手に持った。
「双剣相手には、双剣だな」
そのまま緑色のビーム状の刃を展開した。薄緑色であるセラフィと合わせたビームの色である。
『さらに近接武器ですか。無駄な装備ですね』
「これがムダじゃないんだよ」
そう答えた。射撃武器もそうだが、近接武器にも得意攻撃範囲というものが存在する。相手に対応できる武器選択も重要だ。
コウヤは対策を考えながらミズキの機体サミダレを確認していると、1つ気になった点が見付かった。
(ん……?)
サミダレの装備を確認したが、どうやら現在持っている剣型の武器2本しか装備していないようだ。
「いやいやいや……」
小声に出してしまったが、聞こえていないようだった。
途中セッティング禁止のルールに、たった2本の武器で最大4人を相手するのは難易度が高すぎるだろう。
「ミズキちゃん、武器2本だけ!?アホなの!?」
「あの子、いつもあんな感じみたいよ」
レナが訓練時のデータを確認しながら答え、ユイもそのデータを確認した。射撃武器が苦手であっても、その苦手な面をサポートする機能を持った武器なり、複数の攻撃範囲に対応した武器を装備するのが基本だろう。
「剣2本で優勝したら最高なんだけど」
「ムリですよ。NPC相手ならまだしも、プレイヤーですよ?」
NPCとはAIが操作するタイプの敵のことである。設定次第では非常に強い対戦相手となるが、トップクラスのプレイヤーの方が強いので、NPC相手に通用する編成でも、プレイヤーに通用するとは限らないのである。
とは言え、ミズキの実力がトップクラスのプレイヤーよりもあれば、優勝は可能だろう。だが、現実はそんなに甘くはない。
「夢がないのね」
「ミズキちゃんの勝率が低すぎるので……」
『来ないのなら、私から!』
サミダレが地を蹴ってセラフィに直進。それに対してセラフィ──コウヤは機体を動かさず、ビーム短刀を構えた。いわゆる、真っ向勝負である。
(これでやられるなよ……?)
サミダレの剣2本の降り下ろし攻撃を
右手のビーム短刀で2本共受け止めた。
ここは電脳世界であり、ゲームシステム内なので、耐熱設定されている武器はビーム兵器に耐えられる。
セラフィの左手に持っていたビーム短刀で、サミダレの胴体を狙って横に一閃。それをサミダレは左斜め後ろに下がり、すんでのところで回避した。
(反応速度も悪くない。が……)
最初の全速力以外に驚かされた以外、強いと感じる要素が無い。技術はあるようだが、動きが単調なので慣れてしまえば対応できる。
『これを受け止めますか……』
「1度見せたのが失敗だな」
怒りに任せて直進ブースト移動をした時の速度を既に知っているので、いつでも対応できるようにしていた。
「動きが単調すぎるんだよ。見本として、単調じゃない動きを──」
右手のビーム短刀のビームを切ってから地面に落とし、左肩の納刀した太刀ムラサメを真上に射出。落下中に半回転したものを、綺麗に右手で柄をキャッチ。
「──見せてやるよ!」
この時、落としたビーム短刀を、セラフィの右脚で踏んでいた事に気付いた者は少なかった。
コウヤはそのままセラフィを全速力で直進。ムラサメを横に振りかぶり、サミダレの右肩から胴体に向けて斬りかかった。サミダレはそれを右手の剣で止めたが、セラフィの勢いは止まらない。剣と太刀の接触点を支点として、セラフィが弧を描くように移動を開始。それに合わせてサミダレはセラフィを視界から外さないように向きを変えた。
『背中を取るおつもりですか?』
その直後に、コウヤはセラフィを急速で一回転させる。接触していた武器を受け流す形で離し、勢いをそのままにサミダレの背中を狙う。
『反応できないとでもっ!?』
サミダレは右側に方向転換して、再びムラサメを右手の剣で止め、武器同士の大きな金属同士のぶつかる音が鳴り響いた。
「対応は悪くなかったぞ」
セラフィは少しサミダレに向かって前進し、右脚でサミダレの胴体を蹴り飛ばす──と同時に、右足裏に装着していたビーム短刀を起動。
『なっ──!?』
そのビームはサミダレの胴体に刺さった。それから数秒後、コウヤ側の画面には大きく「WIN」という文字が表示された。これで勝敗が決まったのである。
コウヤは電脳世界からログアウトし、起き上がった。
その横で、遠木サキがミズキの椅子で膝立ちしていた。
「ミズキが……、起きないの……」
「なっ!?冗談、だろ……!?」
その発言に、何故かカズキが反応した。
「そんな、ウソだよね。起きて。起きてよ……!」
「何をしているのですか貴女は……」
ミズキが普通に起きあがった。
「電脳世界に取り残されたごっこ」
「人の命で遊ばないで下さい……」
アニメ作品でそういったものは中にはあるが、現在利用されている電脳世界の技術はそういった事が起きないように安全装置が取り付けられており、過去にもそういった事故の事例は無い。
「……なぁ、大丈夫ってことでいいのか?」
「エイプリルフールってこと忘れてるだろ」
「まだ続いてんのかよ!?」
コウヤ自身はこれ以上はやめておこうと思って、本日はカズキを弄ることを止めているものの、遠木サキという新たな問題がカズキに襲いかかりそうだった。
「…………」
サキがコウヤの方を向いて、真剣な表情になった。
「わたしとやるときは、手加減なんていらないからね」
先程までのゆるやかな彼女と同じ人物とは思えない真剣な表情だった。
「決勝まで上がってこれたら、な」
次の勝負はサーシャと篠原コノハ。戦う2人がコウヤ達の使用していたものとは異なる別の椅子に座り、コウヤとミズキは座ったままの状態で観戦を始めた。
コウヤが次に戦う相手は誰になるのだろうか。
1戦1話ならキリのいい感じに書けそうですね。
ただ、設定上に実力差がありすぎると、どうしても長く書けないのが難しいところですね。
(ロボアニメで弱い機体がアッサリ撃ち落されるようなあんな感じ)
※修正点
人物名を間違っていたので修正しました。