4話:仲間との模擬戦(1)
10人は椅子が複数置いてある部屋へ移動した。
「ルールは5分、1対1、リアリティ、途中セッティングは禁止、武器はなんでも可。こんなところ?」
レナがそう言いながらコネクタを操作した。この場にいる全員が神経接続タイプのコネクタを使用しているので、視覚情報の共有も可能である。
レナが情報共有をオンにすると、コウヤ達の視覚に共有可能データとして表示され、コウヤ達が許可の操作をすると、各自の視覚にトーナメント表が開示された。
「トーナメントか。燃えてきたぜ……!」
カズキは格好つけで、コネクタを利用して自分の周りに炎のエフェクトを表示させたが、残念なことに他のメンバーには視覚情報として共有されていないのでカズキ自身とコウヤにしか見えていない。
「好きな場所取っていいわよ。早いもの順で」
「コウヤ君は一番左端固定ね」
レナの説明が終わった直後、ユイが勝手に一番左にコウヤの名前を入力した。
「えっ、何で」
選択権がいきなり無くなった反面、悩む必要性も無くなったと言えるが……。
「私が操作を教えたもの。決定権は私にあるわ」
「その理屈はおかしい……」
「えっ、何お前、先輩にアーレイス教えてもらったのか?」
コウヤとユイの会話にカズキが割り込んだ。
「まぁ……、うん」
あまり思い出したくない事もあったので、コウヤは視線を反らしながら答えた。
「幼馴染みに、先輩フラグ持ちかよ……。じゃあ俺逆の端で。決勝で待ってろよ!」
コウヤに向けて人差し指を差した。
(嫉妬かよ)
カズキが表の右端を選択すると同時に隣が埋まった。登録者は音山タクト、彼の兄である。
「うぇぇ!?兄貴!?」
「気にすんな」
「人数の都合で1人入れるわ」
2年生は7人なので、8人トーナメントをするには1人足りない。であれば3年生の誰かが入るのが簡単な問題解消法だろう。
音山カズキという一番戦い慣れしている相手と戦えないのは残念だが、メンバーの強さを理解するために一戦でも初めての相手と戦える事は良い機会でもある。
「では、初戦を頂かせてもらいます」
朝凪ミズキがコウヤの右隣を選択。コウヤの初戦の相手が決まった。
それから少し経ち、8人の入力が完了した。
左から順に──高末コウヤ、朝凪ミズキ。サーシャ、篠原コノハ。遠木サキ、平峰シュウ。音山タクト、音山カズキ。の順で戦うこととなる。
「先輩は入んないんすか?」
カズキがユイに対して質問をした。
「ユイは優勝者と戦ってもらうわ」
「「えっ」」
コウヤとユイがその発言に反応した。
「待機メンバーどうするんですか?」
「アンタとタクトが居るでしょ」
コウヤには待機メンバーの話が何の事かは分からなかったが、ユイと戦える可能性に少しだけ期待していた。
すると横から、ミズキを後ろから抱き締めてホールドしたままサキが近付いてきた。なお、抱き締められているミズキは少し嫌な顔をしていた。
「みずっちを泣かせたら……、許すから」
「許すのか」
想定外の発言に、ついツッコミが出たコウヤだった。
「貴女はどちらの味方ですか!?」
「だいさんせいりょくー」
嫌がっているように見えるが、振りほどこうとしていないので、意外とそうでもないのかもしれない。
「遠木さんはナギと仲が良いんだな」
「おつきあいしてますお兄様!」
「ぶっ!?」
コウヤは意外な発言に耐えられず、つい吹き出してしまった。なお、吹き出す直前に右下を向いたので前方に迷惑はかけていない。
「ただの相部屋です!誤解しないで下さい!」
ようやくミズキがサキを振りほどいて、サキの方を向いた。
「どうしてそのような事を平然と言うのですか!?」
「おもしろいから」
不敵な笑いだった。
コウヤの知っている朝凪ミズキは、礼儀正しく優しい性格であった。今までは過去の事で少し暗くなっていたが、遠木サキと友達になって明るくなったように感じた。
(それよりも気になるのは……)
遠木サキの読めない性格である。先程から全く予想していないことばかり発言している。こういった性格であると、今後のコミュニケーションが不安になる。
「ルームを用意したわ。入って」
一番目はコウヤとミズキなので、彼らは雑談を中断した。
「それじゃ、行ってくる」
「みずのんがんばれー」
(あだ名は何個あるんだ)
遠木サキとの会話に少々疲れたコウヤだった。
2人はサキから離れてから椅子に座り、目を閉じた。
これはコネクタを利用した機能である。肉体を一時的に睡眠状態にし、意識を持たせる──これが、電脳世界への移行である。
次の瞬間には、外は青空と草原が広がっており、コウヤとミズキはそれぞれの機体の内部──アーレイスの操縦席に座っていた。
「障害物は無し、と」
空も地面も全てデジタルな情報ではあるが、現在の技術では本物と比べても分かりにくいほどに細かく作られている。
『コウヤ君、AIの支援は禁止よ』
スピーカー音声のようなレナの声が届いた。
「使いませんよ」
勝てますから──と繋げようとしたが言い止まった。
『ルールはもうセットしてあるわ。用意ができたらボタンを押しなさい』
アーレイスの操縦はそれぞれ左右に付いているある手で操作する5ボタンのレバーと、足で操作するペダルのみである。だが、コネクタの神経接続システムにより、その2セットだけでもかなり自由な操作が可能になっている。
(一応セッティング確認しとくか)
コウヤのアーレイスは薄緑色をベースとした色の、軽量型機体〈セラフィ〉である。背中の左側には納刀された太刀型の武器ムラサメが一本。両腰にはエクスライフルと呼ばれる銃器型の武器が合計二丁。そして両腕部の手の甲側にビーム型短刀シェルトルーフェが装着されている。
(朝確認したやつのままだな。どっちでも立ち回れるように組んでてよかった)
事前のセッティングに関するメールはこの為だったのだろう。ただし、ルールに関しては記載されていなかった。
このリアリティルールとは、機体へのダメージ計算が精密になり、パーツ破損も表現される。コックピット破壊による一撃死が有り得るので、慎重な立ち回り方が要求される高難易度なルールとなっている。デジタルではデジタルの、リアリティではリアリティの立ち回りが要求されるのがこのアーレイスシステムの特徴である。
なお、彼らが訓練に用いていたものもリアリティルールなので、全体的にリアリティルールの立ち回り方を強化されている。
「よし」
コウヤはレバーを持ち、人差し指のトリガーボタンを押して、開始準備を完了した。
一方、現実世界側では、壁に内蔵された巨大モニターに電脳世界の画面が映し出されていた。
「どっちが勝つか賭ける?」
腕組みと足組みしつつ椅子に座っていたレナが、その1つ隣に座っていたユイに訊いた。
「成立すると思ってるんですか?」
「んー。しないわね!」
レナとユイには、戦闘する2人のデータが記されている画面が表示されていた。
「ま、射撃が苦手って言ってる時点で分かりきったことよね」
敵に弱点を教えて勝てる勝負など滅多に無い。彼女はそれほどのハンデを背負っているのだ。
「さて、アンタが育て上げたコウヤ君がどれ程スゴイか見ものね」
『バトル開始まであと10秒──』
ミズキの方も準備が完了したのか、戦闘開始までのカウントダウンが始まっていた。
(あまり期待しないでおくか)
『バトルスタート』
戦闘が始まり、コウヤはレバーを握る手に力を込めた。
右側に視覚情報として相手機体が表示された。名前は〈サミダレ〉で紺色。機体サイズ的に計量型だろう。
「ハンデやろうか」
コウヤはそう言ってエクスライフル2丁を両腰から取りだし、右手で2丁を重ねてから後方へ投げ捨てた。ここは電脳世界で決められたルール内のバトルなので、武器を捨てたり壊したとしてもバトル後にはもとに戻るので問題はない。
『あっ、てめ!俺にもハンデよこせよ!』
カズキが観戦側から会話を差し込んだ。
「男がハンデ貰って悲しくないのか?」
『っ……!』
刹那、サミダレが地を蹴ってセラフィに突撃した。フルブースト状態でもあるのか速度はかなり速く、わずか2秒で近接武器の圏内に入った。
「はやっ!?」
コウヤは挑発によってこうなる事を予測していたものの、速度までは予測できておらず慌てていた。だが、太刀型の武器ムラサメをすでに前側へ構えていたので、サミダレがハサミのように挟み込む双剣の接近攻撃を、ムラサメを間に挟み込むことで止めることが出来た。
『言い換えると……、女は手加減されて当然、と?』
「そんなことは無いけど、射撃なしに銃は反則かな、って!」
セラフィは前方向けてにブーストを吹かしてサミダレをそのまま後方へ引き離し、機体との隙間が出来た後に右足でサミダレを蹴り飛ばした。だがサミダレは特にバランスを崩すこともなく、普通に着地して武器を再度構えた。
『蹴りは攻撃に入りませんよ』
そう、これはリアリティルールである。ただの衝撃程度では機体へのダメージにはならない。装甲が凹むほどであれば別だが、ただの蹴りでは強力な衝撃を与えることは出来ない。
(格闘特化か。厄介だな)
射撃が苦手という欠点を近接特化で補っている。さらにコウヤはハンデとして射撃武器を捨てているので、どうやって近付いて有効打を与えるかが重要となるだろう。
(だけど──、こうでないとな)
コウヤはこの戦いを楽しんでいた。相手の得意な範囲に合わせて戦っていることと、幼馴染みが予想よりも強かったことに。
しばらく戦いパートメインです。