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アーレイスシフター  作者: ケースヶ
1章:4月
4/11

3話:はじまりの1日(3)

 エレベーターに乗っている間、特に会話は無かった。仲の良い親友同士のみであればともかく、それほど会話すらしたことのない者が一緒に乗っているのである。彼らは特に会話することなく、エレベーターが目的地に到着するのを待った。

 数十秒後──、彼らを乗せたエレベーターが、目的地に到着した音を鳴らして扉を開けた。その先には少し薄暗い巨大な空間が広がっており、床や壁は金属の板で出来ていた。そこは所謂ガレージと呼ばれる場所で、全長6mほどの巨大な人型ロボットが左右に5機ずつあり、合計で10機が立って横に並んでいた。

 これこそが人類が化物と戦うための甲殻兵器〈アーレイス〉である。

「うおー!本物のイーグルだー!」

 はしゃぐカズキの前にあるのは、黒に近い灰色のアーレイス。カズキが電脳世界のゲームで使用しているアーレイスである。自分の機体が現実に作られて喜んでいるのだろう。

「横のはお前のだろ!すげぇ!ネットの機体がリアルになるのは知ってたけどよ、ここまで精密に再現されるとはな!」

 横にあった薄緑色のアーレイスはコウヤが使用している機体〈セラフィ〉である。コウヤ自身も自分の機体が目の前に本物としてあることに感動していたが、声に出すことはなかった。

 一方、はしゃいでいるカズキは、やや大きな声だったので、ガレージ中に声が響いていた。

 そんな中、足音を立てずに背後からカズキに近付く白衣を着た金髪ショートヘアーの女性が現れた。

「響くから静かに」

 その女性はカズキの後頭部に小銃──所謂ハンドガンを突きつけてからそう言った。

「は、はい!」

 カズキは小銃ハンドガンを後頭部に突きつけられた直後に硬直し、両手をすぐに上げた。

「えーと、私はチームAの指揮官レナよ。よろしく」

「あの……、顔見えないんで振り向いて良いですか……?」

「撃たれる覚悟があるなら」

 と言っていたが、彼女の人差し指は他の指同様にハンドガンのグリップを握っていた。

「まぁ、お遊びはこれぐらいにして」

 レナはハンドガンを降ろして、そのまま白衣の右ポケットに入れた。本物であれば危険な収納方法だが……。

(エアガンだな)

『(本物の訳がありません)』

 コウヤとイーリスは本物ではないと考察していた。カズキはハンドガンを降ろしたことに気付き、手は上げたまま半回転して向きを変えた。

「自己紹介は皆が揃ってからでいいわ。あんた達のデータは持ってる訳だし」

「アーレイス乗って良いすか!?」

「子供ですわね……」

『子供ですね』

「子供か」

 コウヤを除く女性3人(AI含む)がカズキに対して本音を漏らした。

「あのね。私はそこまで厳しくないからいいけど、ヤバイ人だったら何されてるか分かんないのよ?」

 まるで先生が生徒に叱るような姿だった。

「すみませんでした……」

 軍隊と言えば厳しい印象なのは間違いないだろう。だがここは軍隊ではなく学校だ。少しくらい許されるとカズキは思っていたのかもしれない。

「雑談するなり、ネットしながら皆揃うのを待ってなさい。大声は禁止で。鞄はそこのカゴに置いてて良いわよ」

 レナはそう言うなり彼らから離れて、アーレイスを見上げた。こちらからは一切見えないが、視覚にデータを表示して確認しているのだろう。

 コウヤは指揮官であるレナはそこまで厳しい人ではなさそうだと思い、緊張を解き、二人は鞄を指定された籠に入れながら話していた。

「これが俗に言う放置プレイか」

「プレイ言うな」

 目の前に自分達のものであるアーレイスがあるのに、触らせてもらえないというもどかしさを少し感じていた。

「まったく……。殿方達は落ち着きがありむせんわね」

 コウヤ達の少し後ろでサーシャが愚痴をこぼしていた。

「後で厳しく言っとくよ」

「お前は俺の保護者かっ」

 コウヤはカズキへのツッコミ返しをせず、サーシャの方に歩いて向かいながら優しく話しかけた。

「サーシャさんって日本語上手いよね」

「ワタクシは日本生まれですわ」

 彼女のような日本生まれ日本育ちで、親が外国生まれと言うこともよくある。その場合、日本語が得意ではない者が多いのだが、サーシャからは日本語が苦手な喋り方を感じない。

「お母様が教えて下さいましたもの」

 お母様は何を娘に教えさせてんだ、と二人は心の中でツッコミを入れた。


 ──それから少しして、エレベーターの扉が開き、中から男子生徒が1名。女子生徒が3名降りてきた。

「4、5、6、7……。これで全員ね」

 レナが人数を確認してから、コウヤ達3人の元へ近付いた。

「ここに集合よ。集まって」

 4人がレナ達の方へ向かって歩いて来ている中──、その内の1人に見知った顔を見つけ、コウヤは驚いた。

「ナギ!?」

 コウヤは3歩ほど前に進み、ナギと呼んだお姫様カットの女子生徒の方を向いた。

「……貴方ですか」

 ナギと呼ばれた彼女は驚く素振りもせず、ただ少し重みのある声を発した。

「知り合いか?」

 コウヤの左後ろにいたカズキが話しかけた。

「幼馴染みだ。……一年以上振りかな」

「同じ場所に居て、会わないってのも

逆にすごいな……」

 そのまま会話が繋がることもなく、前に出たコウヤはそのまま3歩ほど後ろに下がった。


 レナの元に7人の学生が揃ってから、話が始まった。

「私がこのチームAである〈エルート〉の指揮官レナよ。よろしく」

 軍隊の指揮官というより、科学者なのか保険医なのかよくわからない白衣を来ていた。おそらく正装時は違うのだろうが、彼女は真面目な人ではないのだろう、とコウヤは感じていた。

「そしてもう2人が──」

 レナが左手でアーレイスの方を示すと、しゃがんでいた2機のアーレイスの胴体──コックピットが開いた。それぞれの機体から男子生徒と女子生徒が出てきて、胴体から地上へと飛び降り、そのまま歩きながら向かってきた。

「ハイ、格好つけご苦労さん」

「発案者はレナさんでしょうに……」

 この時のためにわざわざ待っていたのだろう。

 なお、しゃがんでいたから飛び降りは出来たが、立ったままだと4m以上の飛び降りとなるので中々に危険である。

「あなた達の先輩よ。木下ユイと、音山タクト」

「おお、兄貴じゃねぇか」

「タクト君はカズキ君のご兄弟ね」

 カズキの名字も音山である。

「よろしくな」

 そしてもう1人の──黒髪ショートヘアーの女子生徒、木下ユイが一歩だけ前に出た。

「んー……、暇な時トレーニング相手になってあげる。よろしくね」

 はたしてこれらは自己紹介なのだろうか。挨拶としては間違ってない、とコウヤは思っていた。

「ふふん」

 ユイはコウヤの方を向いて、少しだけ笑った。

(なにか嫌な予感が……)

 おそらくこの後に何かがあるのだろう。コウヤ達2年生へのメールには、アーレイスをセッティングしておく指示が来ていたので、何かに関係があるのは間違いないだろう。

「それじゃ、2年生共の自己紹介ね。じゃ右から」

 レナはコウヤ達の左側──カズキの方を向いた。

「ええ?えーと……、音山カズキです。大会優勝経験は無ぇけど、俺は強いです。よろしゅう!」

 少しだけガレージ内が静かになった。

「はい、さくっと次」

 カズキが何か反応して欲しかったリアクションをしたが、全員が受け流した。

「高末コウヤ……です。こっちがAIのイーリス」

 コウヤはコネクタを取り出し、全員が見えるように前の方に差し出した。

『宜しくお願い致します』

 紹介が終わったのでコネクタを仕舞うと同時に──

「もうちょっと言いなさいよ」

 ユイが愚痴を溢した。

「レートとかは恥ずかしいんで……」

 レートとは、アーレイスのゲームで使用されるポイントバトルの事である。勝てばポイントが増え、負ければポイントが減るルールの大会のようなものである。

「先輩と知り合いなのか?」

「……まぁ、そんな感じ」

 知り合いであると言うことは間違っていのだが、コウヤはカズキに少し曖昧な返事を返した。

「はい次、隣の人」

「サーシャ・オルフ。最終訓練の成績は4位でしたわ!」

 サーシャは両手を腰に当て、仁王立ちしながら自己紹介した。彼女の身長は他の女子生徒と比べて少々小さめの方なので子供のように見えてしまう。

(かなり優秀な成績だな)

 約80人の中で4位となると、かなりの実力である事が分かる。

『(しかし訓練です。実戦とは異なります)』

(分かってるさ)

 コウヤは少し聞き逃したが、レナの、次の順の発言だけだったので支障は無かった。

「遠木サキ。よろしくぅー」

 彼女は薄い青色のような髪色のショートヘアー。自己紹介中は少しだけ身体を左右に揺らしていた。

 髪色に関しては、ある事の副作用で髪質が変化したパターンだろう。現代のテクノロジーの影響で、そういった髪色が黒でない事は珍しくはない。

「アナタ、気を付けできる?」

「ほいっ」

 レナに言われてから、サキは体を揺らす事をやめて、直立不動の状態──気を付けの体勢になった。

「出来るならいいわ。ハイ次」

 サキは自己紹介が終わると同時に、気を付けをやめた。

(あんなタイプが残る事もあるんだな)

『(人間は見た目では判断できない生き物ですので)』

 次の自己紹介はコウヤがナギと呼んだ女子生徒であった。

「朝凪ミズキと申します。射撃武器は得意ではありません」

 丁寧にお辞儀をしながら自己紹介をした。

「味方撃たないでよ……?」

「誤射などしません!」

 レナの的確な発言に、ナギは即座に返した。味方に向けての射撃は安全装置が働く営業時間発射出来ないようになっている筈だが、それでも味方に攻撃が当たってしまう事はあり得てしまう。

「じゃ、次」

「篠原コノハだ。……ふむ。得意武器は射撃型。マシンガンからスナイパーまで何でもできるぞ」

 コノハの髪型はポニーテール。身長は高い方で170越え。コウヤより大きかった。

「アナタ結構大きいのね」

「悩みの1つです」

 長身女性でありながら、口調もクールさを感じた。

「あら、アナタ風紀委員ですの?」

「そうだな。チェックして差し上げようか?」

「遠慮しますわっ」

 コノハの左腕に、風紀委員と記された腕章が付いていた。昔からの伝統なのか分からないが、風紀委員や図書委員といった委員会も存在はする。といっても、機能しているか怪しいものも中にはあるので、ほとんど形だけである。

「じゃ、最後」 

「平峰シュウ。使用機体は水色のアマルツだ」

 自己紹介した男子生徒は、親指で少し離れたアーレイスを指差した。機体の背中に大剣を背負っているのが確認できた。他の性能は戦いを観るまで分からないだろう。

 これで全員の紹介が完了した。

「以上、この10人が私達Aチーム、エルートのメンバーよ。覚えてね」

 全部で8チーム程あるのだろう。だがコウヤには気になる事が一点……。

「……一年前に来たであろう先輩達はどこへ?2人しか来てないことは無いですよね?」

 ガレージ内が静かになった。他の2年生達も、どういう質問かが分かったのだろう。

「人数分配で別のチームへ行ったわ」

 レナは普通の感じで、そう答えた。嘘を言っているようには感じなかった。

(生き残ってるならだいたい16人になる筈なんだが……)

『(これから分かる事でしょう)』

(あまり分かりたく無いな)

 レナの話が本当ならばそれでいいのだが、仮に6人が死亡したとなると、かなりの割合で人類側に被害が出ているとも言える。

「他に何もないなら、本日のメインメニューいくわよ」

 レナが後ろを向いて数歩だけ歩いた後、学生達の方へ振り向いた。

「今から個人戦をやるわよ」

 ──戦いが始まろうとしていた。

ようやく説明回に一区切り。今回はいつもの倍である4800字です。


※12/27:名前誤字があったため修正しました。

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