2話:はじまりの1日(2)
コウヤ達が高校1年の時に使用していた教室には、1年間訓練を耐え続けた生徒たちが残っていた。
もうすぐホームルームが始まる頃だが、教室内の席が埋まるには生徒が少ないと感じた。
コウヤとカズキの2人は各自の席へ着席し、時間が来るのを待つことにした。
(……イーリス、何人居ないか分かるか?)
コウヤはAIであるイーリスに、頭の中で質問すると──、
『(25人中4人がこの場に居りません)』
イーリスはすぐに返答した。
コウヤの視覚情報が接続しているコネクタを経由して、端末が本体であるイーリスに通信されている。会話に関しても、脳波を読み取って端末へ通信されているので、声に出すことなく会話が可能となっている。
(1学年100人とすると、80人残ったぐらいか。訓練がしんどかったか、技術がダメだったか……)
『(恐らく生活支援目的だったのでしょう。コウヤさん達同様、復讐やアーレイス好きが残っていると思われます)』
なお、この脳内会話が苦手な人は本音がAIに伝わってしまう事がある。ただしコウヤに関しては、基本的にAIとの会話をオンにしているので、本音がAIに伝わるのはいつものことである。
──時間を潰しつつ数分後。ホームルームが始まった。
一年間、自分達の教官兼、先生だった女性教師が教室の教壇に立って口を開いた。
「……あなた達は兵士となりました。本日から戦場に行く人も居るでしょう。恐怖もあるでしょうけど安心なさい。あなた達は1年間訓練を耐えきりました」
口を開いてから少しの間があった。例え訓練していても確実に生き残る訳ではないからだろう。例え人類側の兵器が優秀でも、相手は正体がいまだに分かっていない規格外の化物だ。
「本日は授業も、全校集会もありません。各自のメールを確認して所属チームと集合場所を確認するように。私はここに残るので、なにか質問があれば私に直接か、メールを渡して。……以上、解散」
教師がそう言うと、各生徒は立ち上がって移動を開始するなり、座ったまま端末を確認している者が居た。
(メール)
コウヤには一度立ち上がってから、コネクタのメールアプリを起動した。このアプリは視覚情報として表示されるだけなので、他の誰にも見られることはない。
ただ、視界の一部を遮ってしまう問題点があるので、歩きスマホ対策として、移動中の操作はほとんど出来ないようになっている。可能なのは音声読み上げぐらいである。
『(チームA、集合場所はハンガーAだそうです)』
(ども)
コウヤが命令せずとも、理解能力のあるAIイーリスは届いていたメールを自動で読み上げた。長年の付き合いで築かれた絆とだからこそ出来ることである。
「俺はエースのAだぜ!」
カズキがそう言いながらコウヤに近付いたので、二人一緒に教室から出て、廊下を歩いた先にあるエレベーターへ向かうことにした。
「こっちはCだった」
移動中、コウヤは平然とカズキに嘘を伝えた。なお、時刻的にも午前中なのでエイプリルフールはまだ有効である。
「なん……、て……」
先程までの高揚感マックスはどこへいったのか、一気に感情が底辺へと突き抜けたかのようだった。
「……じゃなくてAだよ」
「なんだよ脅かすんじゃねーよ!」
冗談だと気付くと、カズキはいつものテンションに戻った。
「さっきから引っ掛かりすぎだぞ」
「判別できねぇウソ言うんじゃねぇ!」
カズキの言い分もごもっともである。
「くそっ、こうなったらお前より強くなって、大活躍エースになるしかねぇな!」
格好良い事を言っているが、カズキの実力を知っている者からすれば、ただの強がりにしか過ぎない発言であることが容易に分かってしまう。
「……なぁ。何か言ってくれよ」
コウヤは悲しい返ししか出来そうに無かったので、ポケットからコネクタを取り出して、カズキの方に向けた。
『……レート三位以内になってから発言しましょう』
AIであるイーリスでさえも、カズキが傷付かない返しは無理だったようだ。
「どうしてそんな返しなんだ!?リアルとネットは環境が違うから無双できるかもしれないだろ!?」
『例え環境が異なったとしても、現実世界での戦いは仮想世界より困難なものです。もう一点付け足すとするならば、カズキさんがエースとして活躍する場合、コウヤさんの方が活躍する為、エースの座は貴方にはあり得ません』
分かりやすく言い換えるならば『カズキはコウヤより弱い』と彼女は言い放った事となる。
「……イーリスさん、冷たくない?」
『私は機械ですので』
そんな会話をしながら数十秒ほど歩き、2人はエレベーターの前に到着。コウヤが下に降りるボタンを押すと、音と共にエレベーターの扉が開いた。
「俺達早く出すぎたな」
このエレベーターはAとBのフロアへ降りる為のものだが、コウヤとカズキが1番目だった。
「ワタクシも乗りますわ」
遅れてやって来た彼女──同じクラスだった女子生徒が彼らに話しかけた。
「オルフさんもAなの?」
「サーシャで結構ですわ」
サーシャ・オルフ。髪は白に近い銀色で、型はボブヘアー。
「高末さんに音山さんもAですのね。同じチームメイトとして宜しくお願い致しますわ」
「よろしく」
彼ら3人全員がエレベーターに乗ったのを確認してから、コウヤは下のフロアへのボタンと、扉を閉じるボタンを押した。
今の世の中に平和な国はほとんど存在せず、逃げた先にも化物と戦ってる国だった事なんてよくある話である。これは日本にも当てはまり、日本が比較的平和と思われている影響か、大昔と比べて日本国外から移住してきた者達が増えている。だが残念なことに、日本は学生を兵士にする学校があるほど、平和から遠い国になってしまっているのである。
──エレベーターが動き出し、彼らを乗せて下へ降りていく。
もう少し書くつもりでしたが、遅れていたので一時区切り。
新キャラ1名追加。1話次も話系になり、2話次にようやく…といった感じになりそうです。
彼女の設定は書き始めた時にはほとんどなく、この話を書いている途中で考えたので少々遅れてしまいました。