9話:仲間との模擬戦(6)
彼ら2人はコネクタを起動。少ししてから表示された黒色のアーレイス〈イーグル〉がカズキのもの。もう一方である灰色のアーレイス〈ラプティス〉がタクトのものだろう。
双方ともに背中に長距離用の銃──スナイパーライフル型の武器があり、背中に小型系の銃器が2丁。兄弟はここまで似るものなのだろうか。
『おい、カズキ。ファーストアタック避けろよ?』
『な、何だよ急に……』
バトル開始前にタクトがカズキに忠告をした。
『避けなかったら一瞬で終わるからだよ』
コノハとサーシャ達の戦いでは運よく胴体から外れたが、胴体に直撃していたらあの時点で終了していたのは間違いないだろう。それほどにファーストアタックは強力なのである。
『さっきのバトル見てるとウソかホントかわかんねーよ……』
サキの戦いのせいで疑心暗鬼になっているようだ。
『開始3秒以内に撃つ。撃たなかったらお前のペナルティ劇薬全部貰ってやる』
『おっ、言ったな?ウソだったら許さないからな』
騙しではなく、本当に撃つような雰囲気であった。それからすぐに2人の準備が終わり、バトルがすぐに始まった。
ラプティスが開幕、右肩腰の銃を射撃。宣言通りの行動である。イーグルもその予告通りに右へダッシュしており、弾丸を余裕で回避した。
『危ねぇな!ニードルかよ!だけどそいつは弾が──っ!?』
しかし、イーグルことカズキの回避した後の行動が良くなかった。
『弾が何だ?他のもあるんだが?』
ラプティスが構えていたスナイパーライフルに右肩を撃たれ、破壊されたのだ。
『こんっ、にゃろっ!』
それに対抗するため、イーグルが腰の銃を左手で取り出して構えようとしたが、構える前に左肩を撃ち抜かれて、銃器と共に左肩から先が地面に落ちた。
『強いと言っていた割にはこの程度か?』
両肩を破壊されたイーグルにはこれ以上の戦闘は不可能である。開始からわずか13秒で勝敗が決まった。
「おお……」
あまりの凄さに言葉が出ていた。
「バトってみたいでしょ?」
「……ですね。避けきれるか分かりませんけど」
コウヤは強い相手と戦って技術を磨きたいと思った。だがそんな思いはすぐに無くなった。
「じゃあ俺、棄権して待機します」
タクトはコネクタを閉じて椅子から立ち上がりながらそう言った。
「はぁ!?」
「ほい、協力ありがとさん」
置いていた劇薬青汁を1本手に取り部屋から退室しようとして、カズキはタクトの背に向けて文句を言い放った。
「そんなことすんなら俺に勝ち譲れよ!」
「甘えんなって。どうせ進んでもつぎでやられるさ」
タクトはカズキの文句を軽く受け流し、そのまま退室した。
「アイツはいつもあんな感じよ」
「えぇ……」
「勝ち負けは気にするけど、トップには拘らない。そんなやつよ」
いい加減な人間というのだろうか。そんな人でも1年間生き残っているのだから、本気の戦いというものはとても素晴らしいものになるだろうと、そんなことをコウヤは思っていた。
「というか、兄貴はアレが好きなのか?」
先程持って行った青汁の事だろう。
「そんなこと無いはずだけど、何であの子持ってったの?」
レナも疑問に思っていた。
「棄権した分のペナルティとか……?」
「まぁ、別に持って行っても問題はないけどね。いっぱいあるし」
よく分からない人というのが、コウヤにとって音山タクトの第一印象であった。
音山タクトが棄権したことにより、遠木サキが自動で決勝へ進出。次は準決勝だが──
「準決勝ー、の前にドベ争いね」
「え?」
コネクタを起動する準備をしていたコウヤだったが、どうやら後回しにされるようだった。
「トーナメント表はこのまま。最下位は追加で劇薬2本ね」
「つまり3本になると?」
「ドベになったら、ね」
1回戦敗退者はミズキ、サーシャ、シュウ、カズキの4人。トーナメント表の下側に逆向きトーナメントが表示された。図にしてみれば三角形がひし形のようになったものだ。だが、誰も要らない報酬を貰ってしまう逆の頂点を目指したくないだろう。ただしカズキだけは賭けに負けた分を追加すると最大4本になってしまう。
「私たちの時もやりましたね……」
「やって当然でしょ?全体の実力を測らないといけないのに、5位以下が不明なんてダメじゃない」
「そういう意味があったんですね。嫌がらせかと」
「あくまでも真面目にやってもらうための罰ゲームよ」
ユイやタクト達も1年前にやっているようだった。当時誰が勝ったかどうかは質問しなくてもいいだろう。
「という事で、次は朝凪さんとサーシャさんよ。よろしく」
「次こそは勝ってみせますわ!」
サーシャはすぐにコネクタを起動した。
「ナギさん、ちょいアドバイス」
コウヤは小声に切り替え、ミズキは顔をコウヤに向けた。
「サーシャさんは近接が苦手だ。射撃を避けながら突っ込んで槍を止められれば余裕で勝てる」
「…………」
ミズキは完全に睨み顔だったが、コウヤはそれを無視してアドバイスを続行した。
「近接技能はナギの方が上だ。射撃を使わせなければいけるさ。以上、頑張れ」
アドバイスに対しての返事を返すことは無く、ミズキはそのままコネクタを起動し、すぐにミズキ対サーシャの戦闘が始まった。
フローリアの射撃武器を全て回避して接近したサミダレ。フローリアの槍型武器を上空に弾き飛ばし、胴体を切断。ミズキは余裕で勝利した。
「ほらほら、こーや君に感謝しないと」
「…………」
ミズキの口は動いていたが視線を反らして、声が発せられてないなかった。
「……コウヤ君、何かしたの?」
「アーレイスにハマって交流断ったからかなと……」
「……それはコウヤ君が悪いわ。でも、謝れば解決しない?」
「け、喧嘩は……していませんので」
ミズキの言う通り喧嘩はしていない。だが彼女自身が一方的に嫌っていることには変わりない。
(『なあ、コウヤ。俺にアドバイスは無いのか?』)
次の対戦前に、カズキがコネクタ経由で直接伝えてきた。現在の電話機能は言葉を発すること無く会話が可能で、この機能は脳内電話とも呼ばれる。この時の会話は他人には聞こえていない。なお、会話の共有機能もあるので複数人で会話することも可能である。
(近接戦闘はするな。引き撃ちでなんとかしろ。相手は射撃が弱いから射撃で戦え)
(『よっしゃサンキュ』)
カズキとシュウがコネクタを起動し、すぐにバトルが始まった。
イーグルが背中のスナイパーライフルを取り出してファーストアタックを仕掛けた──が、アマルツは大剣でイーグルが撃った弾丸を斬って弾いた。
『はぁっ!?』
「マジか」
「あれオートガードだよ」
サキが冷静に判断してコウヤに返した。
「ああ……そっちがあったか」
オートガードとは敵の射撃に対して自動で防御行動を取る支援機能である。盾を持っている機体ならば基本的に導入されているが、大剣に導入する者はほとんど居ないだろう。ましてや弾速の速い弾丸に対しては納刀した状態で対応するとなると、武器にブースターなどの装置を組み込んで高速の斬撃攻撃が出来なければ間に合わない。だがアマルツはそれを目の前で可能であることを証明した。
『ちょっとビビったけど、連射はどうかな!』
イーグルがスナイパーライフルを連続発射したが、全てアマルツの大剣によって受け流されたり、弾かれた。
『どうした。射撃しかできないのか臆病者』
アマルツは右手で大剣を構えたまま、左手で相手を呼び寄せるジェスチャー──挑発をした。
『ほう……、言ったな?』
イーグルがスナイパーライフルを捨て、脚部からビーム型の剣であるビームセイバーを取り出してアマルツに直進していった。
「あのバカ」
「あーあ」
イーグルがアマルツに斬撃攻撃をしかけた瞬間、アマルツの高速斬撃攻撃により機体のバランスを崩され、そのまま胴体を一刀両断されてしまった。カズキがシュウの挑発に乗ってしまったことが勝敗の命運を分けてしまっていた。
『負けちまったぜ!』
対戦終了後にイーグルが再表示された際、親指だけを上げたグッドポーズをしていた。
「アホか!」
近接戦闘をするなという忠告を無視して負けたことに関して以外の反省点は見つからない。
「それじゃドベ争い。サーシャさんと音山弟君ね」
連戦のため、カズキはコネクタを起動したままであった。
(『次のアドバイス頼むぜ!』)
「もうアドバイスやらねーよ」
コウヤは脳内会話を一方的に切りつつ、口で声に出して返答した。
『なんでやコウヤ君!?』
「甘えんな。てか、無視するやつにいっても無駄だろ」
『くそぁ!』
カズキは最後に暴言を吐いて、表示されたフローリアの方を向いた。
「同レベルの争いほどたのしいけど、あのふたりはどーだろう」
逆に楽しめそうだなとコウヤも思った。
「そういえば、あの子さっき『俺は強い!』とか言ってたと思うけど、……なんでビリ争いしてるの?コウヤ君と一緒の部屋で毎日戦ってるのよね?」
言わないようにしていたが、ユイに質問されてしまったものは答えるしかないだろうということで、コウヤは本当のことを話し始めた。
「そうですね。ただ、自分がバリッバリハンデ入れてるので実際のところ強くないんですよ」
『ハンデ……?』
当然、この会話はカズキ達にも聞こえていた。
『今まで気付かなかったのですか?貴方がレートバトルで上位に入れないのにも関わらず、コウヤさんに勝利していた理由について』
イーリスが追い討ちをかけた。
『ま、マジかよ……』
可哀そうだがこれが現実なのである。
『俺が勝てるようになっていたのも、コウヤのハンデだったのかよ……』
イーグルが膝から崩れ落ちた。わざわざアーレイスの方で表現する必要は無いはずなのだが。
『……音山さん?まだ開始なさいませんの?』
準備を既に終えていたサーシャが痺れを切らしていたようだった。
『おおっと、悪い悪い……。あまりの真実にちょっとな……』
イーグルがゆっくりと立ち上がり、基本の立ち姿勢状態になった。
『へへっ……、自称強いヤツと、成績4位サマとのビリ争いってのも悪くはねーな』
『ワタクシにとっては最悪ですわよ』
普通ならば誰もが最下位争いなどしたくはないだろう。
カズキが準備を終えたようで、悪い意味での頂点を決める戦いが始まった。
どうあがいても面白くならなそうなバトルの詳細部分はカット。アニメによくありそうな行為。小説だと文章制限が無いので書いても問題は無さそうだとは思いますけれども。