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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

黒猫お嬢様とネズミ執事シリーズ

黒猫お嬢様とネズミ執事2ー出会い編ー

作者:黒杉くろん
猫の王国のお嬢様リーゼルダが7歳になりました。
専属の使用人を決める日です。
お触れが出されて、王宮にはたくさんのネズミ人たちが集められました。
従属技能に秀でていて、比較的見た目が整っている者たちです。
とはいえ、猫にとってはネズミはほとんど見分けがつかないのですけれど。

お嬢様のお誕生日会が終わります。
たくさんの猫に祝われました。
プレゼントもたっぷり。
ご馳走を食べて、もう猫たちみんなが眠くなっています。

「さあお嬢様。使用人を選ぶ時間ですよ」

「にゃあぁ!」

眠そうにしていたお嬢様は、ぱっちりと目を見開きました。
使用人選びは猫にとって大切なイベントです。


集められたのは見た目が10歳ほどの若いネズミたち。
しかし、実は年齢は5歳です。
ネズミは猫よりも短命で、早く歳をとるため、まず若いネズミが使用人として選ばれるのでした。見た目と同じくらいの知能を持っています。
のんびりやの猫たちからしたら、テキパキ動くネズミはとても生き急いでいるように見えます。


お嬢様の前にネズミがズラリと並びました。
お城の制服のメイド・執事服を着ているので、みんなそっくりの容姿に見えます。
従属技能は全員優秀。
では、どうやって使用人を選ぶのでしょうか。

ーーくんくん。

お嬢様はネズミに一歩近づいて、匂いを嗅いでいきます。
気に入った匂いのネズミを使用人に選ぶのです。
常に一緒にいる者ですから。

ネズミたちはこの日のためにとっておきの香りをまとっています。
ロイヤルローズのロマンチックな香り。
アップルピーチのみずみずしい香り。
マタタビはずるいので、禁止です。

お嬢様がぴたりと足を止めました。
くんくん、と匂いを嗅ぎ直して、ひくひく鼻を動かします。

ネズミたちはクスクス、心の中で笑っていました。
ネズミたちにも階級があります。
代々猫に仕えてきたエリートネズミは肌が白くて小綺麗で、あくせく働く平民ネズミは日に焼けた肌で土をかぶっているのです。

今匂いを嗅がれているネズミは、ネズミたちの中でも特に階級が低い出身でした。
小麦色の肌に、中途半端に伸びた灰色の髪。
この日のために素敵な香りを用意することもできませんでした。
そのぶん技能はとびきり優秀ですけれど。ささやかな差です。


笑顔を浮かべましたけれど、このネズミは使用人試験を諦めていました。
目的は、なんとかお城に潜入することでしたので。
別にお嬢様に嫌われてもよかったのです。

「お日様の匂いがする! このネズミがいいわ」

だからこの言葉にはとても驚きました。
他のネズミや猫も絶句しています。

「よろしくお願いいたします」

チャンスを逃さないように、選ばれたネズミはすかさず返事をしました。
お嬢様は満足そうに笑って、ふあぁ、と大きなあくび。
尖った歯がキラリと覗きます。

「お日様の匂いを嗅いだから、眠くなってきちゃった……。ねぇ、お部屋まで連れて行って」

「承知いたしました」

選ばれたネズミがお嬢様をふわふわの毛布でくるんで、ひょいと抱き上げます。
そのまま部屋に連れて行きました。
ベッドに運ぶと、お嬢様は安心しきって寝息を立てています。

(今は、まだ……。信用を勝ち取ってから行動を始めなくては)

ネズミは懐に忍ばせた首輪を、服の上からそっと撫でました。
お嬢様の靴を脱がして、コルセットの紐を緩めて、もう一枚毛布をかけてあげてから、そっと天蓋のカーテンを降ろします。
今日から黒猫お嬢様に仕える生活が始まります。





お嬢様のお世話は大変です。
毎日たくさんのお着替え。きまぐれなお散歩に、料理の好き嫌いだって多い。
しかし専属執事となったネズミは、なんてことないように全てこなしました。
お嬢様は快適そうです。

執事の肌はどんどんと白くなっていきました。
室内で作業をすることが多かったので。
ある日、お嬢様が言いました。

「あなた、お日様の香りがしなくなったわ」

くんくん、と執事に顔を寄せて嗅ぎます。
頬を膨らましました。
執事は(お役御免だろうか?)と恐れます。

「こっちよ」

お嬢様は走り出しました。執事にクッションを持ってついてくるように言って、外に連れ出します。
猫の足の速いこと。執事は息を切らして追いかけました。

そしてきまぐれなこと。
何度か蝶々を追いかけてふらふらと横道に逸れたので、

「目的はよろしいのですか?」

と声をかけると、お嬢様はハッと尻尾の毛を逆立てて、また前に進みました。
八つ当たりで執事を睨む顔はいじらしく可愛らしいものでした。


「今日はここでお昼寝なの」

日光がさんさんと降り注ぐ中庭で、お嬢様が宣言します。

「日焼けしてしまいますよ。日光を遮るものがありません。昼寝用のアーチがあるガーデンに移動しては?」

お嬢様は真っ白い肌。
日に当たりすぎると、赤くなって痛いらしいのです。
高貴な猫だけの特徴です。

「あなたが日よけになってよ」

お嬢様はかまわず芝生に座ると、とんとんと尻尾で横側を叩いてみせました。
執事は(なるほど)と頷くと、言われた通りに横に座り、脚を伸ばしてクッションを太ももにおきました。
お嬢様がころりと頭を預けると、心得たとばかりに毛布を身体にかけます。

「そうそう。にゃあぁ……」

お嬢様が眠り始めました。
顔には執事の影がかかっているので、暑くありません。
快適です。

執事は太陽を背にして、じっと動かずに座り続けました。
じりじり、太陽が執事に照りつけます。

またお嬢様の気まぐれに付き合わされているのか……と使用人のネズミたちは少し気の毒そうに彼を眺めましたが、声をかけずに通り過ぎました。

ちなみに、このくらいの日光浴は平民出の執事にとって日常でしたので、まるで辛くありません。
懐かしい気持ちで日の光を浴びました。
束ねた髪の傍に覗いた素肌は小麦色に日焼けしました。

座っている間はとくにやることがないので、執事はお嬢様の漆黒の髪が揺れたり、むにゃむにゃと唇が動くのを眺めて過ごしました。
白い喉に首輪をつける気には、まだなりません。





お嬢様が目覚めたので二人は部屋に帰りました。
くんくん、と匂いを嗅いだお嬢様はにっこり笑います。
再び、執事からはお日様の匂いがするのです。
面白いことを思いつきました。

「私、部屋の中に太陽を飼っているようだわ!」

先日のプレゼントの箱からリボンをしゅるりと解き、執事に巻きつけました。
太陽を飼っているよう、を実現してみたのです。

「……あなた、リボンが似合わないわね」

お嬢様はリボンまみれの執事を眺めてつまらなさそうに唇を尖らせて、首に結んだリボンを引っ張ります。

リボンがしゅっと解ける時に、少し首の皮膚をこすったので、執事は冷や汗をかきました。
絶命したら矮小な獣に戻ってしまうのです。
猫の機嫌を損ねるわけにはいきません。

「これから、太陽の匂いをつけるように心がけます」

「そうね! またお昼寝しましょう」

お嬢様の機嫌が直りました。
話を逸らすつもりが同意されてしまいました。
一人で日光浴を日課にするつもりだった執事は、業務予定がお嬢様の睡眠に左右されてしまうことを迷惑に思いながらも、にこやかに微笑みました。





執事はあっという間に成長します。
ネズミですから。
お嬢様が10歳になる時、15歳ほどの見た目でした。

「そろそろ使用人を変えましよう。お着替えを任せるのは、もっと幼いネズミでないと」

お嬢様に猫たちが言います。
使用人には適切な業務年齢があるのです。

専属執事はお役御免になりました。

新たに集められたネズミたちをお嬢様が眺めて、匂いを嗅いでいきます。
ーーーくんくん。

専属執事はそっと目を伏せて、その光景を眺めていました。
ちっぽけなネズミにはどうすることもできません。
また、畑を耕す貧しい暮らしに戻るのでしょう。

(首輪をつける機会を逃してしまった)

残念に思いました。

お嬢様がくるりと振り返ります。

つかつかと専属執事に近寄っていって、くんくん、匂いを嗅ぎました。

「私、あなたがいいのだわ。ねぇセルネリアン」

「!?」

執事は唖然としました。
選ばれたり、求められたり、猫に名前を呼ばれたり。
いつもいつでも、お嬢様には驚かされっぱなしです。

にこっといたずらに笑う顔には「面白いでしょう!」と書かれてます。
こうなったらお嬢様は絶対に譲らないことを、執事はよく知っています。
黙って跪きました。

お嬢様は「いけませんよ」と猫たちにたくさん叱られましたが、どこ吹く風で、やっぱり意見を曲げなかったので、引き続きこの執事がすべてをこなすことになりました。
着替えの時だけは幼いネズミメイドが手を貸します。


次の日の午後、お嬢様はいつものように執事の膝を枕にして日なたでお昼寝をします。
執事は白い喉を眺めていました。
なんだか魅力的に感じたので、ぶるぶると頭を振って、通り過ぎていく蝶々の数を数えてお嬢様が起きるのを待ちます。

黒いまつ毛が震えて、あらわれた黄金の瞳は”極上のとろけるチーズのよう”。
執事はまた頭を振りました。
後ろに束ねた髪が揺れたので、お嬢様が「にゃあ!」と思わず追いかけて遊びました。

ネズミに翻弄された気分だわ! とお嬢様が執事の頬を軽く引っ掻いたのは、とっても理不尽でした。





執事の元に仲間のドブネズミから連絡がきます。
こっそりと、何度も。
とある猫に首輪をつけて誘拐し、殺したそうです。
そちらはどうだ? という手紙に、まだちっとも信頼してもらえない、と返信しました。
黒猫お嬢様は警戒心が強くて頭がいいのでネズミを疑っていて見張っているのだ、と。

執事は何事もなかったかのようにお嬢様の元に戻りました。

「ねぇ、毛糸が上納されたのよ。これでなにか作って」

そう言うのです。
なにか、面白いものを作らなくてはいけません。
お嬢様は試すように、執事を見つめます。まん丸いきらめく瞳。黄金のとろけるチーズ……

煩悩を抹殺するつもりで、執事がかぎ針を素早く動かしていきます。
わざと床に毛糸玉を転がすと、お嬢様が飛びかかって離れていきました。
様々な毛糸が転がって、絡まったり、色がめちゃくちゃになります。
執事はそれらをそのまま編み上げました。
とってもカラフルなふわふわブランケットの完成です。

「お嬢様がこの幾何学模様をお造りになったのですよ」

とお世辞を言うと、気に入ったようで、お昼寝の時にはいつもこのブランケットを使うようになりました。





お嬢様はどんどんと美しく成長していきます。
漆黒の髪はふわふわ柔らかく、耳と尻尾の毛並みには艶がある。
真っ白い肌はなめらかで、王族血筋の金の瞳は楽しいことを見つけてはキラキラ輝くのです。
どんな猫もネズミも彼女をうっとりと眺めました。
素晴らしい猫です。

お嬢様の美しさを引き出しているのは自分の手入れだ、と考えると、執事はどうにも表現できないたまらない気持ちになりました。
執事は相変わらず小麦色の肌で、太陽の香りをまとっています。
貧乏くさくてみすぼらしいのですけど、お嬢様はこのネズミがお気に入りです。
仕事ぶりはお城の誰もが認めるほど優秀です。

お嬢様に近づきたくて太陽の香りをまとう猫やネズミも現れましたが、近くに置かれるのはセルネリアンだけでした。
お嬢様は自分が提案して太陽の香りをつけさせていることを気に入っていましたので。
この辺りは、お嬢様と執事は似た者同士なのかもしれません。
身分や種族などとうてい違いますけれど。


お嬢様はいつも人気者です。
舞踏会では誰もが手を取りたがります。

「リーゼルダお嬢様」

運よくダンスの相手になった猫は、のぼせた声でお嬢様を呼ぶのでした。
次のステップが始まるまでのほんのひと時のダンスで、お嬢様を見つめる目は瞳孔が細くなり、恋におちます。
すぐに手を離されてしまいますけど。

華やかなダンスを壁際で眺めている執事は、ドス黒い嫉妬が胸に広がることを自覚するのでした。
細い目の奥の、瞳孔が細くなっています。

拳を硬く握っていたのですが、お嬢様は最後には絶対に執事の方に帰ってきましたので、隣に並んでふわりと寄り添われると、自然に肩の力が抜けるのでした。





ーードブネズミが紛れ込んでいるのですって。
そんな話をお嬢様から聞いた執事は、身体中の血が凍えたような錯覚をしました。

「私、あなたしか側に置かないことにするわ!」

お嬢様がセルネリアンを眺める瞳には、確かな信頼があります。
ごくりと執事の喉がなりました。

お嬢様は執事を連れ回します。いつも一緒。他のネズミは近寄らせません。執事の胸が苦しくなります。

「靴下を履かせてちょうだい」

「……お嬢様。そのように脚を上げるとスカートの裾が乱れてしまいます。それに下着は自分でお着付けになると他の猫人様とお約束を……」

「じゃあ靴下はおめかしのドレスと同じ」

執事は無言で靴下を履かせて、寝ぼけているお嬢様を抱き起こし、朝日に透けるネグリジェを脱がせてから、新品のドレスを着つけてあげました。
使用人控え室に戻ると、壁を殴りました。

ある日。
お嬢様があまりに無防備に背中を向けています。
執事はとうとう、首輪をつけてしまいました。

「何をするのよ!」

黄金のチーズを独り占めです。
たまらない気持ちにぞくぞくと震えました。
これからはなんでも執事の思うままです。
願うことは……

「名前を呼んで下さいませ」

「……セルネリアン!」

叫ぶように呼ばれた声にさえ感激しました。
ずっと、お嬢様の名前を呼ぶ猫たちが妬ましくて羨ましかったのです。
それこそ、その猫たちなら殺してやりたかったくらいに。

「リーゼルダお嬢様」

名前を呼び返すと、睨まれました。
お嬢様の瞳から涙が落ちる様子は、チーズが溶け落ちたようでした。





その後、執事はお嬢様に様々な「お願い」をしました。
名前を呼び合い、食事を共にして、お嬢様に似合うドレスを選びます。

(…………素手で触れてみたい)

髪に触れようとして、手の甲の模様が目に入り申し訳なくなり、そっと手を下ろして首輪だけを撫でました。
ネズミの怨嗟が込められた首輪は触り心地が悪く無骨で、お嬢様には全く似合っていません。
ネズミでさえそう思うのですから、美意識が高い猫には相当な侮辱です。

2日後、お嬢様が外に出るようになりました。
毎日、とても辛そうです。
猫たちに「首輪付き」だと馬鹿にされて、「褒めて」と執事にすがります。

「あなたは誰よりも美しい」

(この首輪ごときでお嬢様の美しさが損なわれるはずがないのに)

と、執事が小さな声で呟くとお嬢様はきちんと聞いていたようで、「にゃーー!」と言いながら執事の背にぐりぐりと頭突きするのでした。
不思議と「あなたのせいよ」と責められることはありませんでした。


それから。執事は猫を陥れるドブネズミの一員として、王国に捕まってしまいます。
手袋を取られて手の甲を晒した時、猫はいやらしく鼻で笑い、他の種類のネズミたちは嫌そうな顔をしました。
他のネズミたちは「ドブネズミのせいでこちらの信用まで傷ついたんだ」と迷惑に思っていましたので。

ドブネズミの仲間は、首輪付きのお嬢様をひたすら守ったセルネリアンを軽蔑していたので助けませんでした。


セルネリアンが裁かれる時がきます。
黒猫お嬢様が現れました。
お嬢様を見上げると、頭の中に日々の走馬灯がはしります。
様々な感情で胸がいっぱいになりました。

(最期にお嬢様に触れて頂けるなんて、こんなに幸せなことはない)

セルネリアンはうっとりと目を細めます。
黒猫お嬢様は今日も美しい黒髪に毛艶のいい耳と尻尾、よく似合う黒のドレス。
……しかしセルネリアン以外の従者がお嬢様を手入れしたので、いつもとは髪の流れが違っていて、嫉妬に狂いそうになりました。
黄金の瞳で見つめられると、あっけなくお嬢様に夢中になってしまいましたけれど。

「ーーとびきり長く」

少しでもお嬢様といたくて、セルネリアンはささやかすぎる延命を希望します。
お嬢様は、自分に首輪をつけた憎いセルネリアンをどこまで延命させてくれるでしょうか。

ふわりとお嬢様が近づくと、慣れた心地いい匂いがしました。
セルネリアンの心が静かに凪いでいきます。

ーーーぺろり。

セルネリアンの目の前が真っ暗になりました。
黒髪の甘い接近。とか、そういうのもありますが。
お嬢様はセルネリアンの首筋を噛まずに、まず舌でそっと舐めたので。

心の大嵐です。とんでもなく荒れています。
荒ぶる気持ちを必死に鎮めながら、セルネリアンはお嬢様を見つめ続けました。
少しでも長く、彼女との時間を堪能していたくて。
生きたい、なんて思ってしまった時、

「とびきり長く、だものね?」

ーーーちゅう!

耳元で囁かれます。
まるでネズミの真似っこです。

(お嬢様、予想外のいたずらが過ぎます!)

叫びたくなりましたが、堪えます。お嬢様の唇がセルネリアンの喉を捉えています。

ーーーちゅう!

それは長い長い触れ合いで……セルネリアンの喉がどんどん熱くなっていき、小麦色の肌が興奮で真っ赤に染まった頃、それよりももっと赤い跡がつきました。

猫の婚姻の証です。
お嬢様はひたすら猫だったのです。

お嬢様に誘われるがまま、セルネリアンも赤い跡をつけました。
夢を見ているようで、頭の中がふわふわします。
しかし確かに「釈放を認めよう」という宣言を聞きました。この時のお嬢様の笑顔は絶対に忘れられません。
手の甲にも口付けられていると、視界の隅で、仲間のドブネズミたちが泣いているのが見えました。





それからはもう、セルネリアンは吹っ切れました。
お嬢様が「してあげる」と言うのです。恋に落ちた、瞳孔を細めた黄金の瞳で。
愛称で名前を呼びあったし、毎日3回ほど首元にキスをします。
だってしばらくキスしないと誓いの跡は消えてしまうのですから。

「そんなことは死んでもごめんです」

首元にキスしながら言うと、お嬢様がくすぐったそうに笑い声をあげます。

「あなた、死んでしまうの?」

「嫌です。お嬢様と生きさせて下さい・・・ませ」

「お願いなのね。……うんっ。許してあげる」

お嬢様は頬を染めると、すりすりとセルネリアンに擦り寄りました。

「セルネ」

「はい。リーゼお嬢様」

セルネリアンがぐっと上を向いて、首を晒します。
首のボタンがないシャツを着ています。既婚猫が着用するものです。お嬢様がするりと指を差し込むと、シャツの隙間から赤い婚姻の跡が覗きました。

「今日、もう4回目だけれど?」

ちゅう!

「何度だって触れてほしいに決まっています」

にゃあ。
セルネリアンはお嬢様にだけ聞こえるように鳴いてみせると(不敬なのですけど)、ちろりと猫耳の先をなめました。
毛づくろいのつもりなのです。猫夫婦に必須の愛情表現。

「下手っぴ」

「猫とネズミでは舌の構造が違うので……」

猫の舌は毛づくろいがしやすいようにざらりとしていて、ネズミの舌は薄いのです。

「でも時間をかければきっと完璧に」

「あらあら、だめよ。だってもうお散歩に行く時間だもの」

お嬢様がひらりと執事をかわしました。
くっ、と拳を握った執事の手を開かせて、指を絡めると、軽やかに走ります。


ガーデンの円型ベンチに座り、トントンと隣を尻尾で叩きました。
ベンチにはたっぷりクッションが敷かれていて、猫が寛ぎやすいようになっています。
セルネリアンがそっと座ると、

「今日は私が毛づくろいしてあげる」

首に手を回されたセルネリアンはされるがまま、お嬢様の横に倒れこみます。
お嬢様がセルネリアンの頭を抱えて、耳をぺろぺろと。
猫夫婦にとっては当たり前の光景です。
ネズミには毒です。

「ネズミって耳が薄いのね。丁寧に毛づくろいをしていたら赤くなってきちゃった」

「お嬢様のふかふかの耳とは違うのです……」

執事はそう言いましたが、赤くなった原因はそれだけではないでしょう。
お嬢様は羞恥に瞳を伏せるセルネリアンを面白そうに見下ろして、舌先で優しく毛づくろいしてやりました。とびきり長く。

こんな日常が、朝から晩まで。
黒猫お嬢様リーゼルダと執事セルネリアンは「とても面白い」と猫たちに受け入れられています。
ネズミは顔を覆って、耳まで赤くなりました。

幸せな日常です。
黒猫お嬢様、首輪つき。
挿絵(By みてみん)

黄金のとろけるチーズの瞳。
キスマークは手の後ろに。

読んで下さってありがとうございました!

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