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事の始まり

 僕が会社へ行けなくなったのは、端的に言えば長時間労働のせいです。


 僕の職種はSEです。世間で言うところのブラック職種に該当しますが、僕の会社はお金もお休みもきちんともらえます。職場のメンバーは皆仲良く、飲み会は少なくて理想的です。(そもそも忙しすぎて、飲み会が新人歓迎会と忘年会しかないのですが。)また、所構わず怒鳴る上司や、ハラスメントを行う人も居ないので、大変居心地がいいです。自慢する訳ではありませんが、僕の会社というよりも部署はとてもいい職場です。長時間労働が無ければ。

 とはいえ、法律無視の労働時間ではなく、1ヶ月の残業時間が最大で60時間になるかならないかですし、そんな月は年に1度あるかないかが普通です。…いえ、普通でした。


 残念ながら、僕は残業時間が少なくとも60時間という月が3ヶ月ほど続いてしまいました。

 理由は簡単です。僕が、仕事ができない人間だからです。


 “仕事ができない”というのは、少々語弊があります。僕はそもそも、理系ではないという話からしなければいけません。



 SEというのは、情報系と言われる、プログラミングを専門的に勉強した人がなる職業です。昨今では、ドラマやニュースで取り上げられるので、仕事内容については少し聞いたことがあるかもしれません。身近な例で言えば、あなたの読んでいるこの話は、作者が書いて、投稿して、閲覧されるという流れですが、ここにもSEの仕事が入っています。まず、このインターネットサイトの作成。閲覧用と投稿用、それから各種機能についてのページや機能をどのように配置し、各機能をどのような仕組みにするかを考えるのが、SEの仕事の一種です。また、投稿された話の内容を記録し、保管する機器の選択から組み立てもSEが行います。


 突然ですが、あなたは今書いた内容の仕事をしてくださいと言われて、できますか?


 読んでいる方がとても優秀なSEさんならば、できるでしょう。でも、僕にはできません。


 では、仕事の進め方ならばどうでしょう?今日はどの仕事をどこまで行う。誰にどこを振り分け、何をいつするか。それならばできそうでしょう?会社へ行けなくなる直前の僕は、それも、できませんでした。



 何故なら僕は“情報系の学問”を専門的に勉強した人間ではなく、また、計算を苦手とする文系の人間だからです。


 僕の大学での専門は“生き物の経済”でした。市場動向だとか、経営母体の変動だとか。特殊な分野ですので、詳しく書くと長くなりますし、個人の特定にも繋がりますので、この辺にしておきますが、一言で表すなら「文系!」の環境に居ました。僕が文系に居た理由は、「数学(計算)が嫌いだから」です。僕の学問でも、確かに数字は扱っていましたが、それは単なる数字の羅列であり、複数の不定数を含む公式や複雑な計算を必要としないものです。よく言われる、「パソコンやスマートフォンは使うけど、ソフトウェアやアプリケーションプログラミングはしない。」という現象に似ています。

 ええ、そうです。僕も学生の頃はパソコンやスマートフォンに関して「パソコンやスマフォ(以下略)」の人間でした。そんな人間が、何かの間違いでSEの会社に入社してしまったんです。

 世は就職氷河期。他に会社も選べず。僕は何も知らない、本当に嫌だと思いながらも今の会社に入社しました。


 結果、僕の精神的は、耐えることができました。これは会社から手厚いサポートがあったことと、配属先の上司がいい人たちだったからです。幸運なことに、僕の上司は「プログラム?わかんない。そのうちできるようになればいいよ。」というスタンスでした。また、僕の教育担当者に「文系だった。」と素直に告白したところ、就業時間外にウェブの概念から教えてくれました。また、必要な知識に関する本も貸してくれました。周囲の人は情報系の学問をきちんと履修してきた人たちばかりでしたが、どんな馬鹿げた質問や初歩的な質問をしても、優しく答えてくださいました。僕は業務に必要な知識を身につけながら、専門知識も学べるいい環境に居ました。


 考慮すべきだったのは、仕事は年数が経つにつれ、徐々に大きなものになっていくということ。僕は責任者と担当者を兼ねるようになりました。ここから計算の嫌いな人間には大嫌いな“未知数を含んだ計算”が始まります。

 「僕は今、自分の担当範囲の設計や他人への割り振り、申請書類やシステムに関する資料の作成などを抱えている。加えて昨日発見した課題と、開発部隊から挙がった問題がある。また、飛び込みで顧客からの緊急依頼がある。さて、どうしたら効率的に動けるか?」を毎朝、計算するのです。


 毎日、仕事と問題が山積みでした。今までそうだったように、業務知識と専門知識、今している仕事の内容で頭が爆発しそうになりながら、毎日の業務をこなしました。それらは就業時間内でカバーできなかったので、必然的に残業となりました。

 「誰かに助けを求めればよかったのではないか?」と思われたかもしれません。残念ながら、周囲に余裕のある人はおらず、派遣社員さんの振り分けも1ヶ月後と言われていたので、誰にも頼れませんでした。自分の仕事に必死になっていて、計画全体を管理する人間であることを忘れていたことも原因だと思います。僕はずっと、一担当者でしかなく、責任者ではありませんでした。


 残業が長くなるにつれ、眩暈や頭痛が酷くなり、病院でもらった薬を飲みました。だんだん病院へ行く時間も無くなったので、市販の薬を飲みました。最初は用法・用量に書かれた量の半分を2~3日に1度飲むかどうかでしたが、そのうち毎日書かれた量を飲むようになりました。そしてある日、出社して1時間も経たないうちに酷い眩暈がし、気づいたら自宅に居ました。


 少し寝た後、僕は残業による不調時に診察を受けた病院へ行き、事情を説明しました。その時診察した医師に「あ、君、今日から休みなさい。」と言われて診断書を渡されました。診断書が出た旨を僕の教育担当者に伝えると、上司から連絡がきました。



 そしてその日から、僕は会社へ行けなくなりました。

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