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休みについてのあれこれ(産業医VS心療内科医)

 リワークという言葉を、聞いたことはありますか?


 残念ながら、僕は産業医の説明を受けるまで知りませんでした。恐らく、初めて目にする方が多いと思います。この言葉は、心の病などを理由に長期的な休息を取った人たちが、組織の時間に沿って行動できるようになるためのプログラムです。今はインターネットがあり、手軽に検索できるので詳細は控えますが、「復職支援」とか「再就職支援」とか、“うつ病”を前面に出して説明されているので、読むと一瞬「ウッ」と怯みますが、片っ端から読んだ際、僕は「組織のルールに沿って動けるようになる」為の場所だと感じました。


「リワークって行く気ない?」


 最初の提案は定期的に通っていた心療内科の診察でした。カルテから目を離さない心療内科の医師。変わらずの対応に僕の脳内には「Oh,Yeah...」なんて言葉が浮かんでましたが。


「リワーク行かなきゃダメですか?」

「医療機関による復職支援で…ってあれ?知ってるの?」

「存じています。」


 そう、僕は知っていました。何故なら、まだ会社に通っていた頃(正確には1度目の診断書が出て面談へ行った日)、産業医から説明を受けていました。リワークと出勤シミュレーションについて。リワークは医療機関が行うものですが、出勤シミュレーションは会社が行っている場合もあります。

どちらも「元の社畜生活に戻る」為に必要なことなので、3か月以上休むと必要になるからね、という説明がありました。その説明のせい(得体のしれない場所に通わされたり、出勤時間に来て点呼取ってすぐ帰るとか面倒だなという想いが強かった)もあり、僕は復帰を急いでいたのですが…。


「行かなくていいと、僕は思うけどなあ…。」


 心療内科の医師からリワークがあったことを報告すると、産業医は少し首を傾けました。


「貴方は確かに心身のバランスを崩して休養になった訳だけど、実質1か月しか休んでいないじゃない。リワークっていうのは少なくとも半年は通わなければいけないものだから、休養期間よりリワーク期間が長くなる場合は僕は勧めたくないなあ。」


 産業医の言葉を受け、僕は改めてリワークを調べました。なるほど、確かに復職最短期間は6か月でした。しかし僕は半年も悠長に通っていたくないのです。今すぐ、仕事がしたい。キリギリスのように楽しく遊んでいる訳でもないのに心苦しい。この非生産的で楽な生活はとても魅力的だけれど、しんどい。というか、ある程度の規模の会社だと休養期間中に傷病手当が出ると資料にあったが、支払われるのっていつよ?財布からどんどんお金無くなってるけど、本当に大丈夫か…?


 産業医の意見と、自分の意見(利益)が一致した為、心療内科に電話をしました。今でこそ、仕事の都合上、産業医と面談後に心療内科の診察へ行くようになりましたが、休んでいる間は大体2週間おきに、予約が取れた方を先に行く(例えば産業医の面談が月曜日だったら心療内科はその週の月曜以降とか、産業医が水曜日だが心療内科が水曜以降休診だったら月曜日に行くとか)というパターンでした。今でもどう通うのが正解なのかは分かりません。


 その回は産業医よりも心療内科の診察が先だったため、産業医の意見を聞いて自分がどうしたいと思ったかを電話してくれと言われていました。


「僕は、リワークには行かずに復帰したいと思います。」


 僕は、その後の言葉を覚えていません。

 理由は簡単です。



 心療内科医がやや強めの口調で大量の言葉を投げかけてきたからです。



 今にして思えば、心療内科医は心配してくれたのだと思います。心が弱っている時に、自分よりも強い意志を持って言葉を発してきた人間に影響されて、特に何も考えずにそちらに傾いたのではないか?いや、それより最新の医師の言葉に従っているだけなのではないか?自分の意志ではなく、他人の意志を自分のものと勘違いしていないか?たぶん、そう考えていたのでしょう。確かに、僕も心が弱っている時は、強く意見を言う心療内科医の言葉に助けられました。が、しかし。回復傾向にあり、そこそこ頭が動くようになった僕からすれば、それは単なる押し付けにしか聞こえませんでした。例えて言うならそう、神経質気味な母親が怒ってすごい勢いで説教してくる感じです。言葉をまくし立てる、を体感してるなあと薄ら思った記憶があります。


「とりあえずっ!もう一度考えてから!それから答えてちょうだいっ!!!」


 心療内科医の言葉に押されながらも、一応自分の意見は伝えた(と思う)のですが、相手は全く聞いていなかったようで。最後に一言、怒っているかの口調で放った心療内科医が電話を切りました。あれ?僕新人研修の時に、「電話をかけたら相手が切るまで待ちなさい。」って言われたけど、あれ?あれっ?切られてるからいいのか?と混乱しながらも電話の電源を落としました。


 心療内科医の言葉が意外と心に重くのしかかり、なんてことはなく。どちらかと言えば「面倒なことに巻き込まれたなあ…」と感じていました。何故なら、自分の進退を話していた筈なのに、最後の方は医師と医師の意地の張り合いみたいな言葉を投げられたからです。


「産業医は何科が専門なの?!内科ァっ?!」

「専門じゃないのに私の方針に口を出すなんて!」

「貴方は私の意見を聞きなさい!」


 確かそんなようなことを言っていました。個人的にどうでもいいですが、どうやら医師同士の縄張り関係で張り合ってしまうらしいので、できることなら産業医に専門を聞いておくといいと思います。


 くだらない(失礼)もとい患者には全く関係のない話が一方的に繰り広げられ、その対処にうんざりしていたところに、1通の封筒が目に入りました。そう、会社の資料(有給はすべて消化されました通知)です。そういえば来てたな、とあまり乗り気はしないものの開いたところ、一番最初に出てきたのは総務の人からの手紙でした。

 この、総務の人。なんだかんだで顔見知りになった方で、様々な資格を取得し、多種多様な知識を持つ方で、常にレベルアップを目指して努力されている方です。以前書いた、“聞く人”“叫ぶ人”“どっちもできる人”のうちの、珍しい“どっちも”の人だと感じた方でもあります。

 何を思ったのか、僕はその手紙を見て総務の人に「産業医と心療内科医が喧嘩して困っている。職務復帰したいのに医師の喧嘩で良くなった心がまた病みそうだ。」とメールしていました。


 1時間後、返信が来ました。


「それは大変でしたね。どうします?」

「喧嘩するなら余所でやって、とはいかないけど直接やってって気分です。」

「なるほど、板挟みですか。それはしんどいです。ところでこのメール、産業医へ転送してもいいですか?」

「僕のこの問題が解決するなら問題ありません。」


 この間、2時間。出来る人だからこそ激務なのですが、この総務の方が激務であることを忘れてメールをしていました。


 メールをした翌日、産業医から電話が来ました。


「どうしたいですか?」

「喧嘩するなら直接してください。僕を介すと誤解も起きるし、僕も疲れる。」

「わかりました。」


 会話はそれで終わりました。産業医が心療内科医に何か言ったのか、言わなかったのか。メールでもしたのかは分かりませんでしたが、とりあえず心療内科医は産業医については何も言いませんでした。


「でもさ、リワークだけは行ってほしいんだよね。というか、見学行かないなら復帰を認めません。」


 懲りないな、この人も…。

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