七夜
今日からコールセンターの研修。全部で五日間の日程の内、研修が三日で本番が二日。本チャンよりトレーニングの方が長いって悠長な会社だね。
面接の時もそうしたのだが、できるだけ金を使いたくない俺は電車代を少しでも減らす努力をしている。
・・・・・・キセルでもしてるんだろって?何をバカな、キセルなんて怖くてできない。今はスイカの時代だからな。そう簡単にキセルできない仕組みになっているに違いないよ、きっと。
そうではなく、俺のアパートからバイト先までは地下鉄を使って山手線に乗り継ぎしなくてはならないのだが、往復の地下鉄料金を浮かせる為に俺は自慢の愛車で直接、山手線の駅まで走って行く事にしているのだ。
紹介が遅れたが俺の愛車の名前は「オリタタ君1号」名前の通り、折りたたみ自転車だ。
この「オリタタ君1号」はタイヤの口径が小さいので普通のチャリよりこぐのに力がいる。加えて俺の住んでいる土地が急勾配の坂だらけなので毎日ヒィヒィ言いながらチャリをこいでいる始末。
こんなチャリ買うんじゃなかったな。なんとなく折りたたみ自転車ってどんなんかなあ?なんか便利そうだなって買ってはみたものの、折りたたむ必要性がないので全く意味がない。これって車に乗せて使う人の物なんだね。今さらながら大失敗しちゃったよ。
そんな「オリタタ君1号」で走る事、約60分。やっとこさ山手線の駅について、適当な場所にチャリをくくりつける。駐輪場なんかには停められない。金がかかるのだ。撤去されないように私有地に停める。これ、基本です。
そうやって研修一日目にこぎつけたのだが、俺の期待していた婦女子パラダイスは幻想にすぎなかった。
オバちゃん率80%、ブサイク率90%、ミニスカ率0%のどちらかというと婦熟女パラダイス。若いお姉ちゃんもいるにはいるが圧倒的にオバちゃんが多い。俺の両隣の席も当然のごとくオバちゃんが座っている。
ううっ・・・・・・ガッカリだ。心底ガッカリだ。ブサイクでもいい、せめて若い娘が隣に座ってくれたらどんなに良かったろう。
とはいえ女性にはとても愛想のいい俺は隣のオバちゃんの質問に親切丁寧に答える。パソコンの使い方があまり分からないらしく、何度も何度も聞いてくる。当然だろうな、パソコンなんて触った事ないくらいの年頃だ。
その内に俺のシマを担当しているリーダーがやって来て、そのオバちゃんにつきっきりになった。このリーダーは若い、ものスゴク若い。おそらく二十歳、もしくは十代ではないだろうか?顔は並みだが体がスゴイ。ダイナマイトボディってやつだ。
他のリーダーもしくはスーパーバイザーと呼ばれる人間は、わりかし清楚な格好をしているのにもかかわらず、このリーダーだけはローライズ気味のパンツに乳がこぼれそうなシャツを着ている。
おお!黒ブラ!そのリーダーが落し物を拾う際にしゃがんだ為、見えてしまった。決して覗き込んだ訳ではない。しかし子供のくせに生意気だ。黒なんて若いうちから着るか?何?普通だって。あっそう。
このリーダー、ブラも生意気だが態度も生意気だ。俺がウトウトしていたら耳元で「分かりますか〜」ときやがった。ドキッとするじゃねえか。そしてなんか知らんが意識しちまうじゃねえか。
・・・・・・男ってやつは単純にできてんなあ〜。己のストライクゾーンからかなり外れていても、そばにいたり触れられたりすればすぐに意識してしまう。悲しい性だな、こりゃ。
という事で今日は巨乳リーダーとパソコン初心者のオバちゃんのおかげで退屈はしなかった。仕事の方はというと今日の説明を聞いた限りでは単に商品注文の受付をすればいいだけの話。楽勝だろ、こんなの。なぜ人気がないのかさっぱり分からない。
いやあ仕事自体は簡単だと思うが、俺って自分で思うより活舌が悪かった。「ご注文を承らせて頂きます。」このフレーズがなかなか言えない。
どうしても、つかえてしまって「ご注文をウケタマワラレルレロ・・・・・・」などとなってしまう。「うけたまわります。」ならば問題はないのだが「うけたまわらせて」なんて言いにくくてしょうがない。他の奴らがスラスラ言えてるのが不思議だ。
帰り道。「オリタタ君1号」をこぎながら練習してみた。
「ウケタマワラレッ!」「ウケッ!」「ウケタマー!」「ウケタッ?」
わわ、やべえ。通行人がわんさかいる中で何言ってんだ。思いっきり不審者だぜ。赤っ恥をかいた俺は力の限りペダルをこぎ、全速力でその場から逃げだした。
くそう、失敗したし、腹減ったな、もう!




