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四夜

 無い無い!どこを探しても、買い物袋の中身をひっくり返しても、玄関先にも、家の周りにもどこにも無い!間違いなくう・ち・か・ぎ、だ。今どき内鍵ができるタイプの玄関ドアなんて滅多にお目にかかれないよ、その理由がこれ、内鍵トラブル。いつか、やりそうだなあ〜って思っていたがこんな時にやっちゃうなんて馬鹿馬鹿、俺の馬鹿!


 ふう、一息ついてトイレの窓、キッチンの窓、部屋の窓を確認してみたが全部鍵がかかっている。当然だ、戸締りして出かけたんだからな。あ〜あ、トイレの窓くらいは開けとけよ。どうせ盗られるものなんてなんにもないんだから・・・・・・。


 ハァ・・・・・・困った。とりあえず公衆電話のタウンページで鍵屋を探して電話をかけてみる。先に金をこさえておいて助かったぜ、無一文だと電話もかけられないからな。大体の値段を尋ねてみた・・・・・・た、高えええええ!てか、俺の所持金じゃ足りない。


 鍵屋に頼むのはあきらめて公園のベンチに腰を降ろす。さて、どうしたものか?分かりきってる。選択肢はひとつしかない。不動産屋に頭を下げてスペアキーを貸してもらう、それしかない。ただし、家賃滞納の件をうまいこと言い逃れなければならない。ああああ〜何て言おう、これで三度目の滞納だからなあ、過去に使った変な言い訳はもはや通用しないだろうから今回はキッチリと考えないとクソババアになんて言われるかわかったもんじゃない。


 とりあえず言い訳を考えながら不動産屋へ向かった。なぜなら不動産屋の営業時間が間もなく終了してしまうからだ。一応、営業時間内にたどり着いた。が、明かりは灯っておらず、あきらかに閉まってるっぽい。外から中をうかがえる造りにはなっていないので、ノックしてみたが返事はない。おいおい業務怠慢だな、ろくな物件扱ってないから客がいねえのは分かるが営業時間くらいは守ってくれよ。いやいやこれで今日は野宿決定だ。言い訳を考える時間が出来たのは嬉しいが、外で寝なきゃならないのはつらい・・・・・・。トボトボと野営場所を求めて歩き出す。


 最近の公園のベンチって横になれない設計してんだな。ベンチの真ん中にしきりが付いてて、それが背中に当たって痛い痛い。なんて事しやがる、行政出て来い!文句言ってやる。あ、でもこれはこれでツボが刺激されてちょっといいかも・・・・・・な訳はない、やっぱ痛い。横になるのはあきらめて求人誌に目を通す。あ!交通量調査の募集が載ってる。24時間で2万円!これは是非応募せねばならない。なんてったって日払いだし、体力の落ちてる俺にはもってこいの仕事だ。ただし、募集が締め切られていなければの話だが・・・・・・。


 結局朝まで三冊の求人誌を隅から隅まで読みつくして、良さげな求人をいくつかピックアップしておいた。交通量調査以外で即金なのが短期コールセンター受付、終了日払いというやつだ。これは女子オンリーの募集っぽいが一応、応募してみる事にする。なんせ体力系の仕事は今の俺には無理、ブッ倒れちまうのがオチだ。


 不動産屋の営業時間になったのでスペアキーを借りに行く。もう嘘の言い訳などしない、洗いざらい昨日までの出来事を話す。そうしないとあのクソババアには通用しないからだ。仕事がら俺みたいな連中を大勢相手にしてきたんだろうな。とにかく質問が鋭く、薄っぺらい嘘など簡単に見破られてしまうのだ。過去2回はそれでしどろもどろになって逃げるように帰ってきた覚えがある。


 「あら、お久しぶり。」不動産屋のクソババアが老眼鏡をずらして俺の顔を見上げる。奥にはこわもてで、ガタイのいいババアの息子までいやがる。多分昨日アパートに来たのはこいつだろう。いい歳したおっさんだがパッと見、ヤクザ者にしか見えない。仏長顔して俺の事を見てる。とにかく俺はバイトをクビになった事。これから働こうとしている仕事先の事。昨日は野宿した事など全てを話した。息子はうつむいて笑いをこらえ、ババアは半笑いで話を聞いている。ひとまず誠意は伝わったようでスペアキーを気軽に貸してくれた。嘘の言い訳などしなくて良かった。やっとアパートに帰れる。一件落着だ。


 ババアが俺に「あなたは辛抱が足りないのよ。」と言っていたが俺の辛抱が足りないんじゃない!この世の中、辛抱できない事が多すぎるんじゃあ!・・・・・・決まった。かな?

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