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『熾天使との邂逅』

あのあと、俺の全身の治癒は1時間と少しで終了し、建物を出た。

冒険者にもなれたし、これから俺の冒険が始まる!と、いうわけにはいかなかった。



始まりの街-『ユースフィア』市街地にて


ぎゅるるるるるるる


「なぁアイラ、腹減ったんだけど。」


「ふーん、草でも食べたら?」


ぎゅるるるるるるる


「なぁアイラ、お金ないのか?」


「うん、ないわよ。」


ぎゅるるるるるるる


「本当に無いのか?」


「うん。」


ぎゅるるるるるるる


「なぁアイラ、お前って向こうの世界から

ポテチ持ってきてたよな?

あれで何か取り出せないのか?

っていうか出せ。つねるぞ。」


「ちょちょちょ!もうあれはできないんだって!だからつねらないで!お願い!すごく痛いのよ!?」


ただつねってるだけなのに、そこまで嫌がるレベルで痛いのか。無様、妖精。


「ん?出来ないってのはどういうことだ?」


「異世界からのお取り寄せは結構魔力を使っちゃうから、私が持ってる魔力量じゃ、

取り出すのは1日2回が限度なのよ。

だからちょっとその指を離していただけないでしょうか?」


「へえ、じゃあ俺をこっちに連れて来たことと、それとあの時食ってたポテチで二回か……」


「そ、そうそう!そういう事よ!

だから今日はもう取り出せないの!

だからいい加減離して!」


「ふん……」


何か怪しい。これはちゃんとした根拠とか理由があるわけでは無いが、どうもアイラの挙動が若干おかしい。取り出せる回数は本当に二回なのだろうが……ん……?

『取り出せる回数』が二回……?


「おいアイラ、それじゃあ俺を連れてきた時に消費した魔力は取り出すときと同じ量、ってことで良いんだよな?」


「そ、そうよ。だから今日はもう取り出せないって言ってるじゃない!」


やはりそう来るか。

俺は知っている。その答えはウソだ。

ならばこちらもそれなりの対応をとらせていただこう。


「そうか、ならもう一つ聞いてもいいかな……?」


「な、何よ……」


「さっきポテチと一緒に取り出したじゃ◯りこ、どこやった?」


「……あんたみたいな勘の良いガキは嫌いよ。」


そして、その手には案の定、じゃ◯りこサラダ味が握られていた。やはりか!俺を転移させるための魔力は、既に5年前に消費させておいて、俺が来てすぐにでも異世界から何かしら取り出せるようにしていたということか!


「やりやがったなコイツ!

ポテチも食っちまったのに、そんな大量にあるわけでもないじゃ◯りこを取り出しやがった!!」


「だって、しょうがないじゃない!

あたしだってお腹減ってたんだもん!」


「何が『お腹減ってたんだもん』だよ!

ふざんけんな!お前わかってないかもしれないけどあれだろ!?

一応俺についてる妖精なんだろ!?

少しくらい主人に尽くせよ!」


「嫌よそんなの!あたしだって好きであんたなんかについてるわけじゃな痛だだだだだだ!

わかった、わかりましたから!

まだちょっと残ってるかもしれないから!

残り全部あげるからぁ!」


そう言ってアイラは、涙目で手に持っていたじゃ◯りこの箱をこっちに差し出した。


「どれどれ……?

こちとらこれだけが楽しみで……」


カラじゃねえか。

そう、じゃ◯りこの中身は既にカス一つすらない状況にまで綺麗に掃除されていた。


「ほ、ほら、それ全部あげるからつねるのはやめて!お願い!」


俺は地面にゴミを叩きつけて叫ぶ。


「ただのゴミじゃねぇか!

お前よくこれで許すと思ったな!」


「ええー!?じゃあ何で許してくれるのよ〜。」


「そりゃ何って……」


ちょっと思春期の男の子の願望を叶えてくれたり……


「そこのお二人!待たれい!!」


後ろから、というより上空から声がする。

どうやら少年のような声だ。

なんかちっちゃい子が無理して言ってるみたいな感じのアレ。


振り向くとそこにいたのは、いかにも天使と言わんばかりの羽を生やし、炎のような橙色の髪に、羽の意匠を施した白鎧を身につけた、

言わば天使そのものだった。


「て、天使……?」


「いかにも。我はこの始まりの街、『ユースフィア』の守護天使にして、神に仕える熾天使!

ウリエル!!」


「だそうだけど、アイラ、お前知ってるか?」


もう一度振り向いて尋ねる。


「いや〜、ウリエルってのは知ってるけど、

もっとお爺さんだったような気が……」


「聞けよあんたら!!」



「それで、そんな天使様が、俺たちなんかになんの御用です?」


「うむ、それなのだが……」


天使ウリエルが話し始めると、アイラが

小声で耳打ちをしてきた。


「思い出したわマサヤ。

そういえばこの間、ウリエルの爺さんが『そろそろ代替わりかのぉ……』って言ってたから、おそらくこの子、二代目よ!」


急に思い出したとか言い出すから

何事かと思ったら、かなりどうでもよかった。

というか、天使って人間を滅ぼそうとしてるって聞いたような気がするんだが……しかもウリエルって、かなり位の高いやつじゃなかったっけ……


「何しに来たか分かんないけど、

あたしの正体がバレたら結構ヤバイわ。

いい感じに回避して頂戴!」


この野郎!もうちょっと自力で何とかする努力をしろよ!


「小一時間ほど前から

この辺りで二、三度異世界への不当な干渉が感知されたのだが……ご存知ないだろうか?」


え……?ちょっと待てえええええええええ!!

それってモロ……アイラの事じゃね?


チラッ、とアイラの方に目をやると、

やはり唇をへの字に結んでプルプル震えている。そりゃもう生まれたての子鹿並みに。

そして確信した。あぁ、これはダメなやつだ、と。って言うかアレ禁止だったのかよ!?

コイツちょっとくらい自重しろよ!

というかそれ以前に、ここでバレるとおそらく俺の異世界での冒険はbad endだろう。

ウリエルって言うくらいだから、

戦闘になったらシャレにならねぇ!

まだ俺レベル1だぞ!?


「い、いやあ〜僕らは全然知りませんねぇ……

って言うか、異世界なんて本当にあるんですねぇ〜、びっくりしましたよ〜。」


なんとか、なんとかこれで乗り切れてくれ……ッ!


「……そうか、知らないか。なら構わない。

一応、貴方たちの身分証明だけ見せてもらおう。」


キタ!これで乗り切れたも同然!

あとは身分証明さえ出せば……


「身分証明って言うと、冒険者カードとかで良いんですかね?」


「ああ。構わない。」


「ちょっと待ってくださいね〜………ッ!?」


ちょっと待て、俺の冒険者カードはある。

しかしだ、アイラの身分証明は?

果たしてあいつは持っているのか?

いや……妖精の身分はバラせないと言っていた……するとあいつは確実に……!!


ポケットを探りながら、再びチラッとアイラの方を見る。アイラもこちらを見ていた。

しかしその顔は、会ってすぐの頃の余裕の表情は何処へやら、冷や汗と涙に塗れていた。

もう、目で『助けてくださいお願いします』

と懇願しているかのようだった。

持っているか否かの答えはNO。持っていない、だ。こんな所で召喚したというウソが仇になるとは……!


「え、えーと、これが俺の冒険者カードです……」


「よし、確認した。『クルス』か、

カッコいい名前だな。協力、感謝しよう。

それではそちらの方。」


このタイミングで褒められても嬉しく無いっていうか、すごい複雑。というか褒めないで。恥ずかしいから。


そう言って天使ウリエルは手をアイラの方に差し出した。

マズイ。非常にマズイ。早くも異世界に来てから二度目のマズイが到来している。

俺って運Cだった気がするんだが……

しかし、ここまできたらやるしかない。


「あ、そいつなんですが、

僕が召喚した魔女でして、身分証明がないんですよ……」


アイラの表情が一瞬だけ、ぶすっとした顔に変わったが、そんなことを気にする余裕はない。

そうだ、俺は嘘をつき通すことにしたのだ。


「魔女を召喚……?聞いたことがないが……

それは本当か?」


う……やっぱり疑われるか……!

しかし、ここでうやむやにすると一層疑われる。


「も、もちろんです!!

た、たまたま出来てしまいまして、

自分でも驚いてるんですよ……ハハハ……」


「しかし、先程そちらの魔女を『アイラ』と呼んでいたではないか。仮に過去の英雄を召喚できたとしても、普通本名は教えないものだが……」


「そ、そそそそうなんですか!?

な、なんでかな〜?この子、少し頭が弱いからですかね〜?」


また一瞬アイラの顔がぶすっとした。

しかしマズイ。どんどん疑われ始めている。

というかさっきからアイツ何なんだ!

どんだけビビってんだよ!

ずっと手後ろに回してるし!


「それに、『アイラ』という名前、

何処かで聞いたような気が……」


「な、ないないないない!ないですよそんなこと!!ええ!無いですとも!」


ウリエルがそう言った途端、アイラが突如口を挟む。頼むからお前は黙っていてくれ。


「う……召喚された人間なのに、やけに積極的だな……ま、まぁ良い。時間を取らせてすまなかった。それでは失礼する。」


天使ウリエルは翼を広げ、飛び立った。


「あ、危な……かった……」


俺は地面に倒れこんだ。

異世界に来てから試練が多いが、

今回は本当にゲームオーバーに直結するものだっただけに、重圧は大きかったのだ。


「ふ〜、危なかったわね。」


そう言ってアイラは、さっきまでずっと後ろに回していた手を前に持ってきた。

その瞬間、俺は目を疑った。

その手には、三本のじゃ◯りこが

握られていたのだ。


「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!??」


「な、何よ!急に大声出さないでくれる!?」


「いやお前!さっき俺にゴミ渡したよな!?

アレなんだったんだよ!?お前意地汚いぞ!!」


「しょ、しょうがないじゃない!

あたしだってじゃ◯りこ食べたかったんだもん!!」


「ふざけんなお前!

何だ!?俺には食べさせないで自分だけで全部食べようってかぁ!?」


「ちょ!やめて痛い痛い痛い!

本当に痛いから!わかった!一本あげるからつねるの止めて!」


「おい貴様ら……貴様らが右手に持っているものは何だ……?」


再び空中から声がするのだ。

俺の危険センサーはビンビンに反応していた。

あぁ、やらかした。あと数秒叫ぶを我慢できれば全てがうまくいったというのに……ッ!!


ゆっくりと振り向くと、そこにいたのは

明らかな怒気を纏った天使ウリエルだった。

だが、そう聞かれたら答えるしかない。


「じゃ◯りこです!」


「ふざけるなっ!!

お前達……よくも天使を愚弄してくれたな……!」


やべぇよ……俺より五つくらい下の子に見えるのに怖え……


「……仕方ないわね……」


そう呟いて、アイラが一歩前に進み出た。


「お、おい馬鹿!アイラ!天使だぞ!逃げよう!」


「あらあら、忘れたの?

あたしってば一応あれよ?結構位高いのよ?

天使ぐらい簡単に……」


「思い出したぞ!!」


アイラが言いかけると、

天使ウリエルが一筋の冷や汗を流した。


「300年前に起きた天魔戦争の時……

妖精族でありながらも、何故か魔王軍につき、『天使狩り』と称して千人もの天使を殺して回った最悪の妖精がいたと……!」


「ふひひひ……っ」


アイラが気味の悪い笑いを浮かべる。


「その名をアイラ……!

極悪非道の妖精……『鬼畜のアイラ』!!」


「お前そんなことしてたのかよ!最低だな!?」


「う、うるさいわね!あたしだって色々あったのよ!」


今でこそ中身が残念な美少女だが、

昔はもっとヤバイ奴だったのかもしれない。


「ま、まさかこの女が……っ!!」


「そうよ!あたしがそのアイラよ!

そしてそれを知ったあんたは吹っ飛びなさい!

古流拳エンシェントブロー』ッ!!」


「ちょっと待てお前そんなヤバそうな技この街中で使ったら……!!」


「ハアァァァァァァァァッ!!」


アイラが空中に向けて光り輝く拳を思い切り突き出すと、空気がぐにゃりとねじ曲がる。

何が起こっているかは大体わかる。

ゲームとかアニメとか、そういうのからの経験則だが、おそらくアイラは空気を殴ったのだ。

それを飛ばすことで、標的からアイラの拳までの空気が一気に圧縮され、標的の目前で大爆発を起こし、まとめて吹き飛ばすというアレだろう。


「なっ……!?」


天使ウリエルの腹辺りが突如白く輝いたかと思うと、次の瞬間には大爆発の爆風が辺りを襲った。


「うおおおおおおおお!?

お前やりすぎだーっ!!!」


あまりの眩しさに、目を瞑ると、次に目を開いた時に目の前に待っていたのは中々の惨劇だった。周囲の家六軒ほどは跡形もなく吹き飛び、

他にも半壊した家が多数。何も言えねぇ。

それで自信満々に、『これが私の実力よ!

見てたわよね?マサヤ?』何て言ってくるのだから、コイツは頭が働くのか働かないのかわかったものではない。ちなみに、天使ウリエルはどこかへ吹き飛んでいったようだ。



その後もちろん、俺は市長に呼び出しをくらった。そう、くらった。そして怒られると思っていたのだが……


「いやぁ〜よくやってくれました!

まさかあの熾天使を退治してしまわれるとは!本当に感謝します!!」


市長は人の良さそうな小太りのおっさんなのだが……何故か俺は今、感謝されている。

そういえばウリエルは『守護天使』とか名乗っていた気がする。本当に倒してしまってよかったのだろうか。ちなみに時刻は夜十一時頃、アイラはこっちの世界の酒を飲んで眠ってしまっている。


「い、いえ……本当に僕は何もしていなくてですね……」


「いえいえ!聞きましたよ!貴方があの魔法使いを召喚されたんでしょう?

つまり、貴方のおかげですよ!

本当に、ありがとうございます!!

あの天使は、守護天使とは名ばかりで、

厳しい風紀統制をしておりましてですね、

酒は一日一杯だの、女に触れるのは最低限にしろだの、煙草は喫煙場所で吸え、などと鬱陶しいものばかりでしてねぇ……」


待て待て、それ全部言ってること正しいぞ。やっぱりこっちの人間、ダメじゃねぇか。


「これでやっと好き勝手できるってもんです!

いやぁ、本当にありがとうございます!!

こちら、気持ちばかりのお礼……」


そう言って市長は何やら小銭らしきものの入った小袋を取り出した。


さっき夕飯もたくさん頂いたし、

やっぱりこの人めちゃくちゃいい人だ。

全くダメ人間なんかじゃなかった。


「おお!ありがとうございます!!」


お金がもらえるなら話は別である。


「と、したいところだったのですが……」


「へ?」


すっかり受け取る気だった俺は素っ頓狂な声を出してしまった。


「お連れの魔法使い様が壊した家の修繕費にかなりの経費がかかりましてですね……

ちょっとこちらのお礼は渡せない形に……」


マジか……あのやりすぎフェアリーめ……!

まぁ確かに、夕飯はご馳走してくれたし、

これはもらえなくても仕方ないな……

はぁ。欲しかったなぁ。


「いえいえ、全く問題ないですよ!

冒険者は市民のために戦うものですから!」


「な、なんと!こんなご時世にそこまで民のことを考える方がいたとは……!ううっ!!」


感極まったのか、市長はすすり泣き始めた。


あぁ。お金欲しかったなぁ。




欲しかったなぁ。



「「「ありがと〜ございました〜っ!!」」」


俺はその夜、その町の宿に泊めてもらった後、始まりの街、『ユースフィア』を後にした。

何?荷物はちゃんと持ったのかって?

いえいえ、荷物なんてございませんよ。

持ったとしたら、この頭の中が骨粗鬆症レベルにスカスカなのか、もしくはカルシウムありありに詰まっているのか、よくわからんフェアリーという名のお荷物くらいだ。


はじめはそう、このやりすぎフェアリーに脅され、俺がお荷物状態みたいなものだったが、こいつはずっと俺について来た。

しかし、現状では立場が逆転。別にこのフェアリーが要らないとは思わないが、何故このフェアリーは俺について来るのか。ただそれだけが、疑問として残った。

まあ、そんな事はどうでもいい。

俺が異世界に来た理由、それを達成する事だけが、今の俺の目標だ。


「何々?次の街は『ユースフィア』から

北東……『アールクラフト』か、

よし、それじゃアールクラフト目指して行くか!」


「めんどくさいから私、先にテレポートしてていい?」


「ダメに決まってんだろ!つねるぞ!」


「わかった!わかったから、それだけはやめて!!」








伸びたら次ですかね。

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