第17話 採取と対処と3人姉弟
最近よく遅れてしまうのが嫌になってきます。大変申し訳ございません。
様々な動物の気配を感じる森の中、僕達は何か嫌な予感がするけど、構わず歩き進んでいた。さっきのウルフとの遭遇以来、森の中に何か問題が起こったのか分からないが、周りを警戒しながら進んでいた。
森の中はモリィが通れるほど道はあったが、物陰から奇襲が掛かれば守りきれない可能性はあったので、帰還させて置いた。でも、お姉の体力が持つか少し心配だな。
歩きながら草に‘鑑定’をして見た。すると雑草が多かったが、中には薬草からの混ざっていた。
―薬草
傷を癒える効果がある。調薬すれば効果が上がる。
良質:D
「お姉、お兄、ちょっと待って」
僕はその場に立ち止まって、薬草を採取する為に周りの土を掘った。昨日の買い物で採取道具を買い忘れていた。
「しまった、浮かれて必要な道具を買うの忘れてた」
「素手で掘るしかないね」
どうするか困っていたらシャールが薬草の周りの土を掘り出し始めた。
“ご主人、これで良い?”
「ありがとう、シャール!」
シャールを撫でてから薬草を丁寧に抜き取った。その場に6つ生えていたので、同じ手順で5つ抜き取った。
「全部取らないのか?」
「全部取ったら次が生えにくくなるからね。こうやって残して置く方がいいってオールさんも言ってたし」
説明しながら薬草をアイテムボックスに入れた。
そんな調子で何度も止まって薬草を採取した。採取出来る数は場所によって違っていたので、結構時間をかけてしまった。何度も繰り返しながら進んでいたら採取数を超えていた。
「結構集まったね。こんなに必要なの?」
「失敗する可能性を考えて練習用にもっと採取したんだよ。あって損は無いからね」
「流石モンモン、抜け目無いな」
「だからお兄、モンモンって呼ばないで、いい年して」
「お姉もそう呼んでるんだから良いだろ?減るもんじゃないんだし」
「お姉は良いけどお兄は無理」
「なんで?」
「キモイから」
「が〜ん...差別...」
ディスられて膝を付いては四つん這いになるお兄。
「クスクス、キッキーがキモいって」
「因みにお姉は子供っぽい」
「がが〜ん...平等...」
お姉も仲良く四つん這いになっているのを見ていたら、森の奥から複数の気配を感じた。
「お姉、お兄、今の感じた?」
「うん、同じ感じの魔力が二十位いるね」
「行って見るか?」
「行ってみよう、異変の原因かも知れないね」
僕達はなるべく大きな音を立てずに気配がする方向へ向かっていた。近づくにつれ荒っぽい豚の鳴き声が聞こえて来た。いや、豚じゃなくて猪か。
僕達は木の陰に隠れながら気配の様子を伺う。すると、そこには沢山の猪が群れで移動をしていた。
たぶんあれがボアなのだろう。僕が知っている猪より図体が一回りデカかった。その中に一段とデカいボアがいた。高さ3メートル、長さ6メートル、鋭く尖っている牙、重さは分からないが数トンはあるだろうボアは道を塞ぐ木をなぎ倒しながら進んでいた。気になって‘鑑定’と‘魔物図鑑’を使ってみた。
-個体名:ジャイアントボア
レベル:4
HP:800
MP:100
スキル:体当たり、突進、危険探知、物理耐性(小)、激怒、硬直、連帯、ハーレム形成
-ボアが魔力が高い土地に長く住み着くと稀に魔物に進化する特殊個体。基本のボアより数倍強く、タフで危険だ。ジャイアントボアは自分以外、雌だけで群れを形成する。より強い固体を作っては領域を増やす習性を持っている。早めに対処すること。
ボアが大量にいたのは嬉しかったが、一番前に雌達を率いているジャイアントボアが一番危険だった。ボアだけだったら兎も角、ジャイアントボアがいることで厄介だ。
「何あれ、凄く大きいね...」
「モンモンの何食分だ?あれ」
「たぶん一ヶ月...じゃなくて、アレの名前はジャイアントボア。ボアから進化した魔物だよ。ハーレムの群れを作っては自分の領域を広げる習性があるって。レベルは低く見えるけど、進化しているからかなり危険だよ」
「ハーレム?なんか如何わしい生き物だね」
「領域を広げるとはかなり生意気な魔物だな。潰すか」
二人とも反応した所がなんか違うけど今はいい。それより、どう全てを最小限の被害で狩れるか問題だな。
「どうする?次にボアをこんなに沢山遭遇する機会なんて無いよ?」
「そうだね、一々探していたら日が暮れそう」
「逃げられないように囲むのは?」
「それだとこっちが怪我をする可能性が高すぎで危険すぎる、却下」
「だったら私に良い考えがあるよ!」
「何々、どんな?」
「私がボア達をなんとか囲めるようにしてから、新しく覚えた魔法で一気にボア達を一網打尽にするの。私の魔力がどれ位多いのが試してみたいし、私が適任かなと思ったんだけど。良いかな?」
「いいアイディアだね!新しい魔法も試すのも良いけど、なるべく傷つけないようにね」
「分かった、ちょっと待っててね」
お姉は目を瞑り、魔法を発動させる為に自分の魔力を高めた。ジャイアントボアがこちらの方に顔を向けた。すると急に泣き叫び、移動を早めた。
「おいおい、急に逃げだしているぞ?」
「危険探知だ!あのジャイアントボアのスキルでお姉の魔力が感ずかれた!」
「お姉、急いで!」
『アース・フォール』
お姉が呪文を唱えると、ジャイアントボアを中心に半径10メートルの地面が地中に沈んだ。ざっと10メートル以上深く沈んだので、ボア達の逃げ道は無くなり、逃げられなくなってしまった。アイナさん以外のウィザードを見たことが無いが、お姉の魔法がこの世の理不尽の領域なんだろうなと思った。これからはお姉を怒らせる事をしないでおこう。
この前の脱衣未遂事故で感じていた命の危険は本物だった。
「お姉、スゲーな。シンクホールが出来たかと思った」
「やった私も驚いているけど、あまり時間が無いかも。あと十数分で元に戻るかも」
「どうして分かるの?」
「ウィザードの勘?」
「...本当かは分からないけど、早く済ませよう。お姉、お願い」
「うん、待ってね」
『ブリザード・バインド』
お姉が今まで唱えた事が無い呪文を唱えた。すると下にいるボア達の周りに突然吹雪が起きた。ボア達の動きが鈍くなったかと思ったら完全に動けなくなっていた。どうやら足元を凍らせたのかな?
『サンダー・レイン』
続けて唱えたのは雷魔法だった。空から複数の雷が雨の様に降りかかった。雷の一つ一つが正確にボアの頭部に直撃し、次々と倒れはじめるボア達。たぶん脳が焼けてしまって生命活動が止まったのだろう。
「おお、あっと言う間に片付いたね」
「ちょっと疲れたかな。はやく回収しよう」
『ストーン・ウォール』
お姉がだるそうに良いながら、岩の壁が何枚も重なって長く延びては階段を作った。お姉もたまに器用なことするな。
階段を下りてボア達が倒れている所まで着くと、一体だけ荒々しく呼吸をしながら立っていた。生き残っていたのはジャイアントボアだった。いかにも怒り狂っている表情だった。
「あれで生き残っているなんて、タフすぎるよ」
「俺の出番が無いかと思った」
「でもなんか、やばいオーラが...」
突然、ジャイアントボアがお姉の氷の拘束を力ずくで解いてしまった。もしやと思い、鑑定をし直すと、
-個体名:ジャイアントボア
レベル:4
HP:700/800
MP:80/100
スキル:体当たり、突進、危険探知、物理耐性(小)、激怒、硬直、連帯、ハーレム形成
状態異常:激怒
えらい事になっている気がする。念の為、ステータスも鑑定できるか恐る恐る試してみた。
-激怒:理性を失うが、攻撃力と防御が上昇。
ですよね~。自分の愛猪(?)が一瞬で奪われたらね...そりゃあ怒り狂うな。
内心パニくっていたらジャイアントボアがこっちに向かって突進してきた。
「任せろ!」
物凄い勢いで突進してくるジャイアントボアをお兄が単身で受け止めた。衝突音が周りに響いた。少し押されていたが、何とか持ちこたえた。ダメージはそれなりにあった。前の世界でトラックに突っ込んでから躊躇いも無く飛び込める様になったのか、学習しないのかは分からないが、今は助かった。
「シャール、ジャイアントボアの脚の筋肉を切り刻んで!プービーは電撃で麻痺させて!」
““はい(ハイ)!!
「お姉はさっきより強めで雷魔法を!僕も奴の気を引かせる」
「分かった!」
「シャール、魔法借りるね!」
『シャドウ・クロー』
お兄から離れたジャイアントボアは僕たちから距離を置こうとしていた。アース・フォールの効果が切れる前に倒さないといけないので、もう手加減は要らないだろう。僕達のステータスでごり押しをすれば勝てる。シャールの闇魔法の爪で足を狙った。最初はかわされたが、回数を重ねていくと段々と当たってきた。お兄も剣を持って加勢した。それでもスキルで硬くなり攻撃が上手く通らないが、傷は増えてきた。
『サンダー・ランス』
お姉が雷の槍をジャイアントボアの頭部に向けて放った。危険を察知して交わそうとしたが、与えてきた傷が多かったせいで動けなくなっていた。ジャイアントボアの頭部に雷の槍が刺さり、断末魔を上げては倒れた。
「対処依頼、全て達成だな」
「うん、後は魔力草だけだね。最後まで頑張ろう」
沈んでいた地面が元の高さに戻っていく。元に戻る原理ってどうなっているのだろう?
さて、この大量のボアをどうやって血抜きしようかな?
まだまだ公開されていない魔法もあります。