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まさかミケ猫 習作短編・中編

気付いたら性欲と食欲の扱いがあべこべな世界にいた

掲載日:2016/07/15

「なぁ神野、これ見ろよぉ」


 教室に入ると、チャラい友人・大原テツヤがゲス顔で話しかけてきた。

 手には週刊紙――たしか水曜発売だったから、また発売前のヤツをくすねてきたのだろう。

 こいつの家は本屋なのだ。


「ククク……枯れたお前でもコレはたまらんだろう。CM女王、広瀬彩芽の」


 そう言いながらページをささっとめくる。

 うんうん。

 だいたい想像できた。

 俺はため息を飲み込んで待つ。


「これが、広瀬彩芽の、食べ撮り写真だぁ!!!」


 デーンと開いたページ。

 載っているのは、テレビで見慣れた女優の食事風景――ハンバーグを一切れ、口に運んでいる写真だ。

 口元には薄くモザイクがかけられている。


「へへへ、やべぇだろ……俺昨日、これオカズにご飯三杯も食っちまっ――」


 俺は週刊紙を奪うと、丸めてこいつの頭を叩く。

 男子からは笑い起き、女子からはサイテーという声が聞こえてくる。

 まぁテツヤは食ネタ好きのアホだが、明るくて基本いいヤツだから、みんな本気で嫌ったりはしていない。



「大原のバカがごめんね、神野くん」


「ま、いつもの事だしね」


「ほんっと、食事のことしか頭にないんだから……」


 話しかけてきたのは、眼鏡をかけた女子――クラス委員の三枝さんだ。

 真面目な性格で、昔からテツヤの保護者っぽい立ち位置だったらしく……こう、お前ら早く付き合っちゃえよって、みんな思ってる。そんな関係だ。

 テツヤのヤツ、あぁ見えて奥手なんだよな。


「あ、そうそう……期末テスト終わったら、クラスのみんなで打ち上げ乱交会行こうと思うんだけど、神野くんも参加する?」


 普通ことみたいに提案してくる。

 いや、みんなにとっては普通のことなんだけどさ。


「悪い、今回はパスで」


「もー、彼女できてから付き合い悪いよー」


 俺は苦笑いで答えるが……俺がこれに参加してる間に、彼女が自分のクラスの乱交会に参加しちゃうと嫌だからな。

 そもそも誘われないとは言ってたが。


「女子には分からんよな、神野。男子の食欲はすげぇんだぞ」


「バカ大原、いい加減にしろ!」


 三枝さんがテツヤの後頭部をぶっ叩き、クラスに笑いが溢れる。

 平和な日常のひとコマである――食欲と性欲の扱いが逆転していることを除いて。




 気がついたら、世界の常識が変わっていた。


『地下立食パーティーを一斉摘発』

『人気俳優Nに未成年との食事疑惑』

『道端で突然おにぎりを食べ始めた男を逮捕』


 それらのニュースに違和感を覚えたのは、中学の時。


 両親とも忙しいから、食事は家で一人でとるのが普通だった。

 気付いたら学校給食も、個室で一人で食べていた。

 あれ? なんかおかしくないかな、と。


「女子バレー部も大会終わったみたいだから、打ち上げは合同で乱交会な」


 部活の顧問が言ったセリフで固まった。

 え、マジで!? と思ったらマジだった。

 女子のおっぱいってすげー柔らかいのな。




 そんなこんなで高校生になった。

 男の友人の頭の中は、中学のとき以上に食欲まみれだ。

 男だけになると「一回でいいからディナーしてぇ」みたいなこと言い出すヤツがいて、妄想が暴走したりね。やれ芸能人の誰々とご飯食べたいだの、夢の中でクラスの女全員と飯食っただの……あ、それ言ったの全部大原のヤツだ。

 あいつは食欲魔人だからな、うん。


 女子の貞操うんぬんは既に諦めたよ。

 この世界のナンパ男の思考回路は「とりあえずセックスだけでも誘って、あわよくばその後食事まで持ち込んで……」だし、軽めの女子も「知らない人と絶対食事なんて行かないよー、この前もホテル代だけ奢らせてトンズラしてきてやった」とか話してた。

 家庭的な女子にしても、教室で性技集を読んでる世の中だし。


 俺自身もいろいろ経験しまくってるから、今更相手に貞操観念とか求められる立場じゃない。

 処女なんていたら「希少価値だ!」と叫んでしまいそうだ。


 楽しいし、ラッキーと思うこともあるけど、悩みがあるとするなら。

 恋人ができても、その彼女は当然のように他の男とエッチすることになるんだよね。

 処女厨ではないけどNTRは嫌い。

 俺自身あんまりガツガツしてない(食欲的に)から、フツメンでも若干モテてるらしいし、微妙にいいなと思う女友達もいたんだけど。

 なんとなくね、特定の恋人を作るのはずっと躊躇してたんだ。




 そんな俺の前に天使が現れたのは、高校一年の終わり。

 放課後の図書室でたまたま話をした女子――隣のクラスの如月さんだ。


 地味な感じでおとなしい女の子だから、それまであまり話す機会がなかったんだけれど。


「神野くんも『珍撃の小人』好きなの? じゃあこれは知ってるかな、昔のマンガだけど――」


 話してみたら、好きな小説とかマンガの趣味がすごい合って感動した。古いマンガからマイナーな作家の話まで付いて来られる人なんて、いままで周りにいなかったからな。

 気付いたらすっかり日が落ちていて、学校を追い出された。


「もう少し話したいんだけど、ラブホ行かない?」


 いや、セクハラではない。

 この世界ではファミレスに誘うことがセクハラなのであって、ラブホに誘うのはセクハラではない、セクハラではないのだ。


「いいんだけど……私いままで、男子に誘われたこととかなくて……経験ないよ?」


「き、希少価値だ!」


「……?」


 思わず叫んでしまった。



 それからも、よく一緒に過ごした。

 話していると本当に心地よくて、時間を忘れては家に帰るのが遅くなった。

 春休みに入る前には、モジモジした如月さんから、


「春休みも、その、会えるかな……?」


 なんて言われ、超高速で首を縦に振ったら笑われた。

 悔しいけど可愛い。


 春休みは二人でいろいろな場所に出掛けた。

 水族館、梅のお祭、映画館にピクニック。

 実は出身中学が一緒だったみたいで(彼女の方は知ってたらしい)、家もそれほど遠くないからほぼ毎日会っていた。

 一日一日が光のように過ぎていって――俺の頭の中は、如月さんでいっぱいになった。


 気持ちが溢れたのは、春休みの終わり。


「実は俺、かなり嫉妬深い性格みたいで……できるだけ、他の男とエッチはしないで欲しいって思ってる。 そんな束縛男でもよければ、その、彼女になってくれないかな?」


「んー、そもそも誘われないから、それは別にいいんだけど……じゃあ私からも、条件をつけさせてもらうね」


 如月さんは俺に近づくと、シャツをキュッと摘まんだ。

 顔は夕焼けのように真っ赤に染まっている。


「美香って、名前で呼んで?」


 俺たちはキスをして、恋人同士になった。




 あれから三ヶ月。

 打ち上げ乱交会も無事スルーしてもうすぐ夏休みという頃、俺は美香とスーパーマーケットに来ていた。


「今日、家に親いないの……一緒に、デ、ディナーしよ?」


 照れ臭そうに囁く彼女はかわいい。


 性交を重ねて告白し、恋人になってしばらく。

 次のステップは食事だった。

 俺の中の何かが「それは違う」と言っていたが、無視だ。


 事前にイチャイチャしながら作った買い物リストを手に、スーパーを巡る。

 主婦たちは当然だが、大学生カップルなども楽しそうに買い物をしていた。

 あと周りにいるのは、遊んでそうな(=料理好きそうな)女性と、ハァハァしてるおじさん(みんな見ないフリ)と。


「あ、テツヤと三枝さん……?」


 俺の視線の先には、二人の見慣れたクラスメイトの姿。

 二人は俺の声にピクッと反応し振り返る。

 顔が真っ赤だ。


「神野……」


 参ったな、といった表情で頬を掻く。

 俺の感覚だと、ラブホの前で友人カップルと遭遇してしまったようなものだろう。

 これは気まずい。


「な、なぁ神野……こ、ここはお互い見なかったことに」


「あ、うん」


 俺の隣でも美香が真っ赤になっていたので、この場では出会わなかったということで決着を付けた。

 いやー、それにしても。

 ついにあの二人も食事を共にする仲になったか。

 感慨深い。


 トラブルがありつつも無事に買い物を終え、美香の家に向かった。




「ど、どうかな……?」


 俺の目の前には、エプロン姿の美香がいた。

 正直可愛すぎてクラクラする。

 なんて呟くと、美香の頬がほんのり染まる。


「上手に出来なかったらごめんね」


 レタスをまな板に乗せ、包丁を取り出す。

 美香はそれを握り、上下に動かした。

 たどたどしい手つきだが、丁寧に優しく。

 優しい表情から愛情を感じる。


 美香を眺めながら、俺は米を洗った。

 白濁していく水を何度か入れ替える。

 そして、炊飯器のボタンをそっと押す。


「あ……皮、剥いちゃうね」


 美香は恐る恐る人参を手に取る。

 ピーラーで皮を剥くと、綺麗な中身が露になる。


 ……俺も、見ているだけじゃ物足りない。


「こっちは俺が」


 玉ねぎを掴む。

 大きすぎもせず、小さすぎもせず、丁度いい大きさだ。


 俺はその先端を指先で引っ掻く。


「んっ……」


「どうした?」


「大丈夫、少し痛かっただけ」


 じゃがいもの皮剥きで、手を滑らせたようだ。

 俺は絆創膏を取りだし、美香の指に貼る。


「無理するなよ……ゆっくりでいいからな」


 二人で分担して野菜を剥き、切った。

 プロじゃないからな、多少の不揃いはご愛敬だ。


 肉と野菜を炒め、水を足す。

 グツグツと煮える頃には、俺たちは汗だくになった。


「ハァ、ハァ、暑くなってきちゃった」


 換気扇を回しながら、団扇で首もとに風を送る。

 二人とも汗でシャツが貼り付いてるが、今はそれより料理だ。


 カレールーを投入する。

 鍋からは香辛料の匂いが漂ってきた。


 鼻から脳に突き抜ける刺激。

 胃が活発に動き始める。


「もうだめ、ねぇ……食べよ?」


 美香は切なそうな顔で俺を見る。

 そんな顔で見られたら俺は……沸き上がる食欲でどうにかなってしまいそうだ。



「食器、どうかな」


「可愛い食器だね……美香らしい」


 サラダとカレーライスを盛り付けた俺たちは、美香の部屋へと来た。

 美香の緊張が伝わってきて、俺はゴクリと喉を鳴らす。


「はい、これ……」


 皿とお揃いのスプーンを、美香が俺に差し出す。

 俺はそれを手に取った。


 ご飯とカレーと掬い上げる。

 まだ熱々のそれに、優しく息を吹きかける。


 美香が舌をペロッと出し、唇を舐めた。

 そして、控え目にその口を開く。

 その扇情的な仕草に、思わず息を飲んだ。


 目を閉じた彼女の口へ。

 俺はスプーンを運び……


「入れるよ」


 できる限り優しく、俺はスプーンを差し込んだ。




 初めての食事は、思っていた以上だった。

 なんというか、少しだけこの世界での食事の扱いを理解できた気がする。

 不覚にも少々興奮してしまった。

 マジか、と思った。


 俺も満足したし、美香も嬉しそうだった。

 お腹以上に心が一杯になったのは、今までずっと一人でご飯を食べ続けてきた反動もあるのかもしれない。

 ただ、相手が美香だからこそ、食べさせ合うという行為を純粋な気持ちで楽しむことができたのはある。

 きっと食風俗店とかじゃこんな満足は味わえないだろう。


 美香の膝枕で半分以上意識を飛ばしながら、俺は余韻に浸っていた。









「やっと契約完了かな」


「えぇ、長かったけど願いが叶ったわ」


「手っ取り早い方法はいろいろあったのに……」


「心をいじらずに彼を手に入れなきゃ、意味ないもの」



 微かな意識の中で聞いた会話が現実だったのか、幻だったのか。

 考えを巡らす前に、俺は心地よい眠りに落ちていった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 如月さんかわいい。処女厨なのでグッドです。 ある意味一途だからこういう手を使ったんだろうなと思ってます。 [一言] R18版か続き読んでみたいです。
[良い点] エロい [一言] ノクターン待ったなし 最近のグルメ漫画もハフハフハァハァ言ってある意味エロいので是非このジャンルを確立頂きたい
[良い点] この発想は無かった [一言] R18向けの設定だと思います
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