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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第6章 藤原千方 決着編

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第97話 堕天使の長

 とりあえず各々の挨拶の後。今日のメインの用事であるエルザがやってきた。それに、詩乃が思わずと言った様子でとぎまぎする。


「・・・本物ですか?」

「に、偽物に出会った事は無いですね」


 完全に疑っている詩乃に対して、エルザが苦笑気味に本物である事を明言する。彼女らは今の今までエルザがあの歌姫エルザである事を知らなかった。いや、一応エルザが幹部である事は知っているが、このエリザだとは思っていなかったのだ。


「歌マネとかそっくりさんでは? そもそも日本語ですし」

「日本語、話せますよ。普通に。もう400年近く日本に居ますからね。大阪弁も使えます。もともと日本語を学んだのは摂津国の方ですからね」

「なぜ摂津・・・大阪なのですか?」


 エルザからの言葉に、煌士が首をかしげる。彼としても400年前に来た事は把握していたが、なぜ大阪にあの大地があって、そして摂津国の言葉を使うのか、と疑問だったらしい。


「高山重友・・・高山右近はご存知ですか?」

「はぁ・・・10年程前に福者として列聖された高山右近、ですか?」

「その、高山右近です。彼の息子の一人がとある縁でヴァチカンに向かったのですが・・・その頃に我々も今の楽園を作り日本に向かおう、としていた頃だったんです。でも、その際に言語は未知の言語だ、という事はわかっていましたのでどうしようかと考えていた所、エリザの知り合いだったガブリエル殿に日本語の情報を記録した今で言う辞書の様な物をもらったんです」

「その日本語の情報を提供したのが、高山右近の息子だ、と・・・」

「いえ、違います」


 煌士のつぶやきに、エルザがくすくすと笑う。それに、煌士が首を傾げた。


「はい?」

「盗んだ、という所だと思います。高山右近の息子・・・名前は知りませんが、彼は異族排斥派の急先鋒でした。私達に攻撃する事はあっても、情報をくれる事はありませんでした。現に最盛期のエリザと同等の力量を持っていて、一度囚えられています。ガブリエル殿が口八丁手八丁で聞き出したらしいです」

「ガブリエルの奴は所謂ハト派で、ヴァチカンのタカヤマ家の開祖・ミハエルを使徒としたミカエルは当時は超タカ派だ。呆れる程のな。天使が選ぶ使徒は自分と同じ考え方の人間だ。超タカ派だったろうさ」


 エルザの言葉に続けて、フェルがため息混じりに解説を加える。彼女は堕天使だ。ここら知っていても不思議はなかった。が、ここで一つ、気になる単語があった。なので空也がそれを指摘する。


「使徒? それは宣教者の事ですか?」

「ん? ああ、いや、違う・・・いや、違わないか。使徒とは所謂その天使が自らが選んだ宣教者や信者、と考えろ。自らが加護を与えて、守護する者というわけか」

「詳しくは知らないの?」

「知らんもなにも、私が反逆したから作られただろうシステムだ。知るはずがない」


 浬の質問に対して、フェルが呆れ混じりにため息を吐いた。が、そこで語っておいてしまった、と気付いた。完全に自分の正体を暴露しているようなものだった。なにせ天使で神に反逆した者は少ない。

 そこから、ここまで尊大さを滲ませる堕天使なぞ一人しか思い至らなかったのだ。おまけにミカエルやガブリエルという熾天使を相手に呼び捨てだ。それでなくてはなんなのだ、と思うのには十分だった。


「・・・あ」

「・・・ま、待ってくれ・・・まさか、フェル殿はもしや・・・」


 煌士がブルブルと肩を震わせる。この名を知らない者は、この場の誰も居ないだろうという程の名が、彼女の本来の名前だった。それに、フェルが少し照れ気味にため息を吐いた。別に隠していたわけではない。少し楽しんでいただけだ。バレたなら、もう良いか、と思ったらしい。


「・・・私の本名はルシフェルだ。ああ、貴様らが知る初代天使長。ルルは私の幼名、ルイスは単にカイトに名乗った偽名だ」

「「「はぁああああ!?」」」


 煌士だけではなく、常には冷静な空也やあまり詳しくない浬達の絶叫も響き渡る。ルシフェル。それは喩えキリスト教が主流でない日本であろうと、誰だって一度は耳にした事のある名だ。中二病に羅患した者であれば、一度ぐらいは名乗った事があるかもしれない。そんな名だ。

 だが、彼女は雑多な偽物達でもなんでもなく、正真正銘、堕天使の長にして先代の天使長ルシフェルその人だった。そんな一同に笑いを堪えながら、カイトが言葉を引き継いだ。


『ミカエルもガブリエルもその他熾天使達も全員、こいつに対してだけは頭が上がらん。全ての天使達のお師匠様にして、最初の天使。それが、こいつだ。な? 天道に何も言えない理由がわかっただろ?』

「・・・はぁ・・・」


 あまりのビッグネームに、煌士が上の空で返事をする。彼女の偽名の『フェル・シル』のアナグラムでルシフェルの名を導き出した彼であるが、いくらなんでもその名前は無いだろう、と思っていたらしい。せいぜい拝借しただけ、と考えていた。

 そもそも彼の所にわずかばかりに伝え聞こえるだけでも、影響力と戦闘力が桁違いするぎるのだ。それがこんな所に来るはずがない、と思いたくなるのも無理はない。とはいえ、気になる事が一つあった。


「・・・ちなみに、なのだが・・・強さとしては、どういう順番になるのだ?」

「カイトがダントツの一位で、私とティナ・・・知っているな? まあ、知らんでもそう言う女が居ると思え。それが同率二位だ。ついでに言えば、地球以外のこの世界全体でもそうなる。カイトのダントツ一位は全世界で確定だろうな。あれ以上が居てたまるか」


 呆れを滲ませたフェルの答えに、質問した煌士は更にそのまま横に視線をずらして、ランスロットと彼がお土産にしていたイギリスのクラッカーを紅茶片手につまんでいたヴィヴィアンとモルガンを観察する。ここもまた、地球でもトップクラスの実力者だろう。


「堕天使ルシフェル、アーサー王の仇敵モルガン・・・これはあまりに・・・」


 最悪の組み合わせだ。他にもアザゼルにベル・ゼブブの元となったバアル・ゼブルまでいる。まず、欧米諸国ならば敵の名として最適だろう。が、これでは終わらない。ということで、関連性に気付いたルイスが、楽しげに告げる。


「他にもゴルゴーン三姉妹も居るぞ」

「なっ・・・」


 出された名に、煌士が絶句する。ゴルゴーン三姉妹。所謂、あのメドゥーサとその姉達の事だ。ここまで来れば、神話の有名な悪役たちが勢揃いしていた。


「楽しいだろう? 有名なヴィランが勢揃いだ。奴と居ると飽きんよ」


 飽きん、の一言で済ませて良いものか、と煌士は素直に思う。なお、ヴィランとは悪役の事だ。とは言え、そんな煌士をスルーして、ルイスが続けた。


「まあ、私の事なぞどうでも良い。復活していることなぞ、ミカエルもガブリエルも知っている」

「・・・え?」

「ガブリエルからは復活した初日に会って、ミカエルとは奴を通して電話があったぞ。寝起きに叩き起こされてぶっ叩くか、と思ったがな」

「・・・良いのか、それは・・・」


 煌士が何よりもの疑問を口にする。ルシフェルは神に反逆して、コキュートスなる空間に封ぜられたのだ。それが復活していて放置、なぞまっとうな考えではない。


「構わんのだろう。なんなら、ガブリエルにでも聞いてみろ。奴なら時折サーバーにアクセスしているだろうからな」

「・・・サーバー?」


 サーバーと語られた煌士だが、どうやら承知していなかったらしい。首を傾げていた。


「ああ、そう言えば語っていなかったか。私達の運営しているキズナサーバーの自作エリアだ・・・浬。試しに呼び出してみろ。私からの呼び出しだ、と言えば直ぐに来るぞ」

「え、あ、うん・・・」


 楽しげなフェルに促されて、浬は言われるがままに最近は色々とあった所為で既読スルーになっていたキズナにアクセスする。


「で、何て打ち込めばいいの?」

「私が呼んでる、とでも書け。居るなら5秒以内に返事がある」

「うーん・・・」


 良いのかな、と思いつつも、浬は自分で掲示板を立ち上げて、そこに言われたままのメッセージを書き込む。掲示板のタイトルは『ルシフェルからの呼び出し』としておいた。と、そうしてスレ立ちから5秒以内に、本当に返事があった。


『なんでしょうか?』

「はやっ!?」

「私からの呼び出しには5秒以内に返事しろ、と躾けたからな」


 どうやら今でもフェルの異名は鳴り響いているらしい。言った通りだった。と、とりあえずイマイチどうすべきかわからなかったので、とりあえず浬はボイスチャットを申し出る事にした。


「えーっと・・・ボイスモード可能ですか、と・・・」


 浬の問いかけに応じて、ボイスチャットの申請がやってくる。そうして、浬がそれをオンにした瞬間、綺麗な声が響いてきた。


『なんですか、ルル様。わざわざ呼び出しなんて・・・あ、ミカエルに代わりましょうか?』

「また一緒か、貴様らは・・・まあ、別に構わん。ただ単に私の復活を知っているのは良いのか、と疑問に思われただけだからな」

『ああ、なるほど・・・って、今までバラしてなかったんですか!?』


 てっきりもう正体を明かしているものだと思っていたらしいガブリエルは驚いた様子だった。まあ、そもそもフェルが正体を今の今まで黙っていたのは単なる気分、だ。特に意味は無いのだから、驚いても無理はない。


『はぁ・・・ほんとーにルル様はそこら辺いい加減ですよねー』

「なんだ、文句あるのか?」


 恨みがましい声の調子に、フェルが少しだけむっとなる。それに、ガブリエルは大慌てで首を振った。相当躾けられているようだ。


『い、いえいえいえ! 別に何も! あ、で、ルル様の復活なら問題ありませんよー!? 知ってますし、ミカエルも直々に今は放置、で決定下ろしてますからねー。ほら、ミカエル。明言明言』

「逃げたか・・・」

『いや、私が何を言えというのだ』

『だから、明言しちゃってください。問題ないって』

『しても問題だろうが・・・』


 スマホの先から、もう一つ声が響く。それはルイスに似た声だ。というよりも、そっくりだった。とは言え、ルイスが傲慢さが滲んでいるのに対して、こちらは固さが滲んでいた。そこの所で見分けは付く。おそらく、これがミカエルなのだろう。


「やれやれ・・・」


 そんな二人の様子に、フェルがため息を吐いた。どうやら知られているのも放置されているのも事実なのだろう。そうして適度に雑談を終えて、フェルが告げた。


「と、言うわけだ。私は問題ない」

「は、はぁ・・・」


 今のを見れば、誰だって理解出来る。が、それ故に全員どういう反応を示せば良いのかわからなかった。


「で、他には? 無いなら、エルザの説明にもどれ」


 フェルの言葉に浬達は何かを切り出せる状況ではなく、どっか機械的な動きでエルザに向き直る。そうして、それに苦笑しながらも大幅に脱線した話を修正することにした。


「まあ、そういうわけですので、使徒タカヤマの子から受け取ったのが、当時の摂津国の言葉だった、というわけです。その流れで大阪の上に待機させたわけです。言葉が通じやすいですからね」

「なるほど・・・」


 言われて、気を取り直した一同が頷く。筋は通っていた。特に当時の大阪は流通が激しい場所でもあったのだ。異邦人である彼らが下に降りても人外とはバレにくかったのだろう。とは言え、当然、それだけでおけるはずがない。政治的に考える必要があるからだ。


「まあ、それに・・・実は当時の蘇芳殿を通じて徳川家康公と謁見を得て、大阪の睨みとなる事を引き換えに、大阪に置かせて頂いた、という事もあります」

「家康公?」

「ええ。当時は丁度大阪の役が終わった頃でしたので・・・復興やその他色々を手伝う代わりに、我々の居住を認める、と」

「なるほど・・・確かにそれは丁度いい・・・」


 時の政治家の考えを聞いて、煌士が大いに感心する。それに、空也が問いかけた。


「どういうことだ?」

「ああ。大阪の役で大阪は荒れ果てた。であるのなら、復興の為にも力が必要だ。その点、彼女らはうってつけだった。大阪には摂津・・・高山右近の領地があった。禁教令は知っているだろう? その点、彼女らは信者ではない事は明白だ。なにせそれから逃げてきたのだからな。対して日本は彼女らを受け入れられる土台がある。彼女らを味方とすることで、関西全土への睨みを効かせたんだ。陰陽師達がどちらに付いたのかは知らんがな」


 徳川家康にとって渡りに船、とはまさにこのことだったのだろう。いきなり現れた巨大な大地には驚いただろうが、これが自分の助力を求めているとなれば、使わない手はなかった。

 聞けば彼女らが蔵屋敷の設立等に密かに力を貸しており、表には出なかったが、徳川家康はあの浮遊する大地を永代まで彼女らの住居として天領とするように、とまで遺書を遺したそうだ。

 明治政府も彼女らに幕府側に付かれる事を厭って、それは引き継いだらしい。そうして、エルザが煌士の言葉を引き継いだ。


「陰陽師達は、豊臣方に付いていました。豊太閤ですからね。歴史上、陰陽師達と公家の繋がりは深い。天海殿のこともあって、陰陽師とは少し険悪だったそうです。その為にも、私達の力が欲しかったのでしょう。まさか病床を押して江戸城の城門にまで直々に出迎えてくださるとは思っていませんでした」

「はー・・・どんな方だったのですか?」

「さて・・・数度お会いしましたけど・・・」


 エルザは遥か過去の記憶を思い出す様に、中空を見上げる。そうして笑顔で告げた。


「狸・・・というのが一番良い表し方、ですね。見た目は狸では無く狐、でしたけど・・・やっぱり、そこを考えれば狸ですかね」


 エルザは笑いながら、敢えてたぬきとする事にする。政治家の性格は得てしてそんなものだろう。ちなみに、なぜ狸、なのかというと『狐七化け狸は八化け』という言葉にあやかっただけだ。


「すごいぞ・・・まさに語られぬ裏の歴史そのものだ・・・うん? そう言えば詩乃?」


 煌士がまさに歴史の立会人としてのエルザに史家としての立場から興奮を滲ませていると、ふと、そこで自らの付き人である詩乃が居ない事に気付いた。と、噂をすれば影、と詩乃が部屋に入ってきた。


「詩乃。せめて花を摘むにしても一言言ってくれ」

「あ、申し訳ありません。それと、花を摘んでいたわけでは・・・」

「うん?」


 詩乃は煌士に頭を下げる。と、そこでかさ、という音が煌士の耳に聞こえた。そしてよく見れば、彼女の手には近所のコンビニの袋があった。


「なんだ、それは」

「はい、色紙です」

「色紙?」

「ええ・・・サイン、お願いします」


 詩乃から差し出されたサイン色紙に、全員が目を瞬かせる。実は彼女は話の途中からエルザの正体を認めて、いそいそと色紙を購入しに行っていたのである。というわけで、話は途中から聞いていなかった。


「あ、あはは・・・はい」


 エルザが笑い、差し出された色紙にサインをする。何処か詩乃の様子が浮かれていたのは、気のせいでは無いだろう。実は彼女も浬と同じくエルザの大ファンだったらしい。そうして、そんな感じでこの話題は終了となり、エルザの新曲披露会が始まったのだった。

 お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日21時からです。

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