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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第5章 藤原千方の四鬼編

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第91話 疑念

 妖精二人の手によって辛くも隠形鬼の魔の手から救い出された浬達だが、隠形鬼はまだ、立ち去っていなかった。とは言え、戦意は無いらしい。武装解除とばかりに小太刀は影の中に落として、攻撃を仕掛けようとはしていなかった。


「隠形鬼。どういうつもり?」

「女の子の服を剥いで良いのはカイトだけだよ」

「いや、カイトでもダメでしょ」


 銀色の髪の妖精が水色の髪の少女の言葉にツッコミを入れる。二人共、隠形鬼に戦意が無い事は見て取っていた。というよりも、二人ならば隠形鬼を倒せるのだ。戦う必要が無いと見るには時間がかからなかった。


「<<湖の乙女(みずうみのおとめ)>>ヴィヴィアン。<<楽園の長姉(アヴァロンの女神)>>モルガン・・・彼の使い魔は?」

「あんたが封印したんでしょーが。今はルルが開封してる所」

「そこまで強固には封印してない」


 モルガン――銀色の髪の方――の言葉に、隠形鬼が首を振る。どうやらフェルは今カイトの使い魔の封印を解いている所なのだろう。彼女ならば、そう時間はかからないはずだ。なので隠形鬼はもうしばらく、会話を続ける事にした。


「で・・・もう一度問いかけるけど、何のつもり? 貴方はこういうことしないと思ったけど」

「千方様の命令」

「それは聞いてる・・・でも、アサルトメインじゃないでしょ、貴方。わざわざこちらに急がせる様な事しない、と思ったのよ」


 モルガンは再度、隠形鬼に問いかける。カイトある所にこの二人あり。それが、英雄達や神様の間での通例だ。であるため、二人も隠形鬼の事は少しは把握していた。そうして、ヴィヴィアンが続けた。


「・・・藤原千方とやらがどういう男なのかは知らない。でも、少なくとも、あの安倍晴明が警戒するぐらいには優れた軍略家であるはずだよ。であれば、これを命じているとは思えない・・・って、モルガンの受け売り」

「と、言うわけよ。戦闘だと貴方は四鬼達の中で一番弱い。脳筋のヴィヴィは兎も角、私でも勝てる程度。であれば、私達が向かっているのを知りながらアサルトを仕掛けた意味は何?」

「・・・ちょっと理由がある」


 モルガンのさらなる問いかけに、隠形鬼が少しだけ視線を逸らす。その理由が如何なる物かはわからないが、どうやら彼女が命令から外れる程ではあるのだろう、と二人には理解出来た。と、その次の瞬間だ。再度隠形鬼が構えて、モルガンとヴィヴィアンの二人組に攻撃を仕掛けてきた。


「何!?」

「・・・」


 いきなりの攻撃に目を見開いたヴィヴィアンに対して、隠形鬼が口パクでメッセージを送る。そしてその一方で、モルガンは事情を理解した。


「っ! あれが千方の使い魔! 覗きはごめんよ!」


 再び、モルガンが手のひらから光を放つ。狙いは浬達には見えなかったが、中空だ。そこに、隠形が施された式神が潜んでいたのである。どうやら監視が来たのだろう。


『隠形鬼。首尾を問う必要はなさそうだな』

『ごめんなさい。蒼き王の使い魔は封じられたけど、ちょっと行動が早かった』

『その様だ』


 隠形鬼の答えを半分以上疑いつつも、見えている光景からそれを受け入れる。隠形鬼が裏切るだろう事は、想定済みだ。だが、何時裏切るかだけが問題だ。とは言え、どうやら千方にもそれは今では無い、という事は理解出来たらしい。


『風鬼を引かせろ。あちらはインドラと玉藻の前に鉢合わせた。間に合わなかったようだ。援護はしてやる。準備に取り掛かれ。それが終われば、貴様も撤退しろ。方法は貴様に任せる』

『ん』


 千方の命令は、まだ隠形鬼に通用していた。であればこそ、式神達がヴィヴィアンとモルガンに殺到すると同時に、隠形鬼は風鬼の援護に入る。


「何!?」

「守るよ」

「うん!」


 ヴィヴィアンの指示にモルガンが頷く。現れた千方の式神の数は、おおよそ100体。モルガンやヴィヴィアンにとっては大した強さではない。だが、それでも浬達にとっては驚異的な力だ。一体も通すわけには行かない以上、二人の牽制にはなった。


「二人はしゃがんでて! 私達が片付ける!」

「あ、うん! 海瑠!」

「うん!」


 モルガンの指示を聞いて、海瑠がしゃがんで、浬がそれを守る様にカードを取り出した。万が一の場合に何時でも抜き放てる様にしていたのだ。構成は『火』と『剣』だ。遠距離だと二人の邪魔になる、と考えたのである。


『風鬼。逃げ道を作る。その場で待機』

『・・・すまん』


 まだ、裏切る時ではない。それを理解している隠形鬼は今はまだ千方の指示に従って、<<冥道(めいどう)>>を作り出す。なお、金鬼の撤退は戦いが始まる直前だった。

 そして同時に、<<冥道(めいどう)>>を通じて水鬼が逃げられなかった事を知る。これは彼女が作った道だ。誰が通ったのか、というのは後でわかる様になっていた。だが、これは千方には知られていない。何時か来るべき離脱に際して、新しくわかる様に密かに改良した物だった。


「・・・好機」


 監視役である水鬼は居なくなった。そして長を失った事で、水忍達にも混乱が生じている。この状況ならば、唯一の弱点であった彼女率いる影忍達の家族を回収する事が出来るだろう。ならば、少々早いが動かぬ道理はなかった。まあ、動いた様には何も見せないが。


「<<大冥道(だいめいどう)>>」


 すでに影忍達の家族は全て了承済みだ。なので影忍達の家族が暮らす隠れ里に、密かに合図を送る。これの準備は<<冥道(めいどう)>>以上に時間を要する。今からやって間に合うかどうか、という所だった。とは言え、その分、千方にも見破られない自信はあった。


『終わった。風忍、風鬼どっちも回収』

『確認した。貴様も撤収しろ』

『あと少しだけ時間を稼ぐ。影忍達を逃がす』

『好きにしろ』


 千方からの連絡は、それを最後に消える。忍者達は各々の手勢だ。千方はそこに斟酌しない。逃がすのなら、勝手にしろ、という所だ。

 基本的に、各々が率いる忍者達と四鬼であれば、四鬼の方が圧倒的に重要度が高い。千方が居なくなった後に各々が必要に駆られて得た手勢が、忍者達だからだ。千方にとって忍者達はほほぼほぼ必要がなかった。


『総員、撤収』

『御意・・・彼の者が復活しました。そちらに向かっています。お気をつけを』

『ん』


 影忍達からの情報に、隠形鬼は丁度良い、と把握する。ここでカイトが来れば、退避しても問題はない。カイトに向けてメッセージも残しておきたいのだ。そしてその次の瞬間、結界に介入する気配さえもなく唐突に空間が縦に裂けた。


「!?」

「来た!」


 隠形鬼が驚きを浮かべて、モルガンが歓喜の声を上げる。そうして、裂けた空間を通って、蒼い影が入ってきた。


「一掃する! 巻き込まれんなよ!」


 声が響いて、純白の衣が翻る。そして、無数の魔弾が撒き散らされた。その攻撃対象には勿論、隠形鬼も含まれていた。


「まず」


 隠形鬼は自らも対象に含まれている攻撃に、大慌てで影の中に避難する。流石に逃げられはしないが、それでも使い魔程度の攻撃を回避する程度の力はあった。

 が、それを読めぬカイト達ではなかった。魔弾が止んで千方の監視の使い魔と式神をまるごと消し飛ぶと、次の瞬間、今度は銀閃が翻る。


「そう来ると思っていたぞ。<<次元斬(じげんざん)>>」


 今度はフェルの声が響く。カイトが魔弾を撒き散らせば、彼女は影の中に避難する。それぐらいお見通しだった。普通ならばこの中は絶対安全圏だ。逃げるのは普通だし、隠形鬼は多様していた。が、フェルは常人ではない。彼女の斬撃は、空間そのものさえ切り裂けた。


「っ!」


 白銀の剣を構えたフェルの姿を見て、隠形鬼は大慌てで影から離脱する。いくら影の中と言えども、空間そのものを切り裂かれてはダメージを負う。

 影の中はあくまで、この世界に存在する空間を拡張しているだけだ。空間さえ切り裂けるのであれば、攻撃を届かせる事は出来たのである。が、そもそもそんな事が出来るのは極少数で、隠形鬼がこれを切り札とするのも自然だった。


「きゃあああ!」

「うわぁあああ!」


 浬と海瑠の悲鳴が響く。フェルの斬撃はとてつもない威力で、彼女が放った場所から豪風が巻き起こっていたのだ。二人はしゃがんでいなければ飛ばされたかもしれない程だった。


「くぅううっ・・・」


 なんとか間一髪影から抜け出た隠形鬼は、ごろごろごろ、と地面を転がりながら、フェルの放った白銀の大斬撃を回避する。無様だが、彼女の一撃なぞ手を抜いたこの一撃でもまともに浴びれば即死だ。そうして、なんとか立ち上がった隠形鬼に、カイトが告げる。


「よう、隠形鬼。どうにもこうにも大暴れしてくれたよーじゃねぇの。やっぱお前欲しいわ」


 まさか自分達をも出し抜いて見せた隠形鬼に対して、カイトが賞賛を送る。だからこそ、彼は隠形鬼を欲するのだ。舞夜率いる『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』の人狼達だけでも密偵の数は足りるが、密偵の質が足りない。質で言えば、隠形鬼と影忍は最上だった。

 というわけで、カイトとしては影に潜行して完全に気配を消せる彼女の影忍達はまるごと欲しい所だった。と、そうしてヘッドハンティングに勤しむカイトに対して、モルガンが声を上げる。


「ぴぴー! ナンパ禁止ー!」

「これ、スカウトじゃないかな」

「聞いてるとナンパにしか聞こえん」

「お前ら少し黙れ」


 急にガヤガヤと騒がしく巫山戯合い始めた一同に、浬と海瑠は唖然となる。が、隠形鬼は逃げられなかった。まだ少し、影忍達の退避に時間が必要だからだ。


「で? 千方の命令ってのは理解してる・・・なんのつもりだ?」

「もう目的は達成した。後は復活だけ」

「ちっ・・・アメリカか」

「ん」


 カイトの言葉を、隠形鬼が認める。すでにアメリカに派遣している部下から煌士の一件は聞かされており、彼の血が大量に抜き取られた事は把握済みだった。であれば、カイトの行動は決まっていた。


「さて・・・じゃあ、尚更逃がせねぇな。復活される前に、叩き潰しとかないと」

「・・・今は逃して」

「聞くと思うか?」


 刀を構えたカイトに続いて、フェルが白銀の細剣を構える。後顧の憂いを断つ為にも、逃がすつもりはなかった。が、そんな二人に対して、小型化してカイトの肩に腰掛けていたヴィヴィアンが耳打ちした。


「待って。今は逃してあげて」

「?」

「伝言」

「結界、解除するけど良い?」


 ヴィヴィアンに続いて、隠形鬼が問いかける。ここの結界は隠形鬼が展開しているものだ。別に解除されても即座にフェルか誰かが再展開するだろうが、なぜここでそれを言う意味がカイトにもフェルにも理解出来なかった。が、これに大いに焦ったのは、上半身素っ裸に近い浬だ。


「え、ちょ! 待って待って! 今解いちゃダメ!」

「はぁ?・・・は?」

「おい、浬。露出趣味はやめておけよ」


 カイトが唖然となり、フェルが呆れ返る。ようやく、二人は浬の惨状に気付いたのだ。そして出来た一瞬の間を逃す隠形鬼では無く、その次の瞬間、ずっと待機させておいた<<冥道(めいどう)>>を展開する。


「あ!」

「っ!」

「気付いて」


 誰にも聞こえない程に小さな声で、隠形鬼は最後にカイトに向けて縋る様な視線で言葉を送る。ここからは、完全に運勝負だ。カイトが気付いてくれれば、隠形鬼の勝ち。気付いてくれなければ、隠形鬼も影忍達も全てを失う。まさに一世一代の大博打だった。


「・・・ちっ、逃したか」

「結界の再展開、やっておくね」

「頼む、ヴィヴィ」


 隠形鬼が逃げた事で遠からず消えるだろう結界を見て、ヴィヴィアンが結界の再展開を行う。流石に少女の柔肌を露出させたままにはしておけない。解除するのなら、彼女を着替えさせた後だろう。

 そうして、兄妹の間に気まずい空気が流れる。浬が羽織っていた上着がどうやら先程のフェルの斬撃の余波によって吹き飛ばされてしまっていたのだ。


「あー・・・うん。なんと言えばいいか・・・」

「?」

「うん、意外とおっきくなってて兄ちゃんとしては嬉しい、かな」

「変態!」


 兄からの賞賛ではあるが変態的な言葉に、浬が怒声を上げる。ちなみに、同時に彼が着ていた純白のロングコートを差し出されていたので、それをひったくった。カイトも混乱していたらしい。なんと言えば良いかわからなかったため、つい口をついて出たらしい。


「うぅ・・・あれ、お気に入りだったのに・・・」


 兄から強奪したロングコートを着込むと、浬が悲しげな声を上げる。何かに巻き込まれてからというもの、彼女の衣服は何時も以上のペースで浪費させられていた。と、そうして嘆く浬に対して、海瑠が問いかける。それは、カイトと親しげに話し合う二人の妖精達の事だった。


「ねえ、お兄ちゃん・・・それ、誰? なんか僕ら知ってる風だったけど・・・」

「ん? ああ、こいつらか」

「はじめまして、私はヴィヴィアン。イギリスの妖精だよ」

「私はモルガン・ル・フェイ。同じくイギリスの妖精だね」


 海瑠の疑問を受けて、モルガンとヴィヴィアンが小さなまま挨拶を行う。この二人こそが、今回のカイトの援軍だった。同時に、彼が最も信頼する『相棒』でもある。

 ちなみに、この二人は欧州で非常に有名なある物語において非常に有名な妖精なのだが、如何せんここは日本で、二人は中学生だ。気付かなかった様子である。


「かわいー・・・」

「妖精・・・?」

「そうそう。物語に語られる妖精。一応私達も貴方達の家に間借りしてたんだけど・・・ね」

「え?」


 モルガンの一言に、浬も海瑠も大いに驚く。今までそんな気配は一度もなかったのだ。そんな海瑠に、ヴィヴィアンが笑う。


「あはは。気にしないで。カイトの部屋のクローゼットの中に間借りしてるだけだから」

「・・・もしかして、それって・・・」

「うん。あのドールハウスだよ。私達は、あそこに住んでたの。まあ、寝るだけだったんだけどね」

「大抵はカイトと一緒に彷徨いてるからねー」


 二人は笑いながら、ようやく思い至ったらしい浬に対して頷く。時折兄の私室に上がり込む浬だが、クローゼットを開ける事もあった。それ故、クローゼットの中に仕舞い込まれていた人形用のドールハウスには気付いていたのである。

 まあ、流石に兄の危ない趣味と思って浬は見ないふりをしていたのであるが、実際には人形フェチ等の趣味では無く、普通に二人が暮らしているのであった。魔道具の一種だったらしい。と、そんな二人に、カイトが感謝を述べる。この二人が居なければ、今回はかなり危なかった。


「いや、来てくれてたすかった。今回は結構やばかった」

「あ、そうだ! お兄ちゃん! 全然安全じゃないじゃん!」

「悪い悪い。いや、まさかここが普通の『人間』が祀られてるとは思って無くてな」

「すっごい怖かったんだから!」

「だから悪いって・・・」


 浬の抗議の声に、カイトが割りと真剣に申し訳なさそうに謝罪する。そうして、その後しばらくは浬のご機嫌をとるのに、時間を浪費する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日21時です。

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