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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第5章 藤原千方の四鬼編

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第86話 一方、その頃 ――アメリカ編3――

 ホワイトハウスから密かに出陣したスターズは、まずは闇に紛れて姿を隠す為の隠形の魔術を展開する。


『ステルス起動。監視衛星からの消失を確認・・・GPSリンクにより、現在地を観測・・・問題なし。ジェットユニットを起動し、即座に現場に向かえ』

『魔力量のモニタリング開始。魔力補給のタイミングはこちらから指示を出す』

『要救助者から連絡。地下駐車場にて何者かの戦闘を確認。片方は味方の可能性あり。おそらくブルーかその関係者と推測。戦闘に際しては友軍への誤射に注意を払え』


 オペレーター達が口々に情報を送ってくるのを、ジャック達は背面に取り付けた飛翔用ジェットユニットで空を移動しながら聞く。どうやら有り難くない事に、戦闘は合流ポイントで起こっている様だ。そしてそこで告げられた情報に、ジャックが笑った。


「おい、姫様。王子様が居るそうだぞ」

『なんであの男は・・・』


 また居るの、とエレンの次の一言を全員が予想する。そして同時に、これはまた何らかの偶然でエレンが危機に陥るな、とも予想した。

 というのも、実はエレンはエース級の実力を持っている。魔物という実は地球にも存在している所謂モンスター退治ならばエースとしての撃破記録も持ち合わせている。ジャックが大統領就任後には次期エース筆頭候補とも噂されているほどだ。

 だが、何故か同時に所謂お姫様属性という物を持ち合わせているらしい。変な不幸でピンチに陥る事が多かった。それも、カイトが側に居る時限定で、である。お姫様と王子様はセットだ。彼女の悪運はセット運用が前提らしい。

 ちなみに、彼女のピンチイコールカイトの救援確定で勝ちフラグ、とは実は密かにジャパニメーション・オタクのジャクソンとジョンの下世話な話だった。


『もー! なんで居るの! 私をストーカーしてるの!? あいつストーカー!?』

『普通お姫様がストーカーなんじゃ』

『アリーザ! 何か言った!』

『おおこわ』


 きーきーと喚き散らすエレンの事は、誰も何も気にしない。何時もの事だからだ。予想出来ている時点で、何度も起きていた。私語を慎め、とさえ言わない。全員が諦めたからだ。


『やれやれ。隊長、どうします?』

「ほっとけ・・・ブルー! 居るなら返事しろ!」


 とりあえずカイトの事をジャックは正体は知らないまでも信頼し、信用している。他国の戦士であるが、背中を預け合う仲間と密かに認めてもいた。

 それはカイトも同じだった。なのでジャックの呼びかけになら、カイトも答えていたのだ。それ故の言葉だったのだが、今日は返答がなかった。


『・・・応答は?』

「声は勿論、脳内に響く事もねぇな・・・こりゃ、ハズレか?」


 戦闘ならば奴か、と思ったスターズの隊員達だが、勿論これはカイトではない。彼は丁度この時開始されていた隠形鬼との戦いに取り掛かるのが限界で、アメリカにまでは来ていなかった。


『おい、ネル。試しに叫べ。来たら奴だ』

『嫌よ! なんでわざわざあんな男を呼ばないといけないの!?』

『ああ、来てくれるって自覚はあるんだ・・・』

『来ない! 来なくて良い! 来ないのが普通なの!』


 一応軍の組織だというのに、姦しい事この上ない。とは言え、実はこれは魔術師の部隊においては、取り立てて珍しいわけではなかった。

 緊張すると、魔術を使うのにも支障をきたす。それだけで戦闘能力の低下に繋がるのだ。私語を慎み厳格に運用する現代の軍とは真逆に、多少ならば私語を認めて緊張をほぐす方がかなり重要だった。とは言え、それは何時までもではない。


『目標まで後1キロ。銃のセーフティ解除。フレンドリーファイア防止システム起動・・・そろそろ、黙らせて上げて』

「ああ・・・そろそろ戦闘だ。私語は慎め」


 妻からの指摘に、ジャックがコメディの終了を宣言する。現にヘルメット内部のモニターに表示される地図にも後1キロと表示されており、戦いが近い事が見て取れた。


『『『イエッサー』』』


 ここら、曲がりなりにも軍組織、と言うところだ。上官の引き締めが入ると即座に雑談を止めて、作戦行動に入る。


『現場の状況を確認・・・地下駐車場への通路が崩されています。グレネードで破壊を』

「了解した・・・撃て」


 ジャックは部下の一人と視線を交えると、空中に浮遊したままレールガン下部に取り付けられたグレネードを投射する様に命ずる。そして瓦礫の山が吹き飛んだのを見て、一気に地下駐車場へと突入するのだった。




 ジャック達の生み出した爆音によって、一瞬だけ、場に停滞が生まれる。誰もが想定していなかった爆撃だ。全員がそちらを向いて、原因の究明に務める。

 が、そうして入ってきた異様の戦士達を見て、褐色の美丈夫はこれが天命とばかりに下ろそうとしていた弓に矢をつがえた。


『援軍・・・幸運です』


 誰もが動けぬ中、一足先に全てを理解した褐色の美丈夫が矢を放ち、それに負けない速度で走り出す。矢の威力は流石に煌士の事もあった為、彼を捕らえる金忍を昏倒させる程度しかなかった。確実に殺せる程だと、煌士に危害が出かねなかったのだ。が、それで十分で、煌士は取り返せた。


『ふぅ・・・危うく、我が武名に汚点が入る所でした』

『っ! しくじったか!』


 流石にこれは責められないミスだが、金鬼の顔に苦渋が浮かぶ。とは言え、これは完全に敵の手に煌士は確保されてしまっていた。となれば、もはや引くしか手は残されていない。

 だが、残念ながら退路は断たれていた。如何ともしがたいはず、だった。金鬼が危機に陥ったのを受けたからか、彼の後ろに闇の穴が開いた。


『これは・・・! 全員飛び込め! 脱出する! 目標は最低限果たせた! これで良しとしろ!』


 吹き飛ばされた金忍を担ぎ上げた金鬼が英語で号令を上げて、金忍達がそれに従って迷いなく闇の穴に飛び込んでいく。殿は金鬼だ。

 なお、英語なのは自分達が何処の勢力か悟らせない為の隠蔽工作だった。こちらの準備が整うまで攻撃を仕掛けられない様にする時間稼ぎだったのである。鬼は日本以外にも居る。種族だけでは、如何ともし難かった。


『逃がすか!』


 続々と逃げていく金鬼達を見て、ジャックは我に返って即座に行動に移った。彼は腰だめに<<蛍丸>>という刀を構えると、居合斬りの要領で魔力を溜めて、斬撃を放った。

 蛍丸という名刀を使いこなせていないジャックを見たカイトが哀れんだというか、遊戯の証に似た感じで教えた魔力を用いた抜刀術だった。ジャックの戦闘において基礎を成す武芸でもある。


『ふんっ!』


 そんなジャックの斬撃だが、金鬼には一切痛痒をもたらさないはずだった。どうやら、褐色の美丈夫の攻撃はかなり効いていたらしい。その一撃で、危うくぐらり、と倒れそうになる。


『っ・・・さすがインドに名立たる大英雄・・・如何にこの身でもいささか堪えた・・・その武勇。出来れば別の所でお互い何も他に気にする事なく相対したい所だ』

『逃がすとお思いで?』

『ぐっ! 確かに、防いだぞ・・・では、逃げさせてもらおう・・・さらばだ』


 金鬼は追撃の矢を放った褐色の美丈夫の矢を真正面から受け止めて、かなり辛そうな顔でその場を後にする。辛そうではあったが、堂々たる撤退だった。


『追え!』

『待て! 犬死するつもりか!』


 撤退していったものの収束を始めてはいるがまだ通れそうな闇の穴に走り出そうとした天道家の護衛に対して、褐色の美丈夫が怒号を飛ばす。追った所で、犬死は目に見えていた。現に同じ考えで、ジャック達スターズの隊員達も追っていない。追おうともしていない。

 それに、褐色の美丈夫には千方の金鬼である事はわかっている。敵の本拠地がおおよそとは言えわかっている以上、敢えて追いかける必要がなかった。


「敵の撤収とワープポイント・・・で、良いよな。その収束を確認」

『了解。要救助者はどうか』

『ダニー兄様! 無事ですか!?』

「やれやれ・・・見たところけが人が一人。意識を失っている。最重要ターゲットと思われる。即座に救急車の手配を。右手と右足に鋭利な刃物によると思われる裂傷を確認。おそらく斬られたな。原因は失血による物と推測。輸血の手配もしておけ。ターゲットの個人情報はE.E社が持っているはずだ」

『っ。了解。即座に手配する』


 何があったかはわからないが、とりあえず褐色の美丈夫に担がれて未だ昏睡状態の煌士を見て、オペレーター達が即座に行動に入る。けが人が煌士というのが何より最悪だった。これではアメリカの面子が丸つぶれだった。

 ちなみに、ジャックの告げた『E.E社』というのはエレン達の実家が創設した企業だ。正式名称は『Extra(エクストラ・).Experience(エクスペリエンス)社』と言う。煌士が一時期居候していた為、血液型等輸血に必要なデータを持っていたのである。


「ネル? 来ていたのか・・・」

「ネル? この奇妙な鎧着てるのがか?」

「ふぅ・・・二人共、ご無事で何よりです」


 兄二人の安否を確認して、ネルがヘルメットを外す。本来、これは許される事ではないが、ダニエルはネルの立場を知っている。というよりも、彼女を部隊に推薦したのが、実は彼だった。なのでダニエルは問題がない。

 唯一アクセルが拙いぐらいだ。とは言え、彼とて自分の立場ぐらい理解している。漏洩は無いだろう。他にしても幸い、この場には情報の漏洩が無いと断言出来る面子しか居ない。後で始末書を書く羽目になるだろうが、まだ許容範囲内だった。

 というわけで、ジャックもヘルメットを外した。始末書は止められなかった事で隊長である彼も書かされる事になる。もう自分も一緒だった。それに実はこの軍用アーマー最大の難点は、まだ排気系が完成していないので蒸れる事であった。


「あついんだよ、これ・・・」

『あ・・・また外したわね。危険だから外さないで、って何度も言ってるのに・・・』

「悪いとは思う。けどな、これ蒸れるんだよ・・・」


 ヘッドセットから響く妻の声に、ジャックが心底嫌そうな顔で首を振る。それを見たからか、他の隊員達もヘルメットを外していた。実は戦闘終了後にヘルメットを外す者はかなり多かった。

 というわけで、始末書はほぼ戦闘毎に毎回書いていた。実は密かに始末書のテンプレートが複数あるのは、部隊の指揮官であるジョンという男以外には公然の秘密だった。外されるのが嫌なら急いで設計を見直せ、というのが部隊の隊員達の総意であった。


「援護、感謝する。だが、あんたは誰だ?」


 とは言え、ジャックがヘルメットを外したのには、もう一つ意味があった。それはこの場で辛くも煌士を守り抜いてくれた褐色の美丈夫に感謝を示す為で、同時にその素性を問いかける為でもあった。明らかに、名のある英雄らしいのだ。顔を隠したまま、というのは立場上憚られたのである。


「・・・おそらく、インドに名立たる大英雄アルジュナ殿だと思う・・・」


 小声で、煌士がジャックの質問に告げる。顔は真っ青だが、どうやらギリギリ意識は失っていないらしい。が、かなり辛そうだった。と、何時までも担いだままでは辛いだろう、とアルジュナは煌士を地面に横たえて、止血を始める。


「ええ。父インドラより、万が一に備える様に下知を頂きました。父の事はご存知ですね?」

「ええ・・・御門先生には、学校で良くして頂いています・・・」

「学校?」

『・・・あった。コージ・テンドウは天神市に通っているらしい。インドラ神が現在表向き滞在している学校が、彼が生徒会長を務める学校らしい』


 二人の会話を聞いていたジャックの問いかけを受けて、オペレーターが裏社会に聞こえている情報を教える。ここら、インドラが天神市への滞在を公表してくれているおかげで助かった。

 インドラは表向き教え子が狙われているのを知って密かに手を貸した、という風に出来るからだ。そしてこの場の誰も、それを疑わなかった。


「なるほど・・・アメリカ政府としても借りが出来たか」

『大統領にはインド政府を通じて、謝礼を頼む様に進言しておきます』

「頼む。アルジュナの名は俺も聞いたことがある」


 ジャックはこの部隊に配属されてから、世界中の神話や伝説を読み漁った。その中には当然インドの『マハーバーラタ』も含まれていて、アルジュナとその終生の好敵手であるカルナの二人の事はよく知っていたのである。


『・・・軍の救急車が到着した。外に運び出してくれ』

「わかった。アルジュナ殿。申し訳ないが、止血が済み次第彼をここから運び出したい。外に軍の護衛車が来た。軍の病院へと移送したい」

「わかりました。私も同行しましょう・・・貴方が詩乃ですね。父より聞いています。貴方も来なさい。天道の護衛達は即座に実家に連絡を取り、蒼き者に連絡を入れなさい。傷薬を持ってきてもらいます」

「わかりました」

「申し訳ない」


 アルジュナの指揮の下、急ぎ足で撤退の準備が整えられる。そうして、煌士は急いで軍の管理する救急車へと運ばれて、そこで横に寝かされて軍医の診察を受ける事になる。


「これは・・・測定ミスか・・・? いや、何度やっても同じか・・・」

「どうした? ひどいのか?」

「いえ、傷そのものは大して・・・今の症状は単なる貧血です。血を大量に抜かれています。体重の減量が激しい。誤差にしては大きすぎる。大動脈には傷が行っていません。なのに、失血にしてはあまりにも量が多い・・・抜かれたとしか、思えないんです」


 縫い合わせる必要があるか、あるならばどの程度の手術が必要なのか、と救急車の中で急いで診察していた軍医が、ジャックの問いかけ――彼は隊長として救急車の中に入った――に顔に疑問を浮かべながら答える。


「ふむ・・・つまりは?」

「敵が奪った、という事でしょう」

「そう考えます・・・可能なのか、というのは疑問ですが・・・」


 残念ながらこの軍医は詳しい事は知らないらしい。魔術ならばそれも可能なのでは、という事までは思い至らなかった様子だ。

 とは言え、アルジュナの断定によって、ジャック達もそれが正解なのだろう、と理解する。こういった見立てであれば、軍医よりもアルジュナの方に一日の長がある。


『血・・・?』

「何が目的だ・・・? まさか、噂になっているクローンでも作るつもりか・・・? 血から作れるのか・・・?」

「・・・私にもわかりかねます」


 ジャックの疑問を受けて、アルジュナがわからない、と嘯く。が、その顔には少し苦々しい物が浮かんでいた。そうして、彼は念話というテレパシーを魔術で再現した様な魔術を使用する。相手は自らの父、即ち軍神インドラ、つまりは御門だった。


『父上。少々、やられました』

『あん?』

『おそらく敵は儀式に必要なだけの血を確保した様子。申し訳ありません』

『いや、構わん。無事は無事だろう?』

『はい』


 傷跡については、問題が無い。今大急ぎでカイトの手勢が回復薬を持ってきてくれている所だ。一応輸血は必要だろうが、遅くとも明日の夜には目覚めるはずだ。


『そちらは?』

『こっちも襲撃があった。全部撃退成功だ・・・まあ、これからが、本番だ。足止めを食った。急いで向かっている所だ』

『そうですか。ご武運を』

『お前も安全の確保が完了すれば、戻ってくれ。助かった』

『いえ』


 父からの労いにアルジュナは首を振る。そうして、彼は煌士の移送を終えて警護をカイトの手勢とアメリカ軍に引き継ぐと、再びインドへと戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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