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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第5章 藤原千方の四鬼編

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第79話 大阪への道

 すいません。少し色々とやってたら投稿忘れてました。

 墓参りの翌日。浬達は高速道路を綾音の車でひた走り、静岡のとあるサービス・エリアにまでやって来ていた。最近になり大改装されたサービス・エリアで、かなりキレイな場所だった。


「富士山はどっちだったかなー。海瑠、どっちだっけ?」

「実はここだけの話なんだけど・・・僕、ここから富士山見えた事無いんだよね」

「へ?」

「富士山の前、なんか変なモヤが掛かってて・・・」

「意外と不便なんだ・・・」


 今更ながらに暴露された新事実に、浬が何処か哀れみの視線を送る。今日は晴天で、浬からは富士山が良く見えた。が、海瑠の目からは、何か蜃気楼の様にぼやけて見えていたのである。


「で、こういう時の知恵袋のお兄ちゃんは・・・」

「そう言えば、今日は見てないね。残ってるのかな?」

「さぁ・・・来る、とか言ってたと思うんだけど・・・おーい」


 二人はこういう時の知恵袋、と護衛として来ると思われていたカイトの姿を探す。が、試しに読んでみても何の返事もなかった。


「どうしたんだろ」

「さぁ・・・ほっといたら出て来るでしょ」


 基本的に、兄の身は案じていない。なにせ兄の正体を知る周囲全員が彼に何かがあった場合は世界が滅ぶ、とまで言うのだ。心配するだけ無駄だった。というわけで、二人はこの話題を止めて、適当に雑談に興ずる事にするのだった。




 一方のカイトであるが、彼は密かに家族の警護に付いていた。とは言え、主体となるのは彼では無く、彼の配下である人狼と言われる獣人の一種の者達だった。


「舞夜。人員が到着した。指揮系統はオレで構わないんだな?」

『ええ。おまかせ致します』

「よし・・・攻撃の察知はこちらでやる。お前らは全員排除を頼む」

「御意」


 カイトの指示を受けて、人狼の男女十数名が頭を下げる。彩斗が今日面会するという龍洞寺と共に、カイトに絶対の忠誠を示しているのが、この人狼の『狗神』だった。狗と書いているが、実際は狼だ。こここそが、数年前にエリザにクーデターを起こした家だった。

 その時の当主は現当主の舞夜の兄で、その時の戦いで命を落としていた。本来ならばクーデターを起こした家なぞ追放処分でも生温いのだろうが、その後の戦いに関する特段の手柄を立てた事で前当主の死と含めて、処罰を取り消しにしたのである。

 次の当主が現当主であった事も、一因だった。比較的穏健派だった彼女は兄から疎まれていたようだ。軟禁に近い状況でカイトも取り入りやすい、と考えたのである。

 現にその通りで、彼女は兄の暴走を止めて、おまけにクーデターを企てた事で肩身が狭い一族の安全を保証してくれたカイトに恩義を感じていて、今では彼の優秀な腹心の一人だった。


「式神か。面倒だな。相当の数を持ってきているか」

「藤原千方・・・優秀な陰陽師と聞きます。謀反を起こしていた事から、容赦も無いでしょう」


 と、浬達がサービス・エリアに入った事を受けて、カイト達も足を止める。彼らは車で移動しているのでは無く、なんと徒歩だった。彼らにしてみれば、高々300キロなぞ散歩で行ける距離だった。


「全員、休憩を取れ。その間はこちらで対処する」

「はい」


 浬達は何も知らないが、実は今までの数時間、何度か攻撃が仕掛けられていた。それら全てはカイト達によって完全に阻止されていた。

 方法は多種多様だった。基本的に彼らの思惑から大怪我を与える物はなかったが、直接的に綾音の車に攻撃を仕掛ける物から、近くを走る車めがけて攻撃を放ち巻き込み事故で足止めしよう、というものもあった。中にはサービス・エリアに立ち入った別の車に式神を放ち、操作を乗っ取った物まであった。


「・・・っ」


 カイトは周囲を目敏く観察して、小太刀を抜き放って投ずる。投剣術と言われる剣術の一つだった。そうして、くるくると高速で回転する小太刀は近づいてきていた小さな使い魔の一体を切り裂いて、カイトの手に戻ってきた。


「ふぅ・・・油断も隙もない」


 ぽっ、と火を上げて燃え散った紙を見て、カイトがため息を吐く。攻撃をしてきた敵の中には、隠形鬼達藤原千方の四鬼も、誰かの身体を使って蘇ったとされる藤原千方その人の姿もなかった。来ていたのは全て、紙で作られた式神だけだ。まだ、本番には程遠いらしい。


「・・・こちらカイト。襲撃有り。たくさん来てるな」

『やはり、か。こっちは何もないが・・・』

「陽動、だろうな。どっちも」


 ヘッドセット越しに、カイトと御門が会話を行う。御門は相変わらず天神市に滞在していた。まあ、彼は天神市に残る面子の警護がある。離れるわけにはいかなかったし、離れた瞬間、そちらに藤原千方が攻め込むだろう。この道中は出来れば御の字、ぐらいしか考えていないはずだった。

 移動中が一番攻めやすいポイント、というのは誰もが理解している。ならばここに集中的に攻撃を仕掛けた所で、カイト達に守りきられる事は明白だ。仕掛けないのは馬鹿だが、彼我の戦力を考慮した場合、全力投球するのも馬鹿だった。


「さて・・・じゃあ、残りの道中も気合入れますかね」


 残る魔力を計算しつつ、カイトは再び車に乗り込んだ浬達の護衛を再開する。そうして、この後も何度も攻撃を仕掛けられつつも、浬達はそれを知る事も無く、無事に大阪の彩斗の生家へとたどり着く事になるのだった。




 話は再び、浬達中心に戻る。彼女らは大阪に到着しても、何も知らない。というわけで、何も心配をしていなかった。


「結局、何もなかった・・・のかなぁ・・・」

「お兄ちゃん、何処行ったんだろ」


 彩斗の生家の客間で二人は移動中姿を見せなかった兄についてを話し合う。何時もならこいつは暇なのか、とばかりに顔を出すわけだが、今日は呼んでも来なかった。何かあったのか、と流石に少し不安になっていたのである。


「何か見える?」

「・・・ううん。何にも・・・」

「試しに力入れてみたら?」

「うーん・・・あれ、目が痛くなるからしたくないんだけどなぁ・・・」


 浬の言葉に、海瑠がしかめっ面になる。力を入れる、というのは目について、だ。彼の魔眼は相も変わらず眠ったままだ。だが力の扱いを学んだ事により、蓋が欠けた様な感じで力の一端が漏れていた。

 その一端が、今よりも遥かに高い精度で見えない物を見える様になる、という能力だった。相変わらず役に立たないが、仕方がない。


「でも気になるし・・・」


 やはり、慕う兄だ。それが喩え兄その人が作り出した偽物であったとしても、安否は気になる。なので海瑠は一向に姿の見せない兄を見つける為に、その力の一端を解き放つ事にした。


「っ・・・」


 海瑠が先程のしかめっ面よりも遥かに顔を顰める。今度は嫌だ、という感情では無く目と頭が痛むが故に顔を顰めていたのだ。脳に入る情報量の過多により、脳がオーバーヒートを起こしかけていたのである。


「えっと、お兄ちゃんは・・・」


 窓から外を見回して、幾つもの光を観察する。外には人が発すると思しき様々な色の光がそこかしこに溢れていた。浮かんでいるのは、異族が飛んでいるのだろう。

 そんな煌めく光だが、幸いにして兄の光は見つけやすい。彼は数億人に一人と言われる割合でしか存在しない虹色だ。日本には彼と浬しか居ない。それにしたって区別は付く。と、そうして外を観察していた海瑠だが、次の瞬間、腰を抜かす事になった。


「うわぁ!?」

「どうしたの!?」

「ふぅ、間に合った・・・」


 いきなり大声を上げて腰を抜かした海瑠に浬が大いに驚くが、その原因は、その原因を止めた兄の手に握られていた。


「・・・矢?」

「ああ・・・っと、バレる前にオレは姿を変えるぞ。母さんへの言い訳はそっちで考えろよ」

「「おぉー」」


 人型になっていたカイトの手に握られていたのは、水の矢だった。海瑠は外を見ていると、自分めがけて矢が飛来している事に気付いたのである。

 そうして、空間を四角く切り取って水の矢を隔離したカイトは、何時も通り小鳥の形態に変わった。なお、歓声は勿論、浬と海瑠の物だ。空間を切り取った様な魔術に思わず感心したのである。


「どうしたのー?」

「あ、ごめん! えっと・・・荷物出してたらコケただけ!」


 大声に気付いて問いかけた綾音――彩斗の母と共にリビングで雑談を行っていた――に対して、海瑠が少し慌て気味に言い訳を行う。幸い、荷物を出している最中に兄の話をしていたのだ。疑問には思われず、そのまま綾音が引っ込んだ。


「ふぅ・・・何、今の?」

「心臓止まるかと思った・・・」

『矢だ。見たままな』

「見たらわかるって・・・どうして飛んできたのか、って事」


 見ればわかる答えに、二人はため息を吐く。聞きたかったのは、なぜそんな物が海瑠の顔面目掛けて放たれたのか、という事だ。


『んなもん、敵に決まってんだろ。水の矢・・・水鬼だな。こっちを突き止められたか・・・いや、違うな。追尾式の矢を放っていた、という所か』


 カイトが少し苛立ちを見せる。安易に窓から顔は出すなよ、とこちらに来て言おうとした矢先の出来事だった。


「家突き止められてる、とかじゃないの?」

『撒いたからな。ギリギリセーフって所だったが。今のは追尾式の矢だ。結構前から放ってた奴だな。東京からずっと5キロぐらい後ろを追尾してた様だ。撒いたのを見て、一気に近づけさせたらしい』


 水の矢の解析を行いながら、カイトが少しの安堵を見せる。あの矢に攻撃力は皆無だった様子だ。まあ、海瑠に今死なれても困るのは向こうも一緒だ。死体では儀式に使えない。殺すと言う行為も儀式の一端になるのだ。殺すとしても、儀式が行われる時だ。

 その代わりに、命中した対象を魔術的にマーキングする様な力が込められていた。撒かれるのは確定だったので、水鬼がその後を考えて追跡の為に放ったのだろう。なんとか間一髪、実家を突き止められるのは阻止出来たようだ。


「敵は大丈夫なの?」

『残念ながら、姿は見えてない。何か特殊な隠形と移動術を持ち合わせているらしくてな。今の矢も何処から放ったのやら・・・』


 浬の質問にカイトがため息を吐く。幸い、浬も海瑠もパニックになる様な事はなかった。カイトが平然としているのを見て、安心していたのである。


『やはり、厄介だな。隠形鬼は・・・やっぱあいつは欲しいなー』

「欲しいって・・・」

『超優秀なんだよ、あいつ。密偵として是非とも欲しい。千方叩き潰したら四鬼は殺さずスカウトだな』


 うんうん、と唸るように呟いたカイトに、気負いは無い。確かに隠形鬼は厄介だが、それでも対処出来ないわけではなかった。気負いない兄の姿に、とりあえず安全なのだ、と浬も海瑠も理解する。


「勝てるの?」

『おいおい。負ける事がねぇよ。増援も頼んだしな』

「増援?」

『お前もよく知ってる人。今回の事聞いて、物すっごい勢いで帰って来てくれてる・・・いや、まあ、普通に飛行機で、なんだけどな』

「へ?」


 浬は何処か含む様な兄の様子に、首をかしげる。どうやら自分は知っている人らしい。が、自分の知り合いに魔術を使いこなす様な人は見当たらなかった。

 まあ、そういうよりも知らないだけ、と考えた方が良いだろう。なにせ最も身近な兄の事を知らなかったのだ。そう考えるのが妥当だろう。


『ま、お前らはそこそこ気をつけながら、安心して大阪での夏休み楽しんどけ・・・あ、稲荷大社にはお参りしとけよ。ウチの氏神は宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)だからな』

「誰それ」

「お稲荷さん?」

『ちなみに、お稲荷さんは神使、御遣いの方な。祀られてる神様の方』


 物を知らない奴らだな、と兄は苦笑しつつ、浬と海瑠に一応お参りに行く様に勧める。神様も居るのだ。である以上、お目通りしておくのは悪い事ではなかった。

 それに、神社だけは安全と言えた。藤原千方とて陰陽師。神様の力を借りる立場だ。そこでの戦闘なぞご法度だ。神社だけは、彼らも不可侵だった。


「あ、じゃあちょっと丁度良いかも。久しぶりに行っときたいなーって思ったし・・・ついでに北野天満宮にも行っとこ」

「北野天満宮・・・確か、学問の神様菅原道真を祀ってる神社だっけ」

「うん。一応受験生だし・・・」


 浬は少しアンニュイな様子で海瑠の質問に答える。今回の大阪への里帰りにも、勉強道具を持ってきていた。いや、正確には兄に無理矢理突っ込まれた、という所だろう。受験が近い以上、試合云々があろうと勉強なのであった。

 ちなみに、神様の実情を知る兄としてはお参りに意味は無いので行くだけ無駄、と言う事だった。ご利益なんぞゼロなので、お参りしている暇があれば勉強しろ、との事だった。まあ、それでも精神的な安定だけは得られる。無駄では無いだろう。


『ま、頑張れよー。頑張ったらご褒美もくれてやる』

「何?」

『お盆までに宿題終わったら、エルザの新曲披露に参加させてやる。今丁度向こうでレコーディングしてて、それが終わったら一度オレの前で披露してくれるからな。ガチの初出しだぞ』

「やります。やらせていただきます。本日中に夏休みの宿題を終わらせます」

「僕もやっとこ。まだ残ってるし」


 アンニュイな雰囲気から一転、この間の試合もかくやの真剣な気迫を漲らせて勉強に取り掛かった浬とそれに合わせて自分も夏休みの宿題を始めた海瑠を背に、カイトが何処かに飛び立つ。どうやら、お参りよりも効果ある様子だった。

 なお、カイトはこれから海瑠に矢を放った敵の調査に入るらしい。まあ、あまり実家付近を彷徨いていると敵にここが実家とバレかねない為、陽動を行う意図もあった。こうして、浬達の大阪での夏休みが開始されたのだった。

 お読み頂きありがとうございました。次回はまた来週土曜日の21時です。忘れないようにします。

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