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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第5章 藤原千方の四鬼編

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第74話 楽園へと

 彩斗が大阪に到着した翌日。彩斗と桐ケ瀬は会談が行われる前に、天道財閥の大阪支社にやってきていた。当然、服装はスーツ・・・かと思われたが、何故か二人共私服だった。


「おっわ。むっちゃ違和感」

「言うな・・・俺ははじめてだな、ここに来るのは」


 桐ケ瀬がしげしげと大阪支社の外観を眺める。東京の本社は高さ300メートル超もある巨大な高層ビルだったが、大阪支社はその100メートル程低かった。

 ちなみに、桐ケ瀬も関西方面出身だというのに大阪本社を見たことが無いのには、理由がある。彼は大学は関東の方に入学して、その後は天道財閥本社の方に入社していたのだ。口調に関西弁が無いのも、そのためである。大学時代に矯正したらしい。


「あれ? おぉ、天音か」

「お? ああ、榊原さん。お久しぶりです」

「どうした、わざわざ・・・お前が来るなんて聞かされてないぞ?」

「あ、こっちで一ヶ月程仕事入りまして。んで、ちょいとこっちに顔出しですわ。スーツやないんは、ちょっと仕事で必要でして・・・」


 ビル前で立っていた彩斗達だが、どうやら偶然にも――まあ、入り口で立っていれば当然だが――彩斗の栄転前の知り合いに出会ったらしい。そうしてそんな話をしつつしばらく過ごしていると、スーツ姿の天ヶ瀬兄妹と内海、甘粕――彩斗組の最後の一人。物静かな様子の女性――の4人がやってきた。


「おまたせしました」

「おう、じゃ、ちょっと行こか。本社から連絡入ってるはずやから、会議室は借りれるはずや」

「はい」


 彩斗の号令の下、一同は早速大阪支社の中に入る。そうして向かったのは、件の会議室だ。そこは6人程の少人数で会議をする為のミーティング・ルームで、声や中の情報は漏れない様になっていた。秘匿性の高い会議を行う場合に使われる部屋だった。勿論、開放的なミーティング・ルームと言うかミーティングスペースも存在している。


「と、いうことや。まあ、安心しといてええんちゃう?」

「男女見境無し・・・」

「安心して良いんでしょうか・・・」


 改めて彩斗が昨日受け取った情報を開示されて、甘粕と内海が何処か複雑な表情で眉の根を付ける。とは言え、怖がってはいない。この数ヶ月。この程度の危険性ならば突破していたのだ。

 そもそも、危険を承知した人員しか情報を教えて貰ってもいないし、ここには配属されていない。問題はなかった。


「まあ、とりあえず今日は俺ら先行って情報聞いて来る。その時に様子も見てくるわ」

「お願いします」


 彩斗の言葉に、内海が改めて頭を下げる。普通は若い奴が先に行って情報を得てくるのが道理なのだろうが、今回ばかりは状況が異なる。立場が上の者が先に動く事になっていた。

 そうして、そんなブリーフィングを行う事、約一時間。送り届けてくれる事になっていた陰陽師達との待ち合わせ時間が近くなっていた。


「・・・時間やな。全員、ヘッドセットの充電は大丈夫やな?」


 彩斗の言葉に、全員が頷く。彩斗と桐ケ瀬の二人はヘッドセットで本社で待機して議事録を作成したり急場を凌げる情報を提示したりしてくれる事になっている若者4人組から補佐を受ける事になっていたのである。

 なお、何時もは逆に彩斗と桐ケ瀬が補佐する事になっていた。立場や役割の関係上、当然といえば当然の対処である。


「じゃあ、そっちも頼むぞ。天ヶ瀬兄妹は天音の補佐。内海は俺の補佐、甘粕は三柴さんとやり取りだ」

「はい」

「おまかせを」


 彩斗と共に立ち上がった桐ケ瀬の言葉を受けて、全員がノートパソコンを展開する。ノートパソコンはネットに接続されており、更にその先には今回は重要度の高い案件、ともし何かがあった場合に備えて待機している三柴が会談の内容を確認して居た。


「じゃ、行こか」

「ああ」


 若者4人が準備出来たのを見て、彩斗と桐ケ瀬は支社を後にする。待ち合わせは支社最寄りの駅から電車で数駅行った駅の駅前で、私服だったのは街並みに溶け込む為だ。

 少々スーツ姿でうろつくには目立つ裏道を進む事になる、という陰陽師達からの連絡の為、道に迷った体にして観光客に紛れ込もう、という考えだった。そうして、二人は電車に揺られて、待ち合わせ予定の駅前に到着する。


「・・・懐かしいな。高校時代はよくここで過ごした」

「俺もそやわ。嫁さんとのデートに何度か来とったなー。昼飯、あっこのお好み焼き屋あったら食おかな・・・今度来たらちょっと晩飯に行くかー」

「確か大学時代の後輩だったか?」

「お前ん所と一緒で学部は別な。と言っても、こっちは学祭の実行委員会の後輩やから、大学からの知り合いや・・・あー・・押しかけ女房や通い妻やと何やら言われたん思い出したわ・・・」


 少し離れている間に変わった駅前を興味深げに観察しながら、二人は雑談を行う。なお、当時から綾音の容姿は一切変化は無い。性格にも殆ど大差は無い。母親としての自覚があるぐらいだろう。

 ここら、緊張しても一緒だと二人は考えていた。それに、こんな天下の往来で馬鹿みたいに異族の話を出すはずがない。下手に異族の前で聞かれると、碌な事にならないからだ。


「おう、おっちゃん。おはようさん」

「ん? 鏡夜くんか?」

「おうおう・・・っと、すまんな。なにせ高校生やから素でうろついとると補導食らうからな。姿隠しとる・・・ちょっと近くの通路来てくれや」


 声はすれども姿は見えず、な鏡夜の声に促されて、二人は駅を移動して少し人気のない通路へと移動する。すると、そこで鏡夜が姿を表した。


「はー・・・姿隠しとってもけーさつ見ると冷や汗掻くわ」

「いや、すまんな、わざわざ」

「今日は朝から休みか?」

「おう。仕事優先や・・・あ、勉強の方はちょいと工夫しとるから、一日二日休んでも問題無いで。出席日数は式神で対処しとる」


 人気のない通路に移動するなり姿を表した鏡夜が笑いながら一応の所を言い含める。ちょいと工夫、とは気になるが、その瞬間何処か危うい笑みをしていた為、聞かない事にしていた。

 まあ、それが正解だ。所謂記憶と言うか知識を脳内に刻み込むというわりとメジャーだがマッドな方法だった。ちなみに、カイトもこれを多用していたりするが、言わぬが花なのだろう。


「で、こっちや。あんま大人数で動くと何も知らんあやかし達からおっちゃんらまでいらん風に思われかねんから、他の護衛は途中で合流する事なっとる・・・って、桐ケ瀬のおっちゃんも説明はされてんな?」

「ああ、聞いている」


 護衛がこんな若い少年一人なのか、と思っていないだろうか、と危惧した鏡夜が、先んじてわけを説明する。そうして、三人は道中で更に数人の陰陽師達と合流して、大阪の上空数千メートルに浮かんでいるという『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』を目指す事にするのだった。




 鏡夜と合流してから30分。彩斗達は適当に観光でぶらついている体を出しながら、気付けば8人の集団になっていた。全員がラフといえばラフな格好で、裏路地で歩いていても観光の集団なのかな、程度にしか思われない様子だった。

 そうして更に歩く事、10分。とある商業ビルの前にて、彩斗達は歩きを止めた。そこには一人のスーツ姿の男が立っていた。髪は黒色で、顔立ちは中性的で日本人離れしていた。


「半数程はじめてではありませんが・・・皆様、はじめまして。『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』が代表の一人を務めさせて頂いております夜魔家当主、夜魔 蘭人(やま らんと)と申します」

「っ・・・」


 語られた名前に、陰陽師達が顔を顰める。そうして、それを受けてもなおも平然としていた鏡夜が小声で彩斗と桐ケ瀬に小声で告げた。


「大物中の大物や。欧州は<<吸血女王ヴァンパイア・クイーン>>フィオナの側近中の側近。大幹部ミスラルダつーやっばい奴の孫や。母親はこれから会いに行くエリザの側近中の側近や」

「つまり、紛うことなき幹部、つーことか・・・ありがとうございます。わざわざ当主に出迎えて頂いて」


 鏡夜から出された情報に彩斗は内心で冷や汗を流しながらも、笑顔で出迎えてくれた事に感謝を示す。これから会談しようという相手に不快な思いをさせる事が無い様に、だ。


「いえ。では、こちらです。まだ表向きは仕事中ですので少々違和感は拭えませんが・・・ご安心を。このビル全体が我々の所有物。私服で移動していた所で、誰も疑問に思いませんよ」


 蘭人の言葉に従って、一同はビルの中へと入る。時刻は午前10時30分。これから30分後にはエリザと会談の予定だった。会談は昼食を挟んで、足掛け3時間。

 どういう日程で動くのか、どういう面子との面会が可能なのか、というのを詰めるのが、今回の会談の目的だった。こういうことは会談前にやっておけ、と思うが、それをする為の事前調整が、今日の会談だった。


「数千メートル上空まで、どうやって行かはるんですか?」

「ああ、それは実際に見て頂いた方が早い。少々、お待ちを」


 ずっとここが疑問だった彩斗が、無言で歩くのもなんだろう、と蘭人に問いかける。彼はエレベーターの前で止まったが、まさかエレベーターがそんな超高空にまで到達しているとは思えなかった。


「・・・来ましたね。では、お乗りください」


 蘭人に再び促されて、一同はエレベーターに乗り込む。到着したエレベーターには、何か違和感は感じられなかった。と、そうしてどこまで上がるのか、と思った一同であるが、気付けば、最上階の一歩手前、『・』が描かれて何も無いはずの所で停止した。


「少々、お待ちを。昇降用の魔道具を取ってまいります」

「戦争がまだ盛んやった頃の発想やねんて。屋上と最上階の間にもうワンフロア設けてるらしいわ。普通にゃ気付かれん、やて。なんぞ特殊な鍵ないと到着出来んらしいわ。ここそのものも結界で守られとるから、爆弾で天井どかん、なんぞ出来んらしいしな」

「そりゃ、誰も気付かんやろ・・・」


 もしかしたらビルのメンテナンスを行っている会社も知らないかも、と彩斗は鏡夜の言葉に思う。普通、人はエレベーターに階層でフロアを判断する。数字の表示が無い『・』に部屋が存在しているとは思わない。

 しかも、ここは最上階の更に上だ。最上階の天井を叩く阿呆もそうは存在しないだろうし、そうなれば必然、この部屋に気付く奴も居ないだろう。


「おまたせいたしました。では、屋上へ参りましょうか」


 戻ってきた蘭人の手には、何かリモコンのような物が握られていた。これが、彼の言っていた昇降用の魔道具なのだろう。

 そうして、一同は戻ってきた蘭人と共に、再度エレベーターに乗り込む。だがすぐに、エレベーターは屋上に到着した。元々屋上の一歩手前だったのだ。当たり前だろう。


「さて、少々お待ち下さい。もうすぐ迎えが参ります」


 蘭人の言葉に彩斗と桐ケ瀬は何が起こるのか、と喉を鳴らし、陰陽師達は気合を入れ直す。これから向かうのは、陰陽師達にとっては敵の中枢に近かった。全員に緊張が見えた。

 そうして、そんな一同の前に、緩やかに落下防止用の手すりの取り付けられた岩の台座が降りてきた。大きさは横20メートル程で、かなりの人数が乗れる様になっていた。更に見れば乗り込むようのタラップのような物も取り付けられており、一種のエレベーターのような感じだった。


「お乗りください。こちらが、昇降用のエレベーターになります。野ざらしではありますが、きちんと気密性は保たれています。安全ですよ」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


 一足先に台座に乗った蘭人が一同に乗り込む様に促し、それに従って彩斗と桐ケ瀬、そして陰陽師達が台座に上る。そうして、それを受けて蘭人がリモコンのような魔道具を操作すると、ゆっくりと岩の台座が浮上をはじめた。


「必要なんですか? こんなの」

「? ああ、我々が武闘派だ、とお思いの様子ですね。ええ、我々と言っても武闘派なのは上層部の極一部や戦士達だけ。普通には空は飛べません。陰陽師達と一緒ですよ。必要とあれば、我々もこういった道具を使います」


 桐ケ瀬の問いかけに、蘭人が柔和な微笑を浮かべて答える。一応、陰陽師らの中には鏡夜を筆頭に自らの式神で空を飛べる者もいるが、それは全員では無い。そして同様に、幾ら異族だからといって、全員が全員コウモリ羽が生えて空を飛べるわけではない。なので、ある種のエレベーターが必要だったのだ。ちなみに、蘭人は飛べる側だ。


「さて・・・もうそろそろ、到着です」


 エレベーターが昇降をはじめてから、およそ10分。何も上には見えなかったが、蘭人が口を開いた。が、何も見えなかったのは、今この時まで、だった。そして次の瞬間、いきなり影が現れた。


「なんや?・・・は?」

「こりゃ・・・」


 ぽかん、と彩斗と桐ケ瀬が口を開ける。影が下りると同時に、頭上には超巨大な岩盤が現れていたのである。その一角には穴が空いており、サイズは彼らが乗る台座にピッタリだった。

 そうして、口を開けたままの彩斗達の前で、吸い込まれる様に台座は巨大な岩盤へと接続される。こうして、彩斗達は『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』へと到着したのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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