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第5話 兄の為した事

 そんな神様や英雄達の騒動から、少し。浬達は、というと授業中にも関わらず、アドレスを入力している面子は少なくなかった。が、それが最も盛んになるのは、やはり、休憩時間だ。


「あれ、やっぱり入れない・・・」


 授業中隠れて、休憩時間に真剣に何度も名刺裏のアドレスを試してみても、全くログイン出来なかった鳴海が昼休憩に入って、何度目かのチャレンジに失敗する。そんな鳴海の横から、手が伸びてきた。


「もう、いい加減返してよ」


 浬が強制的に名刺を回収する。さすがに兄の知人が自分に預けた物を、他人に渡すことは礼儀に反していた。これは至極正しい判断だったのだが、鳴海がそれを取り返そうと手を伸ばす。


「あ! ちょっと! もう一回!」

「もう・・・無駄だよ。藤堂さんいわく、これ一回しか使えないアドレスとパスワードらしいもん」

「え!」


 キズナサーバーの中でも、最も厳重な登録制を遥かに上回る厳重さに、侑子が目を落とさんばかりに驚く。周囲で試していた生徒達も浬に注目する。それは幾らやっても無駄なはずだ、と早く言ってくれよ、という雰囲気が蔓延していた。


「なんかティナちゃんが作ったシステムっぽいから、多分解除無理だよ。」

「じゃ、じゃあ紹介して!」


 鳴海が浬の手を握って、頼み込んでくる。


「わかってるって。だから今やってる・・・」


 外からは無理でも、中から紹介出来るなら後は友人を紹介すれば良いだけの話だ。そこで浬は大勢のアバターから掛けられる声に対処しながら、友人招待のシステムを探す。


「・・・お兄ちゃん、一体何やったの・・・?」


 声を掛けられまくる浬は、思わずあんぐりと口を開く。


「どうしたの?」

「さっきから私がお兄ちゃんの妹だって知った女の人が大勢声かけてきてくれるんだけど・・・」

「はい?」


 確かに美少女の浬の兄とあって、カイトにもそれなりの器量はある。


「空さんとかじゃなくて?」


 とは言え、彼女の知る限り、カイトの友人である空のほうがイケメンで、人懐っこく、社交性も高かった。家柄も最高――父親は内閣総理大臣で、その本家筋は世界的な大企業――なのだから、女の人からは引く手数多だろう。

 まあ、そんな彼だが何を思っているのか知らないし女性に興味が無いわけでもないのだが、特定の彼女が居ない為、密かに近隣の中高生達からは最優先株として狙われていたりするのだが、それは横においておく。


「ううん。一応空さんの個人アドレスも知ってるんだけど、このサーバーには登録されていないみたい。と言うか、お兄ちゃん以外には仲の良いのでティナちゃんしか登録してない。あ、待って。他にもこれ・・・あ、違った。御子神さんだと思ったんだけど・・・御子柴さんだった」

「ティナさんのほうでもないんだ・・・まさかネカマとかじゃないよね?」


 鳴海は浬の友人として、天音邸には何度か訪れているし、お泊りもしたことがある。となれば当然、居候のティナの存在も知っていたし、彼女が並外れた美少女であることは把握していた。


「うん。全員女。アバだけかもだけど、多分全員女の人」


 鳴海の問いかけに、浬が寄せられる言葉に対処しながら答えた。演技と根っからでは、やはり少し違うのだ。男でありながら、最も女性に近いのは彼女の兄の幼馴染みだが、それで漸く男と分からないレベルであった。

 それを自らも幼馴染として長年見続けているが故に、演技が演技と分かるのだ。そうして、そんな稀有な存在が、そう何人も居るとは思えなかったし、居てほしくもない。と言うか、居たら困る。


「・・・おまけに、これ殆ど外人さんだよ・・・」


 そうして何人からも分け渡されるアドレスを精査しながら、浬が呟いた。名前の横に表示されている国旗や名前等で明らかに外人と分かるのであった。これは仕様なので消せないし、偽る事が出来ない物だった。偽装は無いと考えて良いだろう。


「そういえば、ティナさんってお兄さんの縁で日本に来たんじゃなかったっけ? それで、向こうのご両親が事故死されて、親戚も居なかったし、浬のお母さんもお父さんも気に入ってたから、そのまま養子になったらどう、ってことで居候してるんじゃなかったっけ?」

「さすがにティナちゃんも始めは遠慮してたんだけどね。結局最後は親の遺産から養育費なんかは自分で支払う、っていうことで、食事なんかの世話だけお願いします、って事になってるよ。まあ、お父さんもお母さんもゆくゆくはお兄ちゃんのお嫁さんに、って言ってるけどね」


 少し苦笑気味に、浬は鳴海の言葉を補足する。本人も乗り気らしく、既に家では公認状態である。両親二人して冗談交じりに孫はまだか、などと茶化すあたり、もう二人の中では決定事項なのだろう。

 兄のカイトにしてもまあ、考えとくと言っているので、おそらく付き合っているというのが、兄以外の家族の見解であった。


「あ、そっか。じゃあ、ここのサーバー管理している縁で仲良くなったのかな・・・」


 鳴海の言葉にふと一つの事に思い立った浬が、少しスマホを弄って情報を確認する。自分の推察を確かめたのだ。

 そうして試しにここのサーバーの開設日を確認すると、ティナが来るより少し前であった。そして、開設者の欄には二人の名前が共同で記載されており、十分にありえた。


「ふーん・・・でも、女の人だけじゃないんでしょ?」

「うん。男の人も多い。あ、まただ・・・」

「どうしたの?」

「今度は美少女型のアバターから声を掛けられた・・・あれ?」


 浬は親身になって質問に答えてくれているアラビアンナイト風のアバターに、友人招待が出来ない事を尋ねてみた。


「え! 嘘!? そんなシステム無いはずなのに!」


 浬が急に大声を上げたのに、横に居た鳴海がびっくりして思わず大声で問いかける。


「どうしたの!?」

「なんか、このサーバー。上位権限がないと、招待出来ないみたい」

「嘘!? 完全自作サーバー!?」


 浬の言葉に、鳴海も驚きを露わにする。『キズナ』では、その名が示す絆となる様に多くの利用者が利用できるように、なるべくのブロックを避けるように設定されている。その為、閉鎖されたコミュニティ等にも入りやすいように、中に入った利用者ならば誰でも招待出来るよう――当然だが、管理者による追放と迷惑行為等による該当アカウントの出入り禁止は可能――に設定されているのであった。

 そして普通、一般人が使うサーバーはこの『キズナ』を運営する企業が貸し出しているサーバーを使用しているのだが、その場合は基本的な仕様は他のサーバーと変わりがない。変わっても問題だろう。もしソレにロックを掛けているとすれば、それはすなわち自分で作ったサーバーに他ならなかった。


「その上位権限を持ってるのって?」

「お兄ちゃんとティナちゃん。後は確かさっき木精は藤堂さんだったから・・・刀匠は蘇芳さんかな。それと・・・」


 鳴海の問いかけを受けて、浬は内部の権限者についてを閲覧していく。が、どう見ても違和感しか無い名前がたくさん、だった。


「歌姫に吸血姫? 後は・・・騎士王?・・・弟子? 誰の?」

「吸血姫? 騎士王? 何それ?」

「わかんない・・・あ、丁度居るみたいだから、聞いてみるね。」


 鳴海の問いかけを受けるまでもなく疑問に思っていた浬はスマホを使って該当する幾人かを見付けて、興味本位に話しかけてみた。


『あの、すいません』

『あら、カイト妹。何か用?』


 答えたのはナイトドレスを身に纏う、金髪の美女型アバターだ。浬は返答からまた兄の知り合いか、と呆れ返った。が、そうして呆れている間に、もう一人の美女が返事を返した。


『確か・・・浬さんでしたよね? 初めまして、歌姫です。私だけ貴方の本名を知っているのは不公平ですね。私の本名はエルザ・ローレライ。ヨーロッパの方で歌手をさせて頂いています』


 更に続けたのは、頭に貝殻の髪飾りを着けたドレス姿の美女型のアバターだった。が、そうして告げられた名前に、浬がぽかん、と口を開ける。


『あら、じゃあ私も名乗らないとダメね。私はエリザ・ベランシア。同じくヨーロッパでモデルをやってるわ』


 その名乗りと本来の氏名等の個人情報の閲覧許可が下り、内容と本来の姿を覗いた浬が思わずスマホを取り落とした。


「・・・どしたの?」


 ガタガタと震え始めた浬を、周囲の生徒たちが心配そうに注目していた。そうして、スマホを浬に渡そうとした近くの女生徒がその画面を思わず覗きこんで、硬直する。


「・・・え!?」


 そんな硬直した女生徒を見て、周囲の生徒が覗きこんで、驚きが伝播する。


『カイト妹。どうしたの?』

『浬さん?』

『・・・えっと、あの・・・エルザさんって最近あのコーリング・ビューティを出されたエルザさんですか?』

『あら、ありがとうございます。日本の方にもご存知頂けていましたか?』


 エルザのアバターは照れを見せて、微笑みを作って問いかける。が、それに答える事無く、浬は更にエリザのアバターに問い掛けた。


『エリザさんって、最近有名な長編ファンタジー映画に出演が決定したあの、エリザさん、ですか? たった一年でトップモデルにまでのし上がった超絶美女の・・・』

『あら、早いわね・・・まだ決定から二ヶ月程度で撮影も始まってないのに。あと、それは少し過大評価しすぎね』

『・・・本物?』


 にわかに信じられない浬の問いかけに、二人のアバターは苦笑を作る。そして、エリザのアバターが発言する。


『本物も何も、プロフィール見たでしょうに。それに毎年家にお中元とか送ってるわ。私達の共同名義だけど・・・ね』

『他には・・・そういえばハリウッドを中心としてるパーシーさんも去年はお歳暮贈ったとか言ってませんでしたか?』

『ああ、あのお調子者。そういえばついこの間ハリウッド行った時にそんなこと言ってたわね』

『誰がお調子者だ!』


 エリザの発言を受けて、少しやんちゃそうなイケメンのアバターが現れる。だが、そんな怒鳴るアバターを完全にスルーして、平然と尋ねる。


『あら、居たの? そっちは今、夜じゃない?』

『たまたま収録でオーストラリアに居るんだよ! そっちと時差そんなにねえよ! あんま言うと刈り取るぞ!』

『あら、そ。それで、カイト妹は何の用事?』


 怒らせて問いかけた挙句、答えを殆ど興味無さげにスルーされて、少しやんちゃそうなアバターが落ち込む。が、エリザは手で気にするなと指示して、浬に答えを促す。随分と手慣れた様子だった。こういう自由度の高さもまた、このコミュニティが世界的に使われる要因だった。


『え、あ・・・いいのかな・・・えっと、あの、友達を招待したいんですけど・・・あ、後、あの。お仕事がんばってくださいね?』


 最後に告げられた自分への慰めに、イケメン風アバターが気を取り戻す。どうやら落ち込むのも早いが、立ち直りも早いらしい。


『おう! 今度の映画のチケットとパンフ送るから、是非見てくれな! あ、俺はパーシーってんだ!』

『はい!』


 浬は送られたアドレスを受け取って、それにやんちゃそうなアバターが満足気に離れていった。ちなみに、それから数日後に本当に送られてきた映画の試写会のチケットとサイン入りパンフレットを見て、大いに浬が驚いた事は言うまでもないだろう。


『それで、友達だったかしら? 何人ぐらい?』

『えっと・・・多分、十人ぐらい・・・』


 浬はちょろっと、周囲を見回して人数を確認して、エリザの問いかけに答えた。が、それに答えたのは、別のアバターだった。


『ああ、それは駄目ね。ここ、見てわかるけど、有名人かなり多いのよ。さっきのだって、パーシー・パシフィックって結構有名な俳優よ? あんまりバレたらまずいの。それ以外にも結構色々と知られたくない裏のお話とかもしてるもの』

『まあ、カイトであれば可能でしょうけど・・・私達では判断が・・・』


 一体何処まで兄は信頼を得ているのか、浬や周囲の生徒達は真剣に悩む。が、更に問いかける前に、別のアバターが口を挟んできた。それはアバター名は騎士王なのに、容姿は普通にジーパンに白を基調としたロングコートという何処も騎士らしくない金髪青眼の男性アバターだった。


『ダメだな。奴では無く、俺の判断で無理と判断させてもらおう。そもそも貴様らも悩む必要は無いだろう。ギリギリカイト妹が限度だろうさ』

『あら・・・来たの?』

『ウチのオタクがカイトの妹が云々、と言っていたからな。興味を持つのは当然だろう?』


 また兄の知り合いか、と思う浬だが、とりあえず彼が却下を下した為、覗き込んでいた一同にかなり残念そうな雰囲気が蔓延する。


『えっと、ダメ、なんですか?』

『ダメだな』

『どうしても?』

『どうしても』


 どうやら彼も引いてくれる気は無い。が、ここまま何も説明せず、では納得してもらえないだろうことはこの男性アバターも理解している様だ。というわけで、少しして、少し長めの長文が返って来た。


『まず、俺達は少々ここでの繋がりを隠しておきたくてな。まあ、このサーバーの存在を把握している奴は多いが・・・が、まあ、中身は誰にも把握されてほしくはない。特に、お前たちの為、にな。気をつけろよ? ここの中身を知っている、と知られれば、本当に何ら脚色無く生命を狙われるぞ。少なくとも、CIAは本気で動くだろうさ・・・まあ、言った所で誰も信じんだろうが、な』

『え?』


 一切嘘を言っていない様子の男性アバターに、浬は思わず驚愕する。そうしてそう言われて疑問に思うのは、兄のことだった。


『あの・・・お兄ちゃんって一体何をやっているんですか?』


 そのもっともな問いかけを受けて、三人が一度だけ、顔を見合わせて少しだけ考えこむ。


『・・・何を、ね・・・言うなれば、バラバラだった私達を纏めている、かしら』

『後は・・・ナンパでしょうか?』

『くくく・・・』

『当たってるわ・・・』


 エルザの言葉に、エリザと騎士王が何処か堪えた笑いをアバターにさせる。おそらく画面の先でも笑っているのだろう。

 まあ、本人が聞けば呆れられるだろうが、本人以外は全員同意するだろう。他にもこの書き込みを見たらしい何人かが大笑いして、『w』の連打が勢い良くログに流れていた。と言うかかなりの人数らしく、ものすごい勢いでレスが消化されていっていた。


『ナ、ナンパ!?』


 一方、カイトの本性を知らない浬の方は目を見開いて驚く。兄がナンパをしている姿なぞ、全く想像が出来なかったのだ。そしてこれはおそらく弟の海瑠が見ても、同じ感想だっただろう。両親とて同じ反応だ。


『あれは生粋の女誑しよ。本人気付いていないみたいだけど』

『はい?』

『友人こそがそうだと言っていたらしいけど・・・どうでしょうね』


 エリザが少し笑うような気配と共に、書き込みを続ける。その友人と彼のどちらが似たのだろうか、と彼女は心の底からそう思う。そうしてそんな彼女を肯定するように、更に騎士王が書き込んだ。


『俺は実姉を口説き落とされたな・・・他には・・・ああ、後はあいつも、か』

『私達は私達を、かしら・・・』

『・・・え?』


 二人の書き込みに浬は騙されているのでは無いか、と思うが、誰からも嘘、という一言が出てこない。それに、浬は困惑を更に浮かべる。が、そんな浬の困惑を他所に、そこでふと何かを思い出したらしいエルザのアバターがぽん、と手を叩く。


『あ・・・そういえば』

『はい?』

『二ヶ月ほど前に発注依頼を出した生鮮食品、キャンセルしましたっけ?』

『ああ、高級豚の詰め合わせ?・・・どうだったかしら・・・』

『すいません。少々確認しますので、抜けますね?』

『あ、はい』


 浬の返事を聞いて、エルザのアバターが消え去った。どうやら離席するのでは無く、ログアウトを選択した様だ。『キズナ』が表示されている画面が邪魔だったのだろう。そうして残ったエリザが、浬に告げる。


『もしかしたら、そのまま送られるかも知れないわ』

『お肉、ですか?』

『ええ。イタリアの方の高級豚なのだけど・・・あら、やっぱりキャンセルしてないようね。もう発送済み? そう、わかったわ。と、いうわけでそっちに送られるらしいから、受け取っておいて』

『え?・・・送り先ウチなんですか!?』

『カイト宛の贈り物なんだから、当たり前でしょ? じゃあ、よろしくね』


 言うだけ言って、エリザのアバターが立ち去る。なぜ当たり前なのか、と意味がわからぬまま、浬も騎士王と名乗るアバターに挨拶して、ログアウトするのであった。




「ね・・・ねえ。あんたのお兄さんって何者なの?」

「・・・知らない」


 明らかに世界的な有名人多数と知り合いである浬の兄に、鳴海が引き攣った顔で問い掛けた。が、浬とて答えられるはずがない。なにせ今の今まで、兄がキズナサーバーの管理人であったことさえ知らなかったのだ。周囲の生徒も引き攣った様子の浬に、嘘を言っていない事を理解した。


「あのパーシーってアバター。私見たこと有る」


 そんな怪訝というか危うい物を感じ取っている一同は沈黙するしか無かったのだが、ふと、女子生徒の一人が、同じく引き攣った顔で答えた。


「あれ、ハリウッド俳優のパーシー・パシフィックだ・・・私、大ファンだから、彼の管理してるサーバーに入れてもらって、何回か彼と話した事あるの・・・そのアバターだったし、立ち振舞がが全く同じだった・・・」

「えぇ!? あのイケメン俳優の!? 去年ゾンビ映画の主演してた!?」

「あ! そういえばオーストラリアで続編の撮影してるって朝のニュースで放送してた! 確か巨大な鎌みたいなのを使って演技している映像が公開されたの!」


 一人が情報を出せば、次々に情報が出てくる。そうして、誰もがその人物がそうでないのか、と考え始める。となれば、実際に確認作業に入るだけ、だった。


「・・・さっき貰ったアドレス確認してみて?」


 パーシーの事を知る女子生徒が、彼から浬に手渡されたアドレスを確認するように告げる。それに、浬が自分のアドレスに記録されている友人リスト――先ほど大量に送りつけられた物の一つ――を確認すると、確かに彼女が言っていたサーバーのアドレスらしき物が入っていた。

 見れば、『入りますか?』と出ていたので入会してみると、その友人の名前が確かにそこにあり、その友人が見ても、浬の名前があった。


『・・・居るね』

『・・・うん』


 更に確認で二人同時に会ってみると、そこにきちんと二人共居た。というわけで、迷うこと無く、二人はその人物が件のハリウッド俳優『パーシー・パシフィック』だ、と確信する。と、そうなると気になるのは、その他の人物達だ。というわけで、鳴海が浬に問いかける。


「・・・他のフレンドリストは?」

「・・・確認してみる」


 鳴海の問いかけに、誰もがゴクリと生唾を飲んだ。そうして更に、全員が浬の動きを待つ。そんな奇妙な注目を受けて、浬は少し震える手で、スマホを操作していく。

 さすがに実名を公開した時点で職業が分かる者が大半だったので、全員スマホを取り出して、分担して調べる事にした。


「あ、これヨーロッパのモデルさんだ」

「こっちは・・・あ、IT関連企業の社長・・・あ、これ、無茶苦茶有名な会社じゃん・・・」

「・・・うっわぁ・・・この人なんて軍事企業の副社長だよ・・・しかも、ガチガチの軍事企業。アメリカの某社とかとも付き合いのあるガチ系・・・」

「ぐ、軍事企業? 何、このサーバー・・・」


 出された名前に、誰もが頬を引きつらせる。なにせ、そうして告げられた名前の大半が知る者は知る名前であったり、誰もが一度は聞いた事がある名前が半分を超えていたのだ。

 それ以外にしても調べれば普通に偉業を残している者や、有名なNGOの幹部職員であったりと明らかに普通では無い。無名の人物も居るには居るが、ぱっと見は完全にモデルか俳優と言われても納得する容姿だった。と、そんな所に、次の授業の教師が入ってきた。


「おーい、お前ら。なにやってんだー」


 彼はチャイム前に入ってくる事で有名な教師で、浬の席を中心として集合している生徒達を訝しむ。そして、何が起きているか知らない為、怪訝な顔で集まっている一同に告げる。


「もう少ししたら、授業始めるぞー」


 教師は手を叩いて席に戻るように指示する。生徒達は釈然としない中、それに従って各々の席に戻っていく。しかし、教師と共に、人外の美女が入ってきた事には、教師を含めて、誰も気付かなかった。


「やれやれ・・・無闇矢鱈に情報の拡散をする・・・迂闊じゃのう・・・まあ、中学生とはこのような物、なのじゃろうがな・・・菫らには後で一言言っておくとしようかのう・・・」


 誰にも気付かれないきつね耳の美女は、情報の拡散がされそうな現状を見て、ため息混じりにそう、つぶやいた。

 そうして、彼女の前に奇妙な紋様が、浮かび上がる。それが光り輝いたと同時に、一同の頭からは、今までの半日分の出来事が綺麗さっぱり、消えてなくなる。


「これでよい・・・くぁー・・・最近カイトも来んし、暇じゃ・・・帰って寝るとするかのう・・・あの阿呆は何をやっとるのやら・・・」


 一同の頭の中から大半の記憶を消去したきつね耳の美女は、九本のしっぽを伸ばして、あくびを一つ吐いた。寝ている所に対処しろ、と事の次第を知った知人から命ぜられたのだ。眠かったのである。

 そんな彼女はそのまま誰にも気付かれずに、教室を後にする。そうして、先ほどまで見ていた『キズナ』の中身は、誰もが忘れる事になるのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

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