第64話 武器ゲット
打ち上げの翌日。この日は流石に全員訓練をする気にもならず、各々の活動に勤しんでいた。まあ、そう言っても全員ジャージは着用だし、もはや訓練が趣味の領域に達した空也らは訓練をしていたのだが。
「ふぅ・・・」
「あ・・・そういえば、空也。貴方は確か鬼丸から何か刀を頂いた、と伺ったのですが」
「あ、はい。頂きました。あの後、フェル殿にお渡ししました」
アテネの問いかけを受けて、一息ついた空也が答える。あの刀は刃引きも何もされていない実剣だ。あのまま彼が持つには危ないし、自分には使えないと考えていた為、フェルに渡したのであった。
「ああ、小僧が持つには少々危険だったからな。それに拵えは数打ちだ。まったく、危ない物を渡すな・・・一応、注意はしておいたぞ」
「あ、いえ、そういうことでは・・・」
フェルの返事を聞いて、アテネが首を振る。刃引きされていないから危険、というわけではない。刃引きしていようとしていなかろうと、金属の塊には変わりがない。そんな物で人を殴れば、当たりどころが悪ければ致命傷にもなるだろう。
というわけで、フェルが回収したのである。が、アテネは別にそんな事を気にしていたわけではない。彼女が気にしていたのは、竹刀でこれからも戦い続けるつもりなのか、という所だった。
「竹刀で戦いを続けるつもりですか?」
「これが一番手に馴染むのですが・・・ダメ、でしょうか」
「いえ、ダメというわけでは無いのですが・・・」
空也の問いかけに対して、アテネが微妙な表情になる。相手を殺す事を考えないなら、竹刀でも良い。そしてアテネも彼らに殺す為の訓練を施すつもりはない。あくまでも、アテネは戦う術を教えるだけだ。殺す術とは違う。
「せめて木刀程度の強度が無いと、武器を破壊されやすいですよ?」
「え・・・?」
アテネに言われて、空也が目を瞬かせる。今の今まで彼は竹刀が折れる、ということを考えてもいなかったのだ。
「魔力を注げば、強度も上がるのでは?」
「それにも限度があります。それに、注ぎ込める魔力にも、限度がある。特に竹刀は中はスカスカでしょう? 注ぎ込める魔力は梨の礫、と言って良いでしょう」
「はぁ・・・」
魔力を注ぎ込めばそれで大抵の攻撃は対処出来ると思っていた空也が、気の抜けた返事を返す。
「と言うか、そもそも竹刀を武器に、というのは誰もしません」
「そう・・・なのですか?」
「ええ。先に注ぎ込める魔力には限度がある、と言いましたが、それは物によって異なります。竹刀は竹・・・生産国の違いこそありますが、どちらにせよ、あまり魔力と相性の良い素材ではありません。これ以上成長をするつもりであれば、刀に慣れるべきです」
刀と限定したアテネに対して、空也が首を傾げる。せめて木刀、と先ほどは言ったのだ。なのになぜか、刀と限定していた。
「木刀ではダメなのですか?」
「木々は即ち、元は生き物です。どうしても、抵抗力が高い・・・特に年を経た木々になると、それが顕著になる。その分の特性もあるのですが・・・貴方では、無理でしょう」
アテネは少しため息混じりに、そう告げる。なお特性とは、魔術の増幅器としての性質だ。が、使いこなす為の魔術師としての技量が全員にまったく足りていなかった。適性という意味であれば、煌士がかろうじて適役、という程度だろう。
「そういえば・・・実際に敵が来た時には、どうする考えなのですか?」
「む?」
訓練をはじめて、これで半月程度だ。今まではうっかり忘れていた事を、アテネが問いかける。戦いである以上、なんらかの作戦が必要なのだ。敵が常に待ち構えている所に来てくれるわけではないからだ。
「ふむ・・・まあ、我輩が後衛、空也と詩乃が前衛、というのが基本となると考えているが・・・拙いですか?」
「いえ・・・そこにどのように浬達を組み込むのか、と」
「ふむ・・・そういえば考えていなかったか・・・」
アテネの言葉に、煌士が顎に手を当てる。どうやら彼も考えていなかったようだ。そんな事態はまだまだ先の話だ、と思っていた事が大きかった。
「とりあえず、各々が次の段階に入ってから、と考えていたのですが・・・」
「そうですか。では、頑張りなさい」
「はい・・・む?」
アテネに激励を受けて、煌士が頷く。ここらの知恵は自分が与えるべき、と煌士は考えていた。伊達に神童と言われていない所を活かすべきだ、と考えたのである。
と、そこで、煌士は一つのことに気付いた。アテネの言い回しが可怪しかったのだ。何時もならば、ここで彼女はアイデアを授けてくれたり助言をくれたり、場合によっては苦言を呈するのだ。が、今彼女から放たれた言葉は、単なる激励だった。
「・・・しまった!?」
目を離した一瞬の隙に居なくなったアテネとフェルを見て、煌士が声を上げる。と、そんな大声を上げれば当然だが、全員が煌士の方を振り向く事になる。
「どうした、煌士?」
「やられた・・・」
「?」
いきなり落ち込んだ煌士に対して、一同が首を傾げる。何が起こっていたのか、全くわからなかった。
「ここは、何処だ?」
「? 何処って・・・隠れ家の地下・・・のはずでしょ?」
「じゃなけりゃ、何処なんだ?」
煌士の言葉に、鳴海と侑子が首を傾げる。周囲は何も変わらない。遥か彼方にまで広がる草原に、点々と木々が立つ夕暮れの空間だ。が、そうして周囲を見渡して、一同も違和感に気付いた。周囲は夕暮れだったのだ。
「あれ? いつ夕方になったの?」
「違う! ここはフェル殿の空間ではないぞ! 襲撃だ!」
アテネの言葉と周囲の一瞬の変化を読み取って、煌士が声を上げる。が、敵は見えない。ただ単に周囲が夕暮れに変わっただけだ。
「? ただ単に夕暮れに変わっただけですが・・・? 大方、フェル様の気まぐれでは無いですか?」
「うっ・・・そう言われれば、そうなのだが・・・んー! とりあえず、違うのだ!」
アテネとのやり取りを行っていない煌士以外の面々には、違和感がわからないらしい。これは致し方がない。フェルの気まぐれで夕暮れを演出する事もあるからだ。そうして、何を言っているのだ、という風に見えた一同だが、空也がふと、気付いた。
「これは・・・っ! 皆、煌士の言っている事は本当らしい」
「え?」
「これが置いてあった・・・多分、アテネ殿だと思う」
空也が一同に見せたのは、人数分の武器が入っていると思しき箱だった。その上には空也が以前鬼丸から受け取った刀が置いてあった。何故武器とわかったのか、というと、ご丁寧に手書きで『武器ボックス』と書いた紙が貼られていたからだ。
「え・・・嘘!?」
「何時の間に!?」
「さぁ・・・」
気づかない方が可怪しい程の大きさのそれを見て、間近に居た空也に対して、浬と侑子が問いかける。が、空也とてわからない。気付いたら、そこに置いてあったのだ。と、そんな面白そうな物に気付いて、煌士が一転少し楽しそうに声を上げる。
「とりあえず開けるぞ! 武器であれば、我輩達にも使えるものだろう!」
「えー! 開けるの!?」
「開けねばどちらにせよこの危機からは逃れられん! 幸いまだ向こうもこちらの準備が整うまで待ってくれている様子だしな!」
わくわくと興奮を滲ませた煌士に対して、浬達は乗り気ではない。これを開けて武器を手に取ったら攻撃は始まるだろう、というのは浬達にも簡単に理解出来たからだ。そうであるのなら、武器を手にしない方が良かった。
「では、ご開帳!・・・む?」
一体全体どんな魔術の品が入っているのだろう、と思っていた煌士だが、入っていたのは一冊の冊子だ。それも分厚くはなく、魔道書の様な雰囲気は無い。と言うか明らかに自宅のパソコンで作られた安い感じがしていた。とは言え、それも当然だ。それは武器の目録だったからだ。
「煌士様。下にはまだ何かある様子です」
「む?」
冊子を眺めていた煌士に対して、箱を精査していた詩乃が告げる。そうして彼女は箱のそこに見えた部分を取り除くと、案の定、そこには様々な物が収納されていた。
「おぉ! 空間が歪んでいるのか! ふむ・・・外からは50センチ程度にしか見えなかったが、中は3メートル程度はありそうだ! ぐうっ!」
見た目以上に実は高性能な品だった事に気付いて、煌士が興奮を滲ませる。とは言え、そんな場合で無い事ぐらい、誰の目にも明らかだ。というわけで、詩乃が強引に彼を横にどけて、何が納められているのか、というのを確認する。
「ふむ・・・これはまた一風変わった・・・」
「・・・何が入ってたんですか?」
敵が来る可能性は分かっている。だが、やはり好奇心には勝てずに、海瑠が詩乃に問いかける。そうしてその問いかけを受けて、中が見える様に詩乃が少しだけ、空間を空けた。
「うわっ・・・本当に結構入ってる・・・」
「え?」
「・・・見る?」
海瑠の言葉に、やはり嫌と言いつつも少しの興味はあった浬達は頷き合うと、屈んだ海瑠の後ろから箱の中身を覗き込む。
「あ、お姉ちゃん・・・」
「何入ってるの?」
「色々だよ、色々・・・あ、名前書いてる・・・これ、詩乃さんのだと思う」
中身の確認を行っていた海瑠だが、偶然侑子の名前を発見して、それを詩乃に手渡す。それは30センチ程の木箱だった。中には何か入っているらしく、小さいにも関わらずそれなりに重かった。
「はぁ・・・」
詩乃は別の箱に入っていた手袋を眺めながらも、海瑠から自分の名前の書かれた木箱を受け取る。
「・・・あ、こちらも名前がかかれておりますね。これは・・・侑子様の物、ですか」
「え? あたし?」
海瑠から木箱を受け取った詩乃は、自らも箱の裏側を確かめて侑子の名前を確認する。どうやら侑子の武器は手袋のようだ。
「なにこれ?」
「ふむ! それはどうやら魔力を形状化する為の補助具の様な物、だそうだ! 固形化させて放つ事も出来るようだぞ! どうやら全員分にきちんとした割り当てがあるようだな!」
首を傾げた侑子に対して、冊子を見ていた煌士が告げる。そうして、とりあえず全員が全員分の装備が入っていると思しき木箱を取り出した。が、それでもまだ、箱には意味不明な物が入っていた。
「・・・他は・・・一体なんだろう・・・」
「はて・・・この目録には何も書かれていなかった」
全員分が行き渡ったのを受けた煌士が、冊子を見ながら首を傾げる。なんの記述もなかったのだ。
「ガンホルダーみたいなのから、大工さんが腰につけてるベルトみたいなのまで色々とあるけど・・・」
「この中身をこれに入れて持ち運べ、って事なのかなぁ・・・」
浬と鳴海が口々に感想を言い合う。ちなみに、これが正解だ。いちいち説明する必要も無いだろう、という事で説明が省かれていたのである。
というわけで一同はとりあえず、箱から武器と予想される物を取り出してみる事にする。が、それの半分程度は武器なのか、と真剣に悩みたくなる物だった。
「・・・これ、本気で武器? やっぱり敵襲とか嘘で、単なる冗談じゃない?」
「・・・我輩もそう思えてきた・・・」
木箱の中に入っていた物を見て、さしもの煌士でさえ頭を悩ませる。意図が掴めなかったのだ。
「えっと・・・筆に手袋に本・・・全部RPGじゃないんだからさ・・・何? これで賢さの値でも上がるの・・・?」
各々の手に持った物を見て、浬が呆れた様につぶやく。とは言え、これは特異な例だけだ。普通に武器が収められていた者も居た。
「とは言え・・・私や海瑠様、空也様は普通の武器ですね」
「と言うか、海瑠。それ絶対こっち向けないでよ」
「わかってるよ」
海瑠が何処か緊張感を滲ませながら、箱の中に入っていた物を恐る恐るホルダーに収める。海瑠の場合は入っていたのは、なんと自動小銃だった。
とは言え、銃口は無いし、銃弾を入れておくマガジンも無い。単に拳銃の形をした何か、だった。現に試しに引き金を引いてみても何も起こらなかった。そうしてそれを横目に見つつ、浬が各々の武器? を読み上げる。
「で・・・私がなんかわからないカードで、鳴海が筆、侑子が手袋・・・」
「私が刃引きされた日本刀に、詩乃さんは同じく刃引きされた小太刀、煌士が分厚い本・・・」
「空也くん達はともかく、私達はどう戦えと?」
自らの言葉を引き継いだ空也に続けて、浬が困惑を顔に満載にして、首を傾げる。が、当然こんな状況はアテネもフェルも予想済みだ。
なので、木箱の中にはしっかりと、取扱説明書が納付されていた。と、疑問なので木箱を更に確認していた鳴海が、その説明書に気付く。
「えっと・・・あ、まだあった・・・えっと、なになに・・・? あ、これ取り扱い説明書だ」
「え?・・・あ、こっちにもあった」
「む?」
鳴海につづいて、全員が木箱を確認して説明書を発見する。ちなみに、流石に野ざらしに近かった空也や見ればわかる詩乃の物にはなかった。特殊な使い方はしないのだろう。そうして、各々自分の武器についてを少しの間、学ぶ事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。




