外伝 第626話 異なる星編 ――合流――
異なる世界の異なる歴史を辿った地球に転移させられた浬達。そんな彼女らは現地で遭遇した美里という女性と共に行動し、東にあるという聖女が作った街を目指して進んでいた。そんな最中。昼を摂った後の小休止が終わるか終わらないかというタイミングで遭遇した爆発から戦闘への介入を決める事になる。
そうして介入を開始した戦闘であったが、これはどうやら空也らが起こした戦闘であった。というわけで彼らとの合流を経て戦いを繰り広げていた所に乗り込んできた軍用車両に乗っていたのは、なんと煌士であった。そんな彼に促され、機械人形達の掃討も終わらぬままに軍用車両に乗り込んでいた。
「ジムさん!」
「わかりました」
身内全員に加えて美里、更に侑子が抱えていた女性も乗り込んだのを確認して煌士が運転席に声を発する。それを受けて運転席からこんな状況なのに優雅さが滲んだ声が返ってきて、声には似つかわしくない大きな音を立てて軍用車両が飛び出す様に発進した。
「良し! 成瀬くん!」
「了解です!」
「詩乃! 追撃の確認は任せる! 気付かれるなよ!」
「かしこまりました」
どうやら車内には鳴海も詩乃も一緒だったらしい。詩乃の声が運転席側から。鳴海の声が浬達も乗り込んだ後部車両の奥から響いていた。というわけで鳴海が隠形の結界を展開すると同時に詩乃が助手席に設けられていたハッチを開いて外を確認。目視で追撃の状況の確認を開始する。
「ふぅ……危ない所だったな」
「いえ……よくわかりましたね」
「あんな暴力的な速度で飛ぶ飛翔体なぞ、天音姉しか思い浮かばなかったのでな。我々が居るのなら天音姉弟もお前も居ても不思議はないと思っていた」
一息つけた。そんな様子で汗を拭った空也の問いかけに、煌士は一つ笑って首を振る。
「すいませんね、暴力的で」
「褒めているんだ。あんな輸送艇も吹き飛ばせるほどの加速なぞ、滅多に出来るものではない」
「褒めてないわよ……」
「あはは……」
当人としては褒めているつもりなのかもしれないが、浬にはそう聞こえなかった。というわけで肩を竦める浬であったが、そんな彼女に煌士が告げた。
「だが……まさか二つに分けられていたとは」
「ああ、いえ……実は私達もここで再会したばかりで。何もわかっていないのです」
「そうなのか?」
「うん……空也達が戦ってた時の爆発に気付いて、包囲される前に輸送艇を破壊してずらかろう、って思ってたのよ。そこにあんた達が来たってわけ」
「なるほど……」
どうやら本当に幸運にも合流出来たらしい。煌士は浬の言葉でそれを理解する。というわけで、ひとまずは情報の共有を行うべくさっと三組の状況を確認する。
「……なるほど。やはり全員考える事は一緒だったか」
「一緒というより……」
「お兄ちゃんの言いつけに従っただけ、っていうか……」
結局、全員が合流出来たのは偶然もあったが同時にカイトの言葉――何も目印が無い場合は朝日を目印にすると良い――を行動の指針としたためだったらしい。これに煌士も一つ頷いた。
「うむ。やはりカイトさんの経験からくる言葉は金言だな。おかげでこうやって合流出来た」
「まぁ、ねぇ……ん?」
「どうした?」
「どうしました?」
やはり兄への称賛を素直には認めたくない妹心とでも言うべきなのだろうか、若干不承不承という感じで認めていた浬であったが、なにかに気付いた様に小首を傾げる。そんな彼女は運転席の方を向いた。
「……あんたここに居るわよね」
「そうだが?」
「詩乃ちゃんは助手席……鳴海はそこ……誰が運転してるの?」
「あれ? そういえば……」
思い返せばおかしいぞ。浬の言葉で空也も誰が運転しているのか気になったらしい。そんな至極尤もな問いかけに、煌士が笑った。
「ああ、それか……そういえば紹介が遅れてしまったな。ジムさん、少し良いですか?」
「なんでしょう」
「どこかのタイミングで一度車を止めて頂ければ。一気に人が増えたので、どこかで情報共有と休息を取るべきかと」
「なるほど。その通りですね」
「あら、ジミー」
「おや、姉さん。ジミーはやめて、って言ってたと思うんですが」
「え、あ……あ、お姉さんなんですか!?」
「だったみたいですね」
いや、そんなあっけらかんと。侑子が支えていた女性と煌士らが行動を共にしていた男性は姉弟だったらしい。唐突に繰り広げられた会話に煌士が目を丸くしていた。
何があったのかお互いに消息は掴めていなかった様子での再会だったにも関わらず、姉弟は感動している様子は一切なかった。これに、煌士が頬を引き攣らせる。
「え、えぇ……確かあの……生き別れられたと」
「だったのですが……しぶとく生きていたみたいですね」
「しぶとくはひどいわね……あいたっ!」
「あぁ! 動かさないでください!」
姉弟ならではの遠慮の無い会話を繰り広げる二人であったが、どうやら姉の方は足を怪我していたらしい。侑子が持っていた包帯を巻いていたらしいが、少し動いた事でテーピングがずれてしまったようだ。
「あっちは空也達が?」
「ええ……レイネさんです。弟さんと逸れられた、という所で世話になったのですが……」
「その弟がジムさん、と」
まぁ、こんな世の中で近辺で逸れたとするのなら、この合流はあながち偶然とも言い難かっただろう。煌士は空也の言葉にそう思う。
「で、こちらは……」
「結城美里だ。異邦人さん」
「そうでしたか。天道煌士です。よろしくお願いします」
「ああ、すまないね。私まで乗せてもらって」
「いえ……」
運転中のジムとやら。怪我の治療中のレイネとやらも挨拶が出来る状況にはない。が、美里は手隙だったので挨拶出来たようだ。というわけで流石にこれ以上の込み入った話は一旦落ち着いてから、となって暫くは軍用車両の中で休息を取る事になるのだった。
さて一同が機械人形達の追跡を逃れて暫く。浬達はなんとか追撃を逃れ小休止を兼ねて野営の準備を行っていた。
「はー……ようやっと落ち着けるわね」
「それはこちらのセリフだ……まさかキャルさんまで一緒とは」
『おかげで戦闘能力は全部なくなっちゃったけどね』
浬の言葉に煌士が心底安堵した様に吐息を漏らし、そんな彼にキャルが笑う。やはり煌士達にとって一番不安だったのは鬼の呪いだ。それが大丈夫かわからず鳴海を見てはヒヤヒヤしており、ひとまず問題なくなったので安心していたのであった。
「良い。生き延びられれば明日があるので……」
『そうだね……取り敢えず、状況の再確認の前に。あっちの二人を紹介して貰って良い?』
「そうですね」
兎にも角にも先程の姉弟を知らない限りは始まらない。なのでこの二人をまずは紹介して貰う事にしたらしい。
「ジムさん。今大丈夫ですか?」
「ええ……ああ、自己紹介ですね。そういえばすっかり忘れていましたか」
煌士の問いかけに応じたのは、明らかに日本人ではない見た目の若い男性だ。そもそもジムという名前の時点で日本人ではないだろう。そんな彼は若い白人の男性で、姉らしいレイネとはあまり似ていない様子だった。但しどちらも美男美女ではあったので、そういう点で言えば共通点があるとは言えた。そんなジムが立ち上がって優雅に一礼する。
「よいしょっと……ジェームズ・森です」
「あ、ハーフなんですか?」
「ええ。イギリス人と日本人のハーフです」
「あ、それで日本語が堪能なんですね」
「ええ」
浬の問いかけにジム改めジェームズが笑う。そんなジェームズは理知的な男性で、戦士というよりも学者という方がしっくり来るような見た目だった。
「それでこっちは姉のレイネ・森」
「ハロー。マイネーム・イズ」
「無理に英国人を装わなくて良いですから。日本では日本語を話しましょうか」
「あはは。まぁ、そういうわけでレイネお姉さんです。よろしくね」
ジェームズが窘めたのを受けて、レイネは楽しげに笑って手を振る。
「……空也。レイネさんには?」
「話しています。あの足の怪我は侑子さんを庇われた際の物なのですが……その際にどうしても魔術を使わねばならなかったので」
「そうか」
どうやら今後も普通に魔術を使えそうだ。煌士は手札を隠す必要が無い事に安堵する。それに対して煌士の方はどうやら話す中でジェームズなら大丈夫だろうと自ら明かしていたらしい。と、そんなジェームズに浬が問いかける。
「そういえばお二人はえっと……日本で生まれたんですか?」
「いえ……実を言えば生まれは英国です」
「そんな遠い道のりを」
「ええ……ある噂を聞いたので」
「ある噂?」
ジェームズの言葉に浬が小首を傾げる。これに、ジェームズは隠すまでもなく明かしてくれた。
「聖女の噂です。日本の東の果てに聖女がいる、と」
「それを確かめるためにわざわざ?」
「ええ……ああ、もちろんそこにはきちんと裏があってです。貴方方はどれだけ聖女の噂をご存知ですか?」
たったそれだけのためにイギリスから日本まで来たのか。そんな驚きを浮かべる浬と空也に、ジェームズが問いかける。
「いえ……東の果てでは聖女を中心として街があって安全が担保されている、と」
「それだけ?」
「え、あ、はい」
どうやら浬が聞いていた以上の噂がイギリスでは届いていたらしい。浬は困惑気味に頷いた。そしてその様子で嘘は無いと判断。ジェームズは教えてくれた。
「聖女とそれを守る騎士達は奇跡を使える……そんな噂がまことしやかに流れているのです。それに英国政府は興味を持ち、ハーフである私達を筆頭にして幾つかの部隊を派遣したのです。が、結果はこの通り。私の所属していた隊は私と姉さんを残して全滅です」
「機械人形に……?」
「いえ、化け物……でしょうか。すいません。おそらく放射能汚染による突然変異体なのだと思うのですが……そんなのに襲われ……」
「「「……」」」
おそらく魔物だろう。浬達は地球で魔物が出てこなかった理由である一神教が壊滅したに等しい状況である事を思い出す。そうなれば必然、大陸では今頃魔物が溢れかえっているだろう。というわけで僅かな沈黙が舞い降りるわけであるが、少しして煌士が問いかける。
「他の部隊は?」
「わかりません。複数のルートで進む様に指示があったので……アメリカを経由しようとした者も居るらしいですね」
「そうですか……」
取り敢えず二人の所属していた部隊は二人しか生き残っていないというわけなのだろう。煌士はため息混じりで首を振る。
「ではこのまま東で良いですか?」
「ええ……噂によればラジオ通信を利用して、自らの居場所を呼び掛けているそうです。これが罠でなければ良いのですが……」
「ラジオ?」
「ええ……まだ入っていないのですが、もう少し近寄れば入るかもしれません」
どうやら場所が正確にはわからない、という問題に対してはラジオがあればわかる様になっているらしい。
「わかりました……ラジオなら確か車にあったはずです」
「ええ。修理もしておきました」
「であれば、明日には到着できそうですね」
荒れ地も進める自動車も手に入ったし、聖女の場所を探す方法も目処が付いたのだ。であれば明日には到着できそうだった。というわけで、一同は今日は情報共有と明日の万が一に備えての支度等に費やして、早めの就寝とするのだった。
お読み頂きありがとうございました。




