第624話 異なる星編 ――再出発――
異なる世界の異なる歴史を辿った地球に送られた浬達。そんな彼女らは第三次世界大戦か核戦争により崩壊した日本で図らずも誰かの脳髄を使用した機械人形を破壊してしまう。が、そんな事があろうと時は過ぎゆく。故に、明けて翌日の朝。浬らは何時も通りの時間に目を覚ます事になっていた。
「「「……」」」
無理もない事であるが、目覚めとしては浬と海瑠としては最悪。無理もないだろうがショックでもはや何もしたくない、というような塩梅だ。
美里に関してはやはり事情を知ってしまっては居た堪れないという感じだ。故に起きたとて全員が無言で、誰も動くつもりはない様子だった。が、それ故にこそキャルは動いていた。
「はい」
「ん? えっと……お前さんは……」
「隠す必要、なくなったからね。それにご飯は猫だと作れないから」
どうやらキャルは美里に魔術の事を明かしたからか、人の姿を取れる事を隠さなくても良いと判断したようだ。幼女の姿で美里に向けて焼き立てのトーストとベーコンエッグを差し出していた。
「そ、そうか……なんでもありなんだな、神様ってやっぱ……」
「そんな便利なものじゃないけどね……冷めない内に食べちゃって」
「あ、あぁ」
やはり今まで黒猫だったものがいきなり別世界の神様だと言われ、挙句の果てにそれが事実だと言わんばかりに幼女の姿になっているのだ。美里としてもどう接して良いかわからないらしく、しきりに困惑している様子だった。そうしてベーコンエッグを乗せたトーストに一口かぶりついて、目を見開いた。
「んん!? 美味しいじゃないか……ん? 思えばこのトーストってどうやって作ったんだ?」
「それは秘密……美味しいのは二人のお兄さんが拵えた調味料のおかげじゃないかな」
「へー……あんたらのお兄さんって調味料、作れるのか?」
「え……?」
「あ……」
どうなんだろう。やはり今までの重苦しい雰囲気から一転、何がなんだかわからない状況に叩き込まれては浬も海瑠もどうして良いかわからなかったらしい。当初漂っていた何もしたくない、という雰囲気から一転してあの兄ならありえるのかも、と困惑ながらに悩んでいた。
「どう……なんだろう」
「有り得そう……だけど」
実際サルサソースを手作りしている姿とかは見ていた二人はあの兄ならやっていても不思議はないと思っていた。が、同時にそんな事までするのだろうかと言われれば素直な疑問でもあったようだ。が、そんな二人にキャルが告げる。
「元々二人の調理道具一式はお兄さんが用意したものだからね。色々と他にも万が一の場合でもどうにか生活したり休めたり出来る様に準備してくれてたみたいだよ」
「そう……なの?」
「うん……医療キットの中身とか、しっかり見た事ある?」
「「……ううん」」
そうだと思った。浬と海瑠が首を振るのを見て、キャルはそう言って笑う。実のところ、カイトも万が一浬達がこういった事態に巻き込まれる事を想定していたらしい。キャルは今回の事態が起きた時に確認していた医療キットの中にそれに対応した物があった事に気付いたのである。
「二人共……ううん。美里もだけど、この匂い。気付かない?」
「え? あ……ベーコンの焼ける匂い……?」
「……あ! ごめん! ちょっと待って!」
うっかりしてた。キャルは浬の返答に大慌てで作りかけだったベーコンエッグをフライパンから皿に上げて一時的に避難。丁度そのタイミングで出来上がったトーストの上に乗せ、二人に差し出す。そんな光景に呆気に取られ呆然としていた所に漂った良い匂いに釣られたのか、浬と海瑠の腹の虫が音を上げた。
「あ……」
「う……」
「取り敢えず、食べよっか。さっきの匂いの話は追々ね。その匂いにかき消されちゃって、感じなくなっちゃってたみたい」
「「……うん」」
やはり空腹を一度認識してしまえば、欲求には逆らえない。これがキャルの意図した所かどうかは定かではないが、おずおずと二人はトーストとベーコンエッグを口に運ぶ。
「……美味しい……」
「うん……うっぐ……」
やはり色々とあったのだ。しかも昨夜は食事を食べる余裕なんてどこにもなく、ほぼ丸一日ぶり――基地を出てから昼を摂るつもりだったので昼食も食べていなかった――の食事だった。というわけで、美味しいやら悲しいやらよくわからない感情で泣きながら、二人もなんとか食事を食べ終える。
「……ごちそうさま」
「ごちそうさまでした……」
「はい、お粗末様でした」
取り敢えずこれでなんとか栄養補給は出来たかな。キャルはカイトの用意していた対応策と朝食で最悪は脱したと内心で安堵する。そうして再び沈黙が舞い降りるのであるが、数分後。浬が問いかける。
「……キャルちゃん」
「何?」
「ああなっちゃうとさ……もうご飯とかも食べれないんだよね……?」
「うん……もうあれは人の形を留めていないどころの話じゃない。あれはもう部品として使われてしまってる。昨日も言ったけど、あれはもう助けようがない」
そうなのだろう。浬はキャルの言葉が絶対的に正しいと理解していた。だからこそ、彼女は問いかける。
「……どうすれば良いのかな」
「助ける? それは昨日も言ったけど」
「ううん……これ以上被害を生まないためには」
おそらくもうどうやっても助けられないのは事実なのだろう。それを浬も理解していた。故にこそ、彼女はこれ以上被害を増やさないためにはどうすれば良いのかを問いかける。これに、キャルははっきりと告げた。
「機械人形を作ってる元凶を倒すしかない……かな。誰が何を目的にして、っていうのはわからないけれど」
「……そっか……うん……そうだよね」
機械人形の生体部品にされてしまった者を助ける事はどうやっても出来ないだろう。浬は曲がりなりにも魔術という超常の力の一端に触れていればこそ、それが神の如き力ではない事を理解していた。そしてそれ故にこそ、地球の科学技術はもちろんのこと魔術でも救えないと理解していた。ならば、やるべき事は定まった。
「おし! やろう!」
「何を?」
なにかを反芻する様に目を閉じていた浬がいきなり目を見開いて言い出したのだ。キャルとしては――というより美里も海瑠もだが――びっくり仰天という様子だった。というわけで、彼女の問いかけに浬が告げた。
「そいつぶちのめしてこんな事やめさせる。何が目的とかわかんないけど、少なくともこんな事は間違ってる」
何を目的としているか。どこの誰かとかはわからないが、少なくともこんな事をする事が正しいとは浬には思えなかった。そうして、そんな彼女が海瑠に告げる。
「海瑠。サポートよろしく」
「な、何の?」
「そいつぶちのめす。多少魔術の心得ってあるみたいだけど……あの程度ならなんとかなんでしょ」
「え、えぇ!? 僕もやるの!?」
「やる! こんなの見過ごしておくわけにはいかないでしょ!」
「そ、それはそうだけど……」
やはりこういう時、浬の方が精神面では非常に強いらしい。前々からキャルはそう思っていたが、今回の一件で再度それを認識する。打たれると弱いのは弱いのだが、同時にこうやって復帰した際には強かった。そして同時に味方を鼓舞したりする能力にも長けており、引っ張っていく力は高かった。
「なら、やる……で、キャルちゃん。さっきの話って何? 匂いがなんとか……」
「あぁ、気にしないで良いんじゃないかな。単にアロマオイルとか用意してくれてたみたいだよ、っていうだけだし」
「あ……炊いてくれたの?」
「そういうこと。いつもより気持ち疲れが取れていると思うよ」
実際にはそんなちゃちな効果じゃないけれど。キャルはカイトが用意していたお香が世が世なら数百万は下るまい品である事の効果――精神崩壊が起きかねない場合でも復調が可能なぐらいの強い効力があったらしい――を理解していればこそ、そう思う。が、同時にもう言わなくても良いかとも思ったようだ。
「あ、うん……本当にお兄ちゃんってば……」
「あはは……よっと」
呆れるなり感謝するなり半分半分の様子を見せる浬に、キャルは元の動きやすい黒猫の姿に戻る。
「あ、戻るの?」
『どっちが本当の姿という事はないよ』
「あ、そう……」
そういえばどっちが本当の姿とか聞いた事ってなかった。浬はキャルの返答にそう思いながらも、それならそれでと受け入れる。というわけで若干空元気の様子はあったが本調子に戻りつつある浬を中心として、改めて一同は再出発を果たす事になるのだった。
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