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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第4章 訓練の開始編

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第60話 呪符

 呪符作りを陰陽師の少年・鏡夜から学ぶ事になった彩斗達は、揃えられた材料を使って、とりあえず準備を整え始める。


『墨をする際にはなるべく塊を作らんよう、しっかりと擦ること。かといって、折れたら拙い。力は入れ過ぎず、抜き過ぎず。基本は書道と一緒や』


 専用に誂えられた部屋の中に、鏡夜の指導の声と硯で墨をする音だけが響く。当然だが墨の塊で筆を使って文字を書けるわけではない。きちんと液体にしてはじめて、筆で文字を書けるのだ。


『っと、兄ちゃん。水の入れ過ぎは厳禁や。量産には向くんやろうけど、それだけ墨汁に含まれる魔石が少のうなる』

「おっと」


 内海が鏡夜の指摘を受けて、慌てて水の注入を止める。式神はふわふわと浮かび上がる事も出来た為、名前がわからなくても目の前で指摘されれば自分だ、とわかった。


『そっちの兄ちゃんはちょいと力が強いな。まあ、その方が威力上がるからええっちゃあええんやけど、その分扱いも難しくなる。今は水をもうちょっと割り増ししといた方がええな』

「ああ、ありがとう」


 天ヶ瀬兄はそう言うと、少しだけ水差しで水を継ぎ足す。色々と情報をくれながらなので覚えるのは大変だが、命を左右する情報だ。四苦八苦しながらも覚える様にしていた。そうして、10分程墨を擦って特製の墨汁を作り上げる。


『ん・・・まあ、初めてやから、こんなもんでええやろ』

「なんや? なんか違いあるんか?」

『おう。おっちゃんらにゃまだ見えとらんねやろうけど・・・結構擦ってる時に魔力が混ざっちまっとる。ここでの重要なポイントは、なるべく魔力の放出を抑えて、墨を擦る事や。無心に近いんやけど、今回はまあ、初回や、ってことで説明しながらやったからな。敢えてここは説明せんかった』


 鏡夜は敢えて説明をしなかった理由を語り、それで良しとしておく。そうして、鏡夜はとりあえず次の段階に移る。それは当然、どんな紋様を描くのか、という事だった。


『で、や。次が一番難しい上に、重要な所や。当然やけど、呪符にゃ魔術的に意味のある模様を描かんとあかん。せやけど、これがちょっとでも狂えば、それだけで効果は一気に激減しよる。それこそ、本当に小さな一本線が入っとるか入っとらんかだけで発動せん、なんて事はザラや』


 鏡夜が真剣さを滲ませつつ、彩斗達に語る。ここが、一番重要な所だった。


『で、や・・・次に重要なのは、何をどう描くか。これが最も重要や。描く内容によって、発動する効果がまったく変わってきおる。これをミスったら、全部おじゃんや・・・じゃあ、何を描くか、やけど、これは術式の選択によって変わる。例えば火を生みたい、つーんやと、オーソドックスなのは火之迦具土(ほのかぐづち)っつー火の神様の力を借りるのが、基本やな』

「ヘパイストスとか祝融とかは使えないのか?」

『薫兄ちゃん、ヘパイストスはともかく、祝融なんぞよう知っとるな・・・』


 天ヶ瀬兄――薫というらしい――の言葉に、鏡夜が少しだけ驚きを露わにする。祝融とは中国の火の神様の事だった。三国志等で祝融夫人の名として語られることはあるが、その大本である事を知る者は日本人には少ないだろう。


『で、質問やけど、無理やな。俺らが知らん。基本的にその力を借り受けようと思うたら、その神様から力を借り受けられる立場やないと無理や・・・っと、そこら、教えとかんとな。これらは前にも言うたけど、神様の力を借りた力や。それ故、万が一神様に喧嘩でも売ろうもんなら、その時点で力は使えん様になる』

「か、神様に喧嘩って・・・んなアホおるんか?」

『時々なぁ・・・まあ、そういう場合は大抵神様やとしらんで喧嘩売ったど阿呆の場合が大抵や』


 彩斗の呆れたような問いかけに、鏡夜が苦笑混じりに告げる。知らないで喧嘩を売ったのなら致し方がない話であるが、それでもダメなものはダメ、というのが神様だった。理不尽といえば理不尽であるが、相手は神様。その理不尽さは神様故の物、として諦めるしかないだろう。


『で、それは呪符も変わらん。まあ、これは極端な例として考えときゃええ。おっちゃんらが気を付けるべきなんは、もう一個の方や』

「まだあるの・・・」

『おう、あるある。山程な。魔術使うなら、山程覚えなならん事があるで』


 天ヶ瀬妹――渚というらしい――の言葉を聞いて、鏡夜が笑う。ここでまだまだ入り口、という所だ。当然だが、他にも神様毎の紋様を覚えたり、と山ほどある。


『まあ、つってもこれは当たり前っちゃあ、当たり前のお話やで。渚姉ちゃん。わかりやすう言っとくと、あまりに強すぎる力は使えん、つーことや。神様の側が、使う事を却下する。まだ使える程の力が身に付いとらん、つーことやな。そこは魔力注ぎこむだけの呪符でも変わらん。ついでにいやあ、神殺しの力、何ぞはまあ、使えん。諦めるしかない領域や』

「どっかで神様の側が見てくれてはる、つーことか。有り難いことやん」

『ま、そういうこっちゃ』


 彩斗の言葉を鏡夜が認める。力を借り受ける中で拒絶が起きるとするのなら、それはおそらく何処かで見ているからにほかならないだろう。神様である以上、人としてはそれは有り難い、と受け取るしかなかった。とは言え、当然、それ以上の力を手に入れる方法もあった。


『もしそれ以上使いたいってんやったら、神様に申し出るしかないわな。まあ、これは結構修行積んだ奴がやるか、偶然に手に入れたかだけや。普通に陰陽師でもやらんわ。与えられた力だけで十分、やってけとるからな。もし時々で必要になりゃ、その都度神様が与えてくれてはる。考えるだけ無駄やな』

「結構、こっちの事を見てくれてるのね」

『そりゃ、そうやろ。日本の基本はお天道様が見とる、つーことや。即ち、それは天照大御神様が見てはるから、つーわけやな。原理こそわからんが、色々と把握なさっとる。下手したら日本の大抵の事は知ってはる。悪いことは出来ん』

「会った事があるのかい?」


 鏡夜の口調に内海が問いかける。何か会ったことがある様な口ぶりだった。


『まあ、何度かは、や。色々と無茶しとったからなー・・・死にかけた時なんかは、手助けしてもらえたわ。おりゃ、ほんとに運がええ。そう何度も助けてもろうたんは歴史上そうはおらんらしいからな』

「なっ・・・」


 あっははは、と快活に笑う鏡夜だが、それを聞いた彩斗達は違う。彼の言葉には、真実しかない。それ故、死にかけた、というのは比喩ではなく、言葉通り死にかけた、という事だった。

 だからこそ、彼らの顔には驚愕が浮かんでいた。なので、鏡夜の顔には逆に、呆れが浮かんだ。それは甘さを指摘する物であり、同時に事実を事実として指摘する物だった。


『はぁ・・・なあ、おっちゃん。これが、こっちの世界や。一歩でも間違えば死ぬ。そんなバケモン揃いの世界が、こっち側や。それに足踏み入れた以上、無様に殺される覚悟だけは、しとけよ』


 鏡夜から発せられる気配に彩斗達は年下相手であるにも関わらず、息を呑む。まさに、格が違う。幾ら親しげに話してくれていようとも、彼は三童子。経験してきた場数が違い、覚悟の程も違う。

 彼は何と言われようとも、日本を守る為の礎だ、という気概で動いていた。それだけは他の陰陽師達と何ら遜色無い。彼は幾ら異端児であっても、日本でも有数の陰陽師なのであった。


『特に今の地球は火薬庫だらけ、や。外に出とる奴らにゃ、よう言うといた方がええ。油断しとったら、ホンマに人間相手に殺されんで。事情が事情やから教えとるけど、ホンマやったら、知らん方がええ知識や。特に今の状況やとな。安易に大陸・・・それも中国周辺で日本人で魔術を使える、なんぞ言うと拉致られりゃ、ええ方や。問答無用に暗殺されても文句は言えん状況やぞ。おっちゃんやから、敢えて言うとく。カイトの為にも、中国にだけは行くな』

「? 何故、中国限定なんや?」


 敢えて中国を限定した鏡夜の意図を図りかねて、彩斗が首を傾げる。彼は交渉が主な仕事なので、仕事で時折中国には行っている。そしてそれは仕事が元に戻れば、また行く事になるだろう、と考えていたのである。


『・・・親父が何も語ってくれんから、俺も事情はようは分からん。けど、数年前に無茶苦茶でかい戦いがあったんや。それ以降、地球全体で何時戦争起きても可怪しくはない状況らしい。それで、や』


 鏡夜は真剣な声で、そう語る。ここら、情報の封鎖の関係で覇王達も知っていても語っていない。そして同時に、今本社でこの業務に就いている者達には、今後を含めて中国周辺での業務は与える事はなかった。

 鏡夜とてそこらは把握している。だが彼の父とてまだ息子には早い、とここらの情報は完全には語ってはいない。陰陽師達とて、人の子だ。それぐらいの分別はある。

 だが、鏡夜は他のルートからの情報があった。それを敢えて何があっても行かない様に、と幼馴染の父であるが故に、少しだけ明かしたのである。


「主戦はアメリカと中国、つーわけで、日本はアメリカ側、つーわけか・・・わかった。忠告感謝するわ」

『ああ、頼むわ。もしこれ教えてんの帰って来たカイトにバレたら、って考えるだけでも恐ろしいのに、この上そんな事になったらマジでぶん殴られかねんからな』


 一気に重苦しくなった雰囲気を受けてか、鏡夜が少し照れる様にそう軽く告げる。そうして、暗くなった雰囲気を一度少しだけなごませると、鏡夜は再び、説明を開始する。


『いや、すまんな。ちょいズレてもた。で・・・えーっと、ああ、確か神様のお話やったか。で、や。神様の力を借り受けとるわけで、その神様にはそれぞれのモチーフがあるんや。例えば、この間おっちゃんに渡した呪符は覚えとるか?』

「ああ、一応はな」


 鏡夜の問いかけに、彩斗が気を取り直して頷く。以前彼ら陰陽師が彩斗にくれたのは、<<光の束縛(アマテラスの戒め)>>と<<閃光符(せんこうふ)>>という二種類だ。それは何度も使い方を確認し、そして試してもいたので、どんな絵柄だったのか、というのはおぼろげには覚えていた。


『あの呪符で一番でかかった模様、覚えとるか?』

「えーっと・・・なーんか、丸に色々と描いとったな」

『あれが、天照大御神様のマークや。あれはその中でも最もシンプルなシンボルマークやな。太陽がモチーフや。俺ら陰陽師が一番多用するマークでもある。なにせ日本の総氏神やからな。力を良く貸してくれはるんや。これ単独で作る<<閃光符(せんこうふ)>>が一番練習し易い基礎やから、とりあえず今日はそれを練習しよか』

「おう、頼むわ鏡夜くん」


 鏡夜の言葉を受けて、改めて彩斗達が筆を手に取る。そうして、しばらくの間、自分達で擦った墨汁を使って、呪符を作る練習を行うのだった。




 練習の開始から、二時間程。ようやく、という感じであるが、各々一枚の呪符を完成させる事が出来るぐらいには辿り着いていた。と言っても、それは完璧では無く、あくまでも、一応完成と言っても良いかな、という程度だったが。


『んー・・・まあ、ぶっちゃけ、親父や皇志さんやと怒鳴られそうな出来栄えやけど・・・はじめやから、まあ、ええんちゃう?』

「ほっ・・・」


 ようやく合格が下りたのを見て、天ヶ瀬妹が安堵のため息を吐いた。先の一件を見れば意外でもなかったのかもしれないが、鏡夜は今まで合格点を出してくれなかったのであった。

 その間に作った数は全員で合わせると100枚以上――途中でダメ出しを食らったのや書き損じも含めると、もっと増える――だったので、顔には全員疲れが浮かんでいた。


『でもまあ、使ってみりゃわかるけど、全然な出力やろうな・・・どうせそいつ実際にゃ使えんから、渚姉ちゃんも今試してみ?』

「え・・・あ、うん」


 渚は鏡夜の言葉に従って、試しに呪符に魔力を込める。ちなみに、流石に訓練開始から時間が経過していた為、全員この頃には2~3秒で込めれる様にはなっていた。

 と、言うわけで渚が魔力を込め終わった呪符を発動させる。が、現れた光は、彩斗達が使った眩いばかりの閃光では無く、暗い時には便利、という程度の明るさしかなかった。


「あ・・・」

「マジか・・・」

「あ、あはは・・・」


 全員が一様に、起きた現象に苦笑する。出来栄えとしては全員似たり寄ったりだ。なので効果としてもに頼ったり、というのが簡単に想像出来たのであった。


『まあ、発動は出来とるから、後は要練習、つーところやろ。一応今回は擦り方やらなんやら教える為に本番と同じやり方で教えたけど、練習は普通の墨汁でええで。墨の無駄やからな。まあ、とりあえず今日の所はそれでええやろ。後は何度も何度もやって、やな』

「おう・・・はぁ・・・」

『あっはは。桐ケ瀬のおっちゃん。俺らはこれをガキの頃からやらされとるんや。そう簡単にうまなっても困るわ。ま、気長にやってくれや』


 疲れた様にため息を吐いた桐ケ瀬に対して、鏡夜が告げる。そうして、彼らもまた、自らの強化の為に訓練を開始するのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。何時までも同僚だの部下だのでは変なので、ここらで彩斗組の名前登場です。

 ちなみに、彩斗組は『彩斗・桐ケ瀬 大和・天ヶ瀬 薫・渚兄妹・内海 秀一・甘粕 真尋』の6人で成り立っています。フルネームは初出しです。詳細はしばらくしたら登場人物紹介に上げます。彩斗側主要人物です。

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[気になる点] 鏡夜の あぁ頼むわ。これ言ったのカイトにバレたら殴られる 〜 の文で彩斗からしたら何故?となりませんか?
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