第621話 異なる星編 ――遭遇――
眠っている最中に何者かによって異なる世界の異なる歴史を辿った地球へと飛ばされてしまった浬と海瑠。二人は異なる地球で遭遇した美里という人物と共に、かつて存在していた軍の基地へと潜入。そこでこれからの戦闘に備えた武器弾薬を手に入れると、キャルの提案により基地の資料室で地図を探す事になっていた。
が、そこでキャルから提案の本当の目的である基地司令官の手記を読む手伝いをして欲しいと言われた彼女は調べ物をしている風を装って、幼女の姿を取ったキャルを影に隠していた。
『で、結局の所はどうだったの? なにか良い情報あった?』
『うん……かなり眉唾ものの話だけど』
『どういうこと?』
三冊あったという司令官の手記をすべて読み終えたキャルであるが、その顔はやはり険しかった。が、如何せん彼女自身この世界の事は全く知らないと言って良い状況だ。眉唾であってもあり得るのかもと思っていた。
『攻撃は月から行われている……そう判断しなければならない、って書かれてた』
『月から? それって……つまるところ敵の本拠地は月にある、ってこと?』
『そうだと思う……最後に本国の仲間が最後の手段として調整中で発射を免れた核弾頭を月に発射するから、その作戦への希望者を募るっていう通信が来たって書かれてた』
確かにかなり眉唾な話だ。浬は訝しむキャルに同じく顔を顰める。と、そんなキャルが更に情報を伝達する。
『……ああ、それでその後は出発の日に半分ほどの兵士が付いてきてくれる事になった。これから兵士達を引き連れ横須賀に向かうって。残る兵士達に家族を頼んで私も行く。これが最後の記載だ。人類の未来に幸あれ、が最後の言葉だったよ』
『ということはその時にはもう機械人形との戦いが始まっていた、っていうこと?』
家族を頼んで。普通に考えれば無政府状態になった事から暴徒等から守らねばならないのか、と思うわけであるが流石に現状を考えれば戦う相手が機械人形である事ぐらいはわかろうものだ。なので浬の問いかけにキャルもはっきりと頷いた。
『だろうね……更には作戦への参加者を募る、っていうことは大規模な戦闘が想定されていたっていうこと。この時点で北米大陸は相当な猛攻撃を受けていただろう事は想像に難くない。そしてその後の事はわからないけれど、この様子だとこの基地にもおそらく……』
『……』
最終的には機械人形だか戦闘型だかの猛攻撃に遭って、基地は崩壊。そこに居ただろう者たちは散り散りになってしまった、というわけなのだろう。キャルの言外の言葉に浬は言葉を失う。
『後一冊は攻撃が始まる前に書かれた物だったから、特に有益な情報は無いかな。せいぜいこっちの地球と私達の地球の差異が少しわかるぐらい』
『そっか……でもそれだと東の果てって大丈夫なのかな?』
『わからないけど……警戒はしておいた方が良いだろうね』
もしかしたら敵がこちらをおびき寄せるための罠かもしれない。浬もキャルもそう認識を一致させる。と、そんな会話が終わった頃にキャルが再び黒猫の姿に戻った。
『もう終わり?』
『うん。もう良いよ……それと、これ』
『おっと……これって……』
『地図。こっちの用事が終わるまで出られても困ったからね』
若干困惑する浬に、キャルはそう言って笑う。どうやら先に資料室はある程度確認済みで、その中で地図については見付けられていたらしい。というわけで、浬が地図を見付けた体にして彼女は美里と海瑠に報告。地図が見付かった事で一同は改めて基地を後にする事になるのだった。
さて地図を手に入れて基地を後にしようと地上に戻った浬達であったが、そんな彼女らはある意味では当たり前の光景を目撃する事になった。
「……まぁ、こうなるよな」
外に顔を出した一同が目撃したのは先程まで何度か目撃した機械人形と、こちらは見たことのない奇妙な形をした機械で出来た人型だ。
それは探索を考えていないのか全体が金属で出来ている上に、頭の部分には巨大な金属の球体が乗っていた。遠目にでも人には見えないだろう。更にその大きさは人の倍はあろうかという巨大さ。手足もそれに見合ったゴツさがあり、明らかに戦闘を主眼としている様子だった。それを見ながら、美里はため息を吐いた。
「はぁ……やっぱ戦闘型が来るか」
「あれが……」
「お前らは見た事無いか?」
「「……はい」」
美里の問いかけに浬も海瑠もはっきりと頷いた。とはいえ、これを美里は不思議には思わなかった。
「しゃーないか……あいつらは機械人形……探索型が生存者を発見。更には敵対した場合にだけ増援として呼ばれる奴だ。逃げ回ってりゃぁ普通は遭わない……海瑠。私こっち見てるから、逆側見てくれ。後ろから捕獲型に来られるのが一番面倒だ」
「……後ろには戦闘型が二体だけです。といっても探索型も何体か居ますけど……」
「そうか」
どうやらこの上に捕縛型なんてものまで居るらしい。海瑠はそう思いながらも、美里に見たままを報告する。魔眼で全周囲を確認したのだ。周囲に戦闘型と探索型の機械人形以外が居る形跡は見られなかったので、確実だった。
「正面に戦闘型五体。後ろに戦闘型二体……よほどあいつら、この基地の情報を持ち帰られたくないらしい……っ? どうした」
「後ろ……戦闘型増えました。総計五。機械人形も多数」
「ちっ……私ら三人だぞ。どんな想定してやがるんだよ」
無理もないかもしれないが。美里は地下の機械人形がものの一分足らずで殲滅されていた事から、敵はこちらが大部隊で攻め込んだと思いこんでいるのだろうと判断する。そんな彼女に、キャルが問いかけた。
『……どうするの?』
「逃げるには戦うしかない……が、こりゃ厄介だね。さて、どうしたものか……」
『基本は遮蔽物を盾にして戦う、だけど……流石にあの巨体を相手にするには厳しいかもね』
「当たり前だ。戦闘型の前じゃこんな廃墟の壁なんて障子も同然だ……障子なんて見た事ないけどね」
流石にちょっとヤバい状況だからか、美里は半ばやけっぱちになりながら冗談を口にする。とはいえヤバいと感じているのは彼女だけではあった。戦闘の覚悟を決めていたからか、浬も海瑠もすでに攻略方法を考え出していた。
「海瑠……オフェンスを私がやるから、あんたライフルで一撃で仕留められる?」
「やれるけど……多分、初撃でそっちで一体倒して貰ってこっちでもう一体同時に潰した方が良いよ。後、流石にもうこの状況だから……」
「それは覚悟決めた。カードを使う」
機械人形なら素手でも戦い様があったが、流石に戦闘型は素手では戦えないと浬も判断したらしい。これ以上隠すのは痛い目では済まない可能性があった事から、カードの使用を解禁する事にしたようだ。が、短絡的という可能性もある。なので彼女はその判断が正しいかどうかを確認する。
「キャルちゃん」
『……うん、そうだね。流石にこの状況で出し惜しみしたら誰かが死ぬ可能性はあると思う。使うべきだよ』
「良し……美里さん」
「なんだ?」
そうと決まれば。浬はキャルの許可に方針を定めると、敵の動きを注視する。美里に声を掛ける。
「探索型をお願い出来ますか? 戦闘型は私と海瑠でなんとかします」
「は? なんとかするったって……」
「なんとか出来ます」
「海瑠」
「行けます……勇者の弟妹って伊達じゃないんで」
「はぁ?」
なにか良くわからない事を言いだした。美里は唐突に意味のわからない事を言いだした浬と海瑠に困惑を露わにする。が、今まで数日で二人が狂人の類ではない事はわかっていた。
「……わかった。あんたらに従うよ。戦闘型は頭が弱点だ。そこを潰せ」
「ありがとうございます……海瑠」
「うん……中央から右一体やる。続けて中央左」
「じゃあ、私が中央か」
浬と海瑠は即座にどうやって敵を倒すかを決めると、浬は太ももからカードを取り出す。今回取り出したのは『土』『剣』の組み合わせ。おそらく頭部の金属球はかなりの強度だろう、と読んで勢いを付けた重量で押し潰すつもりだった。
「ふぅ……海瑠」
「おっけ。こっちは何時でも」
「良し」
海瑠の言葉に、浬はわずかに呼吸を整える。ここからは一瞬で距離を詰める必要があった。かといって飛空術を使えば目立つ。なのでやるのは、戦士としての基礎である<<縮地>>だ。そうして、彼女の姿が掻き消える。
「なぁ!?」
一瞬で敵の眼前まで移動した。美里はスコープ越しに見える光景に思わず仰天する。が、更に驚きはその次の瞬間に訪れた。
「カード!」
「……ふっ」
浬がカードを抜き放ち、巨大な岩石の塊を中央の戦闘型に叩き込んで押し潰す。そしてそれと同時に海瑠が巨大な魔弾を放って右側の一体の頭部を消し飛ばし、続けて今度は魔力を収束させて貫通力を高めた一撃で左の一体の頭部を完全に貫いた。
そして流石にこの速度には戦闘型も追いつけなかったらしい。何が起きたかわからず反応が出来ない間に、彼女は続けざまにカードを抜き放つ。組み合わせは勿論、『土』と『銃』だ。今度もやはり重量で押し潰すつもりだった。
「カード!」
上空に生まれた巨大な岩石に、戦闘型と呼ばれる機械人形がようやく行動を開始する。そうして両腕を持ち上げた戦闘型の機械人形が両腕部に取り付けられた穴から、レーザによく似た光球を何発も発射。それらは瞬く間に岩石を粉々に打ち砕いていく。が、これは浬らが想定していた流れではあった。
「海瑠!」
『左やる!』
「りょーかい!」
なら右を。海瑠の言葉に浬は自身の左に居た戦闘型に背を向けて、両手を上に広げた戦闘型の頭部めがけてカードを投げつける。今度使うのは『火』と『光』と『銃』の三種の組み合わせだ。
そうして、彼女が投げたカードの効果により、光と熱が収束。光線銃のような光条が迸って、金属の頭部を蒸発させ消し飛ばした。そしてそれと同時に海瑠の放った巨大な魔弾が残る一体の戦闘型の頭部を弾き飛ばし、残すは雑魚の探索型だけとなる。
「良し!」
『浬。油断しないで』
「っ」
キャルの言葉に浬は基地の残骸の上に背後に回り込んでいた戦闘型が移動したのを目撃する。これに浬は再び『火』『光』『銃』の組み合わせを展開すると、それと同時に海瑠に声を掛ける。
「海瑠。その距離なら二体同時にやれるでしょ」
『うん……そっちもお願い』
「りょーかい」
基地の残骸の上に乗っているという事は即ち、足元には海瑠が居るということだ。そして彼には魔眼がある。障害物なぞあってないも同然だ。そして更に、そこまでの距離は基地の外に居た戦闘型より遥かに近い。ライフルでなくても狙撃は容易な距離だった。
故に、彼はライフルを即座に背負うと懐のホルスターから双銃を取り出して魔力を収束。敵が攻撃を放つ前に、二体まとめて股下から胴体までを消し飛ばして両断する。そしてそれも同時に、浬もまたカードを解き放った。
「カード!」
解き放たれた熱線は光の速度で突き進み、戦闘型に避ける事なぞ許さずその頭部を消し飛ばす。が、流石にここまでやった時点で残る一体は仕留めきれなかった。残った一体が浬に向けて両腕部に取り付けられた銃口を向けて、ガトリングガンもかくやの勢いで光弾を放っていく。
「わわわ! 海瑠!」
『ん……終わり』
放たれる無数の光弾から逃れる姉を横目に、海瑠は双銃をクロスさせる様に持って最後の一体を狙う。そうして容赦なく引き金を引いた彼は、自身の放った二発の魔弾が螺旋を描く様に飛翔して胴体どころかその姿を完全に消し飛ばしたのをしっかりと確認する。
「良し……後は」
『探索型だけだね』
これで遠巻きに撃たれる心配はない。浬はまだ残る周囲の探索型に視線を向ける。
「美里さん。お姉ちゃんの援護に出ます。探索型頼みます」
「……え? あ、おう!」
何なんだこいつらは。今までとんでもない犠牲を払ってようやく一体討伐出来た戦闘型をあっという間に十体も。美里は目にした光景が信じられず困惑していたが、再び始まった戦闘に今が戦闘中である事を思い出す。
そうして、浬と合流して双銃で手早く基地の外に展開していた探索型を殲滅。更に基地の背後に回り込んでいた探索型がこちらに来たのを殲滅し、ものの十分足らずで浬らは三十体ほどの機械人形を殲滅するのだった。
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