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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第4章 訓練の開始編

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第59話 大人達の訓練

 彩斗が家族に先んじて大阪行きを決めて浬が大会への気合を入れ直したとしても、結局として何かやる事が変わったわけではない。

 彩斗は大阪行きまでは訓練を続けながら調査、交渉の繰り返しで、浬と海瑠は部活に汗を掻きながらも、特訓の繰り返しだった。


「俺、今思うたんやけど・・・今までで一番運動しとる気がするわ・・・ふっ!」

「あー・・・分かりますっ!」


 基本的に、訓練は天道財閥本社ビルのトレーニングルームで行われている。と言ってもこれは魔力を使わない場合、即ち体作りに限り、だった。

 そして戦い――と言っても先の様な試練を受ける事がメインだが――を行う以上、体作りも重要、と捉えていた。なので彩斗達もチーム一塊となり、トレーニングルームでのトレーニングを行うのが、交渉が無い場合での彼らの予定だった。と、そんな休憩時間に入ると、部下の一人が雑談を始める。


「ふぅ・・・どっちが大変なんでしょうね」

「あー・・・?」

「俺はこっちの方が楽だ」


 疲れ果てた彩斗や休憩している同僚に対して、部下の一人が問いかける。流石にここらは歳の差が現れていた。彩斗はもう40代なのに対して、問いかけた部下と答えた部下は二人共20代半ばから後半、という所だ。一番若いのは、数年前に入社したばかり、というのも居る。なので彼らは汗こそ掻いているが、疲れた様子は彩斗程ではなかった。


「なんや、天ヶ瀬の兄貴の方・・・そりゃ、しなびた春菊になっとる俺に喧嘩売っとるんか?」

「あ、いや、すいません。そういうことじゃないです」

「あはは」

「わーっとる。そんな真に受けんなや・・・まあ、内海や天ヶ瀬みたいに俺はそんな動ける年齢やないから、あっちの訓練の方が楽でええわ」


 若い部下の言葉に笑いながら、彩斗がスポーツドリンクを口にする。ちなみに内海――質問を投げかけた方――は姉が教師で、天ヶ瀬は年の離れた妹が生徒として、通っていたらしい。と、それに彩斗と殆ど年の離れていない男が、苦笑する。


「俺もだ・・・天音。お互いに年だな」

「桐ケ瀬よりもまだ若いわ」

「今言った言葉と矛盾してんだろ」

「おっと」


 同僚の言葉に、彩斗が笑う。敢えて言った言葉だった。まあ、見た目としては彩斗の方が少々若く見られる事が多かった。それを揶揄しての事でもあった。

 ちなみに、お互いに同い年だった。所謂同期の桜、という所である。彩斗が係長なのは本職として交渉にあたる彩斗が上、というだけであった。と、そんな彩斗に少しだけ桐ケ瀬が笑い、更に残りの同僚に問いかけた。


「で・・・お嬢さん方はどうだ?」

「え?」

「はい?」

「ああ、訓練だ。どっちの方が楽か、って話だろ?」


 彩斗のチームは今の三人に、女性二人が加わって全員だ。年齢層としては彩斗と桐ケ瀬が高く、内海達と同年代が4人だ。男女比は4対2である。

 若者が多いのは、移動が多いからと体力仕事になるから、だ。これは素材等を調達する課の基本だった。ということで、桐ケ瀬の質問に、女性二人が少しだけ、頭を悩ませる。


「私は・・・あっちの方が楽ですね。静かにしておく、というのは得意です」

「私はー・・・こっちかなー・・・」

「お前は落ち着きが無いからな」

「あ、ひどい!」


 二人は各々の意見を告げる。落ち着いた印象のある女性と、少し元気な女性だった。ちなみに、後者を茶化したのは天ヶ瀬だ。実は彼の妹だったのである。それ故、彩斗が兄の方を『兄貴の方』と呼んだのであった。


「あはは・・・兄妹の仲が良い良いのはええ話や・・・っと、休憩終わりやな。じゃあ、もう一回開始や」


 休憩の為にセットしたアラームの音に、彩斗が再び号令を掛ける。そうして、彩斗のチームも訓練を開始するのであった。




 訓練は当然だが、肉体作りだけではない。魔術の訓練も含まれていた。とは言え、ゼウスの様な試練を睨む彼らがやる事は、同時刻に訓練を行う浬達よりも更に進んでいた。


「・・・」

『はーい、そこまで、や。とりあえずおっちゃんらそこで止まってええでー』


 ぱんぱん、と手を叩く音が響いて、訓練が中断される。それに、彩斗達がため息を吐いた。やっていたのは、精神鍛錬だ。魔力とは意思の力、らしい。如何に集中するか、というのは重要な事だった。そうして、彩斗が口を開く。


「いや、ほんますまんなぁ、鏡夜くん。わざわざ力貸してもろて」

『いいっていいって。おっちゃんほっといたらカイトみたいに無茶しそうやからな』


 彩斗の感謝に対して、鏡夜の操る簡単な人型が手を振る。彼らの教官役は、鏡夜だった。彼とて本来は三童子と言われる程の傑物だ。講師を務めるには、悪くはない相手、だった。

 始めこそ慣れなかったこの紙とのやり取りだが、一ヶ月もすれば慣れが出た。今ではこの様に普通に電話と同じ感覚で話しあえていた。


「あはは、いや、痛いとこ突きよるわ・・・っと、そういや、涼夜さんは元気にしとるか?」

『ああ、親父か。まあ、元気っちゃあ、元気にやっとる。今度飲みにきましょ、つっとったわ。なんやこっち来るらしいやん。俺も護衛に当てられとる。そこら、任してくれ』

「お、期待しとるわ・・・っと、それで、や。一個聞いときたいねんけど・・・構わへんか?」


 基本的には、彩斗と鏡夜の関係は息子の幼馴染だ。それも彩斗も人柄が良く、鏡夜も良くなついていた。なので今ではそれなりに本来は教えてくれない様な秘密についても教えてくれるのであった。

 ちなみに、鏡夜も骨折をしていたはずなのだが、この頃にはすでに怪我の治癒は終わっていた。なのでその慣らし運転と人手が足りない事があり、鏡夜も護衛になっていたのである。


『なんや?』

「いや、そっちのエリザ、って顔役おるらしいんやけど・・・今度交渉に行く事なっとってな。ちょっと知っときたいんや」

『なんや仕事か・・・ありゃ、まあ、バケモンの親玉、つやぁ、怯えるんやろうけど・・・』


 鏡夜は遠く大阪で頬を掻きながらも、少しだけ記憶を探り始める。ここらは隠している事では無いので、普通に教えてくれるようだ。


『バケモンじみた戦闘力は持ち合わせとる様やけど、往年の戦闘力は出せんらしい』

「なんや、そうなんか?」

『おう。往年のいっちゃんヤバイ時代にゃ中級の天使も単独でぶっ潰せる様なバケモンやったらしいけど、今は戦場に出とらん事がたたって下級の天使程度にまで落ちとるらしいわ』

「それ・・・凄いんかか凄くないんか俺らにはようわからんわ」


 鏡夜の言葉に、彩斗が苦笑する。陰陽師達にとっては天使の強さというのが身近にわかるのだろうが、天使達なぞほぼ物語の存在にしか過ぎなかった彩斗達にとって、基準には成り得なかったのである。そうしてそれを言われて、鏡夜が再び頭を悩ませる。


『あー・・・そやな。今日本で一番、つーか世界で一番、つー話の<<深蒼の覇王(しんそうのはおう)>>が現れる前までは、日本でいっちゃん強い、っつー話やったのが、あのエリザや。で、そのレベルが、中級の天使らしいわな。いや、天使達は専門外やから詳しくは知らんけど』

「ふーん・・・そんなもんか・・・って、そんなバケモンか・・・」


 気軽に流されたので彩斗も気軽に流そうとしたわけであるが、改めて思い直して噛み砕いてみると、そのヤバさが理解出来た。


「じゃあ、今はどんなもんや?」

『んー・・・下級の強い方や、つー話やから・・・ぶっちゃけ、よう知らんけど・・・大昔に一度<<深蒼の覇王(しんそうのはおう)>>の奴から聞いた話やと、今どこにおるかわからん玉藻のいっちゃん強い奴と同格ぐらい、つー話やわ。最盛期の厄介さやと最盛期と言うか分かたれる前の玉藻の前と同等、って所らしい』

「結局無茶苦茶ヤバイ、ってわけかい」


 弱くなったと言ってもどうやらそれは自分達では抗えないレベルであった事を理解して、彩斗がため息を吐いた。と、そうして話していると、ふと、彩斗が一つの事に気付く。


「・・・ん? そういや鏡夜くん、<<深蒼の覇王(しんそうのはおう)>>の事、知っとるんか?」

『あ? あー・・・まあ、色々とな。おっちゃん知らんとこであっとる・・・そっちに刀花って奴おるんやけど・・・ああ、桜桃女学園の今ってか次の生徒会長な。ちょい色々あってそいつ、引き取ってもろてん。で、その時に俺が色々やってな。協力してもろうてん。いや、親父にゃ怒られたんやけどな』


 よもや貴方の息子がその<<深蒼の覇王(しんそうのはおう)>>です、と言えるはずもない――と言うか言うことを魔術で禁止されている――鏡夜が、少し照れ臭そうに事情を語る。

 ここらは本来は陰陽師というか草壁家の恥として隠される事だったのだが、鏡夜自身が気にしていない事もあり、おおっぴらに語っていたのであった。


「ふーん・・・あんま涼夜さんに心配掛けたんなよ?」

『わかっとるよ。まあ、あれは色々と・・・って、そんなことはええか。で、や。まあ、心配せんでもええやろ。基本的にあそこ楽園つっても末期の退廃的な部類や。まあ、少し前の一件以降ちょっと活気づいとるんやけど・・・基本的なスタンスは変わっとらん。自分たちの身に厄介が降りかからん限りは、我関せずや。よほどの無茶や馬鹿やらかさん限りは、危害は加えられん』


 気を取り直した鏡夜が、改めて情報を開示する。ここらは護衛対象へ教えておくべき事なので、隠す必要はなかった。


「そか。じゃあ、とりあえずは安心、つーことやな?」

『おう。そういうことや・・・っと、休憩は終わりやな。じゃあ、次は魔術の展開についてを、練習してみよか』


 雑談と言うか相談が一区切りついた所で、鏡夜が休憩を終わらせる。そうして始めたのは、魔術の特訓だ。と言っても、浬達がやらされる詠唱や魔法陣を作って、という特訓ではない。


「基本的におっちゃんらは当分呪符を使った戦い方がメインになるやろ。ゲームやアニメでお馴染みの詠唱は普通は対人戦ではやらん。何を使うか宣言しとる様なもんや。無詠唱でやれてはじめて、その魔術を使える、つーんや・・・やったな?」

『おう。覚えとってくれたな。でもまあ、何時までも呪符に頼りきりやと、弾切れが怖い。とは言え、無詠唱を特訓するには、おっちゃんらはまだ早い。そやから幾つかの呪符の作り方を教えといたろおもてな』


 自分の発言をそっくりそのまま告げられた鏡夜は、満足気に頷いて今日の講習内容を説明する。本来は呪符の作成方法は秘中の秘であるのだが、勝手にやられても揉め事の元だ。それに隠しているわけではない術式も存在していた。それら幾許かについては、教えてくれる様に交渉が出来ていたのであった。


『まず、必要なんは紙とそれ専用のインクや。その二つあれば、呪符は作れる』

「・・・そんだけか? なんやまじないとか必要無いんか?」

『そんだけ。まじないっつーか奇妙な調合なんぞ必要あらへん。筆かつかってちゃっちゃっちゃーや』


 鏡夜が笑いながら、それだけで良い、と明言する。どうやら本当にそれで出来るのだろう。とは言え、簡単に出来るわけではない。


『つっても簡単ちゃうで? 呪符を完璧に発動させる為には、線の一本一本曲げ方、線の太さ、模様、全てが完璧になってな、呪符の威力は減衰する。一発成功は無理やで? ほんま、無茶苦茶細かい所までダメ出し出るからな』


 俺未だ怒られとるもん、と更に続けて鏡夜が笑う。そこには謙遜は無く、事実だ、とわかる言い方だった。


『まあ、つーわけで、ちょっと厳し目に行くで・・・材料についちゃ、そっちで用意しとんねんな?』

「筆と墨に硯、それと紙・・・おう、揃っとる揃っとる・・・つーか、筆ペンとか無いんか?」


 まるで小学校の習字だな、と笑った彩斗が、鏡夜に問いかける。筆ペンであれば、硯を使う必要も無いのだ。なお、墨はそれ専用の調合がされた物で、鏡夜達陰陽師側から与えられた物だ。他は普通に市販品でも良い、という事なので、市販品を使っていた。


『まあ、俺は筆ペン使っとんねんけど・・・これは実は俺独特ちゅーか、ちょっとした伝手で手に入れた一品モンや。どっかにあるかも知れんのやろうけど、つーレベルやな』

「へぇー・・・なんで無理なんや?」


 一応、作る為の筆ペンも存在はしているらしい。が、どうやらそれは一品物らしい。しかも特製だ、というので、手に入れる事は難しそうなのだろう。


『あー・・・実はその墨にゃ細かく砕いた魔石、つー魔力を含んだ石が入っとるんや。それがどうにも筆ペンのインキを出す部分が目詰まり起こすらしい。下手にやっちまうと目詰りしてどかん、や。おまけに液状になっとる所為で、どうしても石が沈殿しよる。下手に魔力が近くにあると、やっぱりどかん、や。んで、どうやっても作れんのやと。おんなじ理由で、墨汁の形での保存も無理や』


 どうやら技術的な問題があり、如何ともし難いのだろう。鏡夜は無理な理由を語ってくれた。と、そうして疑問に思うのが、ではどうして鏡夜の筆ペンは可能なのか、という事だった。


「じゃあ、鏡夜くんのはどないしとるんや?」

『ああ、俺のか。知らん。俺が作ったわけちゃうからな』

「へー・・・誰や?」

『ああ、<<金色の魔女(こんじきのまじょ)>>、つー魔女族の生き残りや』

「っ! 知り合いやったんか!」


 鏡夜の言葉に、彩斗が顔を上げる。魔女を探すのは良いが、実は一人だけ、生きている事がわかっていた。それこそが、<<金色の魔女(こんじきのまじょ)>>と呼ばれる現代で唯一生存が確認されている魔女だった。名前は不明。年齢も出身も、だ。

 が、これが問題だった。歴史の経緯から人間ではアポイントが取れない上、世界各地で目撃情報があるのだ。更には魔女狩りを主導した教会から最優先事項として討伐命令が出されていた為、何処かに隠れ住んでいるだろう、という予想だった。


『ああ、つっても、俺やとアポイントは取れんぞ? おっちゃんも知っとるやろうけど、俺ら陰陽師は基本は教会の騎士や退魔師(エクソシスト)の奴らとは共同歩調や。しっかり、警戒されとるわ』

「あ・・・そやった・・・」


 ぬか喜びだった事を思い出して、鏡夜がため息を吐いた。鏡夜はどれだけ異端児でも、やはり陰陽師だ。魔女へのアポイントは取れない。取る事なぞ不可能、と言ってよかった。


『すまんなぁ・・・まあ、一応ブルーの奴を通せりゃ、なんとかなるんやろうけど・・・基本的に、ブルーのやっちゃ自由気ままや。しかも魔女は滅多に人里に下りてこん。なんとか、自分達で探し出すしかないやろ』


 まあ、それも無理やねんけどな、と内心で鏡夜が謝罪する。実は<<金色の魔女(こんじきのまじょ)>>とは、彩斗の家の居候の少女だった。が、これは彼の息子のカイトと共に、異世界に飛ばされている。協力は不可能なのであった。


「ああ、ええってええって。ありゃめっけもん。その程度に考えとる。鏡夜くんは十分に協力してくれとるしな」

『そう言ってくれると、俺も助かるわ・・・じゃあ、早速呪符作りはじめよか。おっちゃんにそっちの兄ちゃん達も、間違えんなや』


 彩斗の言葉を受けて、改めて鏡夜が作業の監督に入る事にする。そうして、鏡夜の指導の下、彩斗達は彼らの当面の武器となる呪符作りを開始するのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。次回は来週土曜日の21時更新です。

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