表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/634

第4話 キズナ ――英雄達の休憩場――

 浬達が教師が入ってきた所為で騒動になっていた一方、彼女が去った後のキズナサーバーでも騒乱が起きていた。


『おい! 浬ってカイトの妹か!』


 ちょいワル親父風の褐色金髪のアバターが掲示板の立ち並ぶ場所の中心で、新たなスレを立てた。


『貴方は知らないでください』


 返すのは菫だ。此方はすみれ色の和服を着た和風美女のアバターだった。


『安心しろって。さすがにあいつの妹に手を出してボコられたくない。俺、軍神とか言われてるけど、どそんなに強くないからな。それに、俺の趣味からは後数年早い。せめて大学生程度になってからだ』

『おいおい! 俺はストライク・ゾーンど真ん中だぞ! 今すぐピー・・・』

『本文に禁止用語が発言されました。当該アカウントは十分間発言禁止となります』


 黒い山高帽が特徴的な燕尾服を着たチャラ男っぽい男性型のアバターが、アカウントの一時停止を食らう。それに、周囲のアバター達が呆れ返る。


『馬鹿だろ。お前それでも知恵の神なんだから、いい加減下半身と言動を一致させるのやめろよ』


 そう言うのは、両腰に両刃の剣を二振り佩びたイケメン風のアバターだ。此方は古代日本の着物の様な服を着ていた。そこに、浪速の商人の様な痩躯のアバターが声を掛けた。


『お、スサノオの兄さんにインドラの旦那。ちょっと客来て戻れんからこっちで言うけど、酒の用意出来たで』

『お、マジか。今すぐもどらあな』

『ワリィな、恵比寿』

『あ、すーくん居た!』


 そうして、ソレを見ていたかの様に現れたのは、小柄な黒髪の美少女のアバターだ。此方は先のスサノオのアバターとはうって代わり、完全に趣味満載なフリルの付いた改造巫女服であった。


『げ! 姉貴!』

『あーははは! 小僧、油断しすぎだろ!』

『ふむ。それはインドラ殿もだろうな』


 インドラのアバターの言葉に反応する様に現れたのは、ヤセ型で高身長なアバターだった。服装は金色の鎧を身にまとい、耳には同じく金色のイヤリングを身に着けていた。


『げぇっ、カルナ!・・・って、なんだカルナか』

『アルジュナ、インドラ殿を見つけたぞ。日本だそうだ』

『日本に居たのか! 父上! 今すぐ迎えに行きます! すぐに仕事に戻ってください!』


 カルナの発言に反応して現れたのは、真面目そうなイケメンのアバターだ。こちらの服装はインドの民族衣装風だった。


『げぇっ、アルジュナ! おい、スサノオ! 今すぐ逃げっぞ!』

『おう!』


 『不良神様と雷神様がログアウトしました』そんなログが全体に流れる。ちなみに、本来『キズナ』ではこのような誰がログアウトしたのか、という物は流れないのだが、設計者の趣味によって、敢えて表示されるように設定されていたのであった。


『恵比寿殿! 父上達を捕らえておいてください!』

『すーくん、仕事ー!』

『もう遅いわ。とうの昔に部屋から逃げとる』


 恵比寿の言葉を聞いて、更に『太陽女神様とマジメ男様、正義感様がログアウトしました』というログが流れる。そんな騒々しい一同に、残った一同が首を振った。


『んで、カイトの妹じゃと?』


 そうして一同が消え去った後、古代ローマの衣装を身に纏う、長髪髭面の体格の良い老人が発言する。


『ええ、浬さんですね。時折街のボランティアでご一緒しますよ。わかっているとは思いますが、貴方も手を出さないでくださいね?』


 此方は一番始めに浬に声を掛けたアバターだ。彼は柔和な笑みをアバターに浮かべさせ、老人風のアバターに告げる。まあ、彼のアバターが微笑んでいるのは何時もの事、なのだが。

 まあ、ここまで見れば分かるだろうが、このサーバーに参加しているのは、かつては人類史に名を残した様な偉人達や、神話に記された神様、その他様々な理由がある者達、だった。如何な理由かで、ここに集まっていたのである。ちなみに、サーバー名は『英雄の休憩場』だった。


『わかっておるわ。さすがに儂も遠く異国の少女に手を出せるほどの力は無い』

『あら、あったらお出しになられるんですね?』


 老人風のアバターに後ろから声を掛けたのは、何処かの貴婦人を思い起こさせる服装の壮年の女性だ。彼女はアバターの額に青筋を立てていた。


『い、いや! そんなことは無いぞ! 儂もさすがにもう懲りておる! だから、その剣呑な怒気を収めてくれ!』

『まあ、でしたら此方を向いて、きちんとお話願えますか、ゼウス様? この間、興味深いお話を伺えましたわ。きちんと、お話頂けますね?』


 どうやら騒々しいのは全体的に、らしい。次いで『雷爺様とジューン様がログアウトしました』とアナウンスが流れる。

 ちなみに、だが。アバターで会話しなくても実はゼウスの後ろにジューンことヘラが居るので、強引にログアウトさせられた、との事だった。


『カイトもそうだが、どうしてこうも女にだらしがない者は女性の前で迂闊なのだ?』


 ゼウスが消え去った後。魔術師風の衣装を身に纏い、眼帯を着けた30代ぐらいのナイスミドルが発言する。彼のアバターはため息を吐いていた。まあ、今の様子を見れば、そう思うのも無理は無いだろう。


『おや、オーディン殿。さて、それについては如何に最古の知恵の神といえど、お答えできかねますね』

『ふむ・・・エア殿でも分かりかねるか』

『ええ、ただ単に長生きしているだけですからね』

『そうか・・・』


 そこで『姉様、妹様がログインしました』とアナウンスが流れた。これもまた本来は無い機能だが、設計者の趣味によって、追加されていた。

 まあ、これによって誰が入ってきたのか、というのがわかりやすくなっているので、全員が全員の身元を知っている状況では非常にありがたがられていた。


『ちょっと! カイトの妹が入ってきたって!』

『何処よ! こっちはお肌が荒れるのも構わず出てきたのよ! あ、メデューサは寝てるから、そのままにしておいたわ』


 二人の美少女風のアバターが、キョロキョロと周囲を見渡す。だが、もちろん目当ての人物はここには居ない。


『ああ、お二人ですか。浬ちゃんなら、授業が有るのですぐに抜けられましたよ』

『な、なんだってー!』


 二人の美少女型のアバターは、同時に口を菱型の形に変えて、驚きを露わにする。こういった芸の細かさが、全世界的に『キズナ』が受けている理由だった。

 多彩な表現が出来る為、言語翻訳ツールが不調で言葉が通じない様な状況でも会話が成立するし、アバターを動かしているだけでも時間が潰せるのである。


『どうすんのよ! せっかく家族に好印象を与えて既成事実をっていう私達の計画が! 今のところティナに一人勝ちされてんだから、取れる所はとっとかないと!』

『っく、こうなれば・・・って、そういえばヒルダが静かね。あの娘なら即座に点数稼ぎに出てきそうなもんでしょ?』

『ああ、あれなら少々寝込んでいるらしい。ジークから休暇を奏上された』


 二人の少女の連続する投稿に、苦笑しつつもオーディンが答えた。それに気付いた二人が、相手が北欧の主神たるオーディンだと把握して、優雅に一礼する。


『これは、北欧の主神殿。お答えいただき、ありがとうございます』

『いや、いい。ただ、あの娘が居る前では出来るだけカイトの話題は避けてやれ』

『ですが、それではいつまでも立ち直れないかと思いますが・・・それに、カイトの事。何処に居ようと無事であることは確実です。であれば、あの娘の今の現状こそがカイトの望まぬ物。発破を掛けるのも一つの手かと』

『それも一手か・・・』


 二人の言葉に悩むオーディンだが、そこで魔剣様がログインしました、というアナウンスが流れた。


『げ、クソ親父が居る・・・』


 そのアバターは漆黒の剣という異質なアバターであったが、誰も気にしなかった。そしてそれは彼に忌避されているオーディンも一緒だった。


『ん? グラムか。どうした?』

『あんたには言いたく無い・・・つーか、リアルの名前出すなよ』

『なんだ、グラム。相変わらず北欧の主神様は苦手なんだ』

『だから出すな・・・つーか、当たり前だ! このおっさん、人のことを一度粉々にしやがったんだぞ! あんときマジで死ぬかと、つーか、あれ、絶対死んでたからな!』


 人ではない、と誰もが内心で突っ込みを入れるが、グラムは勢い良く書き込みを行う。が、そんな事はオーディンは気にしていない。というわけで、適当にスルーされることになった。


『まあ、そんなこたぁ、どうでも良い』

『ヒルダがどうかしたの?』

『聞けやくそ親父! ちっ・・・まあ、姉御が日本に行く、って聞かねえんだ・・・俺っち今荷詰めされてる。あ、ダンボール出て来た。姉御、それじゃ無理だから。航空法に引っかかるから。つーか、ジーク! いい加減笑ってないで止めやがれ! あぁ!? ウチの流儀は知ってるよ!』

『はぁ・・・元気そうでよかったわ』


 グラムの元気そうな書き込みの後、『美神・姉様、美神・妹様』がログアウトしました、とアナウンスが流れる。どうやら眠かったので、睡眠に入る様だ。そうして、消えた二人を見て、再び魔術師風のアバターが口を開いた。


『・・・さすがに日本行きは止めた方が良いか?』

『でしょうね。誰か一人でも行けば、確実に後を追う様に無数の神々が日本に集結します』

『分かった。ジーク、見ているな?』


 消えた二人のアバターを見て残った二人が話し合い、出た結論を告げるべく、自身が信頼する英雄を呼び出す。そうして現れたのは、一体のドラゴンを模した鎧を身に纏う竜騎士風のアバターだ。


『何だ? 主神殿』

『俺の命だとブリュンヒルドは聞かん。悪いが止めてくれ』

『ははは、まあ自分の責任なんだから、いい加減に諦めろ。まあ、婿殿の為だ。骨を折ろう。と、言うことで、グラム。頑張れ』


 オーディンの言葉を受けて、ジークことジークフリートが自らの愛剣に全てをぶん投げると同時に、『不死身様がログアウトしました』というログが流れる。


『えぇ! ちょ、ジーク!・・・結局俺かよ・・・マジでカイトの愛刀になりたい・・・あいつ扱いすっげえ大切にしてくれるんだよなぁ・・・私はあいつの武器になりたい・・・』


 悲しげな雰囲気を漂わせながら、漆黒の剣のアバターが消失し、『魔剣様がログアウトしました』というアナウンスが流れた。まあ、それを気にしないのが、この場の神様や英雄達、だ。悲しげな魔剣を放っておいて、平然と会話を再開する。


『ふむ・・・ああ、そうだ。エア殿。この間お借りした古代アステカの魔術書で疑問が有るのだが・・・』

『ああ、あれですか。どこです?』

『232ページの第三節、予言に関する所なのだが・・・』

『あれならアステカだけでなく、インカの魔術書もみりゃいい』


 オーディンの疑問に対して、どうやら復帰したらしい燕尾服のアバターが口を挟む。それに、オーディンのアバターが興味深げにそちらを向いた。


『ほう。サムディ殿、すまないが教えていただけるか?』

『ちょっと待ってろ・・・よし、新しい掲示板(部屋)作った。そっちに移動するぞ』

『感謝する』


 『古い知恵神様、隻眼神様、放送禁止様が移動しました』というアナウンスが流れた。そんな何時もと変わらぬ様子を見て、菫がほっと一息吐いた。


『今日も相変わらずですか』


 騒動が起きるのは何時もの事。そしてそれを望んでいるのが、この場の面々だ。そして何かがあっても誰もが大抵自分だけで解決可能な面子だ。

 それでももし対処が出来ない場合に協力しあう為にあるのが、このサーバーだった。つまりここは神様や英雄達の互助会の様な物、だったのである。

 そんな何時もと変わらぬ掲示板の様子を確認して、菫もログアウトして、『木精様がログアウトしました』というアナウンスが流れたのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

*活動報告はこちらから*

作者マイページ
― 新着の感想 ―
[気になる点] 『ヒルデがどうかしたのどうかしたの?』とありますがヒルデではなくヒルダだと思います。 また、『俺の命だとブリュンヒルドは聴かんは聞かん。悪いが止めてくれ』とありますがブリュンヒルドでは…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ